家庭教師と友人A   作:灯火円

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「よう。寝ぼすけが今日はやけに早いな」

「……セージ君」

 

 俺は朝の点呼が終わってすぐにホテルのロビーで待機していた。

 今日は一応団体行動ではあるが、こっちが先に一花の姿を確認して先手を打とうと思ってこの時間から居たわけだ。

 ホテルから出てこないのも覚悟していたけど、一花は誰よりも早く現れた。

 

「あー、えっと、どうしたのかな? フータロー君達を待って」

「一花を待ってた」

「!」

「今日は俺に付き合ってくれ」

「私は五月ちゃん達と」

「五月達にはもう許可もらった」

 

 すでに昨日の夜に一花と話す為に一花を借りる事は連絡済み。

 

「私の意見は」

「俺のメッセージを無視しているお前が悪い」

 

 俺は一花宛に送ったメッセージを見せる。

 昨日の昼から今まで既読の文字はついていない。

 

「……私がセージ君と回る意味って?」

 

 俺の方を見ようとしない一花。けど、そう俺に問いかける声は低く冷たさを感じた。

 

「誘うなら……明里ちゃんでしょ」

「なんで毛利……」

 

 そこで俺はようやく取っ掛かりを掴む事が出来た。

 昨日の事を思い返すと心当たりはひとつ。

 

「聞いてたのか? 昨日の会話」

「っ……そうだよ。もう、セージ君もダメだよ。彼女よりも他の」

「会話ってのは浅井達とのか?」

「そう、だけど」

 

 浅井と朝倉。やっぱりお前達にはもう一度謝罪を求めるぞ。

 俺は昨日から見つけられる事が出来なかった原因が見つかり小さく息を吐いた。

 

「公園デートとか好きとかってやつだな?」

「……」

 

 無言だが、表情がそうだと物語ってる。

 また俺は余計な誤解を一花に抱かせた事がわかった。いや、今回は浅井達が原因だけど。

 

「公園デートってのは、まぁ毛利さんと公園に一緒にいた事は認める」

「っ」

 

 朝早い時間、まだ人の少ないホテルのロビーは静かで俺は落ち着いた声で一花に聞かせる。

 

「けど、それは毛利さんの先生やってたから」

「……先生?」

「写真の撮り方教えて欲しいって。これまでも放課後とか何度か教えてた」

「……それで教えていくうちに好きに」

 

 俺が事情を説明して誤解を解こうとしているのになんでそう恋愛に結びつけるんだよ。

 

「そもそもだ。毛利さんが俺に教わりたい理由はな。ある人を自分で撮りたいって思ったからで」

「あー、それがセージ君ってわけだ」

 

 だから、なんでそういう考えになるんだよ。

 どんなに俺が言葉にした所で今の一花は何かと俺と毛利さんを結びつけようとする。

 なら、どうしたら良いか。

 毛利さんにはあとで謝るか。

 

「これを見ろ」

 

 俺はスマホをまたいじり、一花に見せる。

 

「なに?」

「良いから見ろ」

 

 俺は無理矢理スマホを一花に渡す。一花もそうなると見るしかなく画面へと視線を移す。

 

「え、これって」

 

 一花はそこでようやく俺の顔をまともに見た。

 交わった視線に俺は笑いかける。

 

「昨日、無事に告って恋人になりましたって報告だ」

「相手って」

「吉川。記録係の相方。覚えてるか?」

 

 毛利さんが撮りたい人物、それは吉川。

 最初は吉川の試合での姿を撮りたいと思って俺にカメラについて相談してきた。

 でも、修学旅行でも吉川との写真を撮りたいと思っていた。

 丁度、俺の友人の朝倉達が吉川と同じ班だと知っていた俺はそれとなく吉川と毛利さんが会うように手助けもしていた。

 

「あ、うん」

「俺はむしろ二人が上手くいくように色々とやってたんだよ。ま、修学旅行中に告るとは思ってなかったけど。吉川の写真を上手く撮りたいって話だったからそれで放課後とか休みの日にな」

「……セージ君は毛利さんの事好きじゃないの?」

「友人としては好印象ではある。けど、休みの日に公園で二人はそう思われても仕方なかったな。反省した」

 

 中野姉妹との距離感に慣れきっていたからか女子と二人きりに抵抗がなくなっていた事に関しては俺の反省点だ。

 

「……ごめん」

 

 その言葉は一花から出た言葉。

 ギュッと目を閉じて謝罪の言葉を小さく絞り出すように言った。

 

「逃げるしメッセージも全部無視して。めちゃくちゃへこんだ」

「ごめんっ」

「だから、今日は俺に付き合えよ」

 

 俺はそう言って一花の手を取るとそれまで下を向いていた一花の顔が俺へと向けられた。

少し涙を溜めた瞳とへの字の眉。

 

「昨日、一花を探すためにほとんど観光なんて出来なかったんだ」

 

 本当は話す為に今日は一花を追い回す覚悟だったが、早々にその目的は果たされた。

 けど、誤解していた当人がこのまま罪悪感抱いたまま楽しめないのは俺も望まない。

 少しでも楽しい思い出にしたいから。それに何より俺が一花と回りたいと思っている。

 

「もう、私だって昨日観光どころじゃなかったんだけど?」

「自業自得だろうが」

「……そうだね。なら、一緒に回ろう」

 

 手を握り返し、笑顔を向けた一花に俺もようやく頬が緩んだ。

 一花と話せたし他の姉妹達と合流しても良かったけど、三玖は風太郎の事でどう動くかわからないし二乃は二乃で風太郎を追いかけるだろうからな。

 あとは四葉と五月だけど。五月は四葉の件で何か動こうとしてるから邪魔するのもな。

 結局今日は一花と回る事がベストだろう。

 

 

 

「セージ君の行きたい所に合わせるよ」

「つっても団体行動で行き先は決まってるからな」

 

 今日の目的地は京都といえばの清水寺だ。

 小学校の修学旅行でも来たけど、まだまだ色々と見て回るところはある。

 そして清水寺の玄関口とも仁王門でまず俺はすぐにカメラを構えて何枚か撮って行く。

 

「一花、撮るからあの辺に立ってくれ」

「え、私を撮ってくれるの?」

 

 それまで俺の邪魔をしないように俺の隣にいた一花。

 せっかくだしと一花を撮ろうと思って提案すると驚いた様子で俺を見る。

 

「モデル料かかるのか?」

「もう、雑誌に載る訳じゃないから大丈夫だよ。ただ、人より風景撮るの好きでしょ?」

 

 一花の言う通り、俺はあまり人を撮る事を好んでいない。

 というのは少し前の事、今はそうでもないしむしろこれを背景に一花を撮りたいと思うくらいにはなった。

 

「ここまで来て撮らないのはもったいないだろ?」

「ふーん、ならお言葉に甘えちゃお」

 

 そうして一花は門をバックにして立ちポーズをする。

 この辺を自然にこなすのは女優としてのスキルってやつかな。

 そんな一花だからか俺も撮っていて楽しい。

 

「何枚か撮るぞ。はい、はい……ラスト」

 

 数枚撮り終えると一花が駆けよって覗き込んできた。

 

「いいね。やっぱりセージ君、こっちの腕もあるよ。ありがとう」

「大女優に褒められて光栄だ」

「専属のカメラマンになる?」

 

 なんて冗談を言い合える。

 いつもの俺達の関係に俺は心地良く感じる。

 

「あ、私のスマホでも撮ってくれる?」

「ん? あー、良いけど」

 

 そうして俺は一花からスマホを預かって同じように何枚か撮って一花に返す。

 

「ありがとう。SNSにあげる用に撮っておきたくて」

「やっぱ、そういうのやってんだな」

 

 いつぞや店長が一花がそういうのやってないか聞いてきたっけ。

 

「こういう活動も顔を知ってもらう為にも必要なんだよ。あ、でもすぐにはあげちゃダメなんだよ」

 

 そりゃリアルタイムであげたら場所特定されるからな。

 

「ねぇ、セージ君も撮ってあげる」

「俺は良いっての。撮られるの好きじゃ」

「せっかくの修学旅行だよ? 一人が嫌なら私と一緒に撮ろう?」

「いや、でも」

「あ、一花ちゃん! 長尾君も」

「ん?」

 

 俺と一花の名前を呼ぶという事は同じ学校のやつら。

 二人してその声の方を向くと毛利さんと吉川がいた。

 早速デートか。

 

「おい、毛利」

「あ、大丈夫。ほら、言ったじゃん。長尾君とか班の子達には協力してもらったんだよって。だから大丈夫。あ、でも」

 

 二人の会話的にまだ付き合った事は内緒の様子。でも、一花が知っている事は毛利さんもまだ知らない。

 

「あー、悪い。毛利さん、一花は二人の件を知ってる。というか俺が」

「えっと、セージ君は悪くなくて! 私が……そう! 二人が仲良くしているの見かけてね」

 

 一花は俺が悪くないように弁護する形で間に入った。

 

「あー、別に責めるつもりないよ。どうせバレるし」

「吉川はまだバレたくなさそうだけど?」

 

 俺達に見られたのが恥ずかしいのか吉川は視線をずっとそらしている。

 そもそも今二人でいる時点でそういう関係って見せつけてるようなもんだと俺は思うのだけど。

 いや、俺も一花といるからあれか。

 

「もう……一花ちゃん、しばらくは秘密にしておいて」

「あ、うん。明里ちゃん、おめでとう」

「ありがとう!」

 

 そんなやり取りを見つつ俺はある提案をする。

 

「せっかくだから二人撮ろうか?」

「え」

「良いの?! 吉川、撮ってもらおうよ!」

「ちょ、引っ張るなよ」

 

 毛利さんに引っ張られる吉川。

 こりゃ、早速尻に敷かれる感じか?

 

「長尾君の腕が良いのは吉川も知ってるでしょ。私たちラッキーだよ」

「あー、じゃあ悪い。頼めるか?」

「任せろ」

 

 そうして俺は二人の写真を何枚か撮り、それを二人に見せる。

 

「やっぱり上手いな」

「プロみたいだよね」

「プロに失礼だって」

「ふふ」

 

 二人の言葉にむず痒く感じていると隣で一花が笑っていた。

 

「あ、毛利さん。お願いしてもいいかな?」

「なに?」

「セージ君と私も撮って欲しいんだ」

「おい」

「もちろん! あ、私のカメラでもいい? スマホはまだ慣れてないんだ」

 

 毛利さんの愛用のデジカメをカバンから取り出した。

 

「お願い」

「勝手に話を。て、押すなよ」

「一枚くらい我慢してよ。それとも一人で写ってもらおうかな?」

「……わかった」

 

 撮る気満々の女子二人を説き伏せる自信は俺には無く俺は観念するしかない。

 

「大変だな。そっちも」

「はは」

 

 吉川の同情する言葉と視線に俺は乾いた笑い声で返し、一花と並んで門の前に。

 

「それじゃ、いくよ。はい、チーズ」

 

 そうして一枚の写真を撮ってもらった。

 

「わー、良い感じだよ。ありがとう。明里ちゃん」

「私なんて長尾君に比べたらまだまだだよ」

 

 撮ってもらった写真を見せてもらうと一花は嬉しそうにお礼を言う。

 一方、毛利さんはそう謙遜しているが俺から見ても良い写真だと思う。

 俺が写っていなければ言う事なし。

 

「昨日も言ったろ。俺は毛利さんが撮る写真好きだって。良い写真だ」

「吉川! 先生から合格の言葉頂いちゃった!」

「良かったな」

「……あー、そういう事か」

「ん?」

 

 一花は何か納得したような様子。俺はどうした?と視線を送ると「なんでもなーい」と返しただけだった。

 

「んじゃ、俺達は次の所行くか」

「そうだね。またね。明里ちゃん、吉川君も」

 

 これ以上、初々しいカップルの邪魔はしたくないと俺の意図を一花も察した様子。

 こういう時、以心伝心しやすいんだよな。

 

「あまり写真撮れてないって言った割には結構撮ってるね。それもセージ君には珍しく風景よりも人物の方を多く撮ってる」

 

 歩きつつ、一花にこれまで撮ったものを見せていると痛い所を指摘された。

 

「修学旅行だしな」

 

 それは中野姉妹を撮る為に違和感抱かせないように他の人も撮っていて多くなったとはさすがに言えず修学旅行を言い訳にした。

 

「けど、風景とか限らずセージ君の写真好きだな。キラキラしてる」

「……今見てるのはむしろ光量少ないぞ」

「そういう意味じゃないって。なんか見た時のイメージ?」

「抽象的だな。でも、最近は人を撮るのも良いなとは思うようになった」

「そうなんだ」

 

 そう思うようになったのは一花達。

 五つ子でもやっぱりそれぞれ微妙に表情や仕草が違う。

 もちろん、瓜二つならぬ瓜五つの時もあるが。

 あと、毛利さんに写真を教えている間に自分自身もっと知識を深めたいようになった。

 

「ねぇ、あの子テレビに出てなかった?」

「ん? どの子?」

 

 さすがの清水寺。観光地で人が多いこともあってか一花の姿に気付きそうになる人もいる様子。

 

「行くぞ」

「あ、うん」

 

 確信を持たれる前に俺達はその場を離れ、一旦道を外れて出来るだけ人気の無い方に俺達は行く。

 

「ごめん」

「いや、良いって。てか、念のために変装しといた方がいいな」

「あー、それがホテルに置いて来ちゃって」

 

 いつもはいつでも五つ子変装セット持ってるくせになんでこんな時に限って。

 

「もう少し、自分の知名度に自覚もてよ」

「考え事してたんだもん」

 

 あー、その考え事ってのが俺の事だよな。

 それだと俺はあまり責められない。いや、そもそも俺が悪いってわけじゃないんだけど。

 

「はぁ、ちょっと待ってろ」

 

 俺はリュックの中を漁る。そして眼鏡ケースを取り出し中の眼鏡を一花にかけさせる。

 

「これって」

「無いよりマシだろ。俺の気まぐれに感謝しろよ」

 

 気まぐれで持ってきた伊達眼鏡が使う事になるとは。

 

「……ありがと。へへ、どう?」

 

 しっかりとかけ直すと一花は俺に顔を向けてきた。

 

「なんかダサいぞ」

 

 元は父さんのだし、今のファッションとはちょっとズレているからなんか違和感ある。

 けど、それくらいの方が一花だと気付かれないか。

 

「そこは似合ってるっていうべきだよ。もう、乙女心がわかってないな」

「へいへい、すみませんね」

 

 そう言いつつも一花はどこかその眼鏡が気に入ったのか終始スマホで確認していた。

 

 

 

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