放課後になっても一花はクラスの連中に質問攻め。
毛利さんの忠告が効いたのはあの時だけ。
結局好奇心に勝てず、今日はずっと休み時間になる度に一花の周りに人だかりが出来ていた。
放課後は図書室で勉強会だけど、大丈夫か?
「よし、部活に行こう」
「あ」
隣の毛利さんが部活に行こうとして俺はすっかり忘れていたカメラの事を思いだし、毛利さんを追いかけ教室を出た。
「毛利さん!」
「ん? どうしたの?」
足を止めて振り返った彼女に追いつき俺はすぐに両手を合わせて頭を下げた。
「ごめん。俺ちょっとしばらく勉強に集中したくて放課後とか時間空けられそうにないんだ。だから」
「あー、そんな事。長尾君って結構優等生だよね」
優等生って別にそんなんじゃないんだけどな。
「うん、わかった。落ち着いた時でいいよ。こっちがお願いしてる立場だし」
「悪いな」
「いいよ。ほら、これから勉強でしょ? 頑張って」
そう言って彼女は俺にファイトポーズを俺に向けた。
「毛利さんも」
「ありがとう」
そうして毛利さんの用件を終えて俺は教室にカバンを取りに戻る。
さっきまで一花達はいたけど、どうやら図書室に向かったみたいだな。
俺もカバンを取りすぐに教室を出る。
「て、三玖」
教室を出てすぐに三玖が立っていた。
「あ」
けど、違和感を抱いてすぐ俺は目の前にいるのが三玖じゃない事に気付く。
「いや、三玖じゃないな。変装道具が早速役に立ったみたいだな。一花」
「……よくわかったね」
あの春休みの旅行から俺は一花の見分けは完璧に出来るようになっていた。
一瞬三玖だと思ったのはまだまだかもしれないけど大躍進だろ。
「ほら、今のうちに図書室行くぞ」
「あ、うん」
そうして俺達は図書室へ。
俺達以外全員集合のようですでに勉強会が始まっていた。
「……」
しかし、風太郎の顔色がよろしくない。
「風太郎。少し休め」
「誠司、いや、大丈夫だ。おら、お前ら。わからない所はどこだ?」
そうは言って五つ子の勉強へと目を通そうとするが、明らかに集中力が切れている。
これまでも教えながら自分の勉強とやってきたとは思うが、今回は全国模試。
さすがに風太郎も前回満点を逃した事で今回は危機感を強く抱いているのかもしれない。
「とにかく、ちょっと外の空気吸うぞ」
「あ、おい! 誠司!」
俺は風太郎を連れ出し、近くの自販機に来た。
「無茶は逆効果だぞ。てか、なんか珍しく気負ってないか?」
俺は自販機にあった麦茶と缶コーヒーのボタンを押し、麦茶を風太郎に渡した。
「別に……いや、そうだな。お前の言う通りなのかもしれない」
受け取った麦茶の蓋を開けて一口飲んだあと、風太郎は素直に白状した。
「あいつらを足枷と思いたくないんだ」
「お前、それが逆にプレッシャーになってるだろ」
「そう、なのか?」
それすら自覚なかったとなるとかなりキテるのかもな。
「はぁ、風太郎。俺の存在を忘れるな」
「何言って」
それまで風太郎の隣に立っていた俺は風太郎の前へと移動する。
「俺もあいつらの家庭教師。そもそもお前が頼ってきたんだろ。頼れよ」
「けど、今回は誠司も」
お前、いつからそんな他人を気遣うようになったんだか。
嬉しいが今はその気遣いは不要だ。
「なんだよ。結局風太郎の俺への評価はそんなもんか」
「違う! 誠司はやればできる」
「そ、だから俺の心配は無用だ」
こういう時こそいつもの過大評価でいてくれよ。
「とにかく、俺達で! 中野姉妹も全国模試もクリアする! わかったか?」
「……あぁ」
うーん、まだ声にも目にも力がない。結構今回は大変そうだな。
「うし、戻るぞ」
まだ少し不安が残るが風太郎ばかりに目を掛けてやれない。
そうして戻って勉強会を再開し下校時間ぎりぎりまで俺達は勉強をした。
その帰り道、俺のスマホが震えたかと思って見るとメッセージが。
先ほどの風太郎に姉妹達も思う所があったようでこの後このまま中野家に来るようにというメッセージ。
そうして風太郎と別れたあと中野家に来たわけだが。
「ねぇ、そんなにフー君の状況ってヤバイの?」
「俺はそんなに心配はしてないんだけどな」
数日前と似た状況で俺は五人に囲まれ、二乃から風太郎の状況について聞かれた。
俺は普段通りの力発揮出来れば風太郎にとっては難しくないとは思っている。
けど、さっきの風太郎の言葉を聞く限り、姉妹達の事を意識してしまっている状況が風太郎にこれまでなかったプレッシャーを感じさせてしまっている。
でも、その事を本人達前にして言えるわけもない。
「けど、フータローいつも以上に疲れてる」
「そりゃ、全国模試だからな」
「やはりここは私たちの家庭教師を一時お休みに」
「それだと先生の証明にもならない。それに今の風太郎には逆効果だと思うぞ」
五月の提案にすぐ俺は首を振る。
「もうすぐ上杉さんの誕生日なのに。こんな状態で誕生日迎えるの可哀想」
「そういえば誕生日プレゼントの件、聞けてないわね」
「私も」
大好きな人の誕生日プレゼント。
二乃と三玖は必死になる気持ちはわかるが、正直今の状況で渡してもどうなんだ?
「うーん、誕生日プレゼントの件は一度白紙に戻そうか?」
その提案を出したのは一花だった。
「誕生日プレゼントの探りを入れてフータロー君の勉強の邪魔たくないし」
「一理あるわね」
「フータローに迷惑かけたくない」
「うん、上杉さんの負担は出来るだけ減らしたいもんね」
「それでは。一花の言う通り一度白紙という事にしましょう」
そうして風太郎への誕生日プレゼントの件は保留となった。
しかし、風太郎もすっかり中野姉妹に好かれるようになって家庭教師についた当初を思えばすごい変化だな。
「ま、風太郎の事は俺に任せろ」
俺への用事は終わったみたいだから俺は帰ろうと玄関へと向かう。
「てか、あんたの方がやばいんじゃないの? 武田ってやつ、フー君がいたから万年二位だったけどつまりはフー君の次に頭が良いって事でしょ」
「……」
二乃の言葉に俺は思わずジッと二乃を見る。
「な、なによ」
「いや、二乃から心配されるとは。俺も少しは気に掛けてもらえるようにはなったんだなと」
「そ、そりゃ! これまで家庭教師してもらったんだから少しは気に掛けるわよ! フー君ほどじゃないけど」
「それが唯一の救いだ」
「何よ?」
鋭い視線が向けられる。
うん、二乃はこのくらいが俺にとっては丁度良い。
「けど、二乃の言うとおり長尾君は大丈夫なんですか?」
「そうですよ」
「フータローもだけどセージも心配」
俺も順調に成績を上げてきてはいるが、これまでの俺の成績は武田の順位よりも下。
心配されるのは当然か。
「大丈夫だよ。セージ君なら」
俺の言葉の代わりに一花からその言葉が出た。
朝の時は心配してたくせに今は俺を信じてるって目で見てる。
「あぁ、なんてたって俺は上杉風太郎の先生だったからな。んじゃ、五人もしっかり自習しろよ」
そう言って俺は中野家をあとにする。
あんな目で言われたら頑張るしかないだろうが。
気合いを入れ直した俺は足早に家へと向かい参考書を開いた。