16-1
そしてあっという間に修学旅行を迎える。
集合場所の駅、乗る予定の新幹線のホームで待機中に俺はある人物を探す。
「あ、いたいた。毛利さん」
「長尾君」
毛利さんを見つけて俺は彼女に近づき声を掛けた。
「京都に着いたらだけど」
「うん。私の班もそっちに行く事になった。元々行く候補に挙がってたから」
「そうか」
「ごめんね。なんか色々と手伝って貰って」
「そういう話だったろ? んじゃ、また連絡する。とその前に」
俺は毛利さんから離れる前にカメラを向ける。
「おーい、一枚撮るぞ」
「長尾君が撮ってくれるの?」
「うわ、本格的」
毛利さんの班のメンバーの視線とポーズが決まった所で俺はシャッターを切る。
「んじゃ」
そうして俺は自分の班員がいる場所へと戻るのだが。
「上杉君! 清水寺行きましょうよ。私たちの班と一緒に」
「は?」
風太郎を誘う声。それは五月から。
その行動に姉妹はもちろん風太郎も驚く。
五月がそんな行動に出る理由、俺はチラリと四葉を見る。
「はぁ……おーい、一枚撮るぞ」
微妙な緊張感が漂うが俺は五つ子と風太郎にカメラを向ける。
そして新幹線に乗り込み、京都へと向かう。
「なぁ。長尾がいるなら俺や武田が協力しなくても良いんじゃねえか?」
二人席前後で俺達の班は座って一方を回転させてボックス席にし、トランプでポーカーをしながら前田が俺のカメラを指しながらそんな事を言った。
「誠司にだけ任せる訳にはいかない。それに出来るだけ他の角度からの写真が欲しい」
「だけど、俺、手が震えてな」
「それに彼に任せていたら彼との写真がないだろ? ね」
「いや、別に俺との写真はいらねえよ」
なんの話をしているかというと以前、風太郎が中野姉妹の誕生日プレゼントを俺と一緒に考えたいと持ちかけてきた件だ。
そこで一番に直面したのは資金と彼女達が欲しい物。誕生日五人分、そしてあの五人の好きな物はバラバラ。
それをリサーチし用意するには難しい。ならば、申し訳ないが五人まとめてひとつのプレゼントという話になった。
そして考えたのはアルバムだ。
ただ、俺に任せっきりになるのを避けたい風太郎が前田と武田にもこの修学旅行中に協力してもらおうと相談すると二人は快く協力してくれた。
しかし、その頼んだ前田は姉妹を撮ろうとすると手が震えるようだけど。
「ほい、フルハウス。それじゃ、ちょっくらあいつら撮ってくるわ」
俺は早速カメラを持って五つ子が座る席へと向かう。
「中野家ご一行さん」
「あ、セージ君」
「なにしに来たのよ」
覗くとこちらもトランプをしていた様子。
「旅の一枚くらい良いだろ。ほい、視線……て、三玖。大丈夫か?」
俺のすぐ前にいる三玖はトランプを持ったまま微動だにしない。
「三玖は寝不足のようで」
「ん……ごめん。あれ? セージ」
「寝起きだし写真はやめておくか?」
「大丈夫。ちょっと待って」
そう言って目元を隠し、軽くピースを向ける。
いや、それでいいのか? それで良いなら撮るけど。どうせ見せるのは姉妹だけだし。
そうしてまた一枚写真を収める。
「さて、戻る前に飲み物買って」
「あ、私も喉渇いたから買ってくる」
後方にある踊り場に自販機があるはずだからと俺はそっちへと向かおうとすると四葉も手をあげて立ち上がった。
そして賑わう修学旅行生の車両を抜け自販機のある踊り場へ。
「うげ、たっけえ」
「はは、新幹線の中ですから」
値段に驚き、乗る前に買っておくべきだった事に後悔しつつ飲み物をひとつ購入。
「しかし、三玖が寝不足とか。修学旅行に興奮して眠れなかったのか?」
「あ、それはですね。三玖、今日朝早くにバイト先に行ってパン焼いてたらしくて」
いや、三玖が頑張って上手くなろうとしていたのは知っているけど。
「なんでまた修学旅行の日に」
俺はペットボトルの蓋を開け、お茶を流し込む。
「納得できるパンをようやく焼けるようになったらしくて。それでそれを京都で食べてもらおうと」
「京都でって……渡すタイミングどうすんだよ」
三玖の性格考えたら人前ってかなり難しそうだし、何より二乃がいたらそれどころじゃないんじゃ。
「そこでお願いがあるんです!」
四葉は俺にぐいっと迫ってきた。
「私だけじゃ三玖の手助けできないかもしれないので。それで」
まさか四葉のやつ、三玖が風太郎にパン渡せるように協力しようとしてるのか?
俺は数日前に知った事実を思い出す。
「四葉さ。お節介焼き過ぎんなよ」
「で、でも、三玖だけじゃ」
お前の気持ちはどうなんだよ。
そう言ってやりたい所を俺はグッと堪える。
四葉の気持ちを俺は知らない事になっている。余計な事は言うべきじゃない。
「はぁ……風太郎がひとりになるタイミングは何度か作ってやる。それだけだ」
「長尾さん! ありがとうございます!」
四葉はそうお礼を言うと飲み物も買わずに賑わう車両へと戻っていった。
五月が新幹線に乗り込む前にどうして風太郎に迫る行動を取ったのか少しわかった。
同じ土俵に立たせるには風太郎が必要だ。
「たく、四葉のやつ」
どうしたもんかなとまたお茶を口にする。
「四葉が何かした?」
「ん?」
四葉と入れ替わるようにして来たのは一花だった。そして俺の隣で自販機のコーヒーのボタンを押す。
「四葉に限った話じゃないだろ。二乃といいあの五月も」
「あー。フータロー君の件ね。ごめんね」
一花は俺に謝りながら隣でコーヒーを飲む。
「一花が謝る事じゃないだろ。あいつらはあいつらの気持ちのままに動いている訳だし。むしろ一花もその間に挟まれて大変だろ」
「私は私でやりたいようにやるつもりだから」
「一人だけお気楽な事で」
「……そうでもないんだけどな」
じっと手にしているコーヒーに視線を落としたままそう溢す一花。
一花は一花で悩みがあるのか?
「あ、大女優だもんな」
修学旅行中に声掛けられたら楽しめるもんも楽しめないか。
「困った事あったら言えよ。姿を隠すくらいはしてやれるからさ」
「……そうじゃないんだけど」
「違うのか?」
「けど、困ったときはお願いするね。さ、戻ろう」
「あぁ」