13-1
春休みがもうすぐ終わり、来週から俺も高校生活最後の年がスタートする。
だからといってすぐに何か気持ちの変化があるという訳もなく、今日もバイトへと向かう。
「お疲れ様です」
「長尾君、店長面接中だから」
店に入ると厨房の人からそう伝えられた。
そういえば学生の一人が卒業と共に辞めて募集かけてたっけ。
俺は制服に着替えながらどんな人が来たのか考えていると店長が顔を覗かせた。
「丁度よかった。長尾君にも頼もう」
「はい?」
そして連れて来られたのは店長がいつも事務仕事をしている部屋。
そこにいたのは風太郎。
風太郎がいることは別に不思議じゃない。けど、さらに二乃と三玖がそこにいた。
「なんで」
「バイト募集で来たんだと」
風太郎の言葉に応募してきた理由がなんとなく見えてきた。
「てか、店長に頼まれたんだけど、どういう事?」
「それはこいつらの知り合いだからどちらを取るか店長が俺と誠司に判断任せたんだ」
「はぁ?」
こういう事をバイトに任せちゃダメだろ。いくら二人と俺達が顔見知りでもさ。
「あんたならあたしを取るわよね! 料理の腕褒めてくれてたんだから」
「セージ、私、チョコ作りで上手くなった」
「まてまて!」
二人して迫ってくるなよ。
確かに料理の腕なら二乃だけど、三玖の腕が上達しているのも確かだし。
「なら、料理対決!」
その言葉は三玖から出てきて俺や二乃は一瞬聞き間違いなのではと疑った。
「ふっふーん。良いわよ」
二乃としては断る理由はないもんな。
とりあえず俺は風太郎にどうするか聞く。
「二人がそれで納得するならそれで良いんじゃないか?」
「そうなるよな。んじゃ、ちょっと俺は店長に聞いてくる」
食材とかウチの使うだろうし。ダメならまた別の方法を考えないといけないなと思っていたが、店長はあっさり許可を出した。
この店長のノリがわからん。
そして結果は。
「それじゃ中野二乃さん。来週からよろしく」
「はい!」
予想外の展開はなく順当に二乃が合格した。
落ち込む三玖に俺はそっと声を掛ける。
「三玖、残念だったな。風太郎と一緒に働けなくて」
「ううん。私はフータローが目的じゃないから」
「え」
てっきり風太郎がいるからここを選んだのだと思ったけど、そうではないらしい。
「ケーキ作ってみて改めてわかった。私、作るの好きみたい」
「……なら、パンとかどうだ?」
「え」
向かいのパン屋もバイトを募集している事を思い出し、俺は提案すると三玖の表情が変わる。
「パン、良いかも。ありがとう。セージ」
「受かってからお礼は言ってくれ」
そうして二乃と三玖を見送って改めてバイトに勤しむそんな春休みのある日だった。
「つまり、今後家賃は五等分って事か」
「そういう事。けど、みんなには困らせる事言っちゃったな」
新年度がスタートする今日。
久しぶりの通学路を歩いているとコーヒーチェーンの前に一花がいた。
あの時の事が頭にちらつくがあれから一花はいつも通りで俺もいつも通りを心がける。
そして現在彼女達が住んでいるアパートの家賃を姉妹で五等分する提案を一花がした事を聞かされた。
つまり、それで二乃と三玖がバイトの募集に応募した訳だ。
「けど、仕方ないんだよね。今日までは家賃の為に確実な仕事しかしてこなかったけど。そろそろ私もやりたい事に挑戦してみよっかなって」
そういえば、女優だって一花がやりたいと思って始めた事なのにここ最近は姉妹の為にと自分の意志なんて二の次にやってきたからな。
「そっか。やりたいことやれる環境は大事だな」
「うん」
「俺は良い事だと思うけど、風太郎は学力がーとか言いそうだが」
「そこは二人の腕の見せ所でしょ? ここまで来たら卒業したいし」
すると一歩大きく出て俺の前に立ったかと思えば一花は振り返る。
「頼りにしてるよ。せーんせ」
「!」
その言葉が発せられる唇に思わず視線がいくが俺はすぐに視線を逸らして一花の前を歩く。
「もう、待ってよ」
「てか、姉妹一緒じゃなくて良いのか?」
「えー、せっかくお姉さんが一緒に登校してあげようと待ってたのに」
「へいへい」
相変わらずのお姉さんモードに俺の調子も少し戻る。
「けど、少し寂しくもあるかな」
「ん?」
「バイトの件もだけど、これからそれぞれ忙しくなる。きっと全員が揃う事も少なくなるよね」
咲いた桜の花が散る中、俺は一花の言葉を静かに聞く。
「私たち、このまま大人になっていってバラバラになっていくのかな」
「……ずっと一緒ってのもどうかと思うぞ。それにバラバラになるからって姉妹の縁が切れるわけでもないだろ」
わざわざ一緒に転校してくるくらいだ。
五人にとっては一緒が当たり前なのだろう。でも、いつかはそれぞれの道を行く。
だけど、五つ子ということは変わらないはず。
「だね。あ、そうだ。今日学校終わったら時間ある?」
「ん? バイトはないから大丈夫だけど」
「なら、ちょと帰りウチに寄って欲しい」
「あ、あぁ」
家庭教師って訳でもないよな。
家に呼ばれる理由がわからないまま俺達は学校に着いた。
そして、まず張り出された新しいクラス分けに目を通すのだけど。
「おい」
「え」
自分の名前、長尾誠司を見つけたのはいい。
だが、そのすぐ下の名前に俺は思わず隣で一緒に確認していた一花へと目を向けると一花も驚いて固まっている。
長尾誠司
中野一花
中野五月
中野二乃
中野三玖
中野四葉
五つ子の名前がそこに連なっていたのだった。
主人公の名前は武将調べてこれだと思って決めたのですが、この並びになる事に書いていて気づきました。全く意図してなかった。