家庭教師と友人A   作:灯火円

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 そして夏休みが始まった。

 風太郎の提案通り、俺達は五人に宿題だけを出して家庭教師は休む事に。

 俺は連日ケーキ屋でのバイトに勤しんでいる。

 今日もオープンからバイトのシフトで行く準備をしていると店長から電話が来た。

 

「え? バイクで事故った?! 大丈夫なんですか?」

『電話できるくらいには元気だよ。けど、しばらくお店はお休みにしようと思う。すまないね』

「あ、いえ、とりあえず店長はゆっくりしてください。お大事に」

 

 そして突然ぽかんと予定が開いてしまった。

 

「そういや、今日って」

 

 どうするかなと考えていると数日前に送られてきたクラスのメッセージを思い出す。

 確か海に行こうって話が上がってたよな。

 それもクラスのグループに全員宛にメッセージ送られていた。

 今のクラス、すげえ仲良いんだよな。

 そんな事を考えてるとまた電話。今度は風太郎だ。

 

「よっ」

『おぅ、店長の事は聞いてるか?』

「さっき連絡きた。少し落ち着いたら見舞いに行こう」

 

 今は入院したばっかでバタバタしてそうだしな。

 

『だな。ところで誠司、今日は暇か?』

「元々バイト入ってたから予定はバイトくらいだけど?」

『そうか。なら』

 

 バイトが無くなり何をしようかと考えていたが、風太郎の提案で俺の予定は決まった。

 

 

「海だー!」

「らいはちゃん、まずは準備運動だ」

「じゃ、俺は休むから」

「風太郎、お前が海に誘っておいてそれはないだろ」

 

 俺は風太郎に誘われて風太郎とらいはちゃんと海に来たのだが、その風太郎はすぐにパラソルの下へと行こうとする。

 

「誠司くんの言う通りだよ。海に来たなら海に入んなきゃ」

 

 らいはちゃんがパラソルの下の風太郎をどうにか引っ張り出すのを眺めていると見知った連中がこっちに来た。

 

「よぉ、すぐ合流できたな」

 

 俺はそいつらに手を上げて声を掛ける。

 

「おぅ。しかし、上杉も連れてくるとは。やっぱ長尾が適任だったな」

「久しぶり。夏、楽しんでる?」

 

 見知った連中は武田と前田。

 来る前に連絡を二人に入れておいた。

 上手く合流出来たら一緒に遊ぼうと誘っておいた訳なんだが、風太郎は驚いている様子。

 

「お前らも来てたのか?」

「風太郎。お前、見てないのか? 今日、クラスの連中で海行こうって話だったはずだぞ」

「そういや、携帯しばらく見てないな」

 

 またかよ。

 てか、てっきりそれ知ってて誘ってきたのかと思ってたがそうじゃなかったか。

 

「……違う」

「え、らいはちゃん?」

 

 らいはちゃんは前田達を見てガッカリな表情。もしかしてこいつらと一緒は嫌だったか?

 

「あ、長尾君と上杉君! みんなー! 二人来たよ!」

 

 毛利さんが俺達を見つけたと思いきやクラスの連中に報告。

 一瞬にして俺達は囲まれた。

 ふと、俺は周りを見渡す。

 やっぱいないよな。

 クラスのグループメッセージで中野姉妹は予定があるから来れないとあった。でも、居ないとはわかっていても探す自分がいる事に気づき力の無い笑みが出た。

 俺、どんだけあいつらと一緒にいるのが当たり前になってるんだよ。

 

「よーし、長尾と上杉を海に投げ込むぞ!」

「あ、お前ら!」

「いつの間に!」

 

 クラスの男子共に担がれ、俺達は海へと投げ込まれた。

 そこから目まぐるしいほどに海を満喫する。

 スイカ割りやビーチバレー。らいはちゃんもクラスの女子達と遊んで楽しんでいた。

 気付けば陽が暮れてクラスの連中はこれから花火すると言ってその準備が整うまで休憩。

 俺も疲れて防波堤に座って海岸の連中を眺めている。

 

「いいな」

 

 俺は持ってきたカメラで何枚も写真を撮る。

 次は何を撮ろうと見渡していると昼間のスイカ割りで風太郎にスイカと間違って叩かれた前田が痛そうにしているのを松井がからかっているのが目に入った。

 

「前田、松井」

「ん?」

「なんだよ。なが、急に撮るんじゃねぇ! コラ!」

「言ったろ? 二人の写真撮ってやるって」

 

 修学旅行の時は結局撮らずに終わったからな。

 

「な、だからって今じゃなくても良いだろうが! コラ!」

「今じゃなかったらいつだよ」

「なに? 一緒に撮られたくないってわけ?」

「いや、そうじゃなくてだな」

 

 松井の言葉にしどろもどろな前田。

 さすがにこれはカメラを向けないでおくかと思っていると風太郎が疲れて眠ってしまったらいはちゃんをおぶっていた。

 風太郎も防波堤に腰掛け、らいはちゃんを一度下ろして膝に寝かせる。

 起きないところを見ると相当楽しんだみたいだ。

 

「らいはちゃん、楽しそうだったな」

「あぁ」

「上杉君も楽しそうで良かったよ」

「え」

 

 松井の言葉に風太郎は驚いた様子。そして確認するように松井にもう一度聞く。

 

「俺、楽しそうだったか?」

「うん。そう見えたけど違った?」

 

 この数年、クラスの連中と馴染んでなかった風太郎を見てきた俺も楽しんでいるようには見えた。

 本人は自分が楽しんでいたことすらわからなかったみたいだけどな。

 

「おーい、花火の準備できたみたいだけど」

 

 呼びにきた武田が来た方向にはすでにクラスの連中がまた集合している。

 

「いや、俺は帰ることにする。らいはも疲れちまったしな。皆によろしく伝えといてくれ」

「……意外だね。上杉君がクラスに馴染もうとするなんて」

 

 クラスの連中を気に掛ける風太郎の言葉に武田は珍しいものを見たような視線を風太郎に向けていた。

 

「そうか? 元からこうだろ」

「それはないだろ」

「馴染んでたら俺の苦労はない」

 

 前田の言葉に俺は強く頷く。

 

「長尾君の頑張りと誰かさん達のおかげだね」

「!」

 

 俺が数年掛けてもどうにも出来なかったことを一年も経たずに変えてしまった誰かさん達はこの場にはいない。

 

「長尾君は花火やっていくかい?」

「あー、悪い。俺もこの辺で帰るわ」

「そうかい。それじゃ、気をつけて」

「またね」

「じゃあな」

 

 花火へと向かう武田達を見送り、俺と風太郎は先に帰ることに。

 

「楽しかったけど、物足りないって顔だな」

「……それは誠司もだろ?」

「まぁな」

 

 俺は今日撮った写真を見返しながらそのいくつもの写真の中に姿のない五人を思い浮かべる。

 

「あいつらいたら。もっと楽しかったんだろうな」

 

 そう言葉にする風太郎を見て俺は本当に変わったんだなと嬉しくなった。

 

「なら、誘えよ。夏休みはまだまだあるんだから」

「誠司」

 

 そう、まだ夏休みは折り返し。

 楽しめる時間は残っている。

 

 

 

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