家庭教師と友人A   作:灯火円

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 そして風太郎の誕生日が三日後となった放課後。

 この日、五月は用事があるらしく欠席、二乃は遅れてくる様子。

 

「上杉さん、この問題ですが」

「上杉さん?」

「悪い。少し外の空気吸ってくる。誠司が代わりに見てやってくれ」

「あ、あぁ」

 

 明らか風太郎の疲労感が増しているのがわかる。

 

「ちょっと行ってくる」

 

 そんな風太郎を見かねてか三玖が追いかけていった。

 

「本当にフータロー君大丈夫なの?」

「うーん、正直あそこまで疲弊している風太郎は俺も初めてだからな」

 

 俺ですらあの風太郎への対策がわからず頭を悩ませている所だ。

 

「やっぱり負担になってるよね。長尾さんもすみ」

「謝るなら俺は勉強しない」

「またそんな事を! うー、一花ぁ」

「よしよし」

 

 抱きつく四葉の頭を撫でる一花を眺めつつ、姉妹が出来ることを考える。

 けど、結局は勉強してもらう事が一番ではあるが。

 

「ベタだけと願掛けだよな。ま、神頼みした所で意味は」

「それです!」

「うわ、四葉急に動かないでよ」

 

 四葉はカバンから何か探すと出してきたのは折り紙。

 

「何故持ってる?」

「いつかの千羽鶴で余ったやつを入れっぱなしにしてたので。上杉さんと長尾さんの合格を願って折れば」

「えっと、そういうのは渡す前に本人の前で話していいの?」

「あ……長尾さん! 忘れて下さい!」

「無茶を言うな。てか、俺は良いから風太郎には折ってやれ」

「そうですね。せめて上杉さんだけでも」

 

 こういう所、四葉の良い所だよなと鶴を折る四葉を眺めると自然に俺の頬も緩む。

 すると入り口の方から物音。

 風太郎達が戻ってきたかと四葉は手で折り紙を隠す。しかし現れたのは三玖と二乃だけ。

 

「びっくりした。上杉さんが帰ってきたのかと思ったよ」

「四葉、何よそれ」

 

 二乃は四葉が隠している物にすぐ気づいて四葉に訪ねる。

 

「千羽鶴! 上杉さんの試験合格願って作ろうかと思って」

「それって病気の人にあげるやつじゃ」

 

 三玖の言葉に確かにと俺は今になって気付く。

 

「まぁ……幸運の効果はあるって聞くし」

 

 二乃も四葉には甘いのかフォローする言葉を口にする。

 

「上杉さん。あれからずっと疲れてるように見えるんだ。言わないだけで私たちに教えながらってのが凄い負担になってるんだよ」

 

 そう言いながら鶴をまた折り始める四葉。

 

「だからせめて体を壊さないように……できた!」

「でも、プレゼント中止って……」

「あ」

 

 二乃の言葉に四葉の動きがぴたりと止まる。

 いや、プレゼントって。でもプレゼントにはなるか。

 

「ごめーん! そんなつもりじゃなかったんだ!」

「四葉、ここ図書館!」

「そんな気にしなくていいから……」

 

 相変わらずの声のでかさだけど、この場じゃ色々マズく一花と二乃が四葉を宥める。

 

「自分で自分が許せないよー」

「落ち着けって」

 

 これで図書館出禁は困るから俺も四葉を落ち着かせる。

 

「これじゃ、私だけズルしてたみたいだもん!」

「ズルって」

「約束を破るなんて人として最低だ!」

「うっ」

「っ」

 

 何故か二乃と三玖がダメージ負っている様子なのだが?

 

「あー、それなら私も最低だから」

「へ」

 

 そう言ったのは一花。

 すると一花はカバンから一枚の封筒を出した。

 

「実は私もフータロー君のプレゼント用意しててね。これで私も四葉と同じ」

 

 いつの間に用意してたんだ。

 

「ごめん! 私もスポーツジムのペア券用意してた」

 

 そう言って一花に続いて三玖もペア券を出す。

 さっきの反応を見るに二乃も用意したんだろうな。

 こういう所は本当、五つ子だよな。

 

「それなら模試終わって無事に突破したら渡せよ。ニ乃もどうせ用意してんだろ」

「ちょっと、勝手に」

「罪悪感抱いて渡すよりは良いだろ?」

 

 文句ありそうな二乃にそう言うと二乃は「わかったわよ」と引き下がった。

 やっぱり用意してたな。

 

「じゃあ、当日何もなしか」

 

 三玖は残念そうに落ち込む。

 

「負担にならない程度なら良いと思うけどな」

「うーん」

 

 四葉は何か考えている様子だが、ついに風太郎が戻ってきて急いで折り紙を隠して何もなかったように勉強を始めようとする。

 本当隠し事下手だよな。

 その風太郎は疲れていてそれには気付いていないみたいだけど。

 

 

 そして風太郎の誕生日当日。

 いつも通り姉妹の勉強を見て切りの良いところで終わらせたが、風太郎はまだ残るという。

 おいおい、家ではらいはちゃんとか待ってるんじゃないか?と声を掛けても良かったが風太郎の必死さに俺は言葉を飲み込んだ。

 

「俺も少し残るから」

 

 姉妹達には先に帰るように促した。

 本人達もやれる事はないと感じたのか静かに図書館をあとにした。

 俺は風太郎の様子を見つつ自分も最後の追い込みだと集中にする。

 

「そろそろあれか」

 

 姉妹達が帰ったのが茜色の空だった頃。今はすっかり周囲が暗く、図書館の明かりが目立つくらいの時間になっていた。

 図書館にいるのも俺達二人だけみたいだ。

 風太郎へと視線を向けると視点が定まっていない様子。

 

「ん?」

 

 すると俺らの他にももう一人図書館に誰か来たと思いきや、一度帰ったはずの五月だった。

 

「ご苦労さまです」

 

 そう言って風太郎の前には睡眠を打破するドリンク剤を置き、俺には栄養ドリンクを渡した。

 

「苦労なんてしてねえよ。俺を誰だと思ってる」

 

 と言いつつ、差し入れのドリンクを飲む風太郎。

 

「先日、塾講師をされてる下田さんという方の元へ出向いて参りました」

 

 いきなり五月からそんな報告が俺達にされる。

 下田さんってこの間会った俺の母さんや勇也さんと同級生の。

 

「バイト……と言えるのかわかりませんが下田さんのお手伝いをしながらさらなる学力向上を目指します」

「力不足かよ」

 

 風太郎にしては不満そうだな。

 でも、自分が一番中野姉妹を教えられると言ったくらいだもんな。

 他のところで学力向上すると聞けばショックもあるか。

 

「拗ねないでください。そうではありませんよ」

「何かそこでしかやれない事があるって事か?」

「はい。模試の先、卒業のさらに先の夢のために。教育の現場を見ておきたいのです」

 

 俺の問いに頷くと五月は理由を話してくれた。

 確かに塾なら教師と似た環境で触れることはできるからな。

 しかし、そうか。

 五月もしっかりと自分のやりたい事の為に進もうとしてるんだな。

 一花にも感じた眩しさを俺は五月にも感じた。

 

「はぁ……お前らのやることは本当に予測不可能だ」

「今更だろ」

「新学年になってから……四葉も……二乃も……三玖も」

「何かあったのですか?」

 

 五月が風太郎を心配して聞こうとしたが、その問いに答える事なくバタンといつぞやの時のように机に突っ伏した風太郎。

 俺と五月はそっと様子を伺うと鼻提灯浮かべて寝ていた。

 

「限界みたいだな。とりあえず、ぎりぎりまで寝かせるから五月はもう帰った方がいい。悪いな。わざわざ様子見に来てくれて」

 

 夜も遅い。送り届けてやりたいが風太郎を残す訳にもいかないからな。

 

「なら、お願いします。長尾君も無理しないで下さいね? あなたもあまり寝ていないみたいですし」

「目の前にこんな状態のやつ見たら無理すると思うか?」

「その言葉を信じますからね? それとこれは私たちからです」

 

 そう言って五月は机の上に何かを置いた。

 

「これって」

「四葉が提案してくれたんです」

「そうか」

 

 そうして俺は風太郎が起きるまで自分の勉強を進めつつ、時よりテーブルに置かれたそれを見て元気をもらった。

 

「ん」

「風太郎、携帯鳴ってる」

「いつの間に……誠司、お前もまだいたのか」

「それより、携帯確認しろよ」

「あぁ」

 

 携帯を見て風太郎は「そういや今日だったか。俺の誕生日」とようやく自分の誕生日に気付いた様子。

 

「早く帰ってやれ。らいはちゃんが可哀想だぞ」

「そうだな……これは、五羽……鶴?」

「中野姉妹からだ」

「あいつら……てか、この紙」

 

 風太郎は鶴を手にして何かに気付いた様子。

 そして鶴を分解して元の一枚の紙の形へと戻す。

 

「これは」

 

 俺もそれまで気付かなかったが、それは中野姉妹が解いた答案用紙。

 それも点数は以前よりも上がっている。

 

「俺達だけじゃないな。頑張ってるのは」

 

 俺は風太郎の肩に腕を回す。

 

「……あぁ、負けられねぇ」

 

 そう、俺達は七人。今回も総力戦だ。

 

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