数日後、ついに風太郎が動いた。
「よし。俺はこれから三玖に挑戦状を叩きつけにいく」
「おう、そうか。頑張れよ」
今日も図書室で歴史の本を読むのかと思いきや、風太郎はこの数日間で全て頭に叩き込んだらしい。
数日前とは違って風太郎の顔は自信に満ちあふれていて俺は気合い入れとして風太郎の背中を押して送り出した。
「さて、俺は帰るか」
ここ最近は風太郎に付き合って図書室に入り浸っていたから真っ直ぐ帰るのは久しぶりだ。
カバンを背負い、廊下を歩いているとダンボールがふらふらと歩いていた。
誰が見ても危なっかしい足取り。そして案の定ダンボールは傾き崩れそうになる。
俺は急いで掛けだしてそれを支える。
「うわ」
「セーフ……って、四葉」
「あ、長尾さん! すみません。助かりました」
そのダンボール人間の正体は四葉だった。
「どうしたんだ? これ」
「えっと、先生に頼まれまして教材を一階の準備室まで」
「一人で運ぶ量じゃないだろ。誰かに声掛ければ良いのに」
「部活とかで皆さん忙しそうだったので」
どうやらお人好しの性格のようだ。
頼まれたら断れない。相手からしたら有り難いだろうが、損な性格をしている。
「んじゃ、四葉はこれ頼む」
俺は比較的重そうなダンボールを持ち、軽そうなのを四葉に頼む。
「え? 長尾さん! 大丈夫ですから!」
「はいはい。喋ってる暇あるなら歩け」
「あ、待って下さいよ!」
バタバタと追いついてくる四葉に合わせて少しスピードを落とす。
「ありがとうございます。長尾さん」
「さすがにあの状態を見過ごすほど俺は不親切ではないから。ましてや顔見知りな訳だし」
「でも、それを行動出来るのはすごいことです!」
「俺からしたら四葉も偉いと思うけど……ん?」
廊下を歩いているとこれまた見知ったやつが外を走っているのが見えた。
「わお! 上杉さん!」
「さっきは自信満々だったのに死にそうだな。てか何故走ってる?」
「せい、じ……それに」
外を走っていたのは風太郎だった。
そして風太郎は四葉の顔を見て驚いたかと思えば後ろを振り返った。
「すまん……四葉。落ち着いて聞いてくれ」
「はい?」
「お前のドッペルゲンガーがそこにいる。お前死ぬぞ」
「ええええええ、死にたくないですー!!」
ドッペルゲンガー?
何の事だ?と俺はさっき風太郎が見ていた方を見ると確かに四葉がいた。
だけど、髪が長い。
「本当だ。あそこにいる。最後に食べるご飯は何にしよう」
「いやいや、あれは中野姉妹の誰かだろ?」
髪が長いという事は三分の一まで絞られる。
すると髪の長い四葉はリボンを取り、ヘッドホンを付けた。
「お前三玖だろ!!」
そこまでいくと風太郎もさすがに気づいた様子。
そうして風太郎はまた駆け出し、逃げる三玖を追っていった。
「戦国武将、調べた意味あったのか?」
あれじゃどう見ても鬼ごっこ。
勉強に全てを捧げ、運動を捨てた風太郎にはかなり厳しい勝負。
家庭教師も体力いるんだな。
とりあえず、風太郎のリベンジがどうなったのかあとで聞こう。
今はこの雑用を済ませる。
「長尾さん、助かりました」
雑用を終え、報告を終えた四葉が改めて俺に礼を言うと共に自販機の飲み物を渡してくれた。
普通の缶コーヒーを俺は有り難く頂いた。
「あんま無理するなよ。無理なら無理って断るのも大事だからな」
「あはは、そうですね」
この反応だとそう簡単にこの性格は治らなそうだな。
結局、三玖とのリベンジマッチについては風太郎から勝ったかどうかわからんとの報告を受けた。
ただ、風太郎は何かに気付いたようで三玖に出来ることは他の姉妹にも出来る。
そしてそれは誰かが出来る事は姉妹にも出来るという結論に達したようだ。
その可能性を信じて風太郎は彼女達に勉強を見るのだと意気込んでいた。
「一花、これから図書室で上杉さんに宿題見てもらうんだけど一緒に」
今日の授業が終わり帰り支度を始めていると四葉が教室に来て中野さんに声を掛けてきた。
風太郎自身が声掛けるよりも姉妹から声掛けた方が取り組みやすいかもな。
四葉、君は本当に良い奴だ。
「ごめん。これから用があるんだ」
「そっか。あ、長尾さんも放課後よかったら」
「悪いな。四葉。俺もこのあとバイトでダメなんだ」
隣の席の俺にも四葉は声を掛けてきてくれたが、今日はバイトの日。
風太郎にも先に話してはいた。
「ま、二人で教えると逆に効率悪いこともあるだろうからな。ほら、風太郎待ってるぞ」
「あ、はい。それじゃいってきます」
「おう」
俺に笑顔で敬礼のポーズを見せて四葉は図書室へと向かっていった。
「んで、そっちもバイトか?」
「まぁね。セージ君もバイトしてるんだ? 家庭教師?」
「違う。飲食店だよ」
「そっか……」
「……まだ何か聞きたい事あるのか?」
ジーッと俺の方を見てる彼女に聞いてみると彼女は口を開いたが言葉を飲み込むようにまた口を閉じると笑顔を見せる。
「何でもない。あ、時間だから行くね」
「あぁ」
時計を見て中野さんは急いで教室を出て行った。
俺もぼちぼち行くかな。
カバンを背負い、昇降口へと向かう途中三玖がいた。
彼女も帰るのかと思いきや手ぶらだからまだ帰るという訳じゃ無いみたいだ。
「セージ」
「よ」
「セージの言うとおりだった」
「ん?」
「フータロー、すごいやつ……かもしれない」
かもしれないで俺は拍子抜けしてしまったが、そう言う三玖の表情はどこか嬉しそうでなんだかんだ風太郎はしっかりリベンジを果たしたみたいだ。
「セージも出来ると思う?」
三玖は真剣な眼差しで俺を見てそう聞いてきた。
「私にも他の四人に出来る事が出来るって……思う?」
真っ直ぐな瞳、だけどそこには僅かに不安を抱いているのがわかった。
ただ、俺は無責任な事は言いたくない。
「それを確かめてみないか? 大丈夫さ。なんてたって君らの家庭教師はこの学校で常に一位を取る勉強バカだからな」
「……バカって言っちゃダメなんじゃないの?」
「これは……良いんだよ」
バカにも色々な言い回しはある。
「なにそれ」
すると三玖はクスっと笑ってまた俺に真っ直ぐな視線を向けた。
「なら、セージも責任取って手伝って」
「責任って。てか、元々風太郎に手伝ってくれって言われて……そういや風太郎、君らの親父さんに俺の事説明してないんじゃ」
「それならフータローに言っておく」
「ん? あぁ、そうしてくれ」
「うん、じゃ、よろしくね。セージ」
そう言って三玖は廊下を歩いて行く。確かその方向は図書室だが。
「風太郎、やるじゃん」
とりあえず、二人目か。
少しずつ成果は出てきているようだ。
と言ってもまだスタートラインに立たせる段階だけどな。