学園祭まで着実に日は経過して準備も進んでいる。
しかし、未だに俺らのクラスは決まっていない。
「これだとマジで二つ出す事になるな」
「一応、実行委員には許可はもらってる。だがな」
廊下を出ると他のクラスはすでに学園祭準備で和気藹々とやっている。
俺らのクラスも早くこの空気になりたいもんだが。
「上杉君、ちょっといい?」
「ん?」
風太郎を呼び止めたのはコソコソと何かと話しているあの女子達だ。
「俺も居ても良いのか?」
「長尾君はパンケーキ派でしょ」
別にどっち側って訳じゃないんだが、とりあえず同行は許されたから俺も風太郎と共に階段の踊り場へと来た。
用事は風太郎だから俺は階段に座って女子達の言い分を聞く。
彼女達の話は予想通りというか。
「二乃ちゃんがあっち側にいるのおかしいと思うんだ。女子はこっちだし」
「毛利さんもたこ焼き側みたいだけど?」
なんで二乃だけ言われるんだよと俺は反論する。
「明里は……たこ焼きが好きなんでしょ」
「なんだそれ。だったら二乃だって言ってたろ。自分が最初に言い出したからって」
あいつがたこ焼き側に肩入れしている理由はもう話している。
なのにそれに納得していない様子。
「それは言い訳で別の目的があるかもしれないでしょ」
「はぁ?」
たこ焼き側につく別の目的ってなんだよ。
俺は考えを巡らせるが思いつかない。
「別の目的ってなんだよ?」
俺は女子達にそれが何なのか聞く。
「それは……特定の男子の為とか」
「うん。男子に媚売るため」
「じゃなきゃ、あんな頑なに男子の味方するのおかしいよ。誰か好きな人がいるんじゃ」
あー、こいつらわかってねえんだな。
二乃が結構自分の発言を気にする事に。
俺はこれまで散々見てきたから二乃の言葉がありのままだと信じられるが、彼女達はそうではない。
「お前らの意見はよくわかった」
それまで黙って聞いていた風太郎がようやく口を開く。
「女子なのに男子組の中にいるのはおかしい。あんな媚を売って男子の誰かを狙ってると」
誰かを狙ってるね。
その誰かさんを知っている風太郎はどんな気持ちでいるんだか。
「ん? げ」
ふと、視線を上に向けるとその当人である二乃、そして四葉がいた。
このまま乱入してくると面倒だぞ。
「そ、そうだよ。もし、その相手が祐輔だったら」
祐輔って武田か?
あいつあんなんだけど、やっぱモテるのか。
「二乃ちゃんが相手なんて私に勝ち目ないよ」
女子から見ても二乃ってやっぱそう見えるのか。
いや、二乃に限らず中野姉妹は全員そうかもな。
しかし、完全に誤解な訳だしどうするかな。
「勘違いだ」
「お」
「え」
俺が思案している間に風太郎がハッキリと事実を告げた。
「どうして?」
「二乃の意中の相手はたこ焼き派にいない。それだけはわかってる。安心してくれ」
「信じられない! なんで上杉君にそんなことわかるの!?」
そりゃ、二乃の好意を向けられてる張本人だもんな。
それも告白済みという。
「学級長は中立の立場のため、どちらにも投票していないんだ」
「はぁ?」
「意味わからない!」
「関係ないじゃん!」
彼女達からしたら風太郎が中立派である事とは無関係だと思うからな。
仕方ない反応ではある。
「二乃は俺をすっ……好きだからな」
「風太郎、お前」
それ、言って良いのかよ。
俺はちらりと二乃の反応を見るとさすがに驚いている様子。だけど、その口元は笑みへと変わった。
「う、上杉君……妄想はやめよう」
「その設定は二乃ちゃんがかわいそうだよ」
風太郎に向けられる視線は哀れみのある視線。
二乃の気持ちを知られずにすみそうだが、これはこれで風太郎が不憫だ。
「ち、違う。本当に」
「まだ長尾君が好きだって方が説得力あるよ」
「そん!」
「しーっ! 気付かれちゃうよ」
上では二乃を押さえ込んでいる四葉。
その対応はナイスだ。
「それこそ誰の妄想だよ」
しかし、結局たこ焼きかパンケーキか。その決着はつかず。
俺達のクラスは二つ出店する事になったのだが。
「はい、こっちがたこ焼きのおおよその仕入れ数。たこ焼きは去年とかのデータあるから予測できるんだけどパンケーキの方はちょと読めないから初日の反応次第では追加もあるかも」
「ありがとう。毛利さん」
放課後、俺は教室で毛利さんから受け取ったメモを参考に計算する。
「パンケーキとたこ焼きの原価諸々考えると最低でもこの値段だな。ま、学園祭だから利益なんて気にしないが原価割りたくはない」
「長尾君、相変わらず面倒見良いよね。一応パンケーキ派でしょ」
「そう言うなら毛利さんもだろ」
何故、俺が両陣営の売価を計算しているか。
たこ焼きとパンケーキ、どちらもやろうと言い出した訳で他に丸投げというのはと思い、両陣営の運営をする事に。
学級長の二人は二人で学級長の仕事で忙しいみたいだし。
ただ、両陣営から小言は少し言われたがな。
「言ったでしょ。私は上手く立ち回りが出来るって」
「はいはい。それより毛利さんはここまでで良いぞ。あと少しで終わるからさ。それに彼氏が待ってる」
俺は後ろの扉にこちらの様子を伺う吉川の方を見る。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
「青春してるな」
「長尾君も青春しなよ」
「……十分してるよ」
吉川の元に駆け寄る毛利さんを見送る。
青春というのは色々な種類があるが。
「まさか俺もそういうものと縁があるなんてな」
いや、よくよく考えたらだいぶ前からそうだったのかもしれない。
「俺も風太郎のこと言えないのかもな」
思い返してみればと今になっていくつか心当たりが。
「いや、それよりも今はこいつだな」
目の前のたこ焼きとパンケーキの運営の計画書を仕上げなければ。
「てか、もしかして結構忙しいんじゃ」
じっくり一花の事を考えたい所だが、学園祭の準備でそれどころじゃないんじゃないかと気付く。
「いや、準備さえ終われば。うしっ」
とにかく目の前のこいつを終わらせるのが今考えなきゃいけない事。
俺は紙にペンを走らせる。
「だー! よし! あとは風太郎か四葉に渡せば完了」
俺は出来上がった計画書を渡す為に風太郎か四葉を探す。どこにいるか連絡入れたが、二人共返事なし。
風太郎のやつはまた携帯を携帯していない可能性があるから期待してなかったが、四葉からも返ってこないとは。
「中野さんなら演劇部の所にいるの見たよ」
「そうか。ありがとう」
あちこち動いているからか四葉の居所が先にわかり、俺は演劇部へと向かう。
「しかし、あいつまた色々と手伝ってるな」
少しは落ち着いた四葉の助っ人癖は学園祭でまた復活している様子。
「すんませーん。中野四葉がここに」
「女王エメラルドは中野さんにお願いするとして。その配下である腹心アクアをどうするか」
「いっそ、アクアのシーンをばっさり無くすか?」
「けど、あそこは勇者とのアクションが一番気合い入ってる部分でもありますよね。それを無くすとなると」
「だけど、代役探すのも大変だぞ。セリフはどうにか出来ても殺陣の方は運動神経はもちろんだけど記憶力も必要だし」
「運動が出来て、記憶力がいい人」
扉を開けるとなにやら深刻な話をしている最中。そんな中で四葉も一緒になって頭悩ませている様子。
「あー、取り込み中で悪いんだが四葉」
「あ、長尾さん。どうし……記憶力がいい。運動も出来る……長尾さん!」
俺に気付いた四葉。何か閃いた様子で俺の方へとやってくる。
なんか嫌な予感。
「あの、代役として出てくれませんか? 演劇部の人達、稽古中に二人怪我して困っていて」
その怪我したと思われる男女が椅子に座って俺の方を見ている。
他の演劇部員からの視線が俺に集中している。
「ちょ、待て。俺は演劇経験なんて」
「私も演劇経験はありませんから大丈夫です!」
「説得力ねえよ! てか、学級長でただでさえ忙しいのに代役まで引き受けたのかよ」
「スケジュール的にはいけますから」
「あのなぁ」
スケジュールとかの問題じゃなくて四葉自身の体を心配してるってのに。
「長尾さんに迷惑掛けてしまうのはすみません。でも、学園祭を楽しいものにしたくて」
「それに俺の代役は初日だけで良いんだ。初日までは動かすなって言われてて」
本来の演者だと思われる怪我した男子生徒が頭を下げてきた。
「……はぁ。素人なんで下手くそでも大目に見てくれよ」
「長尾さん!」
一緒なら四葉が無茶してないか確認も出来るからな。
「助かるわ。演劇部部長としてお礼を言わせてもらうわ。ありがとう。早速で悪いのだけど打ち合わせしましょう」
部長さんに俺と四葉は台本を渡され、そのまま演劇部の打ち合わせに参加する事になった。
「台詞はだいぶ削ってもらったけど、素人にガッツリ殺陣やらせるって」
演劇部の打ち合わせが終わった頃には陽が暮れていた。
それでも学園祭の為にまだまだ残っている生徒達は多い。
「長尾さんがやれてしまう人だとわかってしまいましたからね」
試しにと殺陣のシーンをやってみたら俺自身も思っていた以上に出来てしまい、それを見てこのままいけると判断が降りてしまった。
それでも負担を減らす為にセリフは一言二言だけとなったのは救いだ。
「ん?」
ポケットに入れておいたスマホが震えたかと思って画面を見ると意外な人からの電話だった。
「悪い」
「いえいえ、あ、私はまだやる事があるのでこれで」
四葉はそう言って次の場所へと向かって行く。
「あんま無理すんなよ!」
「体力だけが自慢ですから」
そんな四葉を見送り、電話に出る。
そして俺はそのままとある場所へと向かう事になった。
「悪いね。呼び出して」
「いえ、お久しぶりです。下田さん」
俺は下田さんに呼び出されていた。
「俺を呼び出すって事はまた父さんや母さんの事で?」
「いや、お嬢ちゃん達の事でな」
以前、父さんの話をした店で同じようにコーヒーを飲みながら呼び出した理由を聞く。
あの時とは違って思い出話に花を咲かせるような空気じゃない。
なんだ?
母さんと言い下田さんも中野姉妹をいつも以上に気に掛けている。
「私の目が届くのは塾にいる間だからな。君の方がお嬢ちゃん達を見る時間が長い。しばらくお嬢ちゃん達を気に掛けてほしい」
「……母さんも同じ事を言ってました」
「さすが、凛。手回しが早いな」
「何なんですか? あなたも母さんも急に」
中野姉妹を気に掛けろ。
二人してそんな事を言ってくる理由がわからない。
最初は女優で話題になった一花の影響を気にしてかと思ったけど、それとは違う気がする。
「その様子だとお母ちゃんからは理由は聞いてないか」
「大人の気遣いとか言ってました」
その大人の気遣いが何かが見えてこない。
母さんだけから言われたなら俺もここまで踏み込んで聞く事はしなかった。
でも、下田さんまでも彼女達を気に掛けろ。
当人達の知らないところで何かが起きている。もしくは起きようとしているのかもしれない。
「本当なら息子であるあんたを巻き込みたくないだろうな。本当にこれは大人達の事情だ」
「ここまで来て話さないつもりですか?」
俺は年上であるけど下田さんを睨み付ける。
「そういう訳にもいかないだろ。だけど、お嬢ちゃん達には言わないでくれ。出来れば知らないまま何も起きずに過ぎる事を私たちは願ってるんだ」
私たち。
母さんと下田さんだけって感じでもなさそうだな。
「わかりました。けど、状況によっては」
「わかってる。時と場合によっちゃ、あの子達に話しても構わない」
「それじゃ、聞かせて下さい。あいつらの周りで何が起ころうとしているんです?」
そして俺は下田さんから聞かされる。
彼女達の父親がここに戻ってきている事を。