春休みに入って仕事であまり家にいない中、私の予定とか見て計画された旅行。
三玖が当てた旅行券の旅行先がお祖父ちゃんの所。
二乃の告白の件からあまり三玖ときちんと話せていないからこの機会にと思っていたらセージ君やフータロー君も同じ旅館に泊まるなんて。
フータロー君がいる事で二乃は目を輝かせて明らかに何かしようとしているのがわかった。一方で私は三玖の事が気になっていた。
これまで三玖に何かとフータロー君との距離を詰めさせようとお節介焼いてきたのに私がそれを邪魔してしまった。
一番なんて取っちゃいけなかった。
【俺は、一花が一番取れて嬉しいと思ってる】
その言葉に一度は間違っていなかったと思った。
でも、二乃がフータロー君に告白しているのを聞いてやっぱり私は間違った事をしたんだと考え直した。
まずは三玖と話そうと思っていても中々タイミングが見つからず。夕飯食べたら三玖に時間を作って貰おうと思っていたけれど、ロビーで四葉とセージ君を見かけた。
四葉は浴衣から私服に着替えている。
思わず声を掛けるとセージ君が星を撮りに北条さんと出かけるようでそこに四葉も同行するらしい。
それを聞いて私の心がざわつく。
今は三玖と話さないといけないのに私は目の前のセージ君と四葉を見て私は一緒に行っても良いかと口にしていた。
一瞬セージ君が四葉を見たのが気になったけど、セージ君は頷いてくれた。
「わーい! 一花も一緒だ!」
四葉は無邪気に抱きついて喜んでくれたけど、私は邪な想いがあった。
結局、自分の気持ちを優先してしまっている自分にまた嫌悪感を抱く。
あのバレンタインの日から抱いた。ううん、昔に感じたざわめきが思い起こされた。
抑えなきゃいけないのにそんな想いを抑える事も出来ず、結局私はワガママになっていた。そしてそんな自分にまた頭を悩ませる。
星の撮影場所に着いて私たちの存在を忘れるようにセージ君はカメラを星に向けるのに夢中になっていた。
そんな姿も好きだなと思いつつ、北条さんから思わぬセージ君の昔話が聞けてまたひとつ知らなかった事が知れて嬉しいと感じる。
セージ君はそれを自分の弱さだと感じている様子。
私はそんな風には思わなかった。だから、そんな彼が少しでも笑ってくれたらといつものように私はお姉さんモードで接する。
これすらも自分をよく見せているだけの行動。
「ずるいな」
翌朝、今度こそ三玖と話そうと思ってると二乃から声を掛けられて二人で温泉に。そこで二乃から好きな人が出来た事を告げられた。
二乃の気持ちは勘違いなんじゃないかといくつか質問して聞いてみたけど、二乃の言葉はどれも本気でその想いは三玖と同じ熱を持っていた。
「も、もし。同じ人を好きな人がいたら? その子の方が自分よりずっと彼の事を思ってるとしたら?」
「……悪いけど、蹴落としてでも叶えたい。そう思っちゃうわ」
止まらない。
二乃はもう私の話しも聞いてくれない。
相談だと言ったけど、すでに答えを出している。
「キスするわ」
告白だけじゃ足りないと思った二乃から出た言葉に私は一瞬声すら出なかった。
「まずいよ! いきなりキスって」
「そ、そうよね。冷静に考えて……下手くそだったら嫌われちゃう」
いや、そういう事じゃ無くて。
すると二乃はジッと私の方を見ると迫ってきた。
「あんたキスシーンとかもうしたのかしら?」
「な、何をするつもり!?」
「良いじゃない姉妹なんだから!」
「姉妹だからダメなの!」
そんな問答を繰り返し、ようやく二乃が諦めてくれた所で私たちも海に行く。
海に着き、セージ君とフータロー君も一緒に来ている事を確認した二乃は早速フータロー君の元へと向かう。
みんながいる前で?!と思ったけど、流石に今じゃないと二乃も冷静になってくれた。けど、このままじゃ二乃がキスするのも時間の問題な気がする。
「はぁ」
どうしようと悩みつつ歩いていると足に痛みが走る。昨日軽く捻った足の痛み。
バランスを崩し前に倒れそうになる。前は海。
落ちる!
そう思って目を瞑ると腕を誰かに引っ張られる感覚。
「大丈夫か? 一花」
私の腕を掴んでくれたのはセージ君だった。
どうして君はいつも。
するとセージ君は屈んで私の足を確認し始めた。
昨日の夜は誤魔化せたけど今日はそうもいかなさそう。
そう思っているとお祖父ちゃんが氷をあてるように言ってくれて私を連れてセージ君はバスへ。
そして私の足首に氷を当ててくれた。
私の事を心配してくれる彼の言動とそして五月ちゃんの姿だったのに私だとわかってくれたことに自然と頬が緩む。
「……よく、私だってわかったね」
嬉しくて思わず彼に聞いてみた。だけど、セージ君も気付いていなかったのかそこで目を丸くして私を見ていた。
気付いた理由は本人もわかっていないのか私に聞いてきた。
私たちが常に言っている『愛』だったら嬉しいなと思いつつ私は笑ってセージ君の問いかけに首を振る。
外で四葉や五月ちゃん達がはしゃぐ声を耳に届く。
一方、バスの中は私とセージ君だけ。ふと、二乃の言葉を思い出す。
キス、したらセージ君はどう思うのかな。
私は手をセージ君の顔へと伸す。
「一花、ちょっとお願いがあって」
「!」
突然入って来た二乃に私はすぐに伸していた手を引っ込める。
その代わり二乃がセージ君へと腕を伸し、バスから出て行かせてしまった。
「たく、なんであいつは何かと居るのよ」
「えっと、セージ君は」
「ところで一花、夜になったら抜け出して彼に会いに行くわ。手助けしてちょうだい」
「え」
そのお願いにハッキリと断ることが出来なかった。だからその時間までに何度か断ろうとも考えたけど結局出来ず約束の時間を迎えた。
二乃が警戒しているのはお父さん。
だから私が見張ってもしお父さんが私たちの所に来ようとしたら足止めする。
二乃が抜け出した事をバレないようにして欲しいというお願いだった。
二乃の気持ちは本気。
応援してあげたい。
でも、三玖の気持ちを私は知っている。
これまで三玖にお節介焼いてきた。なのにここで二乃を手助けしてしまったら。
だけど、三玖を手助けしてきたなら二乃もそうするのが公平なんじゃないかって。
「そもそも私、手助けどころか邪魔しちゃった」
三玖が一番を取ろうとしていた理由を知っていた。なのに私は自分が一番になった。
それは私も自信を持てばセージ君に告白しても良いんじゃないかってどこかで思ってたから。そして実際一番を取って私は一瞬喜んでしまった。
そんなずるい私がセージ君との関係を変えようとしちゃダメだって。
でも、彼を前にすると気持ちがどんどん溢れてきてしまう。
真っ直ぐな二人の気持ちにお姉ちゃんとして私はどうすれば良いのだろう。
膝を抱えてぐるぐると悩んでいると視界が揺らぐ、涙が瞳を覆っていた。
「一花、泣かないで」
気付けばあの子が私の前にいた。
「久しぶりにあそこに行こっ」
そして私の手を取って来たのは屋根の上。
「えっと、一花、よくわからないけど……ぶえっくしょん!」
隣から盛大なくしゃみが聞こえた。
四葉は浴衣ひとつ。春で温かくなってきてはいるけど、夜はまだ寒い。
私は自分の羽織を脱いで四葉にかけた。
「ほら、鼻も出てるからこれでチーンしな」
「これくらい一人でできるよ」
そして渡したティッシュで鼻をかむ四葉はまだまだ手の掛かる妹だなと思いつつも私を気に掛けてくれる優しさを感じていた。
「ありがとうね。元気づけようとしてくれたんでしょ? でも、平気だから。ありがとう」
私はお姉ちゃんだから。
これ以上情けない姿は見せられない。
「無理、してない? 心配だよ」
「え」
すると四葉は私にここに来てから昔の事を思い出したと語り始めた。
まだ五人が同じ姿をしてた頃、イタズラしてお母さんやお祖父ちゃんに怒られてたっけ。
「四葉は昔からやんちゃだったもんね」
「何言ってんの。一番怒られてたのは一花でしょ?」
「そ、そうだっけ?」
「忘れたとは言わせないよ」
そこから四葉はその頃の私の問題行動を次々と上げ始めた。
おやつを横取り、四葉が集めてたシールをカバンに貼ったり、仲良くしたいって言ってた子も次の日には私が話しかけてたとか。
「ご、ごめん。ま、まぁ……そんな私も大人になったってことで」
「不思議だったんだ。なんで私は子供のままなのに一花だけ大人になれたんだろうって」
そのきっかけはお母さん。
そして痛々しい五月ちゃんを見て長女である私がお姉ちゃんらしくしないと。
そう思ったから。
「でも、一花が一番でよかった」
「!」
「これだけは言っておきたかったんだ。子供の頃の一花はガキ大将ですぐ人のものが欲しくなっちゃう嫌な子だったけど」
ハッキリ言ってくれるなと思いながら私は四葉を見る。
「私たち姉妹のリーダーだった。あの頃からずっとお姉ちゃんだと思ってたよ」
「!」
お姉ちゃんらしくしようと思って女優の事も成功するまで黙っていたし、お姉ちゃんだからアパートの家賃諸々も私がどうにかしなきゃとしてきた。
でも、そんな事をしなくても私はあの子達のお姉ちゃんでいられたのかもしれない。
「だから、あれ? 何が言いたかったのかな」
四葉は少し考えたあと、言葉が見つかったのかまた口を開いた。
「一花だけ我慢しないで。したいことしてほしい……かな!」
「私がしたいこと……」
お姉ちゃんだから。
どちらかに肩入れしちゃいけない。
自分のわがままだけ通しちゃいけない。
でも、本当は。
「私も手を伸したかったんだ」
空に浮かぶ星空を眺める。
「?」
私は四葉に貸した羽織を奪い、また自分がそれを羽織った。
「あれ? え?」
「実は、私も寒かったんだ」
「えー! 一度は貸してくれたのに!」
「あはは」
我慢するのはもうやめる。
「もう……あれ? お父さんと長尾さん」
「!」
四葉の視線を追うと旅館の外に二人がいた。
お父さんを引き止めなきゃいけない。
その考えは私にはもう無かった。
そして二人が何か会話をした後、お父さんは山道へと行ってしまった。
「長尾さーん!」
「ちょっと、四葉。こんな時間に叫ばない」
「あ」
四葉の声にセージ君の視線がこっちに向く。
向けられる視線に嬉しいと思ったのは束の間、セージ君の表情に私はしまったと気付く。
「長尾さん、何か怒ってない?」
四葉も気付いたようで怒らせる原因を考え始める。
「多分、私のせい。これだから」
そう言って私は四葉に足を見せる。
昼間もだいぶ心配してたし、この足で高いところにいる事に彼はきっと怒ったんだと思う。
「と、とにかく中に入ろう。はい、一花」
四葉が伸した手を握り私たちは中に入ると丁度セージ君が姿を現した。
私はいつもの調子で挨拶する。でも、案の定セージ君は高い所にいた件についてご立腹な様子でこちらに向かってくる。
すると四葉は私の前に立って自分が誘ったのだと庇ってくれた。
「はぁ」
ため息を漏らしつつセージ君は私の方を見ると何かに気付いた様子。そしてしばらくするとセージ君は私と四葉の頭を軽く叩いた。
けど、もう怒っている様子はない。
「あはは、て、すっかり忘れてた。長尾さん! 一花をお願いします!」
四葉は何かを思い出した様子。そして私をセージ君に任せると小走りにその場を離れて行ってしまった。
「なんだ? 四葉のやつ」
そういえばあの子、お手洗いに行く途中だったっけ。
悪い事しちゃったなと思いつつ、セージ君と二人きりの時間が訪れた事に私は余計な事を考えずに喜んだ。
そして私たちの部屋まで送り届けてくれるセージ君の横をゆっくりと歩く。
「もう、大丈夫なのか?」
それは足の事を言っている訳じゃないのがセージ君の視線でわかった。
「……心配してくれたんだ?」
そういつもの調子で私は彼の顔を覗き込むようにして聞くと返事はなかったけど、その表情が和らぐのがわかった。
セージ君にはあの時取り乱した私を見せちゃっていたからきっとずっと気に掛けてくれていたと思う。
気に掛けてくれた事実に私の表情もまた緩くなる。
そして階段を上がるとすぐそこは私たちの部屋。
先に階段を上がってから私は振り返る。
これは私の決意表明。
「自分のこれまでの言動に悩んでたんだけどね。もう、悩むの辞めた。私も自分のしたい事する」
私も私の気持ちのまま動く。
我慢はもうお終い。
その私の気持ちが向く彼にまずは伝えたいと思った。
とりあえず、今日はこれでおしまいとまた一段上がろうとした時、怪我している足に痛みを感じ体制が後ろに傾く。
「一花!」
静かだったその場に私の名前を叫ぶセージ君の声が響く。
昼間といい今日の私はダメダメだなと思いつつ強く目を瞑る。そして感じたのは私の体を包み込む温もりと少しの衝撃。
「ぐっ」
セージ君の苦しそうな声に私はすぐに顔を上げる。彼の様子を気にする前に彼の顔が目の前にある状況に私は衝動に駆られた。
一瞬、時間にして一秒もないけど彼の唇に自分の唇を重ね離れる。
「……怪我、ないか?」
「……うん。あ、ごめん。退くね」
その言葉に私はセージ君の上から退く。チラッと彼の様子を伺うけど、彼は黙ったまま。
でも、彼の耳が紅いのは見えた。
「セージ君は怪我ない?」
「あぁ。大丈夫だ」
「そっか……あ、ここまでで良いよ」
「あ、気をつけろよ」
「大丈夫」
そう言って私は階段を駆け上がる。階段を上り終えた所でもう一度振り返る。
「おやすみ」
「あ、おやすみ」
挨拶を交わして私は部屋へと駆け込む。部屋には誰もいなかったのは幸い。
私は大きなため息と共に手で顔を覆った。
「キス、しちゃった」
その後、お父さんに連れ戻された二乃に色々と小言を聞かされたけど、私は軽く受け流しつつ二乃にある事を伝えた。
「私、協力しないからね。だから自分の力で頑張って。私は私で忙しいから」
「一花」
そして翌朝、最後だからと姉妹とらいはちゃんと朝一番で温泉へ。その際、私は三玖をサウナに誘った。
サウナでしばらく私たちは無言のまま汗を流し、私は意を決して口を開く。
「ごめんね。期末試験、私が一番取っちゃって」
「……正直、悔しかった。でも、一花はただ実力を出した。そして私が足りなかっただけ」
「でも、三玖が一番取る理由知ってたし」
「一花は手加減しなかった。公平に試験を受けてくれただけ」
公平か。
公平っていうより自分の欲の為なんだけどな。
でも、これからは本当に公平になる。
「私、これまで色々とフータロー君の事で三玖にお節介してきたでしょ?」
「?」
三玖は突然話しが変わった事に紅くなった顔で首を傾げる。
「もう余計なお節介しない。ていうか、自分優先で頑張るから面倒見てあげられない」
「自分、優先」
するとそれまでぐったり気味の三玖の表情が生き生きとして私の方を見る。
「一花」
「私も頑張る事にした」
「……なら、私もお節介焼かない」
「はは、三玖はライバルいるんだからお節介焼いてる余裕ないでしょ」
「むぅ、安心しているとライバル現れるかもよ。セージはフータローよりはモテるから」
「確かにセージ君ってフータロー君みたいに友達いないって訳じゃ無いし、普通に女子とも話すからね」
「フ、フータローだって」
なんて私たちの好きな人の話になって私と三玖は自然と笑い合った。
うん、これで私の気持ちもスッキリ。
あとはもう一直線。