家庭教師と友人A   作:灯火円

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 新幹線が京都に着き、教師からの注意事項が伝えられたら班ごとでの行動。

 五つ子、というか一花を除いた四人が何か仕掛けてくるかと思ったけれど、すぐには動かなさそうだ。

 とりあえず俺達は当初から決めていた場所へと向かう。

 まず俺達が向かったのは学問の神様が祀られている場所。そこで手を合わせて祈る。

 

「なんだここ……」

「学問の神様が祀られている神社さ。前田君。君の成績は見るに堪えないんだから深く祈りたまえ」

「んだと! コラァ!」

「お前らうるせー!」

「風太郎の声も響いてるぞ」

 

 そんな賑やかな奴らの隣で俺は自分の学業というよりも中野姉妹の事を願う。

 

 五つ子達の成績がこのまま維持できますように。

 

 そして次に俺達が向かうのは頂上。鳥居が続く階段を上りながら俺はカメラを構えて何枚か写真に収めながら先へと進む。

 

「うお、店が並んでる。なぁ! そろそろ昼にしようぜ」

 

 途中で鳥居が途切れたかと思えばお土産屋と食事処が集まった所に出た。すると前田から昼の提案がなされる。

 確かにそろそろ良い時間だよなと思いつつ、新幹線での四葉との会話を俺は思い出す。

 

「あー、山頂帰りにしないか?」

「はぁ?」

 

 前田はあからさまに不満の視線を俺に向ける。

 

「ほら、ここで食ったら腹一杯で辛くなりそうだろ? それなら山頂行った後の方が良くないか?」

「確かに。飯食った後だとこの先にもある階段上りたくねぇな」

「せっかくここまで来たなら山頂まで行きたいからね。僕は長尾君の意見に賛成だ」

 

 写真の件といい、前田と武田にはこちらの都合に付き合わせてるからどっかで埋め合わせしないとな。

 

「風太郎はどうだ?」

「俺はどっちでもいい」

 

 目的の人物が賛成してくれなかった場合はどうするかと考えてはいたが余計な心配だったみたいだ。

 

「よっしゃ。なら山頂行くか。てか、道が二つに分かれてるぞ」

「どちらも山頂には行けるみたいだけど」

 

 武田が持っているパンフレットの地図を俺達に見せると確かにどちらも山頂には行ける。

 

「希望とかあるか?」

 

 俺がそう聞くと全員首を横に振った。

 行きと帰り別のルート通れば両方行ける訳だしな。

 

「そういう時はこれだ」

 

 すると風太郎はボールペンを出すと丁度分岐となる場所でボールペンを地面に立てる。

そして支えていた指を離すとボールペンは右へと倒れた。

 

「決まりだな」

 

 右のルートに決定し、風太郎達はまた歩き出すが俺は足を止める。

 

「悪い。先に行っててくれ。俺はもう少しここら辺の景色撮ってから行く」

「付き合うぞ?」

 

 風太郎の言葉に俺は首を横に振る。

 

「良いって。俺も自由に撮りたいし。山頂で合流しよう」

 

 そう言うと風太郎もこれ以上は余計なお節介だとわかったらしく前田と武田と一緒に先へと進んだ。

 

「さて、きちんと着いてきてるのか?」

 

 風太郎にパンを食べさせたいって事なら俺達の後を着いてきてるはずだけど、今の所その気配はない。

着いてきてると仮定してここの分岐によってすれ違いが生じる可能性もあるからな。

どっちに行ったかだけでも教えようと俺はそれらしい理由で残った訳だけど。

 

「あ、長尾君」

 

 来たのは毛利さんがいる班。

 

「どうしたの? 上杉君達は?」

「あいつらには先行ってもらった。俺はこいつ」

 

 そう言ってカメラを見せる。

 せっかくだし毛利さん達も撮るか。

 

「はい、視線下さい」

「長尾、カメラマンみたーい」

「けど、実際撮るの上手いよ」

 

 プロの手伝いをしている事は黙っておこう

 

「はーい、撮るぞー」

 

 そうして毛利さん達を撮り終え、俺は気になっている事を彼女に聞いた。

 

「で? あっちとは会ったか?」

「あー、まだ。けど、あっちもここにはもう着いているってさっきメッセージ送ったらそう返ってきた」

「そうか。上手く会えればいいけど」

「まぁ、ダメならダメで良いんだけどね。ほら、まだ写真に自信ないし」

 

 そう言って毛利さんは俺に持っていたデジカメを俺に見せた。そこには今日撮ってきた写真がいくつもあった。

 

「悪くないと思うけど」

「そう?」

 

 そう伝えてカメラを返しても毛利さんの表情は納得していない。

 

「けど、こういうのは感性のあれだからな。他人が良いと言っても自分は納得できないってのはわかる」

「おー、なんか芸術家っぽい」

「なんだそれ……あれなら、山頂までだけど写真一緒に撮って行こうか?」

 

 短い時間でも少しでも彼女が納得出来る写真を撮る手伝いが出来ればと俺は提案してみる。

 

「いいの?」

「そろそろ俺も山頂行こうと思ってたし」

 

 四葉達にルート教えようと思って待ってたが、毛利さんの言葉でメッセージ送ればいいだけという事に気付いた。

 

「なら、お願いします。先生」

「あぁ」

 

 俺は四葉に風太郎が向かったルートをメッセージで伝えて毛利さん達と一緒に俺も右ルートで向かう事に。

 

「へー、長尾君って写真撮るの好きなんだ」

「まぁ、人並み以上には」

「それで私の先生になってもらったの」

 

 これまで写真の事を知っているのは風太郎と中野姉妹と毛利さんくらいだったのだが、さすがにこの状況となると毛利さんと同じ班の女子達にも知られる訳で。

普段の俺からそんな趣味があるとは想像がつかないようで女子達は意外という視線を俺に向けていた。

 

「うちらラッキーじゃん。良い写真撮ってもらおうよ」

「それなら毛利さんの練習台になってあげてくれ」

「明里の練習台か」

「仕方ない。明里が彼の良い写真撮りたいって話しだし」

「あー! その話は出さなくていいから!」

 

 どうやら同じ班の女子達も毛利さんの事情は把握しているみたいだな。

 そんな彼女達の協力を得ながら写真を撮る毛利さんにアドバイスをしながら上へ。

 

「あ、やっと山頂だ!」

「つっかれたー」

 

 ようやく山頂に出るようだ。

 先に行く彼女達とは違って毛利さんは足を止めて撮った写真を確認しているようで俺も足を止める。

 

「やっぱり長尾君のアドバイス的確だね」

「そうか? ちょっと口出した程度だぞ」

 

 毛利さんが首を傾げていたら話を聞いて気になった部分を助言する程度しかこれまでの道のりではしていない。

 

「それが有り難いの」

「まぁ……あれだ。毛利さんはまだ自分の写真に納得してないところあるかもしれないけど、俺は好きだよ」

「……ありがとう! さ、私たちも行こう」

 

 先に行った女子達に追いつくためか駆け足になる毛利さん。すると俺の方へと振り返った。

 

「私も長尾君の好きだよ」

「!」

 

 そう言うと毛利さんはまた駆け出し、山頂へと向かっていった。俺はというとその言葉に踏み出そうとした足を止めていた。

 

「みーたーぞー!」

「お前やっぱり!」

「うが! 浅井?! 朝倉!?」

 

 声に振り返ると浅井と朝倉がすごい勢いでこっちに向かってきた。

 しかし他の班の人達は見えない。

 

「お前ら、班行動はどうし」

「山頂まで競争しようぜってなって俺と浅井はこっち来た」

「ちなみに勝った方が昼奢りだ」

 

 つまり、吉川はあっちルートか。うまく山頂で会えたらいいけど。

 

「それより! お前! やっぱ毛利さんと付き合ってるのか!?」

「……はぁ?!」

 

 俺は一瞬、何を言っているのか理解出来ず反応に遅れた。

 

「休みの日に毛利さんと公園デートしていたって聞いたぞ」

 

 朝倉のいう公園デートってカメラを教えている時の事だよな。学校の誰かに見られてたか。

 けど、男女二人が会ってただけでデートって。

 それなら中野姉妹となんて何度もデートしてる事になるぞ。けど、それは絶対にこいつらには言えない。

 

「あのな」

「それにだ。好きだって毛利さんにお前言ってただろ。聞こえたぞ」

 

 浅井のやつ。断片的にしか会話聞いてねえな。

 

「だか」

 

 俺が事情を説明しようとした時だった。

 枯葉を踏む音が聞こえた。それは今俺達が目指している山頂から。

 

「あ」

「お、中野さんじゃん」

「今じゃ俺達のアイドル」

「……一花」

 

 そこには一花がいた。

 山頂から来たって事は反対のコースから来たのか?

 え、四葉は俺のメッセージ見てない?

 

「三玖、もうすぐだよ」

「セージだ。それに一花も」

 

 考えていると俺の後方から声が聞こえて振り返ると三玖を背負っている四葉がいた。

 どういう事?

 

「一花、どうしたの?」

「ん?」

 

 四葉の言葉にもう一花の方をまた向く。

 

「おい、一花」

 

 一花の顔を見て俺の足は自然と一花の方へと駆け出していた。

 

「何でも、ないよ!」

 

 そう言って一花は来た道を走って引き返す。

 

「おい!」

 

 朝倉達や三玖達の事も気になったが、俺はそれらよりも一花の後を追って山頂へ。

 

「一花、何して……あんた泣いて」

 

 山頂に上がると二乃がそこにいた。一花は二乃の言葉に反応せず走って行く。

 

「何があったのよ……って、あんた」

 

 二乃の視線がこっちに向いて俺に気付くと鋭い視線へと変わった。

 そして俺に詰め寄ってきた。

 

「一花に何したの?」

 

 これまで幾度も二乃からキツい視線は向けられたが、こんなに怒った視線は初めてかもしれない。

 

「何もしてねぇよ」

「ウソよ! 一花の様子がおかしくなるなんてアンタ絡みでしょうが!」

 

 二乃は俺の胸ぐらを掴んで怒鳴り声を俺に向ける。

 

「んなこと言われても俺だってわかんねぇよ!」

 

 一花のあの表情と突然逃げ出すようにして去って行った一花に混乱していて俺も怒鳴り声で返してしまった。

 

「お前ら、どうした?」

「風太郎」

 

 そっか。山頂だもんな。

 俺と二乃のやり取りは周囲に注目を浴びている。

 もちろんそれは先に山頂に着いた風太郎にも気づくほど。

 

「フー君、悪いけど今は口挟まないで。長尾、あんた本当に心当たりないわけ?」

「心当たりって」

 

 思い返そうとして一番に浮かんだのは泣きそうなあの表情。

 去年の林間学校の時を思い出す。

 そういや、俺の言動があの時も一花を傷つけた。

 

「やっぱ……俺のせいなのか」

「なら! さっさと追いかけなさい!」

 

 二乃に背中を押された。

 そうだな。追いかけるしかないよな。

 あいつがあんな表情して俺の前から逃げるように去って行った理由を俺はまだわからない。

 けど、わからないなら聞くしかない。

 

「風太郎、悪い」

「よくわからんが、良いから行け」

「あぁ」

 

 そして俺は一花が下っていった方へと駆け出した。

 理由を考えようとしたけれど、思考はうまく回らない。

 ただ、今は一花を探さないと。

 その思考だけは鈍ることはなかった。

 

 

 

「はぁ、はぁ。追いつけると思ったんだけど」

 

 本殿まで戻って来たがそれまでの道のりで一花には会えなかった。電話もメッセージも送ったが返ってこない。

 どっかで見逃したか? もう一度戻って探してみるか?

 そう思っていると四葉から電話が入った。

 

『長尾さん、一花は五月と一緒でバスに乗っているそうです』

「マジか」

 

 すでにこの場を離れたか。

 そりゃ姿が見えないわけだ。

 

『とりあえず五月と連絡取り合って下さい。どこかで追いつけるかもしれません』

「そうする……ところで三玖の件はどうだった?」

 

 俺はとりあえずバス停に向かいながら放り投げる形になってしまった三玖の事を四葉に聞く。

 

「あー、えっと、まだ」

『悪い。俺のせいだな』

 

 風太郎と二人きりになるどころか目立つようにしてしまったからな。あんな状況じゃパンも渡せないだろう。

 あとで三玖には直接謝らないと。

 

『長尾さん。今はお節介している場合じゃないですよ。自分の事、一花の事だけ考えて下さい』

「……四葉に言われたくないけどな」

 

 風太郎との思い出の京都。

 四葉だって本当は風太郎と二人きりになりたいと思うはずなのに。

 

『私は』

「俺も頑張るからさ。四葉も誰かの為とかじゃなく自分の為に」

『私は』

 

 すると目的のバスが来た様子。

 

「んじゃ、俺はバスに乗るから。頑張れよ」

 

 そうして俺は電話を切ってバスに乗り込む。すでに話を聞いていた五月から今居る位置を教えてもらい俺はそこに向かう。

 だが、そう上手くいくことはなく。

 五月が事情を知ったと悟った一花は五月を巻いたらしい。

 その後、色々と探し回ったが結局俺はホテルに戻るしかなかった。

 

 

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