「全国模試も無事終わったということで修学旅行の話に本格的に入りたいと思います」
すっかり馴染んだ学級長コンビの風太郎と四葉が前に出て配られたパンフレットを元に修学旅行の話をする。
「皆さんは明日までに班を決めておいてください」
班決めという話にクラスは一気にざわつく。
それもそうか。修学旅行はほとんど班行動、重要だよな。
「定員は五人までです」
小学校とかは担任が色々と考慮して班を決めていたけれど、高校生となると自主性に任せるようだ。
「京都。私、初めてなんだよね」
「ん? 小中とかに行ってないのか?」
休み時間、周りは早速班決めの為に声を掛け合っている中で毛利さんの言葉に俺は思わず反応する。
京都なんて修学旅行の定番。
クラスメイトの中には修学旅行先が京都と聞いて不満の声を出す生徒もいたくらいだ。
「珍しいよね。だからめちゃくちゃ楽しみなんだよね。長尾君はその口ぶりだと行った事あるんだ?」
「小学校の修学旅行先だった。ただ、その時は予定の半分も見れなかったけどな」
「なに? 体調崩しちゃったとか?」
「そんな感じだ」
どっかの誰かさんが居ないと聞いて班を抜け出して探すのにその日の予定ほとんど無視したからな。
「だから俺も結構楽しみだったりする」
それに京都なんて良い景色がたくさんあるだろうしな。
「それじゃ、セージ君が気になっている場所ってどこ?」
後ろから肩を叩かれそっちに視線を移すと一花がパンフレットを広げて俺に聞いてきた。
「うーん、そうだな。この辺りは気になってるかな」
俺は鳥居がいくつも並んでいる写真。
観光地としても有名だが、やっぱりその光景は一度写真に収めたい。
「けど、班のやつらの意見とかもあるからな」
「それなら」
「長尾、ちょっと良いか?」
「ん? 前田? どうした」
気づけば前田が近くに来ていて俺に声を掛けてきた。
「あ、えっと、こいつ借りてもいいですか?」
俺と話していた一花と毛利さんに対していつものオラオラモードはない。
今はそうじゃなくても以前好きだった一花の前だしな。
「いいよ」
「あ、うん」
「なら、ちょっと来い。長尾」
「あ、あぁ」
俺は前田に言われるまま前田のあとについていく。
教室を出て廊下に行くと階段の前で風太郎と武田がいた。
「やぁ、来たね」
「誠司」
「なに? このメンツ」
個々に話したりはするが、この四人が集まる事はほとんどない。
「修学旅行の班、君達と組もうと思ってね。僕のライバルであり友である」
俺はライバルになった覚えはない。
友達って枠にはなるか?
でも、これで班が決まるならいいか。
「あー、丁度いいしこの四人で組むか。前田も俺に声掛けたって事は賛成って事だろ?」
「お前ら以外だと声掛けてもなんか反応があれだしな」
まだ前田を知らない連中からしたらあまり関わりたくないと思うかもな。
「それに担任からも前田を頼むと言われた」
「あ、そういう事」
まだ馴染めてない前田を学級長である風太郎にって事か。
こういうのあるよな。
しかし、風太郎がそっち側の人間になるなんて。むしろ誰かの班に入れてもらう側だったろうに。
「それじゃ、修学旅行の班は俺達四人でいいな?」
「うん、最高の青春を送ろう。ね」
「よろしく頼、ぐあ!」
そうしてすんなりと班決めでき、教室へと戻ろうとした時だった。俺の背後から衝撃が。
「よ、長尾。久しぶり」
「ちくしょう。お前ばっかずるい」
「浅井と朝倉か。てか、なんだよ朝倉。ずるいって」
俺の背後から思いっきり突っ込んできたのは去年一緒のクラスだった浅井と朝倉だった。
風太郎が俺の方を振り返ったが、手で先行ってろと示し俺は浅井と朝倉と久しぶりに話す事に。
「だってよ。あの中野姉妹と同じクラスだぞ」
「中野一花さんとまた一緒ってだけでもアレだったのに美人姉妹勢揃い。お前、何した?」
二人は俺が逃げ出さないようにと朝倉が俺を羽交い締めし、浅井が無防備になった俺の脇腹を突く。
「俺がそんな事できる権力なんてある訳ねえだろ」
俺は朝倉の腕から抜け出し、拘束されていた体を軽く伸ばす。
「おーい、朝倉浅井。そろそろ行かないと間に合わないぞ」
階段の上から聞こえた声に俺も思わず視線を向けると去年毛利さんと一緒に記録係をしていた吉川がいた。
「お、やべ」
「またな」
「おう」
慌ただしく階段を吉川と一緒に降りていく。
「修学旅行の時は時間少し気にしろよ。班長の俺が怒られるんだから」
「わかってるって」
「心配すんなよ」
なんて会話にあまり面識ないが吉川に同情しつつ丁度チャイムが鳴って俺も教室へと戻った。
そして放課後、今日も時間が取れる連中で勉強の予定。
「あ、電話だ」
帰りにHR終わってすぐに一花に電話がきたようでささっと教室を出て行った。
「あ、長尾君。ちょっと時間ある?」
毛利さんがそう言ってカバンのある物を俺に見せる
「ま、少しなら」
放課後、いつもの勉強会はあるが少し遅れていっても問題ないだろうしな。
隣の毛利さんに呼ばれ俺は彼女と一緒に教室を出てグランドへと。
「おー、やってるな」
グランドにはすでに運動部が声を出して活気があった。
そんな活気あるグランドに毛利さんはカメラを向け何枚か撮っていった。
「どうかな?」
「基本はもう出来てる感じだから、あとは自分の好みで色々と試していく段階かな」
「好み?」
「たとえば、背景がきちんと入った写真が好きか。それとも背景は入らずその人だけを撮りたい。ま、大袈裟に言うとこんな感じ」
それによってまた色々と調整したりするからそれを自分自身知っておく必要がある。
「好みか」
「すぐに思いつかないならこれまで撮った写真で自分の好きなやつ選んでいくと良い。んじゃ、それを宿題にして今日はここまでかな」
時間的にそろそろ行かないとうるさそうだしな。
「あ、ごめんね。時間取っちゃって」
「良いってこのくらいの時間は。それにダメな時はきちんと断るから」
「うん、ありがとう」
毛利さんと別れ、俺はいつもの図書室へと向かう。
「悪い。少し遅れ」
「この際、皆で同じ班になろうよ! 上杉さんも一緒に!」
「なんだ?」
図書室に入ると四葉の声が響く。
相変わらず声デカいって。
「それが一番だけど」
「定員は五人までって」
三玖と一花の言葉通り、定員は五人。
五つ子と俺たちを入れるとどう考えても多くなってしまう。
「だから、私以外の皆でってこと! これなら万事解決」
「ならんだろうが。てい」
「いっ! 長尾さん!?」
俺は四葉のリボンを引っ張る。
「てか、私以外の皆でって。それでも一人多い……あ、俺の事入れてなかったか」
「え、あ! いや、違います! 入れてないというか忘れて」
慌てて否定する四葉だが、逆に墓穴を掘っている。
「あー、そうね。忘れられるような存在ですよね。俺は」
「長尾さん! あ、なら長尾さんは私と一緒の班に」
「ちょっと、四葉。冷静になろう」
一花の言う通り、四葉は少し冷静になった方がいい。
「それに大きな問題があるぞ」
「確かにな」
風太郎の言葉に俺も同意すると「そうね」と二乃まで同意した。
姉妹大好きの二乃からしたら四葉だけってのは納得いかないだろうな。
「そんなこと誰も望んでいない。少なくとも私はね」
そうだ。こういう時、ハッキリ言ってくれる二乃がいると助かる。
「たとえばこんなのどうかしら。私とフー君の二人っきりの班を組むの」
そっちかよ!
ニ乃にとって今は姉妹よりも風太郎の方が優先か。
「私は最初から決めてたわ。好きな人と回る。あんたに拒否権はないから」
ついに俺達の前で風太郎が好きって宣言しやがった。
「先日の話は本当……だったんですね」
「五月、信じてなかったのかよ」
「いえ、長尾君の言葉ですから。でも、まさかこんな堂々と」
そう。こんなに堂々と行動に移すなんて俺も思っていなかった。
いや、旅行の時を思い返してみたらすでに行動に移そうとしてた感じではあったな。
「わ、私も」
そこにさらに声が上がる。その声はか細く震えている。
その声は三玖から。
でも、二乃のように堂々としている訳じゃなく縮こまり、顔も伏せている。
「言いたい事があるなら今、言ってみなさい」
二乃の言葉に誰も声をあげなかった。
「決まりね」
ここら辺で止めるか。
てか、俺も悪のりしたのがいけなかったな。
「悪いが、四葉と二乃の案は通らん」
「何よ! あんたは出しゃばって」
「俺と風太郎、武田と前田ですでに班を組んだ。な? 風太郎」
「あ、あぁ。だから、すまん」
先ほどまでヒートアップしていた空気は一気に冷めた。
だが、どこか険悪な空気の中、勉強会が始まってしまった。
一花はまた電話らしくて席を立っている。
三玖もバイトだから途中で離脱したが、二乃と三玖の空気が特にあれだ。
元々、この二人はよく喧嘩してはいたけど、この件に関してはな。
あともう一つ気になるのは四葉。
さすがにさっきの提案はどうなんだ?
いくら何でも他の姉妹達は一緒なのに自分だけって。
四葉は友人多そうだから班決めには困らないかもしれないけど、そうだとしてもだ。
お人好しが姉妹の間にも起こるなんてな。
以前から四葉のお人好しは時より問題視していたし、陸上部の件でそれが明確になって四葉も少しは自分の意見を通すようになったと思っていた。
何より姉妹との間ではこういう事はあまりなかった気がしていた。いや、その認識自体が間違っていた可能性もある。
五つ子がこの学校に転校してきた理由。
その負い目を四葉はずっと抱えている。
誰よりも姉妹の為に動いてもおかしくはない。
「だからって」
「長尾君?」
「ん? あー、どこかわからない所あったか?」
五月の呼びかけに俺は思考していた頭を一度止めて五月へと向ける。
「あ。いえ、何か四葉と話したい事でもあるのかと。ずっと四葉の方を見ていたので」
無意識に四葉をガン見していたようだ。
その四葉は風太郎に教わっていたが、二乃が積極的に風太郎へアピールし風太郎は風太郎で間にいる四葉でどうにか距離を置こうとしている。
「そうだな。四葉には話さなきゃいけない事があるな」
「それって」
「ごめんね。さて、勉強再開」
電話を終えた一花が戻ってきたようで俺の隣に座りまたペンを持つ。
俺も切り替えるかな。
「一花、そこのスペルの綴り間違ってる」
「え、あー本当だ。えっと」
間違いが間違いだと気付くようになってきてるからやっぱ卒業はもう問題なさそうだな。
それにしても修学旅行、また何か面倒事が起こらなきゃいいけど。