とりあえず、俺は適当な理由で先に帰ると風太郎達に連絡を入れる。
五月には一度風太郎達と合流してもらって風太郎達の用事が終わった後、改めて五月と会う事にした。
そして待ち合わせにはあの零奈と再会したあの公園。
昼間は家族連れやら何やらで賑わっていたが、陽も暮れて月と星が顔を出したこの時間はその賑やかさとは打って変わって静寂な場所となっていた。
「こんばんは。長尾君」
「あぁ」
そして俺達はその静寂な場所で並んでベンチに座った。
「さて、五月。この間、もう一つの顔が自分にはあるって話は零奈の事で良いんだな?」
「……はい」
風太郎、お前の勘は外れたみたいだな。
「風太郎には……いや、あの感じだと正体は明かしていないか」
あの後、風太郎からは零奈についての話は俺になかった。
少々意外な気持ちもあったが、あのクリスマスの夜をきっかけに零奈については踏ん切りをつけたのかもしれない。
それでも正体がわかれば少しの動揺はあるはずだからな。
「あなたの言う通り、私が零奈である事は話していません。それでも彼は私たちの五人の中の誰かは気付いている様子でした」
「さすがの風太郎もそこまでは気付いたか」
「長尾君が話したのではないのですね」
「俺からは何も話していない。話を聞いてやったくらいだ。そう、別れを言われたとな」
ここで風太郎が彼女と再会した時、別れを告げられたと俺に言ってきた。それなのに今日またこうして零奈の姿で現れた意味。
「何がしたいんだ? いや、そもそもだ。五月、君は京都で会った子じゃないだろ」
「!」
一番の疑問はこれだ。
京都で会った彼女じゃない五月がどうしてその彼女として現れたのか。
「どうして……そう思うのですか?」
「俺の中で最初に除外された二人の一人だからな」
俺があの子が中野姉妹だと気づき、それが誰かこれまで何度か考えてきてある程度は絞り込んでいた。
「もう一人を聞いても?」
「二乃だ」
二乃が出会った子なら風太郎が持っている写真を見たらすぐに行動に出るはず。
男の子と風太郎と結びつけなくても京都の話を持ち出して色々と聞き出すだろう。
でも、これまで聞いた限りでは正体がバレるまではあくまでもキンタローという人物に興味があっただけ。
だから二乃はあの子ではないと考えた。
「では、どうして私を除外したのですか?」
「……悪いけど、その理由については俺の判断材料でもあるから簡単には言えない。五月がその格好する理由となる本当の彼女に情報流されちゃアレだしな」
どういう意図があって正体を明かさないかわからないとなると、俺が持つ優位性のある情報を先に出すわけにはいかない。
「あの子と繋がっていると?」
「じゃなきゃ、そんな格好で現れないだろ。京都の子じゃないのにそれを思わせるような格好を出来るのは出会った本人からの情報を貰わないとできないはずだ」
「私がその本人の」
「言ったろ。あの子であるという俺の中にある判断材料に五月は該当しないと」
俺が五月を彼女でないと否定する根拠。
それは出会った彼女なら知っているある事を五月は知らなかったから。
会っていたなら知っているはずの事をわざわざ聞いてきた。
そして聞いた時の反応からも本当に何も知らなかったと思える。
これまでの付き合いで五月が隠し事が苦手なのは知っている。
だから、五月ではないと俺は判断した。
「……わかりました。それについてはもう聞きません。そして長尾君の言うとおり、私はその子に頼まれこの格好をして上杉君に会いました」
「となると、やっぱり俺とあの時会ったのはイレギュラーか」
「はい。長尾君も京都で会っているなんて聞かされていなかったので」
あの時は彼女の反応を見て忘れられていると思ったが、そもそも俺も京都で会っている事を知らなかったら当然の反応だよな。
「あの子は、上杉君の中にいるあの頃の自分を忘れさせたいと思っているのです」
「だとしてもなんでわざわざ五月に」
「それは……」
自分自身、零奈の格好で風太郎に会って言えばすむ事。
だからこそ、理由がわからない。
「自分だとバレてしまうからって」
「バレて……四葉か?」
「どうし……あ」
「答えをありがとう」
「鎌を掛けました?」
むくれるように俺を見る五月に俺は首を振る。
「一花ならこういう事は得意な方だ。三玖の可能性も考えたが、一番この手の事を苦手にしているのは四葉だからな」
直近だと春休みの件で本人の口からも聞いてたしな。
「長尾君は探偵にもなれますね」
「俺は持っているカードでその可能性を出しているだけだ。しかし、そうか……四葉だったか」
俺は月を眺めて息をゆっくりと吐いた。
「……意外、でしたか?」
「ん? あー、いや、候補としては四葉も残っていたから。ただ」
「ただ?」
俺が最有力だと思っていた子ではなかっただけ。
俺はその人物の顔を思い出しながら月を見る。
「それより、今日あの格好した理由は聞いていないぞ。別れを告げたのにまた会うなんて。やっぱり四葉は」
「いえ、今回は私の独断です」
「え?」
まさかの答えに月を見ていた俺の視線は五月へと戻る。
「私は、上杉君に気付いてもらいたくて。京都で会ったあの子は四葉だと」
「……四葉が望んでいなくてもか?」
「あの子は口ではそう言ってますが、きっと本心は違うと思います」
自分の気持ちを二の次に誰かの為に動いている節はあるからな。
「四葉にも二乃と三玖と同じ土俵に立つ権利はあると思うので」
五つ子ではなく二乃と三玖と同じ土俵。
その言い回しに俺は違和感を抱く。
「ん? それって……つまりは」
「あ、えっと」
「いや、言葉にしなくていい。そうか」
本人がいない所で四葉の好きな人物を教えてしまったような失態に五月はひどく落ち込んでしまった。
これ以上、この話には触れないでおこうと俺も聞きたい事を聞けたし、五月を家まで送る事にした。
「しかし、あいつは本当にモテ期だな」
「二乃は特に驚きましたけど、三玖も最近そうだと知って驚きました」
「え、最近かよ」
むしろ誰よりも三玖が風太郎にアピールしていたように思えたが。
「でも、モテ期というか五つ子キラーじゃ。五月、実は五月や一花も」
「私は無いですから!」
そんな全力で否定しなくても。
「そもそも私が上杉君への最初の印象が悪い事は知っていますよね?」
「その理屈は二乃という存在が通らないと実証している」
「そうですけど……私はまだそういう感情で男の人を信用する事が出来ません」
林間学校の時にもそういえばそういう風な事を言ってたな。
トラウマみたいなものを五月は持っているのだろうか。
「ま、そういう感情ありなし関係なく。俺達と仲良くやってくれてるのは嬉しいけどな。京都も穏便に楽しく過ごせたらいいが」
班決めの二乃や三玖を見るとな。
「風太郎と四葉にとってはせっかくの思い出の場所だからな」
「長尾君も」
アパートが見えてきた所で五月は足を止めて俺をじっと見る。
「長尾君にとっても大事な場所ですよね?」
「……俺は偶然居合わせただけだよ。むしろ、二人の邪魔した」
思い返してみると仲良くなった二人の間に突然割り込んだようなもんだしな。
「そんなことは!」
「だけど、あの時はきちんと観光できなかったからな。今回はしっかり堪能してやる」
その俺の言葉に五月はどこか納得していない様子。
「ありがとうな」
そんな彼女の頭を撫で感謝の言葉を言うと五月は「ここまでで大丈夫です」とすぐそこのアパートの階段を駆け上がった。
そして玄関を開ける前にもう一度振り返った。
「おやすみなさい」
「あぁ」
そうして五月は玄関を開けて中に入る。
「五月、おかえり! 遅いから心配したよ。一花は遅くなるって連絡あったけど五月はないから」
「ごめんなさい。四葉」
聞こえてきた会話に相変わらず声がデカいなと思いつつ、俺はまた月を眺める。
「俺の初恋は……四葉だったとはな」
初恋だったのだなと今気付く。
これじゃ、風太郎のこと言えないな。
自分が撮った写真や俺の勉強する意味を話した時に目を輝かせたあの子に俺は恋をしていたのだと思う。
ただ、それに気付いたのはほんの少し前。
俺は家路へと向かうため歩き出す。
「初恋に気付いた瞬間、終わるなんてな」