銀パイ伝 〜銀河パイロット伝説〜   作:koshikoshikoshi

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06 亡命

 

 ワルキューレのパイロット達は、焦りはじめていた。3機小隊の戦闘艇が非武装のシャトルをとりかこみ、数度の攻撃をしかけてもなお撃墜できないのだ。

 

 決してあなどっていたわけではない。しかし、その価格は正規軍の戦艦一隻にも匹敵するとも言われる、民間用としては最高グレードの贅を尽くしたシャトルの機動力は、ワルキューレにも匹敵するのは確かだ。

 

 さらに、パイロットの腕がよい。攻撃に対する回避運動が、民間のパイロットとは思えぬほど的確でかつ素早いのだ。いったいどんな者が操っているのか?

 

 彼らは、標的であるシャトルに誰が乗っているのかは知らされてはいない。ただ、このようなシャトルを所有しているのが、普通の貴族でないことはわかる。しかも、彼らが艦隊司令部から直接受けた命令は、非武装の相手に投降を認めず、あくまで隠密理に、そして痕跡を残さずに完全に対象を破壊しろというものだ。これが普通の任務であるはずがない。

 

 ……世の中には知らない方が良いこともある。

 

 パイロット達は、それ以上詮索するのをやめた。そしてフォーメーションを組み直す。遊びは終わりだ。反乱軍共の戦闘艇を相手に命をかけて鍛えてきた操縦技術を見せてやる。

 

 

 

 

「えっ?」

 

 正面のモニタに集中していたエリザベートは、おもわず声を上げる。敵の動きが明らかに変化したのだ。つい先ほどまでは、こちらからの反撃の恐れがないのをよいことに、1機1機が順番にそれぞれ単純な攻撃を仕掛けてきた。しかし、いまモニタに映る敵は、それぞれの戦闘艇が味方をフォローしつつ、別々の軌道から同時に攻撃する態勢のように見える。エリザベートには、安全な進路が見えない。

 

 ……まずい、な。本気に……なったか。

 

 シュナイダーのうめきが、頭の中に飛び込んでくる。同時に、近い位置のワルキューレ2機が、レーザー砲の発射姿勢をとる。

 

 上……だ、エリザベート。

 

 シュナイダーは、上に逃げるべきだと判断した。その思考が頭の中に直接流れ込み、エリザベートは操縦桿を引く。だがその時、彼女の頭の中に、第三者の思念が飛び込んできた。エリザベートとシュナイダーに対する、明確な、そして強烈な敵意。エリザベートは理解した。これは、私たちを殺そうとしている人の意志。ワルキューレのコックピットから放射され、私たち向けて叩きつけられる殺意。

 

 

 

 

「かかった!」

 

 ワルキューレ編隊を率いる小隊長はおもわずほくそ笑む。シャトルを後方から追跡し接近した2機の僚機が下方から、しかも左右から挟み込むように同時に発射態勢に入れば、シャトルは上方に逃げるしかないだろう。逃げる方向がわかっているシャトルなど、たとえ遠距離からであろうとも、残りの隊長機がレールキャノンで狙撃可能だ。

 

 だが、シャトルは、彼らの思い通りには動かなかった。一瞬機首をあげ、上昇すると思えた瞬間、そのまま機体の姿勢だけをひっくり返し、機種が真後ろを向くと同時にメインエンジンを最大出力で噴射したのだ。レールキャノンの砲弾は、シャトルの遙か上方の空間を、むなしく通過していく。まさか民生用のシャトルがそのような機動を行うとは予想していなかった。ワルキューレの編隊は、完全に裏をかかれ、シャトルを通り過ぎてしまう。

 

「ばかな! こちらの意志を読んだとでもいうのか?」

 

 

 

 

 その瞬間、エリザベートには見えた。研ぎ澄まされ、細い絹糸のように周囲の空間に張り巡らされたエリザベートの五感が、自分に向けられた殺意を捕らえたのだ。3人のワルキューレパイロットが引き金をひくタイミングが、完璧にわかったのだ。

 

 エリザベートは、自分の周りの時間の進み方が遅くなったように感じた。すべてのものがスローモーションのように動く中、敵の発射する弾道の未来位置が正確に予測できた。反射的にシュナイダーの指示を無視、自分の意志でシャトルを安全な方向に向けた。もともと操縦に関しては素人である彼女の操作によって、実際にシャトルが彼女の意図したとおりに動いてくれたのは、幸運だったというほかない。

 

 

 

 シュナイダーは、自分のシャトルの機動に驚愕していた。彼は空戦のセオリーを知るが故、ワルキューレ編隊の作戦に完全にはまっていた。エリザベートが彼の指示の通りに操縦していれば、確実に撃墜されていただろう。ところが、エリザベートは彼の指示を無視し、自分の力で危機を脱してしまったのだ。

 

 ……まいったな。俺の意志だけでなく、敵の殺意まで見えるのか? これなら、……これならば、俺がいなくても逃げ切れるかもしれない。

 

 シュナイダーの体から、徐々に力が抜けていく。

 

 必殺の攻撃をかわされてしまったワルキューレの編隊は、それでもあきらめてはくれなかった。すべてのエネルギーを使い果たす勢いで、怒濤の連続攻撃をしかける。さらに、ワルキューレの母艦である高速艇までもが砲撃を開始している。

 

 今のエリザベートには、戦闘艇の機動も、砲撃の瞬間も、敵の攻撃は全て見えた。母艦の砲撃すら、乗員の敵意をプレッシャーとして感じ、完全に読み切ることができる。だが、命の恩人であるシュナイダーがいなくては、自分だけ逃げ延びても意味はない。

 

 シュナイダーの意識が一瞬途切れる。

 

「少佐! 目を覚ましてください!! 少佐!!」

 

 エリザベートの意識がシュナイダーに向いた瞬間、ワルキューレが1機、正面からシャトルにせまる。レーザー砲の発射態勢にはいる。

 

 とどめだ!

 

 エリザベートが接近するワルキューレに気づいたときには、すでにシャトルは敵の必殺の間合いに入っていた。敵パイロットの口元がつり上がったのがわかる。彼は勝利を確信し、引き金を引く。

 

 だめ、逃げられない!

 

 エリザベートは操縦桿から手を離す。後ろをむいてシュナイダーに覆い被さる。

 

 

 

 

 ……大丈夫だ、お嬢さん。そろそろメルカッツ提督が来てくれるはずだ。

 

 

 

 

 敵のワルキューレが爆発、ばらばらに吹き飛んだのは、まさにその瞬間だった。遠距離から戦艦の大口径ビーム砲で狙撃されたのだ。シュナイダーから連絡をうけたメルカッツの旗艦は、ぎりぎりのタイミングで間に合った。残りの敵機も、次々と撃墜されていく。

 

 

 

 

 ほらな……。メルカッツ提督に任せておけば安心だ。エリザベート、生きろ。提督とともに、……イゼルローンへ行くのだ。

 

 

 

 

「少佐! 少佐! 目を開けてください少佐! 」

 

 エリザベートに流れ込むシュナイダーの意識が消えていく。エリザベートは、どんどん細くなっていく彼の意識を、必死にたぐり寄せる。

 

「シュナイダー少佐! 死なないで!!」

 

 シュナイダーの意識は、糸が切れるように、ぷつりと途切れた。同時に、彼の肉体も停止する。

 

 

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