銀パイ伝 〜銀河パイロット伝説〜 作:koshikoshikoshi
ラインハルトとの決戦に向け出立したヤン艦隊。旗艦ヒューベリオンのブリッジでヤンが星系地図をみながらつぶやいた。
「ここだな。……このあたりでローエングラム公をとめないと、あとがない」
同じ頃、帝国軍総旗艦ブリュンヒルトのブリッジ。星系地図を前にした帝国軍参謀総長が、主君に向け意見を具申していた。
「おそらく、ここあたりで敵と接触することになりましょうな」
オーベルシュタインが指し示したのはバーミリオン星域。ヤンが指摘した星域と同じであった。そして、ラインハルトもそれに同意する。
無言の合意のもと、両軍は決戦場に侵入した。
敵が近くにいるのは間違いない。しかし、いまだ索敵部隊から敵発見の報はない。手持ち無沙汰のヤンは、ブリッジで退屈そうにしているシェーンコップに声をかけた。
「……勝てると思うかい、シェーンコップ中将」
深刻な表情の者ばかりの幕僚の中、シェーンコップだけが唯一楽しげな顔をしている。その真意が気になったのだ。
「あなたに勝つ気があればね。……と心配していたのですが、本気で勝つ気がありそうなので安心しているところです」
「……どういうことだい?」
「聞きたいのはこちらですな。つい最近まで、あなたは軍人としての義務感だけで戦っていた。しかし、最終的にはあの金髪の坊やに負けても仕方が無い、……いや、負けてもいいとさえ思っていた。違いますか?」
無言。ヤンは否定できない。
もちろん、自分が死んでもいいと思っているわけではなく、破滅願望があるわけでもない。ただ、彼はユリアンの世代のため目の前の戦争を終わらせるのが自分にとって最優先の使命だと任じていた。平和になり、民主主義さえ滅びないのならば、最終的な戦争の勝ち負けはそれほど問題ではないとさえ思っていた。クーデター後、同盟軍が弱体化し勝ち目がほぼ皆無になってからは、ラインハルトに対していかに負ければ民主主義を残せるのか……、その負け方を模索していたと言ってもいい。
「なのになぜ、いまさら本気で勝ちたいと考え始めたんです? ご自分の倫理観を否定するような作戦を立案してまで」
『自分の倫理観を否定するような作戦』というのはシェーンコップらしい大げさな言い草だが、敵司令官ひとりを狙うため少女パイロットを敵艦隊に突入させるなどという作戦は、たしかに普段のヤンの倫理観からはかけ離れているとヤン自身も自覚していることだ。
しばらく考えた後、ヤンはゆっくりと口を開いた。
「自分でもよくわからないんだが、……私は最低最悪の汚泥にまみれた民主主義でも最良の専制政治に勝ると思っている。だから、ヨブ・トリューニヒト氏のためにラインハルト・フォン・ローエングラム公と戦うのさ。誓って言うが、これはウソじゃない」
「建前というのは重要です。この狂った世の中では、それがないとまともな人間は正気を保つことすら難しい」
「……とはいえ、そんな建前のために自分や部下の命を危険に晒すことを考えると、正直なところ気が滅入ることもある。ましてや相手はあの比類のない戦争の天才だ。正面から同数で戦ったらまず勝算はない」
「あなただってそう悪くない。最近だけでも帝国軍の名だたる用兵巧者を三人、立て続けに手玉にとったではありませんか」
「あれは運が良かったのさ。あれだけじゃない、これまでの勝利はすべてそうだ。……そりゃ局面ごとに自分の権限の中で最善をつくしてきたが、最初から勝利にむけて満足のいく戦略を構築できたことなど一度もなかったんだ。だが、ここにきて、勝ち筋がみえた。……はっきりと、みえてしまったんだ」
「……ほぉ」
シェーンコップが、わずかにうなる。
いかに昼寝が大好きな人間でも、見えてしまった勝ち筋を無視するわけにはいかない、ということか。
「実は帝国で内戦が始まった頃、私は想像したことがある。自分ならば、内戦に介入し同盟に親和的な政権を帝国内に樹立できるのではないか、とね。もちろんただの思い上がりなんだが、でも今となってはちょっと後悔することもある。あの時、もっと本気で上手くやれば、現在ここまでひどい状況に陥ることは無かったんじゃないかと」
近くにいたメルカッツも、興味深げな顔でヤンを見つめる。
「今回、……イゼルローン要塞を放棄する直前くらいかな。うっすらと見え始めた、あの戦争の天才を相手に運に頼らなくても勝てそうな勝ち筋。それ以降の私は、頭の中で組み立てた詰みが読み切れる盤面をいかに現実にお膳立てするか、そればかりに注力してきたような気がする。そして、それは成功しつつある。有能で働き者の部下達のおかげでね」
シェーンコップは苦笑するしかない。
これは、ヤン・ウェンリーという人間による懺悔の告白なのか? ヤンは、戦争をしているのではない。彼がやっているのは、……意地の悪い言い方をするなら、銀河を盤面としたチェスゲーム、あるいは兵を駒とした正解のある詰め将棋を解くことに熱中していると、みずから告白しているのだ。
ヤンはベレー帽をとる。そして恥ずかしそうに頭をかく。
「もちろん、戦争は相手のあることだし、予想もしなかったことが必ず起きる。結果がどうなるのかはわからない。だけど、部下達のおかげでここまできたのに、司令官である私だけが『勝てなくても仕方が無い』なんてニヒリズムに浸っているのは、……さすがに大人としてどうかと思うんだ」
ふむ。やる気が無いのに超有能。勝つ気が無いのに決して負けない。なにからなにまで矛盾の塊であった人が、ここにきてついに勝負師の顔になったと思ったら、自分自身でそんな自分を恥じている。後悔すらしている。……はたしてこれは進歩なのか退化なのかは難しいところだが、勝負を傍から眺めている立場の自分としては、退屈しないですみそうだ。
あきらかに、喋りすぎたと後悔しているヤン。傍目からわかるほど落ち込んでいる司令官の肩を、シェーンコップが優しく叩く。
「やはりあなたは矛盾のかたまりだ。だが、そんなあなただからこそ、我々は駒としてついていくんです。……この詰め将棋、しっかりと勝ちきりましょう」
「頼りない太陽だな」
戦闘は、ヤン艦隊の前衛をまかされたアッテンボロー中将が恒星に毒づいた直後にはじまった。
ヤン艦隊が、ラインハルトが構築した防御網にくらいつく。文字通りの激戦。しかし、それはありきたりな開戦風景だった。参加している当事者にとっても、常勝とか不敗とかの形容詞が似つかわしくない戦闘だと思われた。
「完全に突破しました! 突破です!!」
激しい戦闘の末、ヤン艦隊はラインハルトの防御網を排除、これを突破した。残るのはラインハルトの本隊、……であるはずだった。
「しかし、薄すぎる……」
ヤンがいぶかしんだ直後、目の前にあらたな防御網が現れた。一息つく間もなく、ヤンは次の防御網を剥ぎ取る作業にとりかかる。それを突破すると、また次が。それが、幾度となく繰り返される。
もしはるか遠方より戦場を俯瞰する者がいたならば、ラインハルトが用意した防御網が二十四段にもおよぶことに驚いただろう。ヤンはそれに正面からいどみ、一枚づつ薄皮を剥ぐように突破していく。
帝国軍の防御網はそれぞれ分散された戦力であり、一般的に戦力の分散は愚かな行為である。ヤンによる各個撃破により防御網はつぎつぎと破られていく。しかし……。
「なんという厚みと深みだ……」
食い破られ、はがされた薄皮の残りの部分が、戦場を迂回してより奥に位置する新たな薄皮の一部に加わっているのだ。これこそが、ラインハルトの妙技であった。
ヤンの幕僚達はそれを喝破したが、嘆息しつつも戦闘を続けざるを得ない。
ヤン艦隊が防御網すべてを突破することは可能だろう。しかしこの調子では、すべての防御網を突破するには時間がかかる。おそらく正面から全面衝突するよりもはるかに。
すなわち、このまま続けていれば、ヤンはいずれラインハルトの旗艦までたどり着くだろうが、しかしその前に同盟領全体に分散していた帝国軍の各艦隊が来援し、大包囲網が完成するだろう。
ラインハルトが構築した壮大な戦略に感嘆し嘆息するしかないヤン。一方で、ラインハルトは自分自身が構想した戦略がクライマックスを迎えるその瞬間に向け、淡々と軍を動かしつづける。
このままこれを続けていれば、勝てる。あのヤン・ウェンリーを、打ち負かすことができる。
しかし、ラインハルトは自分の心の中に正体不明のモヤモヤが漂うことを自覚していた。自分の作戦がずばりとハマっているにもかかわらず、……いや、作戦があまりにも構想通りに進行し、完璧に機能しているからこそ、彼は物足りなさを感じていたのだ。
とはいえ、局所的な戦いは相変わらず激戦が続いている。それは、これまで数百年続いてきた同盟軍と帝国軍の戦いの中でも、一二を争うと断言できるほどに。そして激戦の渦中におかれたのは、空戦部隊も例外ではない。ヤンが9枚目の防御網を剥ぎ取りにかかった時、敵戦闘艇ワルキューレ部隊の接近が検知された。
「ウイスキー、ラム、ウォッカ、アップルジャック各中隊、揃ってるな! 敵に呑まれるなよ!!」
ヤン艦隊の最前衛に突入してきた帝国軍戦闘艇ワルキューレは数百機にのぼる。それを同盟軍のスパルタニアン戦隊が迎え撃つ。ふたつの戦隊を率いるのはポプラン、コーネフ。同盟軍が誇る二大エースだ。
「おれに対抗する気か? 半世紀ばかり早いと思うがね」
巨艦の群の中を高速で飛び交う両軍の単座戦闘艇。ポプランは、わざと後背に追跡者をまつわりつかせたまま、宙を疾走。そして戦場にただようデブリの直前で急上昇、センチ単位の至近でかすめる。追ってきた二機のワルキューレはそのまま激突、オレンジ色の火球となって四散した。
同盟軍空戦隊は三機一体の連係プレイを基本の戦術としている。すべてのパイロットの骨の髄までたたき込まれたその戦術教程は、歴史上つねに寡兵での戦闘を強いられてきた同盟軍の歴代パイロット達が自ら流した膨大な血でしたためられたものだ。だがこの戦いにおいて、ポプランは基本的に部下とは組んでいない。彼が駆るスーパースパルタニアンの性能が他の僚機とはまったく異なるため連係プレイそのものが困難である、という理由はある。だが、パイロットとしてのポプランは、もともと単独で敵機を葬ることに自己の美学を見出している。エースのみに許された特権だ。
そして、また獲物が一機。味方の尻に食いつこうとしているワルキューレを、ポプランは見つけた。通常型のスパルタニアンの火器では絶対に届かない距離。ポプランは慎重に狙いを定め、主砲により狙撃。敵パイロットは自分が誰に撃たれたかも理解せぬまま光とかわる。
「尻に気をつけろ!」「ありがとうございます!」「ひゅー、さすが隊長!」「俺もスーパースパルタニアンに乗りたいっす」「三世紀早い」
部下達の軽口が無線を通して交わされる。だが、一息つけるのはほんの一瞬だ。
「こちらアップルジャック中隊。味方被害甚大、救援求む」
「直ちに向かう。持ちこたえろ!」
ポプランは操縦桿を倒す。
スーパースパルタニアンはもともとヒット&アウェイ戦法に特化した機体だ。ドッグファイトには向いていない。しかし、その馬鹿げた機動性を最大限に活用できれば、戦況に応じて広い戦場を単騎で駆け回るのに便利な機体、ともいえないこともない。
(最終決戦の切り札だったはずのスーパースパルタニアンが、こんな便利屋みたいな使い方をされるとはね……)
口の中だけで愚痴りながら、ポプランはスロットルを開く。巨大なエンジンがうなり、不格好な光の矢が戦場を駆ける。
ポプランのスーパースパルタニアン小隊は、本来はヤン艦隊の切り札であったはずだ。実際、ヤン艦隊司令部はスーパースパルタニアン小隊を決戦の切り札としてつかう前提で作戦を立て、この会戦に臨んでいる。
で、あるにもかかわらず、彼らの標的である敵旗艦の位置すらつかめない前哨戦のこの時点でポプランが出撃を強いられるのは、深刻な事情があった。……余裕がないのだ。
圧倒的多数の戦闘艇を一気に投入してきた敵艦隊。数に劣るヤン艦隊空戦隊としては、ポプラン、コーネフのエース二人がいないだけでも大きな戦力ダウンだ。しかも、彼らはもともと第一第二空戦隊の隊長だ。空戦隊は彼らが指揮してこそ本来の力を発揮できるといってもいい。ふたりを温存したままでは空戦隊そのものが全滅し、艦隊の近接防衛網が破綻しかねないのだ。
(司令部の苦しい事情はわかるが、……こんな戦いを続けてると敵総旗艦を見つける前に我がスーパースパルタニアン小隊の戦力がすりつぶされてしまうんじゃないのか)
「ポプラン隊長! ダメです、突破されました! 中隊規模の敵編隊が味方本隊にむかいます。アッテンボロー分艦隊旗艦方向」
部下の悲鳴が無線から聞こえる。
くそったれ! 敵の数が多すぎるんだよ!
ヘルメットの中、声を出してポプランが叫ぶ。
「エリザすまない、突破された。そっちにいくぞ」
我が軍の切り札の中の切り札を、こんな前哨戦で消耗させてしまうことになるとは……。
エリザの周囲の空間に、無数の光がまたたく。コックピットをとりまく360度、まるで恒星の中心に翔びこんだかのような爆発的なエネルギーの奔流がほとばしる。
ヤン艦隊得意の一点集中攻勢だ。一個艦隊数万隻におよぶ戦艦が完全に統制され、亜光速で縦横無尽に艦隊運動を行いながらの砲撃。一点の目標に向けて同時に発射された膨大なエネルギービームの嵐。
これだけ多数の艦からこれだけ高密度の一斉砲撃をして、なぜ前方の味方の艦に当たらないのだろう?
自らも艦隊の一部をになうスーパースパルタニアンにのりながら、エリザは不思議に思う。
彼女は、ヤン艦隊の中でも敵と直接殴り合う前衛であるアッテンボロー分艦隊の直掩だ。ポプランとコーネフの各戦隊が撃ち漏らし、味方艦隊の艦列奥深くまで侵入してきた敵戦闘艇を片付けるのが任務だ。
いま、エリザのすぐ眼下には、分艦隊旗艦がいる。艦首が三つ叉に別れた異形の巨大な艦。エリザの母艦でありアッテンボロー中将が指揮する戦艦トリグラフだ。
やっぱりトリグラフは格好いいな。ちょっとふくよかで力強いシルエット。段違いの投射エネルギー量を誇る艦首主砲ビーム。それを可能にした三つ叉の艦首。多数のアンテナ。洗練された指揮命令機能。……なんて機能的な艦。
エリザはしばし母艦に見とれる。目をこらせば、艦の装甲を通して艦内まで見えるような気がする。ブリッジの中、司令部の面々、そこで檄を飛ばしているはずの司令官の姿まで。
「エリザすまない、突破された。ワルキューレ9機、そこからみえるか?」
ポプランからの通信。現実に戻ったエリザは顔をあげる。
「はい、……確認しました。迎撃します」
こたえながら、エリザはスロットルを開く。機体をトリグラフの前に出す。今の自分の役目は、はるか彼方の敵艦隊と全力で撃ち合っている戦艦のみなさんに、敵戦闘艇を近づけないこと。砲撃戦に専念してもらうこと。そのために、……この旗艦トリグラフをまもること。
そして、接近してくる敵戦闘艇のパイロット達はその逆だ。ヤン艦隊の内部に飛び込み、混乱させることが目的だ。ほんの少しでも陣形や砲撃の統制が乱れれば、それは帝国軍に有利に働く。さらに、あわよくば戦艦の撃沈をも狙う。なにせ敵最高指揮官直属の空戦部隊だ。パイロットの操縦技術も士気も極めて高い。
……だからこそ、よく見える。
コックピットのモニタには、敵戦闘艇を示す記号が乱舞している。しかし、それは安定しない。信用できない。レーダーはポプランの戦隊や周囲の艦とデータリンクしているが、お互いに大口径ピームを乱射しつつ亜光速で機動する巨艦の群の中を跳び回る戦闘艇など、正確に探知できるはずがない。
エリザは深呼吸を一回。そして周囲の空間に意識を翔ばす。見るのは、モニタにうつる記号だけではない。こちらにむけて投射される、敵意そのものだ。
同盟軍の戦艦の艦列をかすめながら、ワルキューレのパイロットはほくそ笑んだ。
多大な犠牲を払ったが、敵空戦隊の守備網は突破した。敵艦隊の内部に突入することができた。
「よーし、不逞なる反乱軍どもに、空戦隊の戦いというものを教えてやるぞ」「了解!」
周囲をみわたせば、すべてが敵。一個艦隊まるごとの戦艦。さすがにこの状況から生きて帰ることは出来ないだろう。我々の任務は、少しでも長く生き残り、少しでも敵の艦隊運用を混乱させることだ。ついでに戦艦の一隻でも撃沈できれば……。
その瞬間、すぐ横を翔ぶ僚機が爆発。光になって、消えた。
な、なんだ? どこから撃たれた?
対空砲火ではない。少なくとも周囲の敵戦艦は我々を無視している。すべてのリソースを味方本隊への砲撃に割いている。この銀河帝国軍空戦隊をなめているのか? それとも……。
と、ふいに何かが目の前を横切った。戦艦や巡航艦ではない。高速で小型の……。なんだ? 戦闘艇? アレに撃たれたのか? しかし、あの速度と砲の威力は……?
後方で光。僚機だ。またひとつ、味方が爆発したのだ。
今度は逆方向から狙撃! 戦闘艇が戦艦並みの主砲で90度のアングルアタック? レーダには敵戦艦しか映っていないぞ!
「て、敵直掩の戦闘艇だ、散開しろ!」
いまさらながら散開する敵ワルキューレ編隊。しかし……。
「おそい。……みっつ」
呟きながら、エリザは新たな敵にロックオン。静かに引き金を引く。
戦闘中の艦隊内部で戦闘艇を検知が困難なのはお互い様だ。ワルキューレは、エリザの機体を補足できない。
また爆発? モニタから味方を示すサインがひとつ消える。
「三番機撃墜!」「何機残っている?」「本機ふくめて6機、いや5機」「敵はどこだ? なにものなんだ?」
「いつつ」
エリザには見えている。糸を引くように宇宙を走る、いまだ衰えない敵パイロットの戦意が。そして、見えないスーパースパルタニアンへの恐怖が。
「……むっつ」
無数の戦艦の巨大なエンジン噴射。一個艦隊が放つ膨大なビームの奔流。敵のビームのエネルギーにより飽和する電磁シールド。爆沈する戦艦の核爆発。とてつもない光とエネルギーが渦巻くこの空域の中では、数機の戦闘艇同士のドッグファイトなど取るに足らないものだ。注目しているのは当事者であるパイロット達だけかもしれない。
「ななつ」
そんな戦場で、エリザはコックピットの中で独り。淡々と、機械的に、ただトリガーを弾いていく。
「やっつ」
「くそ、くそ、くそ、敵はどこだ!」
残っているのは自分だけ? 周囲の戦艦が対空砲火を撃ってこないのは、あのたった一機の直掩の戦闘艇がいるからだというのか? こ、こうなったら、せめて敵の指揮艦を。
ワルキューレパイロットはもっとも近くにいる敵戦艦をみる。あきらかに叛徒共の他の艦とは異なる形状だが、データベースに存在しない? 艦首が三つ叉に別れた不細工な大型戦艦。新型、おそらく分艦隊の旗艦といったところだろう。
……虎の子の対艦用の大型ミサイルはまだ温存されている。レーザー水爆弾頭が直撃すれば、いかに大型戦艦でも無事には済まないはずだ。
「やってやる!」
機首を翻す。大型艦に正面から相対。そして照準。この距離なら、絶対にはずさな……。
ワルキューレのパイロットは息をのんだ。
正面に、敵戦闘艇がいる。いつのまに。こちらに向けられているあれは、……主砲なのか?
「……ここのつ」
アッテンボロー分艦隊に突入を果たした帝国軍ワルキューレは、全滅した。
「お、おわりました、ポプラン中佐」
エリザからの通信がはいる。
はぁ? 何分たった? ……うちのエースは、ドッグファイトをやらせても圧倒的らしい。
驚愕しながらも、ポプランは一息ついた。いつの間にか艦隊同士の砲撃の撃ち合いは終わっているようだ。
(エリザに助けられたか。それにしても、味方艦隊の護衛が任務であるオレ達はまだなんとかなっているが、・・・敵艦隊前衛にとりつきにいったコーネフ戦隊の状況がわからん)
司令部から帰還命令がとどいた。おそらく敵の防御網をまた一枚突破したのだろう。すぐに新たな防御網が待ち受けているとはいえ、一旦母艦に帰還できると思うと気が楽になる。一杯やってからタンクベッドにはいるくらいの時間はあるだろう。
……なぁに、コーネフの野郎のことだ。大丈夫にきまってる。