家庭教師と友人A   作:灯火円

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「風太郎、二番のオーダーまだだから。んじゃ、お先に」

「あぁ、わかった」

 

 全国模試も終わって再度、中野先生から正式に家庭教師を依頼されたが風太郎は相変わらずこのケーキ屋でバイトをしている。

 俺は家庭教師やる前からだから辞める理由はない。

 風太郎の場合、これも良い経験になると給料さえ貰えればという以前の風太郎とは思えない発言だ。

 

「店長、今月の新作完売しました。あと、俺プリン買っていきますんで二個取り置きお願いします」

 

 退勤間際に完売した商品について厨房にいる店長に知らせる。

 

「そうかい。新作は売れ行き良さそうだし、明日から数を増やそう。中野さん、こっちの仕上げよろしく」

「はい!」

 

 二乃もすっかり厨房の戦力になりつつある。

 風太郎が目的でここに来ただろうけど、仕事っぷりを見る限りそんな不純な理由以上の働きだ。

 

「それじゃ、お先に失礼します。」

 

 バイトの制服から私服に着替え、プリンの入った箱を手にし店を出る。

 

「あ、長尾さん」

「お、四葉」

 

 向かいのパン屋の前にいたのは四葉。

 

「また、三玖の味見か?」

「はい!」

 

 数日前、今日と同じようにバイトから上がると向かいのパン屋で丁度バイト上がりの三玖と四葉に会った。

 三玖が店から出てくるのはわかるが四葉までいる事に何気なく聞いてみると三玖の作るパンの味見の為に呼ばれたとの事。

 その際、俺も三玖が作ったパンを貰ったのだが、ハード系というパンがあるがそれ以上の物だった。

 

「前回はとろっとした物だったって言ってたけど、今回はどうだった?」

 

 四葉と一緒に歩きながら三玖の成果を聞いてみると四葉は「じゃーん」と共に紙袋を俺に出してきた。

 

「見て下さい」

「おう」

 

 俺は紙袋を受け取って中を見るとそこにはクロワッサンがあった。

 多少焦げてはいるがクロワッサンだ。

 

「食べてみて下さい」

「あ、あぁ」

 

 前回の岩のようなクロワッサンの記憶があるからか少々躊躇いつつも俺は手に取り、齧り付く。

 見た目は焦げているが、バターの味もしっかりしている。

 

「……美味いな」

「ですよね!」

 

 店に出すにはあれかもだが、家庭で作ったとなれば十分な出来だろう。

 

「へっへー。よかった」

 

 三玖の事なのに自分の事のように喜んでいる四葉に俺は相変わらずのお人好しだなと思いつつもそれが四葉らしくて俺も思わず頬が緩む。

 

「三玖、すごく頑張っていますからね。きっと上杉さ……あ」

 

 四葉は慌てて口を抑えて俺に何でも無いですとアピールする。

 

「聞かなかった事にしておく」

「うぅ……ありがとうございますぅ」

 

 本当、隠し事苦手なんだな。

 でも、三玖が頑張っている理由は何となく察してはいたからな。

 

「しかし、四葉。他の人の為に頑張るのも良いが、少しは自分の事も考えろよ。自分の幸せを掴み損ねるぞ」

「私は……良いんです」

「は?」

「みんなが幸せならそれが私の幸せです」

 

 そう俺に笑顔向ける四葉。

 でも、その前に彼女の表情が少し歪んだ気がしたのは俺の気のせいなのか。

 

「と、俺はこっちだ」

 

 信号を渡ったところで俺は自分が行く方向を指さす。

 

「そうですか。では、また学校で」

「あぁ、気をつけて帰れよ」

「はい!」

 

 元気よく手を振る四葉に俺も小さく振り返して俺は目的の場所へと向かう。

 着いたのはいつぞやに風太郎と五月と夜に歩いた池のある公園。

 

「悪い。待たせたか?」

「長尾君。大丈夫だよ。バイトお疲れ」

 

 池の見えるベンチに座っていたのは毛利さん。

 全国模試も終わって毛利さんのカメラ指導もようやく再開となり、今日はこうして公園で撮る事になった。

 放課後で予定合わせようともしたんだが、直近だと合う日がなくてそれなら休みの日はどうかと毛利さんの提案で今日になった。

 

「これまで何枚か自分で撮ってみたの。アドバイス頂戴」

 

 そう言って彼女は自分のデジカメを俺に渡した。

 俺はそれを受け取る代わりにバイト先のプリンを彼女に。

 

「バイト先の」

「良いの? 教えてもらう身なのに」

「俺も丁度食べたかったんだ。ここのプリン結構評判良いし実際美味い」

「そうなんだ。それじゃ、いただきます」

 

 そうして彼女がプリンを食べている横で彼女が撮った写真を見てみる。

 最初にあったブレはだいぶ無いし、構図も気にしているようにも見える。

 まだ気になる所や彼女が不満を抱いている点に耳を傾けながら、そこを重点的に気にしながら今日は撮ってみることにした。

 

「長尾君ってさ。教えるの上手だよね」

「そうか?」

 

 公園を周りながら色々と撮っていき、一周して戻ってきた時に毛利さんは自販機で買った飲み物を俺に渡しながらそう言ってきた。

 

「うん、わかってない所とか苦手な部分を明確にしてくれるから私も何が出来ていないのかわかるし」

「バイトで家庭教師もやってるからな」

「そうなの?! あ、そういえばこの間の全国模試で長尾君二位だって武田君が言ってたっけ」

「あいつか」

 

 なんか知らない間に俺と風太郎の全国模試の順位が他の奴らに知られてて一時クラスの連中に囲まれた。

 中野姉妹を少し疑ったが、武田だったか。

 あれ以来、俺らにやたら話しかけるようになってきたんだよな。

 

「二位取るくらいだもんね。そりゃ、全国模試に集中したいよね。私なんて修学旅行の事ばっかだったよ」

「そういや、もうすぐだな」

 

 高校生活で一番の大イベントとも言える修学旅行が迫ってきている。

 

「それまでにもう少し腕を上げてたいな」

「また記録係でもやるのか? って、修学旅行には無いか」

 

 林間学校とは違って修学旅行には記録係はなかったな。

 

「そういや、撮りたい人がいるんだっけ?」

「あー、うん」

「えっと、もしかして学校の誰か? あ、言いたくないなら良い。すまん、デリカシーなかった」

 

 好奇心に駆られて聞いてしまったが、写真に収めたいほどの人って事はそれなりに毛利さんが意識している人の可能性が高い訳だし。

 何やってんだか。

 

「……うーん、教えてもらってるし長尾君は言いふらす人じゃないから教えてあげる」

 

 そうして毛利さんはその人物の名前を俺に教えてくれた。

 その名前を口にした彼女の表情はこれまであまり見た事のないもの。だけど、それと似たものを俺はこれまで見てきた。

 

「そっか」

「あー、恥ずかしい」

「別に無理に言わなくても良かったのに」

 

 恥ずかしさを誤魔化すように買った飲み物を勢いよく飲む毛利さん。

 そしてもう一度俺を見るのだけど、何か企んでいるような気配。

 

「知った以上、タダではいかないよ」

「うわ、そうきたか」

「はは、冗談だよ。あ、でも、ちょっと修学旅行の時に手助けお願いするかも」

「手助けって。俺はカメラくらいしか」

 

 すると毛利さんは俺にカメラを向けるとシャッターを切った。

 

「それが大事なの」

「……引き受けたからには最後まで生徒の面倒は見るよ」

「よろしくお願いします」

 

 そうして、もう少しだけ授業を続けてから俺と毛利さんは別れた。

 

「もう少し俺も勉強しないとな」

 

 カメラに関しては俺もまだまだな部分が多い。

 

「というか、人物の撮影に関してはな」

 

 これまで興味ないから北条さんにも積極に聞いた事ない。

 仕事の手伝いの際に教えてもらったりもしたけど、興味がないからあまりしっかり聞いてなかったからな。

 

「それに、最近は少し楽しくなってきてるからな」

 

 風景だけではなく、人を撮ることに俺も少しずつ興味を持ち始めている。

 

「俺も変わりつつあるな」

 

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