その後、俺は北条さんとまだ写真を撮るため風太郎達とも別れチェックイン時間まで写真を撮っていた。
そして時間になり、その旅館へと向かう。
「雰囲気ある旅館だな」
北条さんの言葉通り俺達が泊まる場所はまさに旅館といった感じではあるが、失礼とは思うがあまり活気はなさそうだ。
そして受付にいる男性のご老人に声を掛ける。
「今日から二泊三日で予約しています。北条です」
「……」
この人、聞こえてるのだろうか?
反応がなく、北条さんがもう一度と口を開こうとしたらそっと部屋の鍵を出された。
そして旅館の案内図等書かれたパンフレットも一緒に渡され、俺と北条さんは部屋へと向かった。
「基本食事は大広間らしい。夕飯食べたら星撮りに行くか。あれならあの子達も誘って良いぞ。同じ旅館みたいだしな。てか、あの子、中野一花さんは五つ子なんだな」
「驚きましたよね」
荷物を整理しながら俺は北条さんが初めて一花と会ったイブの日のことを思い出す。
「そういう事教えろよ。女優の卵ってだけしか聞いてないぞ」
確かに北条さんに事務所に所属している事しか言ってなかったかも。
そもそもわざわざ五つ子って話す理由もなかったし。
「とりあえず、汗流しに温泉行くか」
「ですね。ん?」
ポケットが震え取り出すと五月からの着信。
「すみません。北条さん、先に行ってて下さい」
俺は北条さんの断りを入れて、中庭が覗ける窓の方へと行き電話に出る。
「どうした? わざわざ電話なんて」
『あれ? もしかして旅館にもういます?』
「あぁ、少し前にな」
俺は五月の電話に耳を傾けながら中庭を眺める。
綺麗に整備されているなと思っていると五月の姿が見えた。
「丁度、見えるぞ。上を見ろよ」
『え』
しかし五月は俺の言葉をスルーして中庭を横切ろうとしている。
「おいおい、素通りすんなって……ん? 手ぶら」
電話しているはずなのに五月は携帯を持っているようには見えない。そして五月はそのまま中庭を抜けてしまった。
『あの、多分そこにいる私は私ではないです』
「はい?」
五月が五月じゃないってどういう事だよと俺は五月ではない五月が去った方を眺めながら首を傾げる。
『えっと、事情がありまして……』
話を聞くと現在、五つ子は全員五月の格好をしているとの事。つまり、先ほど見掛けたのは五月の姿をした四人の誰か。
「なんでまた」
『お祖父ちゃんの為なんです。昔、私たちが同じ格好だったのは長尾君も知っているでしょ? でも、ある時違う格好する一人を見て、五人同じじゃない姿を見て仲が悪くなったと思ってしまった祖父は倒れてしまい』
「つまり、お祖父さんを心配させない為って訳か」
『はい』
聞いてびっくり。この旅館で最初に俺達を出迎えてくれた人が五月達のお祖父さんだという。
確かにあの感じだとちょっとの衝撃で倒れてしまいそうなのはわかる。
気持ちはわからない訳じゃないけど、それはそれでどうなんだ?
いつまでも五人同じなんてあるわけない。実際、今の五人は見た目こそ一緒だけど好きな物とかもバラバラ。
バラバラだからこそ個々の存在が意味なすと思うんだが。
「……」
いや、ガキの俺がまた感情のまま当たり散らすのはダメだな。
中野先生の件で学習したはずだろ。
『長尾君?』
「あ、すまん。五人が今、五月の格好でいる事はわかった。んで? 電話の用件はこれじゃないだろ?」
『そうでした。実は春休みに入ってから皆様子がおかしいんです』
皆とはおそらく五月以外の姉妹達の事だろう。
三玖、一花に関してはあの期末試験の結果から様子がおかしいとは思う。
二乃は風太郎に告白した事で。三玖は試験で一番取れなかったからか?
一花は逆に一番を取ってしまった事と二乃の告白を聞いてしまったからなのは確実。
四葉に関してはまったく心当たりはない。
「本人達にそれとなく聞いてみたりは?」
『姉妹だからこそ話せない事かもしれないので……そこで長尾君と上杉君にお願いしようかと』
半分が恋愛絡みだもんな。
姉妹だから素直に話すかどうかは確かに怪しい。
てか、俺だって原因は心当たりあるけどそれを解決できるかと言われたら難しい。
一花でさえもまだあんなだからな。
となると風太郎って事だが。
「風太郎には話したのか?」
『一応、先ほど会った時に後で話があるとは伝えたのですがまだ会えていません。携帯も繋がらなくて。先ほど家族で温泉に向かわれたのを見掛けたのでこっそりと脱衣所にメモは置いてきました』
「五月、いくらなんでも男湯に」
『ち、違いますよ! 彼は家族で混浴の方に入っていったので!』
そういえば、ここ混浴もあるって案内図にあったな。
「んじゃ、五月は風太郎にも事情説明しておいてくれ」
様子がおかしい原因の半分は風太郎絡みだからな。
二乃と三玖に関しては完全に俺じゃどうにもできないだろう。
でも、だからといって風太郎本人が解決できるとは限らない。むしろ風太郎も様子がおかしい一人でもある。
「とりあえず、四葉に話を聞いてみるか」
四葉に関してはまったく原因不明だからな。
『……すみません』
突然の謝罪、その理由はなんとなく察する。
どうせ俺に迷惑掛けてるとかだろうからな。
『結局、長尾君に頼ってばかりだなと』
ほらな。
予想通りの五月の言葉に俺は思わず笑う。
『な、笑うところありました?』
「五月はわかりやすいなって。ま、嫌なら俺も断ってるからさ。気にすんな」
三玖と二乃に関してはどうも出来ないだろうけど、四葉辺りは何か手助けできるかもしれないからな。
そうして五月との電話を終え、とりあえず温泉に浸かりながらどうするか考える事にした。
「あ」
「あ、長尾さん」
目の前にはジャージを着た五月。
だけど、この呼び方となると五月本人じゃない。
しかし、こうなると本当誰かわからない。唯一判別出来るのは俺への呼び方。それも無くなったらいよいよお手上げだ。
「四葉だな?」
「あ、はい。あの、わかりますか?」
四葉は視線を右往左往させ、何か焦っている様子。自分が四葉だとバレたらなんか都合悪いのか?
「呼び方で判別出来た」
「なるほど」
そう言うと四葉は胸をなで下ろすように息を吐いた。
それでもどこか緊張気味な四葉。これも悩みが要因しているのか。
「えっと、この姿には事情が」
「それは五月から聞いた……ところで四葉、夜は時間あるか?」
「へ? えっと、大丈夫ですけど」
「俺、北条さんと星撮りに行くんだけどよかったらどうだ?」
「星ですか。ここは星がよく見えるからきっと良い写真撮れますね」
そう言って四葉は少し陽が傾き始めた空を見てそう言った。
「四葉はここには何度か来てるんだろ? 良い場所知らないか?」
「そういうことなら任せて下さい!」
まるで自分が先生と言わんばかりにふふんと胸を張る四葉に少しはいつもの調子に戻ってきた様子。
「んじゃ、夕飯食べ終えたらロビーに集合な」
「はい!」
とりあえず、これで四葉と話し出来る時間は作れそうだ。
そうして俺は改めて温泉へと向かう。
「お、来たか」
「遅くなりました……て、中野先生も」
「どうも」
温泉に入るとすでに北条さんは浸かっていたかと思えばその隣には中野先生もいた。
俺はさっさと体を洗って二人のもとへ。
「北条さんと先生ってお知り合いだったんですか?」
「いいや、ほら、俺の仕事に一花さん付き合わせた件あったからそれについて改めて話してた」
「彼女が決めた事だ。わざわざご挨拶頂かなくてもよかったのだが」
「本人と事務所の許可は下りてもやはりまだ未成年の子をモデルに使いましたから」
北条さん、その辺はやっぱりプロとしてはしっかりしているよな。
そんな対応を見て俺もしっかりしなければと思い先生の方へと向き直る。
「先生」
「何かな?」
「夜、ちょっと北条さんと星撮りに行くんですけど、四葉も一緒に行こうって話になって。その、良いですかね?」
一応、時間も時間だし家族旅行中だという事もあって俺はしっかり先生に許可を貰おうと先生に聞いてみる。
すると先生はジッと俺を見ると無表情な顔が少し緩んだ気がした。
「君は、本当に律儀だね」
「いや、だって、一応先生達家族旅行中でしょ? 急に連れ出すってのはアレかなって」
先生の方に先に話を通さなきゃいけなかったはずなのに勢いで誘ってしまったあたり俺の反省点だ。
「四葉くんは承諾したのだろう?」
「はい、良い所知ってるって」
「子供だけというわけじゃないなら問題ないだろう」
そう言って先生は北条さんに視線を移すと北条さんは「絶対に問題は起こしませんよ」と言ってくれた。
「四葉くんもずっと緊張が続いているから頼むよ」
「……はい」
先生も四葉の異変に気付いていた事に俺は少々驚いたと同時に嬉しくも感じた。
そうして先生にも許可を得て、その後温泉を堪能し夕飯を食べ終え、準備をしてロビーへと向かう。
「長尾さん」
すでに四葉は居たけど、やっぱり五月の姿のまま。受付にはお祖父さんがいるからそうなるか。
「お待たせ」
「いえいえ、えっと北条さん。よろしくお願いします」
「そんな改まらなくて大丈夫。気軽に楽しんで」
今日会ったばかりの北条さんに緊張している四葉。そんな四葉に北条さんは声を掛ける。
「あれ? セージ君? どうしたの?」
声に振り返るとそこには五月。
呼び方的に一花か。
「あ、えっと、この姿には」
一花はそっとお祖父さんの方へと視線を向ける。
「それについては把握してるから説明不要だ。俺達は星撮りにな」
「四葉も?」
俺の隣にいる四葉へと視線を移す一花。
「うん! 良い場所知ってるから教えてあげるんだ。ほら、あの鐘の先の」
「あー、あそこね。良いんじゃない? あ、なら私も行ってもいい?」
俺の方に視線を送る。
四葉の話を聞きたいから四葉だけ誘ったんだけど、でも一花の様子も気になるところではあるからな。
「別に俺は良いけど」
俺は一応北条さんに伺うように視線をそちらに向ける。
「男連中は写真に夢中になるかもしれないから女の子二人いた方が良いかもな」
「わーい! 一花も一緒だ!」
姉の同行に抱きついて喜ぶ四葉。
五つ子だけど、この二人の場合は姉妹って感じが強いんだよな。
「あ、なら私着替えてくるね」
四葉をよしよしと頭を撫でていた一花だったが、自分が浴衣姿のままだと気付くとすぐに着替えに戻った。
「てか、一花さんだったか。長尾はわかったか?」
北条さんは誰かわからないでいた様子。一花と会ったのは今日で二回目だし他の姉妹とは初めましてだもんな。
「俺は呼び方で」
「あー、なるほどな。んで、四葉さんはどうやって一花さんって?」
「え? どうって……愛ですよ?」
四葉は当然とばかりの顔で俺達を見る。
北条さんも四葉がからかっている訳じゃないのを理解し「ふむ」と考え込む。
「……愛か」
「愛らしいです」
とんでも理論に北条さんもそれ以上は五つ子を見極める方法を聞く事はなかった。
「すみません。お待たせして」
浴衣から私服に着替えた一花が戻ってきたのはいいが私服もまさかお揃いとは。
この旅館に泊まっている間は本当に五月で揃えるんだな。
「いいよ。今日の天気だと星も逃げないだろ」
北条さんの言葉にチラリと空を見ると雲はない。
「それじゃ、案内しますね」
そうして四葉を先頭に俺達は静かな道を歩いて行く。
昼間は景色が良い道で気持ちが良いと思ったが、夜になると本当に灯りはなく不気味に感じる。けれど、それが上に輝く星をより輝かせている気もした。
「ここです!」
そうして着いた先で上を見上げると星空が視界を覆った。
「こりゃ確かにすごい」
「高い建物が無いからこそだな。長尾、準備するぞ」
「はい」
俺は持ってきた三脚を立てレンズを星空へと向け、北条さんから言われた設定にし明るい星を見つけその星にピンとを合わせる。
「こんなもんかな」
「出来たか?」
「はい」
「んじゃ、手振れしないようにこれでシャッター切れ」
そう言って北条さんは遠隔でシャッターが切れる物を俺に渡してくれた。
俺はシャッターを切り、そしてしばらくして出てきた写真を画面で確認する。
星の光があまりな気がする。
「うーん、こっちをもっと上げても良さそうだな」
「わかりました」
北条さんの言うとおりに調節して再度、シャッターを切る。
今度は星の光がしっかり写っているものが出来て俺は思わず北条さんの顔を見る。
「いいんじゃないか?」
「はい!」
今度は自分でやろうと別の星に変えてカメラを向ける。
そうして俺が何枚か写真を撮り終えて満足していると後ろの方が何かと賑やかで振り返る。
すると一花と四葉、北条さんがタブレットで何かを見ている様子。
そういや、この二人の事をすっかりほったらかしにしてたな。
悪い事をしたなと三人の元へ行き、何を見ているのかと覗く。
「な?!」
それを見て俺は思わず声が出た。
「北条さん! なんでこんな物を!」
「いやな。お前と泊まりだし昔話のネタとして持ってきたんだよ」
だからって二人に見せる事ないと思うんだが。
北条さんが持ってきたもの。それは北条さんと出会ったばかりの中学時代の俺の写真。
「長尾さんがヤンキーです」
「ヤンキーじゃありません。ちょっとやんちゃしてただけだから」
そりゃ見た目はアレだが、他人様に迷惑を掛けるような事は。
いや、うん、警察のお世話にはなっていない。
「やんちゃというか引きこもりだけどな」
「う」
北条さんの言葉に俺は今度こそ何も言い返せず、タブレットにいる過去の自分を見る。
金髪にピアスをした青年というよりもまだ少年という言葉が合っている人物。
それは紛れもなく俺なのだけど。
「そっちよりもこっちでも見てなさい」
そう言って俺はさっき撮ったばかりの写真を四葉に見せる。
正直自分の写真を見せるのも恥ずかしいのだけど、あれよりはマシだ。するとすぐに四葉の興味はそちらへと移る。
「すごいです! まるでここの星空をそのまま切り取ったみたいです!」
四葉は撮った写真と見比べるようにカメラを持って夜空に掲げる。
無邪気なその行動に四葉らしいと思いつつ、俺はそっと四葉の方へと歩み寄る。
「やっと笑ったな」
「へ?」
「ずっとなんか困ってるっていうか落ち着かない様子だったからな」
「あー、それは」
四葉の視線が下へと向く。
やっぱり何かある様子。
「わかり、やすいですよね? 私」
「ん? まぁ、四葉は顔や態度に出やすいからな」
これまでも何か隠し事や本音を隠す時は明らかに様子がおかしかった。
「うぅ」
すると四葉は肩を落とし、視線も余計に下に向けてしまった。
「でも、それが四葉だと俺は思うぞ」
感情がそのまま出てしまう四葉。
本人はそれをどうもマイナスとして受け取っているようだけど、俺はそこが四葉らしいと感じている。
「でも、今はダメなんです……お祖父ちゃんの為にも」
「……もしかして、様子がアレだったのはその格好が原因か?」
俺の問いに四葉は小さく頷いた。
これで四葉が悩んでいる理由がわかった。
つまりはお祖父さんの前で上手くやれるか。それが四葉の様子がおかしかった原因。
「また、私のせいでお祖父ちゃんが寝込んじゃったら」
昔、ひとりが違う格好したってのは四葉だったか。
少し意外だと思った。そういうのは二乃辺りがやったのかと思ったけど、幼い頃の四葉は少し今とは違ったのかもしれない。
「あまり気負いしすぎるなよ。中身まで五月にならなくても良いんだから。五人が仲良くしてる姿を見せてあげればいいさ」
お祖父さんが寝込んだ理由は五人の仲が悪くなったと思ったわけだし、仲良いのを見られたら解決すると思うんだが本人達としては安心させたい一心でのアレだから全員五月大作戦については否定しないでおく。
「とりあえず今はこの星空を堪能しろ。ありのままの四葉でさ」
そう言って俺は彼女が被るウィッグを取る。
いつものトレードマークのリボンはないけれど、見慣れた四葉がそこにいた。
「な、長尾さん!」
四葉は俺が取ったウィッグを取り返そうとするが俺は手を高くあげる。
「てか、一緒の姿だと見分けつかないんだ。この時間の間だけでも外してくれ」
「それは長尾さんの愛が足りないからです!」
「へいへい、そりゃ申し訳ありませんです。頑張って精進しますよ」
それを会得するのはいつになるやら。
「四葉。私にもセージ君の写真見せてよ」
ヌッと俺の背後から声が聞こえたかと思えばさっきまで昔の俺を見て楽しんでいた一花がいた。
「あ、一花。いいよ! はい!」
そう言って一花に俺のカメラを渡すと四葉は一花と入れ替わるように北条さんの元へと行った。
だいぶ表情も柔らかくなったから少しはほぐれたならいいけど。
「……お邪魔しちゃった?」
「何言ってんだが」
とりあえず、四葉に聞きたい事は聞けたから俺としてはベストなタイミングで一花が声を掛けてきたように思える。
「うわ、本当に綺麗に撮れてるね」
「まだまだだよ。北条さんはもっとすごい」
チラリと北条さんを見ると北条さんも星空にカメラを向けている。その様子を四葉が隣で興味津々に見ている。
俺もあとで北条さんの写真を見せてもらおう。
「でも、私は君の写真好きだよ。なんかキラキラしてる」
「……そりゃどうも」
「照れてる」
「うっせ」
俺の顔を覗くようにして見る一花の視線からそらすように顔を背ける。
「四葉と……何話してたの?」
「別に大した話じゃ無い。この時間くらいはいつも通りにしろって話」
「あぁ、旅行決まってからずっと緊張してたみたいだもんね。ごめんね。気を使わせちゃって……」
「俺が勝手に気になっただけだ」
一花は申し訳無さそうにしていたけれど、一花も一花で考える事があっただろう。
「そっちこそ。なんだかんだ四葉が心配だから来たんだろう?」
いつもなんだかんだ周り見てるからな。今回も四葉の事が気になって一緒に来ただろうと思っていると一花は小さく首を振った。
「四葉の為じゃないよ。私、そんな良い子じゃない」
なんか珍しい反応。いつもならお姉さん風を吹かせてくると思ったんだけどな。
「ま、良い子はからかってきたりしないもんな。さっきの写真も見られたし良いネタを提供してしまったな」
「別にいつもからかってる訳じゃ無いでしょ。それにさっきの写真でからかうつもりないし。ああいう事、したくなちゃった時期なんでしょ?」
俺があの姿になった訳。
一花は何となく察している気がした。
六花に続いて父さんまで亡くなった中学の俺にはとてもそのまま変わらない生活を送る事は出来なくて一度全てがどうでもよくなってしまった。
どうでもよくなって好き勝手やった結果があの写真の自分。
「何もかもどうでも良くなって……全部投げ出したバカなガキの行動だ」
「……てい」
すると俺の頭に一花は軽くチョップを入れてきた。痛みなんて感じることのない軽い物だけど、一花の行動の意図を問うように一花を見る。
「自分の事をバカっていうの禁止でしょ?」
「それは」
五つ子に向けた言葉が自分に返ってくるとは思っていなかった。
「それに、投げ出してなんてないよ。ただちょっと息抜きをしてただけだよ」
「ポジティブ過ぎだろ」
「ネガティブに考えるより良いと思うけど? 良い事、何もなかった訳じゃ無いでしょ?」
その一花の言葉に俺が一番に思い浮かんだのは今、一花が手にしているカメラの事。
どうでもよくなった俺が唯一興味を持ち続けたのはカメラだった。
母さんが勇也さんに声を掛け、そして勇也さんから北条さんを紹介してもらい本格的に写真を教わるようになった。
確かにそれは俺にとって大事な時間だった。
「おーい、そろそろ戻るぞ」
「あ、はーい」
いくら中野先生には許可もらっているとはいえ、あまり遅くなりすぎてもダメだからと北条さんから引き上げの声があがる。
「さ、戻ろう」
「あ、あぁ」
一花のあとを追うようにして俺は三脚を片付けて北条さん達の元へと戻るのだが、俺は思い出す。
「俺が励まされてどうする」
一花を少しでもと思っていたのに結果は逆。
結局いつも一花に助けられてる気がする。
「はぁ」
「そんなに昔の写真見られたの嫌だった?」
ため息を聞かれたようで一花は俺の方へと戻ってくると申し訳無さそうに俺の様子を伺う。
「出来れば見られたくなかったってのはあるが、別にそこまでじゃない」
見られて困るとしたら何故そうなった経緯を聞かれた時だ。
一花に関してはすでにある程度知っているから聞かないでいただろう。四葉もあまりそういうのを聞く方じゃないから別にそこまで見られて嫌だとは思っていない。
「なら、いいけど。でも、ピアスだけじゃなく髪まで染めてたなんてね。君って形から入る傾向あるみたいだね」
そういや、あのメガネかけた俺も一花は写真で見てたっけ。
「あのな、べつにヤンキーになりたいからとかじゃないからな。ちょっと違う自分になろうと思っての思春期の冒険だ」
「なにそれ」
俺の言葉に笑う一花。
そんな笑った一花を見て、この時間だけでもこうして笑ってくれるだけでも今は良しとするかと俺は自分に言い聞かせる。
「っ」
けど、その笑顔が歪む。
「どうした?」
「あ、大丈夫。ちょっと足下暗くて」
街頭もほとんどないから確かに足下が見えにくい。俺は持ってきた懐中電灯で足下を照らす。
「気をつけろよ」
「うん、ありがとう」