家庭教師と友人A   作:灯火円

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 そして全国模試試験当日の朝を迎える。

 

「誠司! お母さん、先に出るけど。朝ご飯用意したからしっかり食べて行きなさいよ」

「わかってる!」

 

 流石に今日はしっかり食べていかないと空腹で集中力を乱して答えミスるなんてしたくないからな。

 そしてテーブルを見るとおにぎりと卵焼きが皿にあった。そして近くに付箋が貼ってあり『できる!』と応援らしいメッセージが書かれていた。

 作ってもらったものを綺麗に平らげて俺は仏壇へ。

 

「いってきます。父さん、六花」

 

 家を出ていつもの場所が近づくと一花の姿が見えた。

 

「ふぁ」

 

 欠伸をしている。

 あっちも最後の追い込みをしていたみたいだな。

 

「よ、待たせたか?」

「あ、セージ君。おっはー、そんなに待ってないって。隈ひどいね」

 

 一花は俺の目元を確認する。

 

「そっちこそ、大きな欠伸してたろ」

「うそ、見てたの? 恥ずかしい」

 

 照れて紅くなった顔をパタパタと扇ぐ一花と共に学校へと向かう。

 この間サボった時に約束した通り、こうして待ち合わせて学校に行くようになった。

 

「お互いギリギリまでやってたみたいだな」

「うん、他の子達もね。これまで以上に気合い入れて勉強してたかな」

 

 俺と風太郎だけでもダメ。

 中野姉妹も合格ラインを越えなきゃ意味がない。

 本当に今回は七人での総力戦。

 

「あ、いたいた」

 

 俺達の視線の先にその姉妹と風太郎が見えた。

 いつものように五人に合流する。

 

「よ、風太郎」

「誠司」

 

 風太郎の体調を確認するように顔を見ると酷い隈があった。

 

「いけそうか? 全国十位以内」

「もちろんだ。そういう誠司こそ……いや、誠司なら」

「ははははは!」

 

 俺達の会話を遮りように聞こえてきた笑い声、学校のすぐ前から聞こえた。

 

「上杉君! 長尾君! 逃げずにここに来た事を褒めておこう!」

「出た」

 

 三玖さん、まるでうっとうしい物を見るように見るのはやめとけ?

 

「長尾君! 特に君は後悔するだろう! あの時逃げておけば良かったと!」

「朝からうるさいわね……」

「長尾さんは負けません!」

「君達には話していない!」

 

 中野姉妹など眼中にないという態度。

 やっぱこいつを家庭教師にさせるわけにはいかないと改めて思う。

 

「長尾君、上杉君が慕うほどの実力かどうか今日ハッキリと一騎討ちで」

「おーし、教室行くぞ。少しでも時間は有効活用しないとな」

「誠司の言うとおりだ」

「はーい」

 

 戦前の武将の口上みたいなもんに付き合っている時間も惜しく、武田の横を通り過ぎて俺達は教室へと向かう。

 

「あ、そうだ」

 

 俺はチラリと武田へと視線を向ける。

 

「悪いな。こっちは七人で総力戦だ」

「ふふふ……それが君の弱さだ」

「へいへい、そう思ってくれて結構だ」

 

 お前にとっては弱さと思うかもだけどな。俺にとっては何よりも力になるんだよ。

 

 

「机の中を空にして着席して下さい」

 

 普段の試験以上に張り詰めているように感じているのは全国模試だからか。それとも今回課せられたハードルがこれまででもっとも高いからなのか。

 俺も久しぶりに緊張していた。

 

「問題用紙は合図があるまで裏にしてお待ち下さい」

「ん」

 

 俺は後ろの一花に問題用紙を渡そうと少し後ろを振り返る。

 

「頑張ろうね」

 

 用紙を受け取ったと同時に小さく聞こえたその言葉に俺は「あぁ」と答えた。

 

「それでは、全国統一模試を開始します」

 

 まずは国語。

 

 

「そこまで」

 

 まず一つ目が終わり、俺は軽く背筋を伸す。

 そして前の席の風太郎の方へと視線を移す。

 

「風太郎?」

 

 ずっと下を向いたままの風太郎に俺は風太郎の席へと向かう。

 

「風……お前、顔色悪いぞ」

「うわ、本当だ。汗もすごいよ」

 

 一花も様子を伺いに来たが、その言葉通りそこまで暑くもないのに風太郎の顔には汗が流れていた。

 

「気にすんな……お前達は自分の事を、考えろ。俺は……大丈夫だから」

「……本当か?」

 

 俺は風太郎の目をジッと見る。

 

「本当だ」

「……はぁ」

 

 顔色は悪いが目には力がある。

 言った所で聞かない状態なのがわかって俺は自分の席へと戻った。

 

「良いの?」

 

 一花は風太郎の方を心配しつつ俺に尋ねる。

 

「良くないけど、止められない。一応、ダメそうなら先生に言うつもりだ。風太郎は怒るだろうけどな」

「そっか。わかった。私も気をつけて見てみる」

「ありがとうな」

 

 風太郎の事が気になりつつも俺は俺で集中しようと次の科目の復習をする。

 そして午前中の試験が終わり、風太郎の様子を伺おうとしたが風太郎は足早に教室を出た。

 俺も教室を出て風太郎のあとを追うとトイレへ。そして個室へと入っていった。

 あー、こりゃ腹やったか。

 下痢止めの薬、誰か持ってねえかな。

 

「やぁ」

「なんだよ?」

 

 そんな事を考えていると武田が入って来て俺に声を掛けてきた。

 

「昼だろ? 飯食って復習でもしろよ」

「誠司、いるのか?」

「ん? あぁ、お前はゆっくりしてろ」

 

 個室で籠もっている風太郎にそう伝えると力ない声で「すまん」という言葉が聞こえた。

 

「復習。必要ないさ。これさえあればね」

「あ?」

 

 そう言って武田は手にしている茶封筒を俺に見せる。

 

「これはね。この模試の答えだ。ここに全て書いてある」

「!?」

 

 なんでそんなもんをこいつが持っている? 

 いや、単なるハッタリって事も。

 

「父はここの理事長でね。色々と顔が利くんだよ。つまり、君がどれだけ成績が良くても確実に勝てる」

「めちゃくちゃ不正じゃ、ねーか。うぅ」

「風太郎、今はそっちに集中してろ」

 

 けど、風太郎の言う通り不正だ。

 それを告発した所で理事長である親父さんがもみ消すだろう。

 となると、俺が目指す最低ラインは全問正解。つまりは最高得点。

 午前中、正直不安な箇所はいくつかあった。

 俺はこんな不正で。

 

「ぐっ」

「ふん!」

「……は?」

 

 俺の前では先ほどの封筒を破り捨てる武田がいた。

 そしてそれをトイレへと投げ込み流す。

 トイレットペーパー以外流すなって張り紙なんて知ったこっちゃないと言わんばかりに。

 

「安心してくれ。前半の科目でもあの封筒は開けていない」

「武田」

「長尾君、上杉君。僕はね」

 

 武田はどこか清々しい顔で天井を見上げる。もちろん天井にあるのは蛍光灯だけ。

 

「宇宙飛行士になりたいんだ」

「ん?」

「は?」

 

 えーっと、こいつは俺を敵視して朝からやたらと絡んできた。今も全国模試うんぬんの話をしていたはずなんだけど。

 

「地面も空も空気さえもない。あの空間に憧れているんだ。全てがない……だからこそ全てがある」

「あー、すまん。お前の好きな物の話はまた今度聞くから。てか、急になんだよ?」

「ずっと縛られてきた僕の人生で唯一見つけた道だ。無論それは険しい道。宇宙に行けるのはこの地球で一握りの選ばれた者のみ。世界中の人間がライバルだ」

 

 あー、なんかすっかり自分の世界に入ってるな。

 けど、だからといって鼻で笑うなんて事は出来ない。

 

「だから僕はこんな小さな国の小さな学校で負けるわけにはいかない」

 

 何故なら武田の目は俺が眩しいと思ったあいつらと同じ瞳だから。

 

「夢があるから! だから、実力で君を倒す! 不正して得た結果なんてなんの意味も持たない!」

 

 武田は俺にハッキリとそう宣言した。

 

「おう、受けて立ってやる」

 

 家庭教師うんぬんも大事だけど、武田が真っ向勝負で挑んでくるなら俺はそれにただ応えるだけだ。

 

「ふ、君が僕の今後のライバルになるかどうか楽しみにしているよ」

 

 そう言って武田はトイレをあとにした。

 

「なぁ、誠司」

「ん?」

「試験とか目の前の事だけクリアすればいいと思ってた」

 

 突然なんだ?

 

「その先を俺は見つけてやりたい」

「風太郎……」

 

 そんな風に考えているとは思っていなかった俺は正直驚いたと同時に風太郎が確実に変わっている事に嬉しく思った。

 

「う、うあああ」

 

 感心していたのもつかの間、風太郎のうめき声が聞こえて力が抜ける。

 

「風太郎、試験の前日と当日は食べ物に気をつけろよ」

「……教訓を得た」

 

 そうして午後、残りの二科目を終えて全国模試は終了した。

 問題があるとしたら最後の科目、途中で風太郎が机に突っ伏してしまった事。

 一応、監視の先生が風太郎の様子を確認した所寝ているだけ。

 問題を解き、眠りについたのだと俺はその時思ったのだが。

 

 

 

「寝てラストの数問空白だと!?」

「気付いたら……終了の鐘が鳴っていた」

 

 全ての試験が終わってその帰り道、いまだに体調悪そうな風太郎と五つ子と一緒に帰り道を歩いていたわけだが。

 

「俺はてっきり終わったから寝たと思ってたのに……だから! 無茶すんなって言っただろうが! 俺がいつあんな勉強のやり方を教えた?! 適度な睡眠! 適度な食事!」

「セージ君! 落ち着いて!」

「そうです! それにそれくらい追い込まないといけなかったわけですし」

 

 一花と五月が俺を抑える。

 一応俺だってこれまでは見守ってあまりうるさく言わなかったさ。

 けど、当日に腹壊したかと思えば疲労と睡眠不足で途中で寝るとか勉強以前に体調管理の問題だ。

 

「フータローは頑張ったから怒らないで」

「そうです。ちょっと頑張りすぎてしまっただけで」

「そうよ! そもそもあんただって隈つけて」

「うるせ! 俺は試験の途中で寝こけるほど追い込んでない! この空欄で十位以内に入らなかったらどうすんだ? 勉強云々以前の問題だろうが」

 

 そもそも体調が良かったら十位以内なんて余裕なはずなんだよ。風太郎は。

 なのにこんな初歩的なことでそれを逃す結果だったら笑えもしないだろうが。

 

「いや、誠司の言う通り。俺の管理不足だ。反省してる」

「……二度とこんなヘマすんな。風太郎はやればできるやつなんだから」

「あぁ」

 

 

 そして翌月。模試の結果が発表された。

 

「あーあ、俺の心配なんて無駄だったか」

 

 全国模試、風太郎は三位という十位以内なんて余裕の結果で終わった。

 結局、ラスト数問の空欄だけがマイナスであとは全問正解ときたもんだ。

 つまり、埋めていたらそれ以上の順位だった可能性がある訳だ。

 

「けど、やっぱり誠司はすごいな」

「お前がしっかり最後まで解いてたら変わってたさ。お前のおこぼれで得た二位だ」

 

 俺自身、この結果にはかなり驚いたが、手応えがあったのは確かだ。

 こんな結果はいつぶりだろうな。

 ただ、風太郎の体調不良がなかったら風太郎の方が順位は上だっただろう。

 

「そんな事はねぇよ。それに体調管理含め自分の実力だ」

「……その言葉、忘れんなよ」

「わかってる」

 

 そうして俺達は中野家への道を歩く。

 

「あ、そうだ。あいつらの家に着く前にだ」

「ん?」

「だいぶ遅れたけど、誕生日プレゼントだ。おめでとう」

 

 俺は封筒を風太郎へと渡す。

 

「お前から貰うのなんていつぶりだ?」

「俺も渡す予定はなかったんだけどな」

 

 中野姉妹に感化されてしまったわけだ。

 

「中身はカタログギフト。らいはちゃんや勇也さんと相談して好きなの選べ」

「カタログギフト。そういうのもあるのか」

 

 現金よりかはマシだろ。

 そうこうしているうちに中野家に着く。

 俺は風太郎の後ろへと移動する。

 

「おーい、お前ら模試の結果は」

 

 玄関を開けて一番に聞こえたのは「お誕生日おめでとう!」と賑やかな声。

 そしてそれと共に各々用意したプレゼントが風太郎に渡された。

 

「なんだ。お前らもか」

「お前らもって」

「さっき、誠司からもプレゼントもらった」

 

 三玖の問いに素直に答える風太郎。すると二乃のあの鋭い視線が俺に向く。

 

「あんた! 抜け駆けしたわね!」

「あー、はいはい。すみませんでした。もうちょい待てばよかったですね」

「セージ、ずるい」

 

 三玖は俺の胸をポカポカと殴る。

 

「三玖もかよ。悪かったって。いや、あとの方が印象に残ると思って譲ったつもり」

「サプライズなら最初が一番印象残るに決まってるでしょうが!」

「はいはい、落ち着いて。ほら、まずは模試の結果でしょ?」

 

 一花が間に入って今日のもう一つの目的に触れた。

 だが、この感じの姉妹見たら結果なんてわかるもんだ。

 

「赤点はないどころか。教科によってはそれぞれ良い所までいってる。やったな! お前ら!」

 

 五人の結果を一通り見て風太郎は今日一番の喜びを見せた。

 風太郎にとっちゃ、これが一番のプレゼントかもな。

 

「それで、上杉さんと長尾さんの結果は」

「……不甲斐ない事に三位だ」

 

 申し訳無さそうな態度の風太郎だが、一方姉妹達は少しの沈黙の後。

 

「三位?!」

「フータローすごい!」

「十位以内なんて本当に余裕だったんだね。フータロー君」

「すごいです! 上杉さん!」

「しかし、それで不甲斐ないとは。あなたらしいというか」

 

 風太郎を囲み五人が騒がしく反応する。

 うんうん、これが普通の反応だと思う。

 

「それで? セージ君は?」

「俺は二位だ」

 

 するとまた沈黙が生まれると今度は俺を囲む姉妹達。

 

「あんた二位なの!?」

「セージ、フータローよりすごかった」

「フータロー君が自分よりセージ君の方がすごいって言ってたけど、本当だったんだ」

「長尾さんもやっぱりすごい人でした!」

「ですが、長尾君の場合順位ではありませんよね」

 

 五月の言うとおり、俺の場合は武田との勝負。

 武田の順位が俺より上だったら俺の負けだ。そしてその可能性を残している。

 

「……武田から中野姉妹に伝言だ」

 

 ここに来る少し前、俺と武田は互いに結果用紙を手に対面していた。

 

「……なるほど。上杉君の言葉に間違いはなかった訳だ。君は彼の先生だった」

 

 互いに見せた模試の結果、武田は八位という順位。それでも十分すごいとは思うんだがな。

 

「僕の負けだ。そして非礼を詫びよう。君へのこれまでの言動、そして中野姉妹への侮辱。誠に申し訳なかった!」

 

 こんな綺麗な土下座があるのかと思うくらい武田は綺麗な土下座を披露する。

 

「あいつらの謝罪は直接しろ」

「……そうだね。では学校でと伝えてくれ。頼むよ。長尾君」

 

 そうしていつもの謎ウィンクで俺に伝言を残した武田であった。 

 

「あいつと関わりたくないんだけど」

「二乃に同意」

「それに私たちはあまり気にしてませんし」

「そうだよ。それにバカなのは」

「四葉くーん?」

 

 俺は笑顔で四葉に迫る。スッと一花が間に入る。

 

「いじめないの」

「いじめじゃない教育だ」

「もう。でも、つまりセージ君も」

「あぁ、課題クリアだ」

 

 こうして何度目かとなる課題を俺達は乗り越える事が出来た。

 




学力は万全な風太郎の方が主人公よりも上な感じです。
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