家庭教師と友人A   作:灯火円

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第15話 それぞれの思惑
15-1


「勝つつもりで挑んだ。八位というのは僕にとっても願ってもいない順位だ」

 

 とある日の昼過ぎ、公園に俺と風太郎、そして武田がいた。

 

「まさか、その上をいかれるとは」

 

 風太郎と武田はブランコを漕いでいる。

 一方俺はブランコを囲っている柵に座り、二人を眺めている。

 

「二位と三位おめでとう。全国模試が終わり、次は修学旅行だけど」

「ちょっと待て。何故俺はこんな昼間からお前とブランコを漕いでいるんだ」

「今日の敵は今日の友。これが青春なのかもしれないね」

「帰る」

 

 すると立ちこぎしていた風太郎はブランコの勢いを利用して飛んで着地した。

 

「風太郎、帰ってもいいがまた先生に悪印象持たれるぞ」

「う」

 

 そう、今回この三人がここにいるのは中野先生から呼び出されたからだ。

 

「ご到着だ」

 

 武田の言葉に公園の外を見ると黒いベンツが公園の前で停止、そして中からは先生が出てきた。

 そして俺達は近くのベンチに座る。

 

「まずは武田君、全国八位おめでとう。出来のいい息子を持ててお父さんも鼻が高いだろう」

 

 あぁ、なるほど。

 武田の親父さん、つまり理事長と中野先生は知り合い。

 姉妹がここに転入出来たのもその繋がりってわけか。

 

「医師を目指していると聞いた。どうだろうか。君のような優秀な人材ならば僕の病院に」

 

 医師。

 この間の武田の話だと宇宙飛行士を目指しているって話だけど。

 

「申し訳ございません。大変光栄なお話ではありますが、僕の進路についてはもう少し考えたいと思っています」

 

 武田は丁寧に先生の申し出を保留とした。

 けど、おそらくもう決めているのだろう。自分が目指す道を。

 

「そうかい。いい返事を期待しているよ」

 

 そして先生の視線は俺と風太郎に向くと言っても風太郎の目は見ずに俺だけを見ている様子。

 

「上杉君、長尾君。君達には家庭教師の仕事を再度頼みたい」

「え」

「先生」

 

 それはまさかの提案でもあった。

 あの去年の一件からまた再度こうして家庭教師の依頼がくるなんて。

 

「ただ、また君に依頼するのは正直不本意だ」

 

 中野先生の視線はそこでようやく風太郎へと向けられた。

 

「長尾君だけ雇用する案も考えたが」

「それだと俺は受けませんよ。あの五人は一人じゃ手に負えません」

「という事だ。君達二人にしかできないらしい。やるかい?」

 

 その問いに俺と風太郎は顔を見合わせる。

 

「はい!」

「勿論! 言われなくてもやるつもりだったんだ。給料が貰えるなら願ったり叶ったりですよ!」

 

 風太郎、そこは素直に話さなくてもいいと思うぞ。

 

「それは良かった。では当初の予定通り卒業まで……」

「あ、そのことで一つお伝えしたいことがあります」

「ん?」

 

 何か中野先生に伝える事あったか?と俺は心当たりがないため風太郎の言葉を待つ。

 

「成績だけでいえばあいつらもう卒業までいける力を身につけています」

「確かに。このままサボることなくやれば難しくないな」

 

 実際、全国模試も赤点は余裕で回避してたくらいだ。

 

「それでいいと思ってた。だけど、五月の話と……武田の話を聞いて思い直しました」

 

 五月と武田の話。

 それで俺はようやく心当たりを見つける。

 

「次の道を見つけてこその卒業。俺はあいつらの夢をみつけてやりたい」

「大きく出たな。風太郎」

 

 俺としてはそこまでいくとお節介な気もしている。

 誰かに見つけてもらうものでもないし。

 

「……長尾君はどう思っている?」

 

 そこで俺に振りますか。

 

「正直、家庭教師の範囲外だと思います。それに他人の夢をみつけてやるってのは随分をおこがましい」

「誠司」

「でも、家庭教師として教える事できっかけは作ってやれるとは思います。その手伝いくらいなら……」

 

 いや、そもそも俺が他人の夢を見つける手伝いなんて。

 

「誠司?」

 

 自分の夢もまともに目指せないやつが出しゃばれない。

 

「君達の意向はわかった。どのような方針を取ろうが自由だ。間違っているとも思えないしね」

 

 て、なんか先生の圧が増しているような。

 それも段々と風太郎に近寄ってる。

 

「だが、忘れないで欲しい」

 

 そして気付けば先生と風太郎の距離は拳ひとつ分。

 

「君はあくまで家庭教師。娘達には紳士的に接してくれると信じているよ」

「も、勿論。一線を引いてます! 俺は! 俺はね!」

 

 風太郎が大丈夫でも相手から迫ってきてるもんな。

 その場合は風太郎に責任はないけど、先生は納得しなさそうだ。

 そうして何故か俺達は先生の車で中野姉妹のアパート前まで送られる事になった。

 

「えっと、ありがとうございます」

 

 車がアパートの前に到着すると風太郎は居心地悪い空間からすぐに車から出て行った。

 

「長尾君」

「はい?」

 

 俺も風太郎に続いて車から出ようとしたが、呼び止められた為に振り返る。

 

「また、医者を目指してみないか?」

「先生……でも、俺はあの頃ほどの」

「熱はないと言うのだろう。だが、学んでいくうちにということもある。君の今の成績なら医学部のある大学も視野に入るだろう。そこで学び、研修医として私のところに来てみないか?」

 

 これはきっと有り難い話だ。

 あの頃の俺なら喜んで頷いた。でも、今はもう簡単には頷けない。

 

「ごめんなさい。俺は一度、投げ出した人間です。またそうなってしまうかもしれない。そうなった時、先生の顔に泥を塗ってしまう。有り難いご提案ですが」

「……まだ、保留にしておくよ」

「……失礼します」

 

 俺は頭を下げてドアに手を掛ける。

 

「それとだ。長尾君の事は信じているが、君も紳士的に頼むよ?」

 

 中野先生から俺にあまり掛けない圧を少し感じた。

 

「えっと、信頼を裏切らないようにします」

 

 そう返事をして俺は車をあとにする。

 なんだかんだ娘を大事にしているのがわかって俺はちょっと嬉しく思ったと同時に風太郎は毎回あんな圧を向けられていたのかと身に染みて理解した。

 

「何故避けるのですか」

「ん?」

 

 車を出ると聞こえたのは五月の声。その言葉は風太郎に向けられていた様子。

 あいつ、中野先生に言われて早速避けてるみたいだな。

 てか、そういうの露骨にやるなよ。

 

「あなた、私に何か隠していませんか? まさか、お父さんにまた何か言われたんじゃ」

「ち、ちげえよ!」

 

 五月、冴えてるなと思いつつ俺はアパートの階段を上がっていく。

 

「では、こうしましょう。あなたの隠し事を話してくれたら私も一つお話ししましょう」

 

 隠し事?

 五月にそんな物があったのかと俺は少し驚いた。

 

「お前の隠し事って……別に聞きたくもないが」

「なっ! いいじゃないですか!」

「まぁまぁ、風太郎」

 

 また喧嘩になりかねない為、俺は二人の間に入る。

 

「誠司、遅かったな」

「ちょっとな。中野先生と世間話してた」

「長尾君」

「俺が聞いちゃまずそうだし、家にお邪魔し」

 

 中野家に入ろうと二人の横を通り過ぎようとしたら服を五月に掴まれた。

 

「もう、黙っていられないのです。こうでもしないと言えません」

「……つまり、五月自身が耐えられないからって事か?」

 

 俺の問いに五月は頷いた。

 俺はチラリと風太郎を見る。

 

「これもいい機会かもな。誠司も聞いてくれ。だが引くなよ」

 

 風太郎の言葉に顔を上げて好奇心丸出しで耳を傾ける五月。そして風太郎の隠し事とは。

 

「モテ期がきた」

「うわぁ……」

 

 引くなって言われたのに五月引いちゃってるし。

 てか、五月はもしかして知らない?

 

「まだ驚くには早い。相手はあの二乃と三玖だ」

「三玖は……まぁ。て、二乃って。疲れていませんか?」

「いいや、本当だよ」

「誠司」

 

 俺も隠していたことを話すかな。

 

「俺も隠し事してた。悪い風太郎、二乃の告白を俺は聞いてた」

「!」

「本当なんですか?! え、それよりいつの間に」

 

 二乃に関しては俺も驚きだから五月の反応もよくわかる。

 

「そうか。まぁ、別にいいさ。誠司は変わらずにいてくれたからな。なのに四葉は応援するとか言いやがる。俺にどうしろと」

「四葉が……応援」

「四葉らしいな」

 

 誰かの手助けをする姿が一番に浮かぶ。

 しかし、恋愛事までそれだと四葉の恋愛はいつ来るのやら。

 

「おい、俺はめちゃくちゃ恥ずかしいことを言ったぞ。それ相応のものを早くよこせ」

 

 本当に恥ずかしかったようで珍しく風太郎の顔が紅い。

 

「は、はい。じ、実は……私は、もう一つの顔があるのです」

「!」

「誰にも明かせない……ずっと秘密にしていましたが」

「まさか」

 

 風太郎は覚えがあるような反応だな。五月にもう一つの顔ね。

 

「私が」

「ちょっと五月探してくるよ!」

 

 中野家の扉が開いたかと思えば四葉が飛び出してきて五月の言葉はそこで止まった。

 

「あれ? 上杉さんまだいたんですか? あ、長尾さん」

「よ、五月ならここにいるぞ」

「五月。一花が押し入れのダンボール誰のかって……もしかして話し中だった?」

「こいつが今、恥ずかしい秘密を言うところだ」

「恥ずかしいと決まった訳じゃないだろ」

「す、すみません! またの機会に」

 

 そう言って五月は急いで家の中に入ってしまった。

 ダンボールの中身を見られたくない物が入ってるのか?

 

「あー、お邪魔してしまったみたいですね」

「ま、大体予想はつくがな」

「そうなのか? 俺はまったくだ」

「四葉、誠司。有名レビュワー『M・A・Y』って知ってるか?」

 

 あれ? 

 確か店長がこの間、ウチの店にも来たとか騒いでたな。

 そしてこのタイミングで風太郎が話題に出した。

 

「メイ……まさか」

 

 俺は先ほど急いで家に入っていった人物を思い出す。

 

「それが五月のもう一つの顔って訳か?」

「おそらくな」

 

 そんな事と思ってしまった。

 あんな深刻そうに言うからどんな隠し事か身構えたくらいだ。

 でも、五月からしたら深刻な事だったのかもな。

 

「と、俺はもう帰る」

「んじゃ、俺も。なんか忙しそうだし」

 

 用件を終えた風太郎は階段を降りていく。

 俺もそれに続く、今日はどうやら家庭教師どころじゃなさそうだし。

 その証拠に部屋からはやたら物音が聞こえている。

 

「あー、すみません。今、大掃除中で」

「そっか。ま、試験も終わって急いで勉強する必要もないからな」

 

 先生に言った通り、すでに姉妹は卒業出来るラインにまで成績は上がっている。

 あとは定期的に勉強見ていけば問題ないはずだから焦る必要もない。

 

「では、また学校で」

「あぁ」

「またな」

 

 四葉に見送られる形で俺と風太郎は中野家をあとにした。

 

「しかし、二乃の告白聞かれてたか。いや、そもそもあそこじゃ誠司が聞いててもおかしくないよな」

「あー、悪い。ひとつまだ言ってない事がある。一花も聞いてた」

「な?! だとしてもあいつはいつも通りだったぞ」

 

 いつも通りね。

 風太郎にはそう見えたのか。

 

「一花も聞いちゃまずかったと思って普段通りにしてたんだろ」

「あいつ、そういう所空気読めるよな」

 

 あの旅行の時は空気を読み過ぎて色々悩ませてたようにも思えたけど、いつの間にか解決したのか最近またいつも通りになってるからな。

 

「しかし、風太郎からモテ期という言葉が出るとは」

「笑うな! 俺だって恥ずかしいし未だに信じられん状態だ」

 

 そんな感じで俺達はその日は大人しく家に帰った。

 

 

 

 

 

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