家庭教師と友人A   作:灯火円

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第12話 難問の春休み
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 春休みに入り、俺はバイト中心で過ごすつもりでいたのだが。

 現在、俺の視界には木々が生い茂る風景が広がっている。

 上を見上げれば青空。良い写真が撮れない訳がないと俺はカメラを構え、今日で何枚目となる写真を撮る。

 

「長尾、この先が例のスポットだ」

 

 俺はカメラから視線を上げると少し先を歩いている北条さんが上の方を指さしていた。

 俺と北条さんは泊まりがけでとある温泉地があるという島へと来ていた。

 その理由は星を撮る為。

 以前から撮り方を教えて欲しいとお願いしていてようやく春休みにその時間を取ってもらえる事に。

 星を撮るという事は夜遅くという訳で。それなら星が綺麗な場所で泊まりがけでという事になった。

 そして今は旅館に向かう途中で有名なスポットがあるからと山を登りながらそこへと向かっている。

 途中、俺達はカメラを向けながらとかなりゆっくりなペースだったがようやくそのスポットらしい。

 

「ヤッホー!」

 

 山だからなのか先ほどから度々こうやって聞こえてくる。

 山に登ると叫びたくなるのは人間の本能なのだろうか。

 

「よし、到着。ここだ」

「確かに絶景ですね。有名なスポットってのもわかります」

 

 開けた場所に出ると周辺の山が一望できる場所となっていて俺は再びカメラを構える。

 

「この絶景もそうだが、一番はあれだ」

「ん?」

 

 北条さんの視線の先には教会とかそういう所で見掛ける鐘があった。

 

「誓いの鐘っていうらしい。この鐘を二人で鳴らすとその男女は永遠に結ばれるとか」

「数ヶ月前にも似たような伝説聞いたな……ん?」

 

 ふと鐘の近くのベンチに座っている人物がひとり。

 こんな所でひとりとか登山好きの人か?と思っているとその顔に見覚えが。

 

「風太郎?」

「ん? 誠司、どうして」

 

 俺の呼びかけに顔がこちらに向けられる。見るとやっぱり風太郎だ。

 

「俺は北条さんと写真撮りに。てか、お前は家族旅行だって」

 

 福引きで温泉旅館の宿泊チケットを当てたとは聞いていたし、その日程が俺が北条さんと計画していた日とモロ被りなのも知っていた。

 二人して同じ日程でバイトの休み希望を出して店長に申し訳ないと思ったのが春休み入る前の事。

 そういや、風太郎の行き先は聞いてなかったな。

 

「ここにその旅館がある」

 

 旅館、確か俺達が泊まるのも旅館。それもこんな小さな島にある旅館。

 

「……北条さん、この島に旅館って」

「ん? ひとつだけらしいぞ。って、勇也の息子か。久しぶりだな」

 

 勇也さんと顔見知りとなると当然風太郎とも北条さんは顔見知りである。

 

「あ、お久しぶりです。親父も居ますよ。らいはと先に行きましたけど」

「お、そうか」

「んで? 風太郎は一人何してんだ? あれか? 登山で疲れたか?」

「それもあるが……色々考え事をだな」

 

 考え事と聞いて俺が一番に浮かんだのは二乃の告白。

 これまで恋愛事なんて興味ない。むしろ勉強の邪魔だと考えてた人間が突然告白されたらこんな反応にもなるか。

 一応、俺と一花があの告白の場にいた事は風太郎達には教えていない。

 黙っている事に罪悪感はあるが、告白聞いていたぞと言うのも気まずいからな。

 相談されたらって感じだが、相談されても俺も正直困るというか俺はもう一人、風太郎に想いを寄せている人物が頭にちらついてきっとアドバイスは出来ないであろう。

 

「ま、けど、あれだ。せっかく旅行に来てるんだから悩む時間に使うのはもったいないぞ。久しぶりの家族旅行だろ?」

「……それもそうだな。よし!」

 

 すると風太郎は立ち上がったかと思えば走り出す。それも崖の方へ。

 

「風太郎?!」

 

 俺が呼び止めようとしたが、風太郎同様に俺の後ろから崖へと走る人影がもうひとつ。

 

「ヤッホー!!」

 

 そして今日何度目かとなるそのかけ声は俺が知る二人から出された。

 

「!?」

「五月?」

 

 風太郎の隣に並んで叫んだのは五月だった。

 

「上杉君!? それに長尾君も! なぜここに……」

 

 そんな疑問の裏で二人の山びこは遠くに響く。

 

「お前こそなんで」

「俺は」

「五月、早いよー……って」

 

 聞き覚えのある声。それは俺が来た方向から聞こえたかと思えば見覚えのあるリボンが見える。

 

「あれぇ? 上杉さんに長尾さんじゃないですか」

「はぁ……はぁ……フータローも当たったんだ……もしかしてセージも?」

 

 四葉と対称的に三玖は息を切らし、今にも倒れそうだ。

 

「あ! って、なんでいつもあんたがセットでいるのよ」

 

 風太郎を見て一瞬笑みを浮かべる二乃だがすぐに俺を見てその表情が渋る。

 本当にわかりやすいけど、傷つくぞ。

 

「フータロー君もセージ君もどうして?」

「俺は北条さんと一緒にな」

「長尾……同じ顔が」

 

 北条さんを見ると中野姉妹に驚いている様子だった。

 そういえば北条さんは五つ子揃ってるところは初めてだった。

  

「あ、お久しぶりです。中野一花」

「あぁ、覚えているよ。ただ、少々確信が持てなくてね」

 

 北条さんと一花が軽く挨拶を交わしているのを横目に俺は風太郎の方を見ると風太郎は風太郎でこの状況に困惑している様子。

 

「まさか、お前らも家族旅行中かよ」

 

 こんな偶然あるのかと俺は少し恐いと思ったりもする。

 

「まさに家族旅行だ。だが、気をつけなければいけないよ」

 

 そんな俺達に向けた言葉。俺も風太郎もその声の方を見ると風太郎の顔は困惑から動揺へと変わる。

 

「旅にトラブルは付き物だからね」

 

 家族旅行。その字の如く家族での旅行。

 そして中野姉妹の家族構成は五つ子と父親となっている。

 

「中野先生」

「君も来ているとは驚きだよ」

「俺もです」

「えっと、あの、先日は」

 

 風太郎もまた中野先生に声を掛けるのだが、先生は視線を鐘へと移す。

 

「知っているかね? この鐘の伝説を」

 

 先生は相変わらず表情が読めないけれど、明らかに風太郎を無視している事だけはわかった。

 俺も先生に生意気な事を言ったはずだから風太郎と同じ態度を取られても仕方ないはずなのだけど、俺にはそんな事はない。

 風太郎、俺の知らない所で何をしたんだ。

 

「あ、聞きました。一緒に鳴らした男女は永遠にってやつですよね」

「あぁ」

「へ、へー。どこかで聞いたことある伝説だ。そういうのどこにでもあるんだな」

「さて、ここで昼食にしようか」

 

 先生は風太郎の言葉なんて聞いていない。むしろ存在すらしていないかのようにスルーし、姉妹達にここで昼食を取る提案をする。

 

「江端」

「はい」

 

 江端さんも来てるのかと思って見るとそこにはいつぞやの履歴書の写真の小麦色の肌でアロハシャツの家庭教師がいた。

 なるほど。江端さんもグルだったわけか。

 いや、それよりも中野先生と五つ子が一緒に旅行って。

 期末試験後もマンション戻らないからまだ仲違いしてるのかと思ってたけど、すでに和解済みか?

 誰からもそんな話を聞いてないんだが。

 

「親父さんとはアレじゃなかったのか? どうなってやがる……」

 

 風太郎も同じような事を思ったのか一花へと尋ねるのだけど、一花は忙しいから後でと答える。あの一件で風太郎とは気まずいのかもしれない。

 

「うー、緊張してきた」

「ん?」

 

 さっきまで元気そうにしていた四葉の表情が優れない。

 それこそテスト前の時のような不安を抱いている表情だ。

 

「四葉、どうした?」

 

 珍しい彼女の姿に俺はスッと四葉の方へと歩み寄って様子を伺う。

 

「な、長尾さん。あ、いえ、大丈夫です」

 

 そう言うけど、顔色が良くない。

 中野先生がまた余計な事を言ったとか?

 あの人、言葉と表情で受け取る側に変な誤解生む人ってのは何となくわかってきたけど。

 

「フー君!」

「ん?」

 

 三玖が珍しく大きな声を出したなと思ってそっちに視線を向けると風太郎と二乃、三玖という組み合わせに俺はハラハラした。

 てか、フー君って。

 

「なんちゃって!」

「へぇ、いいじゃない」

 

 三玖の言葉に何か満足げな二乃。これから風太郎に何か仕掛けるかと思ったが、さすがに中野先生の前では大っぴらには動かないようで三玖と共に江端さんの手伝いへと向かう。

 そしてそんな状況を俺と同様に眺めている五月だが、その表情は険しい。

 風太郎、また五月に何かしたのか?

 

「五月君、何をしてるんだい? 江端から弁当を受け取ってくれ」

「あ、あの」

 

 風太郎は再度中野先生に声を掛けようとするが先生は五月を連れて風太郎に背を向ける。

 

「久々に全員が揃ったからね。家族水入らずの時間だ」

 

 先生が風太郎の方をようやく向いたかと思えば、表情が読みにくいはずなのにその時ばかりは風太郎に殺意を抱いているのが読めた。

 

「風太郎、とりあえず今はやめとけ」

「あ、あぁ」

「おーい」

 

 俺が風太郎を慰めているとこちらに呼びかけているであろう声がした。

 振り返るとそこにはらいはちゃんと勇也さんが風太郎を心配して戻ってきた様子。

 

「あれ? 誠司くんにみんなも」

 

 らいはちゃんの姿と風太郎の親父さんの姿に中野姉妹はそれぞれの反応を見せている中、北条さんは勇也さんの方へ。

 

「よう」

「ん? なんだ。北条じゃねえか。仕事か?」

「いや、プライベートだ。長尾とこいつをな」

 

 北条さんは勇也さんにカメラを見せる。

 

「俺が星の撮り方を教えてもらいたくて」

「なるほどな。ん? ありゃ誰かと思ったら」

「え?」

 

 勇也さんは中野家の方を見ている。というか中野先生を見ている?

 

「おや、雨が降ってきたね」

 

 その先生は手のひらを出しそう言うと昼食を断念し、宿へと向かおうと中野姉妹達に言って一足先に下山してしまう。

 そんな先生に続いて中野姉妹も下山するのだけど。

 

「雨、降るのか?」

 

 雲はチラホラあるが、雨雲らしいものはない。

 今も晴れていて雨の気配なんて感じなかった。

 

 

 

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