家庭教師と友人A   作:灯火円

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第3話 花火大会
3ー1


「よし、あとは花火大会のメインを待つだけだな」

 

 九月の終わり日曜、この日は北条さんについて回っていた。

 今日は花火大会があってその様子を撮るためにこうして会場に来ていた。

昼からすでに賑わっているがメインの花火は夜、これからもっと人は増えるだろう。

 

「長尾、お前はここまででいいぞ」

「え、いや、でも」

 

 一番大事な花火はこれからなのに。

 

「学生は学生らしく楽しめ。ほら、勇也の兄妹誘って」

 

 実は数時間前に風太郎からゲーセンへと誘われていた。

 あの風太郎がゲーセン?と疑問に思ったが、どうやら家庭教師のバイト代でらいはちゃんと遊ぶらしくそれで俺もと誘いがきた。

 

「友達いないのか?」

「俺、そんな風に見えます?」

「俺と初めて会った時はそうだったろ」

「う」

 

 俺の黒歴史とも言える時期。

 北条さんとかのおかげでその時期を脱したのもあるけど、今だにそのイメージがあるようだ。

 一応、クラスの中にも遊ぶくらいの友人はいる。

 

「それかお前の好きなように撮ってろ。せっかくなんだしな」

 

 そう言って北条さんは俺のカバンの方へと視線を向ける。

 

「なら、お言葉に甘えて。けど、手伝い必要なら呼んで下さいね」

「子供が大人に気遣うんじゃない」

 

 そうして俺はカメラを取り出し賑わう祭りへと繰り出した。

 

「さて、とりあえず活気づいてるこの感じを」

「誠司くん!」

「ん?」

 

 聞き覚えのある声に呼ばれて振り返るとそこにはらいはちゃんがいた。

となると風太郎も一緒かと思い周囲を見渡すと予想通り風太郎もいたが。

 

「……五月」

「こ、これはですね!」

 

 珍しい組み合わせ。けど、五月は風太郎の家で夕飯食べた事もあるしな。

 実は何だかんだ俺の知らない所で仲良くやってたって事か?

 

「お兄ちゃん、誠司くん。五月さんが四人いる」

「ん?」

 

 らいはちゃんの言葉が指さす方を見るとそこには中野姉妹四人が浴衣姿でそこにいた。

 そしてあちらも俺達に気付いた様子。

 

「なに? 花火大会一緒に行く約束してたのか?」

「違う! てか、お前ら宿題はやったんだろうな?!」

 

 俺の質問にすぐ否定した風太郎は五人に聞くと五人とも視線をそらした。

 

「……なるほど。それじゃ俺が正式に家庭教師になった最初の仕事をしよう」

 

 状況を理解した俺は風太郎と共に中野姉妹を家に戻らせ宿題を片付けさせるのだった。

 

 

「もう花火大会始まっちゃうわよ……なんで家で宿題してんのよ!!」

「週末なのに宿題終わらせてないからだ!」

「宿題片付ければ行けるんだから頑張れ」

 

 次女は文句を言いつつも宿題に取りかかっている。他の姉妹達も今回はやけに素直だ。

 それもかなり真剣。

 普段からこれだと助かるんだが。

 

「終わったわよ」

 

 俺にバンッと宿題のノートを見せつける次女。

 

「やればできるんだから先に終わらせとけよ」

「うるさいわね。あと、これ。この間言ってた。イチジクのケーキの感想」

 

 メモを渡され目を通すとまず見た目の事から書かれ、そして味の感想はかなり細かく書かれていた。

 

「……すごいな。これ、ひとりで全部?」

「なによ? あたしが食べちゃまずかったわけ?」

「んな訳あるか。予想以上にしっかり書いてくれて驚いてるんだ」

 

 正直、感想なんて美味しかったか否かの二択の感想がくると思っていたからこれは嬉しい収穫だ。

 

「これなら店長も喜ぶ。ありがとうな。 二乃」

 

 って、感動のあまり勢いで呼び捨てしてしまった。

 ギャーギャー騒がれるのではと身構える俺だったが。

 

「べ、べつに。あんたにお礼言われる筋合いないわよ。てか、どこの店? あのケーキだけじゃなく他のも美味しかったから教えなさいよ」

 

 予想外の反応だ。

 そういや、中野家の料理担当だったっけ。

初めてここ来た時もクッキー作ってたしやっぱりそっち方面に興味あるのか。

 

「俺のバイト先で良いなら教えるが」

「え、あんたのバイト先なの?」

 

 わっかりやすく嫌な顔すんなよ。

 

「お姉さんもセージ君のバイト先知りたいなー」

 

 二乃の隣に座っていて話しを聞いていた中野さんが首を突っ込んできた。

 また面倒な絡み方してきやがる。

 

「一花、あたしは別にこいつのバイト先じゃなくて」

「はいはい。ケーキ美味しかったもんね」

 

 てか、ケーキ入れてた箱に店名あるんだけどな。

 気付かないならそれでいいけど。

 そんな会話からしばらくして最後のひとりである四葉が宿題を無事に終わらせた。

 

「やっと終わったー!!」

「みんなお疲れさま」

 

 四葉の言葉にらいはちゃんが労いの言葉を掛ける。

 結局、俺達も中野姉妹と花火大会へと行く事になったのはらいはちゃんが行きたそうにしていたから。

 

「花火って何時から?」

「19時から20時まで」

「じゃあ、まだ一時間あるし屋台行こう!」

 

 二乃が三玖に時間を確認する。

中野さんの言うとおりまだあと一時間はあるから屋台を見て回れば丁度良い時間だろう。

 

「はぁ」

「風太郎、花火はこれからだぞ」

 

 そんな賑やかな中野姉妹とらいはちゃんから少し離れた場所で風太郎は疲れた様子。

 

「あいつらが元気すぎるんだ。てか、あいつらにしては宿題すんなり終わらせたよな。そんなに花火が見たいかね」

「季節のイベント楽しむのも大事だぞ」

 

 俺は首に掛けているカメラを構え、賑わう屋台の通りの写真を一枚。

 あとでらいはちゃんの写真も撮ってあげよう。

 

「それ、長尾君のカメラですか?」

「ん?」

 

 カメラを構えたまま振り返るとそこには他の姉妹と同じく浴衣を着て髪もまとめている五月が屋台のものを早速食べていた。

 

「あぁ、自前だよ。今日は丁度持ち歩いててな。そうだ。あれなら姉妹で撮ろうか?」

 

 人を撮るのはあまりしないが、知り合いとなると別だ。

 

「誠司……あいつは誰だ? ただでさえ顔が同じでややこしいのに髪型まで変えられたら」

「五月です!」

「風太郎、その発言はさすがにどうなんだ?」

 

 せめて雰囲気違うな。くらいの言葉を掛けてやれよ。

 

「そうそう。女の子が髪型変えたらとりあえず褒めなきゃ」

 

 三玖とくっついて歩いている中野さんはそう言うと笑顔で俺の方へと来た。

 嫌な予感。

 

「ほら、浴衣は本当に下着を着ないのか。興味ない?」

「それは昔の話だ」

 

 俺は視線を屋台の方に向けながらそう答えた。

 こういう知識は持っているんだよな。

 

「本当にそうかなー?」

 

 そう言って彼女が何かしようとする気配を察した俺はその手を取る。

 

「こういうからかい方はやめろって言ったろ」

「あー、ごめんごめん。ちょっと気分高まっちゃってるのかも。て、ごめん。電話だ」

「一花、もう行くわよ」

「ちょっと電話」

 

 二乃の言葉にそう言って彼女は少し離れていく。

 そして俺や風太郎は流れで中野姉妹と行動する。

 二乃が言うにはお店の屋上を借りて花火を見るとの事。

 さすが金持ち。やる事が違う。

 

「しかし、良い画だ」

 

 前を仲良く歩いている中野姉妹を見て俺は思わずカメラを構える。

 祭りならではの灯りの中、無邪気に笑っている五人に俺は思わずシャッターを切っていた。

 

「あんた達! きちんとついてきてる?!」

「祭りってのもあるが、あの二乃もテンション高いのは意外だな」

 

 てっきり人混みなんて嫌だと言う側かと思っていたが、何なら五人の中で一番気合い入っている印象。

 

「花火はお母さんとの思い出ですから」

「お」

 

 そう俺に教えてくれたのは五月だった。

 

「……今までなんとなくそうなのかなと思ってたんだけどさ。五月達のお母さんって」

「長尾君の考えてる通りです。五年前に亡くなりました」

 

 これまで中野家を訪れて思っていた事があった。

父親は仕事で忙しいとは聞いていたが、母親の話しはほとんど聞かなかった。

父親と同様に仕事熱心で家をあけている可能性も考えていたが、出来ればそうではない方の可能性が当たった。

 

「お母さんは花火が好きで。毎年みんな揃って見に行ってました。だからお母さんがいなくなっても毎年みんな揃って」

「そっか。そりゃ、気分も高まるよな」

 

 大事な人との思い出は心が熱くなる。

 

『大変長らくお待たせいたしました。まもなく開始いたします』

「て、いつの間にかもうそんな時間かよ。まずい、早くこの人混み抜けないと」

「きゃあ!」

 

 花火開始を知らせるアナウンスにその場にいる人達は花火を見ようと一気に動き始める。

 

「五月!」

 

 人混みに飲まれそうになる五月の手を俺は掴み引き寄せる。

 

「大丈夫か?」

「あ、はい」

「一花! 四葉! 三玖! 五月!」

 

 姉妹を探す二乃の声が聞こえる。だが、人混みで姿が見えない。

 

「とりあえず、予約したっていう店に向かおう。五月、場所はどこだ?」

「場所……あ」

「どうした?」

「お店知ってるの。二乃だけです」

「マジか」

 

 そして花火は上がってしまった。

 

「とにかく一度抜けよう」

 

 とりあえず俺達は人混みを抜ける。

 そして落ち着いた所で俺は風太郎に。五月には二乃に連絡を取ってもらう事にした。

 

『誠司!』

「風太郎、お前誰かといるか?」

『俺は二乃と予約した店にいる』

「そうか。他の姉妹は?」

『四葉がらいはと時計台の所にいるって。一花と三玖はわからん』

 

 所在不明が二人、連絡取れればいいが。

 そう思っていると人混みの中、ショートヘアの姿が視界に入った。

 

「五月、二乃に迎えに来てもらうように頼めるか?」

「え、はい」

「必ず五人集めてやるから」

「長尾君」

 

 そして俺はまた人混みの中を行く。

 しかし、こんな事なら連絡先交換しとけば良かったな。

 俺は彼女の姿を見失わないように人混みをかき分けながら彼女へと近づいていく。

 

「中野さん!」

 

 名前を呼ぶが彼女は前を向いて歩き続ける。

 花火があがる音で聞こえないのか?

 くそ、それでも気付いてもらうしかねえ。

 

「中野……一花!!」

「!」

 

 名字よりも名前の方がきっと彼女にとっては耳に馴染んでいるはず。

すると彼女はようやく足を止めた。

その隙に俺は一気に彼女の元へ。

 

「セージ君」

「気付いてくれたか。ほら、店に」

 

 五月の時と同様にはぐれないようにと彼女の手を掴もうとしたが、その前に俺の手が掴まれた。

 

「君、誰?」

 

 俺の手を掴んだのは髭の生えたおっさん。

 そして突然俺が誰かと聞いてくる。

 

「一花ちゃんとどういう関係?」

「は?」

 

 いや、むしろあんたが誰で彼女とどういう関係だよ。

その彼女はというと視線逸らして俺を見ていない。

 

「誠司!」

 

 俺を呼ぶ声に視線をそっちに向けると三玖を背負っている風太郎がいた。

 て、それよりさっきのおっさん。

 俺はもう一度さっきのおっさんが何者なのか聞こうと振り返るがおっさんも彼女もいなかった。

 

「くそ」

「はぁ、はぁ、一花は見つかったのか?」

「悪い、風太郎。これ預かっててくれ」

 

 俺はカメラを風太郎の首に掛ける。

 

「あ?」

「あいつは俺が必ず連れて戻る。風太郎は三玖をそのまま連れて行け」

 

 見た感じ三玖は足を怪我したみたいだしその役目は風太郎が適任だろう。

そしてカメラが無くなり身軽になった俺はまた人混みの中を行く。

 探しながら俺はあのおっさんと彼女の関係について色々と考えを巡らせる。

 成人男性と女子校生の関係って。

 

「いや、いくら何でもそんな奴じゃない」

 

 確かに俺をからかって楽しむ奴だけど、そんな事をするような彼女ではないと俺は自分に言い聞かせながら彼女を探す。

 

「こっち」

「え」

 

 また誰かに手を掴まれたと思えばそれは探していた彼女だった。

そして俺の手を掴んだままどこかへと連れて行く。

 

「おい、どこ行くんだ」

 

 されるがまま連れてこられたのは路地裏。

 どう見ても二乃が予約した店じゃない。

 

「おい、寄り道してる暇なんてないぞ。五人で花火」

 

 今度は俺が彼女の手を取り、連れて行こうとしたが彼女は俺の手を払った。

 

「私はみんなと一緒に花火を見られない」

「……それは。あの髭のおっさんが関係してるのか?」

「ごめん。さっきの事は秘密にしといて。人、待たせてるから」

 

 笑って俺の元から離れようとする彼女。

 何ひとつわからん状況で行かせる訳にいかない。

 

「俺の質問に答えろ!」

「……なんで?」

 

 足を止め振り返った彼女。そこには笑顔はなく、ただ真っ直ぐ俺に視線を向けていた。

そんな彼女に思わず俺は息を飲んだ。

 

「なんでお節介焼いてくれるの? 私たちの家庭教師だから? 家庭教師は勉強見るだけで良いじゃん」

 

 確かにその通りだ。

 別に俺がここまでする理由なんてない。

けど、聞いちまったからな。

 

「お前達にとって花火ってのは母親との思い出なんだってな」

「っ」

「毎年、みんな揃って見るほど大事な事なんだろ? そう思ってるから今日の宿題真面目に終わらせたんだろ?」

「……そうだよ。でも、今はそれよりも大事な事が出来たの。どうしても行かなきゃいけないの」

 

 笑って誤魔化す事も無く真剣な表情を俺に向けて彼女はそう答えた。

 

「あ、やば」

「え」

 

 また突然俺の手を掴んだかと思えばその手はすぐに俺の背中に回った。

 端から見たら抱き合っているように見える形だ。

 

「なにやって」

「お仕事の人がすぐそこにいるの。抜け出してきたから怒られちゃう」

「あのな」

 

 俺はすぐに引き離そうとしたけれどその前に彼女は「ごめん。もう少し」とさっきとは打って変わってか細い声で言う。

俺はとりあえず、その言葉の通りにした。

 

「私たち、端から見たら恋人に見えるのかな」

「そりゃ、何も知らない人から見たら」

「ふふ」

 

 何でそこで笑うんだよ。

 

「本当は友達なのに、悪い事してるみたい」

「……自分で言って照れるなよ」

 

 チラリと視線を彼女へ向けると耳が紅くなっているのがわかる。

 

「もしもし」

「!」

 

 するとあの髭のおっさんがすぐそばで電話をし始める。どうやら仕事の話しのようだがその会話の中に撮影というワードが聞こえた。

 

「撮影って」

 

 俺は目の前の彼女にもう一度視線を向ける。

 

「実はあの人はカメラマンなの。私はそこで働かせてもらってる」

 

 今度は誤魔化す事なく俺にそう言った。

 カメラマン、北条さんの同業者か。

 

「良い画が撮れるように試行錯誤する。今はそれが何より楽しいんだ」

 

 その気持ちを俺はわかってしまう。

 どうすれば目の前にある物をキレイに撮れるのかと角度や光、色々なものを考えてそしてその試行錯誤の末に納得できる一枚が撮れた時の高揚感はたまらない。

 

【すごーい。キラキラしてる! わたし、これすき!! すごいね!! きみ!】

 

 そしてそんな撮った一枚に喜んでくれたらとてつもなく嬉しいんだ。

 

「わかるよ」

 

 思わずそう俺は言葉を漏らしていた。

 

「一花ちゃん! 見つけた!」

「!」

 

 ついに見つかったかと思ったがあのおっさんはこっちに来ることはなく、そして次に姿を見せた時には中野姉妹の誰かの手を取っていた。

 

「三玖?!」

「は?」

 

 さっきと髪型違っててわからんかった。

てか、風太郎は何してやがった。

 

「待ってくれ。そいつは一花じゃない!」

 

 と思っていたらあの二人に続いて風太郎も俺達の前を通り過ぎた。

 

「私と間違えたんだ」

「とにかく追うぞ。三玖は足怪我してるからそっちも心配だ」

 

 何度目になるだろう人混みの中を行くのは。歩きづらいがそれはあっちも同じ。

 隣の彼女が電話をして誤解を解こうとするが気付かない。

 段々と距離が出来てこのままではと思っていると風太郎が三玖の手を掴んで引き寄せた。

 

「君は……なんだ?! この子の何なんだ!?」

「俺はこいつの、こいつらの……パートナーだ。返してもらいたい」

 

 風太郎、やるじゃん。

 

「な、なにを」

「よく見てくれ、こいつは一花じゃない」

 

 風太郎が説明して足止めしてくれている。その間に俺達も風太郎達の元へと駆け寄る。

 

「その顔は見間違いようがない! さぁ早く! うちの大切な若手女優を返しなさい!」

「わかて……じょゆう」

 

 カメラマンと聞いて俺は自分が携わってたりするもんだからすっかり勘違いをしていた。

カメラマンはカメラマンでも映像の方のカメラマン。そして良い画が撮れるようにというのは撮られる側としての意味。

 秘密にしてほしいと言ってたくらいだ。姉妹には内緒だったのだろう。彼女を見ると先ほどと同じように頬を紅くしていた。

 

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