家庭教師と友人A   作:灯火円

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第17話 分岐の夏休み
17-1


「零奈、お前には感謝している」

 

 とある休日、俺はあの池のある公園に来てベンチに座る風太郎と零奈に変装する五月の会話を少し離れた場所で聞いていた。

 そしてその俺の隣にはもう一人。

 

「あの日、お前に会わなければ俺はずっと一人だったかもしれない。お前のおかげで今の俺がある」

 

 それはつまり、四葉の事。

 隣にいる四葉がその場を離れようとするのがわかって俺は四葉の手を取る。

 

「最後まで聞け」

「っ」

 

 これは四葉に向けた言葉なんだ。

 四葉が聞くべきだ。

 

「六年ぶりの京都……あっという間に終わっちまったが将来的には良い思い出になると信じてこのアルバムを作ったんだ。その、俺と誠司からの誕生日プレゼントだ」

 

 アルバム。

 五つ子の誕生日プレゼントのそれは武田達の協力もあって完成する事が出来た。

 正直、京都での俺は何もやれていないから武田達に協力してもらって本当に助かった。

 

「ありがとな」

 

 そしてアルバムと言葉を伝え終えた風太郎はその場をあとにし、残ったのは五月。

 すると五月は俺達の方へ。

 

「勝手な真似をしてごめんなさい。ですが、打ち明けるべきです」

 

 零奈の姿でまた風太郎と会っていた事について五月は謝罪する。

 だが、こうする理由があった。

 

「六年前、本当に会った子はあなただったと」

 

 俺は掴んでいた四葉の腕をそっと離し、隣の彼女の様子を見守る。

 

「ううん。これでいいんだよ」

 

 そう言って四葉は去ろうとする。

 けれど、俺にはまだ聞きたい事がある。

 

「ひとつだけ良いか?」

「長尾さん? 説得しようとしても」

「この件に関して俺は強制するつもりはない」

 

 納得していないけど四葉がどうして風太郎に正体を明かさないのか心当たりはある。

 そしてそれは俺も少し共感できる部分があるからだ。

 

「長尾誠司クイズ」

「はい?」

「長尾君?」

 

 いつだったか風太郎が姉妹に出していたクイズみたく持ち出す。

 唐突な俺のクイズに案の定二人は戸惑っている。

 

「五月も参加して良し」

「あ、あのー」

「一体」

 

 戸惑う二人を無視し俺は問題を出す。

 

「小学校の頃、俺が将来なりたかったものはなんでしょう?」

「本当に普通のクイズですね」

「長尾さんがなりたかったものですか」

「四葉も真面目に答える気ですか」

 

 そうツッコミを入れる五月の隣で四葉は真剣に考えてくれている。

 こういう所、俺は好きだぞ。

 

「ずばり! カメラマンです! 長尾さんはプロの方のお手伝いをしてるくらいですから」

「はい、不正解」

「えー!」

 

 四葉としては自信あったようで「それ以外ってなんだろ」とまた考え始める。

 

「それではないとなると……」

 

 そしてなんだかんだ五月も真剣に考え始めている。

 しばらくして五月は思い浮かんだのか伏せていた視線を俺に向けた。

 

「長尾君が勉強していた理由……やはり教師ですか?」

「その心は?」

「以前、話してくれましたよね。妹さんの為に勉強していたと。それは入院ばかりで学校にいけない妹さんの為に勉強を教えていたのでは? そしてその過程で教師になりたいと」

「うん。不正解だ」

 

 考え方としては合っていたんだけどな。

 

「結構自信あったんですが」

 

 五月には俺が昔勉強していた理由を少し話してはいたが、明確な事は話していなかったからな。

 

「ま、五月はいい線ではあった。俺はさ。医者になりたかったんだ」

「あ……それで妹さんの為。なるほど、その線もありましたね」

「この事、誰にも言うなよ」

「お医者さんですか! すごいです! 絶対に長尾さんならなれますよ!」

 

 四葉は驚きを見せるがすぐにいつもの応援モードで俺に力強い視線を向ける。

 

「言ったろ。小学校の頃なりたかったって。今は医者になろうと思ってないんだ。途中で俺は熱意を失って、どうでも良くなった」

「あ」

 

 四葉は俺の中学時代の話を思い出した様子。

 一方、五月は初めて聞く俺の話に興味津々といった感じだ。

 

「情けないやつだろ?」

 

 俺は視線を池へと移す。

 それはまだまだあの頃の自分と向き合えない自分への葛藤の表れ。

 

「そんな事ありません! だって、長尾さんは今また頑張ってるじゃないですか! 頑張ってる人をそんな風に」

「なら、四葉もだろ?」

「へ?」

 

 俺は視線を四葉へと戻す。

 

「四葉も頑張ってる。ずっとずっと頑張ってきてる。胸を張って良いと俺は思う。だから風太郎に」

「ダメなんです!」

 

 四葉の声が俺の言葉を遮る。

 拳を握り四葉は首を振る。

 

「今の私は……みんなのおかげだから……だから、いいんです」

 

 そう言って笑顔を向けると四葉は走り去ってしまった。

 

 

「……またやっちまったかな。俺」

 

 俺は先ほど風太郎が座っていたベンチに座り、空を見上げる。

 四葉に対して地雷をまた踏んだ気がして俺はまた自己嫌悪を抱く。

 

「突然クイズなんて言い出して何事かと思いましたが、四葉の背中を押そうとしたんですね。だいぶ回りくどいですが」

 

 零奈の格好のまま五月は俺の隣に座る。

 

「風太郎は四葉の言葉で変わった。多分、四葉も風太郎に影響されたと思うんだ」

「確かに四葉もある時から変わったと思いましたが、それは修学旅行くらいですね」

 

 つまり、二人はあの修学旅行で互いに刺激になるものを受けた。

 残念ながら俺は途中から合流したから明確な事はわからない。

 

「風太郎があれだけ変わったのに自分はって……そういう負い目みたいなのがあって正体明かさないと思っていたんだけど。あれはそれだけじゃないか」

「以前から他の部活の助っ人とかで誰かの為にと四葉は頑張っていましたが、今の学校に転校してからよりそれが強くなった気がします。それは姉妹の間でもです」

 

 転校、四葉が自分ひとりだけ転校するはずだった。

 けど、姉妹全員も一緒に転校してきた。

 

「その辺も関係してそうだな。はぁ……似たもの同士とか思ってたけど、俺より面倒くさそうだ」

「四葉と長尾君が……ですか?」

 

 五月からしたらそうは思わないか。

 俺にとって四葉は時より写し鏡に思えるんだけどな。

 

「あの時、初めて零奈として俺の前に現れた時に俺言ったろ? 幻滅しただろ?って」

「あ」

 

 そう、あの時は六年前のあの子だと思い込んで出てしまった言葉。

 

「四葉はそう思っていませんよ。じゃなきゃ、さっきだって」

「四葉は……な」

「長尾君?」

「さて、俺はこれからバイトだから行く。あ、そうだ。言い忘れてた。遅くなったけど誕生日おめでとう」

「あ、あの!」

 

 ベンチから立ち上がってバイトへと行こうとする俺の腕を五月は掴んだ。

 

「その、私は六年前に長尾君と会っていませんし、今の学校で出会うまでに長尾君に何があったか私はよくわかりません。でも、私も長尾君を幻滅なんてしませんから!」

「……」

「あ、えっと、すみません。何も知らない私の言葉なんて」

「いや、そんな事ない。ありがとうな」

 

 五月の言葉に軽く手を振り、俺は公園をあとにする。

 結局俺もまだ恐いんだ。

 あの頃の俺とは違う道を進んでしまった今の自分に。

 ただ、二人の言葉に少しだけ救われた気がした。

 

 

 バイト終わり、スマホを確認すると五つ子からそれぞれメッセージが来ていた。

 

『セージ、ありがとう。修学旅行色々あったけど、これのおかげで楽しい思い出になった』

『隠し撮りなんてするんじゃないわよ。でも、あんたのおかげでフー君との思い出写真出来たわ。ありがとう』

『アルバム見ました! とっても素敵な誕生日プレゼントありがとうございます!』

『改めて誕生日プレゼントありがとうございます。大切にしますね』

『誕生日プレゼントありがとうね。前田君達も協力してくれたみたいで色々な写真あって楽しかったよ』

 

 五人それぞれのメッセージを読んでいてふと自分の頬が緩んでいる事に気付く。

 

「……そういや、俺って単純だったっけ」

 

 カメラに本格的に興味持ったのも何気ない言葉。

 

「こいつだけは今もずっとだよな……ん?」

 

 またメッセージが。

 

『でも、やっぱり私は君のキラキラしてる写真が一番好きかな。あ、君への誕生日プレゼント。そろそろ欲しい物考えておいてね』

 

 いつもの調子と変わらない彼女の文面。

 あの時、全部がウソだと言ったけど。

 

「この話は様子見だな」

 

 彼女からこの話を持ち出せば俺と口を聞かないと言い出しやがったから出来るだけ慎重に進めないと。

 

「でも、収穫はあったな」

 

 

 

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