家庭教師と友人A   作:灯火円

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18-2

「ね、誠司のクラスって何やるの?」

 

 朝食の準備をしていると母さんがコーヒーを淹れながら聞いてきた。

 

「まだ決まってない。そろそろ決めなきゃいけないと間に合わないんだけど」

「三年は屋台だっけ? 仕入れとかあるもんね」

 

 トーストが出来たタイミングで出来た目玉焼きを皿に盛る。

 そして母さんと一緒に手を合わせて朝食を取る。

 

「五つ子ちゃん達どう?」

「どうって一花は順調に撮影進んでるみたい。あと四人は変わらず。あー、そういや五月は塾の方で忙しそうだな」

 

 最近は放課後のほとんどは学園祭であまり勉強会は開けずにいる。

 五月はバイト先の塾で放課後はすぐにそっちに行っていてあんま話せてないかもな。

 

「そっか……」

「なんか、気になることあんの?」

 

 興味本位というにはあまりにも真剣な顔して何か考え込んでいる母さんが気になった。

 

「うーん、ちょっとね。ま、大人の気遣いってやつ」

「なんだそれ」

「とにかく、少し気をつけて見てあげなさいよ」

「つい最近、一花にも似たような事言われた」

「一花ちゃん、お姉ちゃんしてるね」

 

 そんな少し気になる会話を母さんとしたが、学校生活でそんなやり取りがあった事はすぐ忘れた。

 

 

「パンケーキでいいじゃん! このままじゃ屋台のメニュー決まらないよ!」

「たこ焼きだって! 決まんねーのはお前ら女子が頑固なせいだ!」

 

 一花には楽しみにしておけと言ってたが、現状クラスは二分している状況。

 それはたこ焼きをやるかパンケーキをやるか意見が真っ二つに。そして男子と女子の戦いにもなっていた。

 

「ふわっふわなパンケーキ食べたことない? 皆大好きなんだよ。三玖ちゃんも言ってあげて!」

「え、えっと」

「たこ焼きが嫌いな日本人なんて存在しねーよ! ね、二乃さん!」

「まぁ……」

 

 そしてその両陣営の大将に三玖と二乃が何故かなっている。

 

「二乃ちゃんパンケーキ好きって言ってたじゃん」

「なんでそっちの味方するの?」

「え、ウソですよね? 二乃さん?」

 

 なんか矛先が二乃に向けられ始めたな。

 風太郎と四葉も勢いに割り込めなさそうだ。

 

「パンケーキか。うちのバイト先も人気なんだよな」

 

 店長が映え?が大事だとかメニューに追加したら見事にハマって今じゃ上位のメニューになってる。

 

「ほら、長尾君もこう言っているじゃん!」

「長尾! てめぇ! 裏切るのか!」

 

 そんなデカい声で言ったつもりはなかったんだが。てか、裏切るって。

 

「でも、屋台だとたこ焼きは定番だよね」

「明里?! あいつらの味方するわけ?」

「味方っていうか。事実を言っただけなんだけど」

「毛利さんはやっぱわかってるな!」

「ちょ、毛利さん」

 

 俺に向けられた両陣営の意識が毛利さんに向けられる。

 彼女は比較的に空気を読める人間だ。自分の発言に周りがどんな反応するかなんてわかりきっているはずなのに。

 

「悪役は多い方がいいでしょ?」

 

 そう言ってニヤリと俺の方を見る毛利さん。

 いや、訂正する。

 空気を読めすぎているんだ。

 てか、俺は悪役のつもりじゃないんだけど。

 

「あーもう! 私が最初に提案したんだもの最後まで責任もつわ。それと食べるのと作るのでは話は別! そのふわっふわなスフレパンケーキ私だってたまに失敗するんだから!」

 

 すると二乃が再び声を荒げる。

 そういや、誰かの手助けがなくても自分自身で切り込んでいくやつだったな。

 しかし、これ決まるか?

 どちらも折れる気配なくてこのまま解決策出なさそうだしな。

 

「あー、もうさ。二つやれば?」

「誠司?」

「先生、クラスの出店ってひとつしかダメなんですか?」

 

 ほぼ学級長に丸投げで椅子に座って腕組んでいる担任にダメ元で俺は聞いてみる。

 

「基本的にはそうだな」

「つまり、禁止って訳でもないって事で?」

「普通は二つやろうなんて考えないだろうからな」

 

 そりゃそうだ。

 二つやるってことは手間も倍って事だしな。

 正直、クラスが分断しているこの状況のまま学園祭を迎えるのはあれだが、だからといってこのまま決まらず準備がギリギリになるのはもっと避けたい。

 俺は風太郎に視線を送る。

 

「確かに注意事項には出店数の事は何も触れていませんね」

 

 四葉は各クラスに配られている学園祭の注意事項をまとめた紙に目を通して確認する。

 

「なら、最終手段だな。だが、ギリギリまで協議は続ける」

 

 そう風太郎は言ったが、結局この日も決まらず。

 

 

「これは両方やりそうだね」

「毛利さんはどっちかに肩入れしてないんだな」

 

 票が動くことなかった黒板を眺めながら帰る準備をしている毛利さん。

 さっきはたこ焼き側の発言はしたけれど、彼女自身たこ焼きにこだわっているようには見えない。

 

「それは長尾君もでしょ? 私としてはみんなで楽しくやれたらいいんだけどね。海の時はあんなに仲良くやってたのに」

「だな」

 

 俺はチラリとある方向に視線を向ける。

 数人の女子がコソコソと何か話している。普段なら気にすることではないが、その会話に気になる名前が出ていてどうしても無視が出来ない。

 

「あんまり首突っ込むと余計にこじれたりするよ? 私も気に掛けておくから」

「てか、さっきので毛利さんも言われる側になったんじゃ」

「私、結構立ち回りうまいから」

 

 その表情は笑っているが、少し恐いような表情。見てはいけない毛利さんを見た気がする。

 そして帰ろうと昇降口に来ると変な声が聞こえた。

 

 

「うううううう」

 

 猫って訳じゃないよな?

 

「所詮私はお母さんの真似事。学校の先生なんて夢のまた夢なんです!」

「お、落ち着きなさい!」

「なんだ。五月と二乃か」

 

 どうやらうめき声は五月からだった様子。

 するとニ乃の視線がこちらに向いた。

 いつもなら邪険するような視線を向けるのに今回は違う。

 

「ナイスタイミングよ!」

「は?」

 

 そして俺と五月は二乃に引っ張られる形で中庭に連れてこられると一枚の用紙を俺に渡した。

 

 

「D判定」

「……すみません」

 

 着いて早々、五月から渡された紙は入試判定の結果。

 

「元々五月はレベル高いところ受験する予定なんだ。この結果になっても仕方ないだろ」

 

 ちなみに二乃はB判定だったらしい。

 それは二乃自身がしっかり自分の実力範囲で選んだからだ。

 一方、五月は他の姉妹達に比べて上の大学に挑戦している。この判定も俺としては想定内ではあるんだけど。

 

「先生は一度親と相談した方が良いと。でも、そんなこと」

「してくれる親でもないか」

「二乃」

「い、いえ! そういう意味でなく……これ以上、お父さんに心配をかけたくないんです」

「は? 心配? あの人がいつ……」

 

 先生のこれまでの態度を見てればそう受け取られても仕方ないけど。

 

「あのな」

「私たちがここまで成長できたのはお父さんのおかげ。私もそう思えるようになってきました」

 

 俺が口出す前に五月からそんな言葉が出た。

 俺は口を閉じ、自販機で飲み物を買ってしばらく静観することにした。

 

「あの花は間違いなくお父さんです。直接何かしてもらったことは少ないですが、ずっと気に掛けてくれてたんだと思いますよ」

「……そんなわけ」

 

 あの人、不器用だからな。

 俺もそれで誤解して色々とぶちまけたけど、結構な親バカだというのは今ならわかる。

 二乃も思う所がある感じだし、俺からは何も言わずにいよう。

 

「でも、大人の意見は大事だと思うぞ?」

「はい。なので下田さん、塾でお世話になってる先生に相談してみます」

「ま、あの人ならこの手の相談たくさんされてるだろうからな」

 

 塾講師なんて教師以上に進路の事で生徒達に相談されてるだろうし、あの人、口調はあれだが信頼は出来そうな感じだったからな。

 

「それに近日、有名な講師の方による特別教室が開かれるらしいのです」

「何それ怪しいわ」

「とんでもない授業料を取られるんじゃ。てか、それなら俺がもっと五月との勉強時間を」

「長尾君は一花の事もあるじゃないですか。ただでさえ、一花の為に時間を割いているのに」

 

 これまでは五つ子をまとめて見ることが出来たけど、今は完全に一花には個別に時間を取ってはいる。

 

「またそんな」

「本当にダメそうならお願いしますから。今は自分の力で頑張りますから」

「絶対だぞ?」

「はい」

 

 その言葉を信じて俺は五月がやりたいようにやらせる事にした。

 

 

 

 

「一花の言う通りだった」

「五月ちゃんが受ける大学が大学だもんね」

「俺の事を気にしてまたあいつ頼らねえし。本当にダメなら頼るって言葉を信じるけどさ」

 

 一花との勉強会に今日もホテルに来ていた。

 ちなみにあの告白で最初はぎこちない空気があったが、そこはいつまでも引っ張っていては勉強にも身が入らないとお互い気持ちを切り替えてどうにかいつもと変わらない状態へとなった。

 そして休憩がてらに学校の話をした際に五月の話題へ。

 あの時は五月の言葉に頷きはしたが、実際のところ俺は不満を抱いている。

 

「有名な講師かなんか知らんけど、そんな数回で良くなるなら苦労しないっての」

「ふてくされちゃって。そろそろ目の前の生徒に集中してほしいな? 先生」

 

 俺の腕をペンで突き、首を傾げて俺を見る一花。

 

「っ」

 

 告白されたのもあってかこれまであまり気にしてなかったのに照れてしまう自分がいた。

 

「ふふ、意識してくれてる」

 

 そしてそんな俺の反応に一花も気付いて、より顔を近づかせようとするが俺はスッと距離を取り視線をそらす。

 

「加減してくれよ」

「ごめんごめん」

 

 それ以上、からかう事はせず一花は距離を元に戻し引いてくれた。

 本当は一花もすぐに答えを聞きたいだろうに俺の為にしっかり距離を測ってくれているのがわかる。

 

「助かる。それとすまん。一花との時間に愚痴なんて」

 

 今の生徒は一花だってのに。

 どうも一花と一緒だと気が緩むというか情けない所を見せてしまう。

 

「いいよ。セージ君は私のお願い通り、気に掛けてくれているわけだし」

 

 そういや、母さんも少し気をつけて見てろって言ってたな。

 

「一花、変な事とかなかったか?」

 

 何かあるとしたら話題の女優の一花だと思うけど。

 

「え? 変な事ってうーん、別にないけど」

「なら、良いんだ。よし、今日の課題分だ」

 

 そもそも社長さんがめちゃくちゃ気にしてくれているからその辺は大丈夫だとは思うからな。

 だとしたら、母さんは何が気になってるんだ?

 

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