銀パイ伝 〜銀河パイロット伝説〜   作:koshikoshikoshi

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01 英雄の条件

 

 

 宇宙歴797年5月 自由惑星同盟領ドーリア星域。

 

 この年の3月に首都ハイネンセンで蜂起、クーデターを引き起こした救国軍事会議は、政権奪取からわずか二ヶ月間で早くも鎮圧の危機に直面していた。クーデター軍唯一の宇宙戦力である第11艦隊が、ヤン・ウェンリー提督率いる第13艦隊の前に敗北したのである。

 

 ルグランジュ提督率いる第11艦隊は、魔術師の異名をもったヤンの戦法の前に翻弄され、戦力を完全に分断された。そして、全ての局面で圧倒的な数的不利の状況に追い込まれたあげく、戦力をひとつづつ個別に包囲撃滅され、最終的には艦隊戦力がほぼ全滅という完膚なきまでの敗北である。

 

 勝利に沸くヤン艦隊の中、しかし素直に喜んではいない者がわずかばかりいた。

 

 その筆頭は、艦隊司令官であるヤン・ウェンリー提督。目の前の会戦には勝利をおさめたものの、いまだ首都にはクーデター軍が健在である。それだけではない。内戦の終わった後の疲弊した同盟軍の立て直しと、その後に間違いなく勃発する銀河帝国との人類を二分した戦い。同盟軍の未来について考えはじめると、本来味方である第11艦隊を壊滅に追い込んだことを素直に喜ぶ気にはなれない。彼は単なる軍人でありたいと常に願っているが、いつのまにかそれだけでは済まない立場になっていたのだ。

 

 

 

 そしてもうひとり。旗艦ヒューベリオンに所属する艦載機の空戦隊長、オリビエ・ポプラン少佐も渋い表情だ。彼は、戦闘後のパイロット控え室で、同僚に対して不満を訴えていた。

 

「我らが司令官殿は、あいかわらずそつのない戦いをするもんだ。おかげで、我々スパルタニアンのパイロットは、ほとんど活躍する場面がないよなぁ」

 

 ちびりちびりとアルコールを煽りながら、同僚のイワン・コーネフ少佐にむけて愚痴をたれる。

 

「仲間も部下も死ぬことが無く、戦争に勝てるのなら、それが一番だろう」

 

 ペンを片手にクロスワードパズルを解きながら、コーネフはつまらなそうに応える。

 

 端から聞いていれば、彼らが駆る単座式小型戦闘艇スパルタニアンがまるで戦闘に参加しなかったかのような緊張感のない会話に聞こえるかもしれない。しかし実際には、彼らの指揮するスパルタニアンの部隊は艦隊戦終了まで実に数十回の出撃をこなしており、永遠に帰ってこないパイロットも少なくはない。なんとか帰還したパイロットの多くも、戦闘終了と同時に身も心もへとへとの状態でタンクベッドにとびこんでいた。

 

 もちろんこのふたりも例外ではない。指揮官として激戦の中に身を投じ、肉体的にも精神的にも激しく消耗している。だが、同盟軍の中でも屈指の撃墜王として知られる彼らは、やせ我慢だと自覚したうえで、不遜な態度をみせるだけの精神的な余裕があった。

 

「確かにその通りなんだが。だがな、艦隊の絶体絶命のピンチを、われわれパイロットの力で局面をひっくりかえす、てなことも、たまにはあってもいいんじゃないのか」

 

「俺たちには俺たちの役割がある。だいたい、お前さんのそのいいかただと、まず味方の艦隊がピンチにならなきゃならん。ヤン提督がそんな状況に追い込まれるとも思えんがね」

 

 第11艦隊との戦いに限れば、極端に言ってしまえば、戦いが始まる前から勝負は決まっていた。敵艦隊主力の分断に成功した時点で、ヤン艦隊の勝利は確定ずみだったのだ。開戦後の艦隊の砲撃戦やスパルタニアン同士の空中戦は、あらかじめ決められたゴールに向けての儀式のようなものでしかない。

 

 ポプランは、祖父の代から同盟軍に仕えるプロの軍人である。ゆえに、自分の能力と果たすべき役割を正確に理解している。理解しているのだが、それでも巨大な艦隊の中のひとつの駒として働くだけでは、やはり不満が無いと言えば嘘になる。自らが駆るスパルタニアンで戦局を一気に変えるほどの戦果をあげてみたいと、夢を見ることもある。パイロットの性かもしれない。

 

「なぁ、別に提督や政治家や皇帝だけが、銀河の歴史をつくっているわけじゃない。『パイロット』が銀河の英雄になってもよいとは思わないか?」

 

 コーネフは顔をあげ、ポプランの顔をまじまじと見た。

 

「……現代の艦隊戦の戦術じゃ、不可能だろう」

 

「たとえば、……あくまでも、たとえばの話だが。そうだな、こんなのならどうだ?」

 

 ポプランはいったん話を区切ると、わざとらしく周りを見渡し、小声で続ける。

 

「スパルタニアンよりも航続距離が長く、戦艦の装甲をぶち破れる強力な主砲をたった一門だけでもいいから装備した戦闘艇があったとする。これにエースが乗り込み、単機で敵艦隊に飛び込んで、旗艦の敵指揮官のみを狙うとか、……どうかな?」

 

 ポプランは、いつになく真剣な表情だ。

 

「……たとえそんな戦闘艇があったとしても、敵の大艦隊の懐まで飛び込んで、旗艦の側までたどり着けるパイロットがいるとは思えんがね。敵の砲撃をすべて先読みできるパイロットでもいなけりゃ不可能だ」

 

 コーネフはあきれた顔で応える。そんな敵の心を読めてしまうパイロットなど、もはや人類とは言えまい。「ニュータイプ」はアニメの中にしかいないのだ。

 

 だが、ポプランは引き下がらなかった。

 

「逆に言えば、そんなパイロットがいれば、英雄になれるってことだよな。しかも、それは男とは限らないわけだ……」

 

 ポプランは、ひとりで勝手に納得すると、何度も何度もうなずいた。

 

 

 




 
 銀河英雄伝説のIFものです。妙な設定になりますが、勘弁しておつきあいいただけると幸いです。よろしくお願いします。
 


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