僅かな灯りだけが点る室内。
制服を着た白髪の青年を囲むように老人達が並ぶそこでは侃侃諤諤と議論がなされていた。
「そもそも宇宙人であるという証拠はあるのか?」
「一ヶ月前に起きた日本海での原因不明の津波。あれがオルト・シバルバーの地球襲来を裏付けている」
「ならばどうやって地球に来たのだ。宇宙船らしき物も何も発見できなかったのだろう?」
「衛星では日本海に突撃する小型の物体を観測できていたのだ。宇宙船は必ずある筈だ」
老人達の疑問に対して答えを示したのは一人放置されていた、部屋の中心に立つ白髪の青年五条悟であった。
「本人の証言によれば銀糸を体から出して星間航行するとのことです」
「銀糸?何だそれは?」
「さあ?」
五条は肩を竦めて自分も詳しくは知らないと示す。
老人達は理解を諦めて深く溜め息を吐いた。
「やはり宇宙人を捕らえて解剖するべきだ。隔離は成功しているんだろう?」
「隔離なんてとんでもない。あれにはどんな結界も意味を成しませんよ。あくまで本人が大人しくしてくれているだけで、その気になればいつでも出られるでしょう」
五条は初めて遭遇した宇宙人、オルトの姿を思い浮かべる。
あれを隔離なんて馬鹿げた話だ。
オルトは強い弱いという尺度にいない真性の化け物だ。
人類では太刀打ちできない存在に対して取る行動は頼むから大人しくしてくれという懇願のみだ。
それ以外に人類の生存圏を守る手段はない。
実際にオルトを見ていないから盆暗な老人どもはそのことを理解していないのだ。
「オルトに対する敵対的な行動は人類の為に控えた方が良いかと。でなきゃ人類が絶滅する」
「そこまで言う程かね?単なる宇宙人ではないのか?」
「SF映画の宇宙人が可愛く見えるくらいの化け物ですよ。間違ってもあれと戦いたくはない」
五条の怯えではなく事実から来る発言に漸く事の重大さを理解し始めた老人達は一つの結論を出す。
「であれば六眼である五条悟が監視に付くのが最も堅実だな」
「俺が!?」
「現状最もオルトの危険性を理解しているのは君だけだ。異論あるかな?」
異論しかない、という言葉を飲み込んで五条は苦々しげに言葉を吐き出す。
「分かりました。俺が監視に付いて適切な対処方法を報告します」
「それで良い。天元様の同化も近い。余計な問題を起こさないようにな」
「……ええ」
五条はそうしてオルトの監視の任に就き、部屋を出たのだった。
◇
状況を整理しよう。
現在の俺は日雇いのバイトで生計を立てる一般宇宙人だ。
その筈だったのだが昨日、呪術師を名乗る者達に地下深くのお札が大量に貼られた部屋に連行されてしまった。
そうして今は初めて出会った呪術師である五条に買ってもらったたこ焼きを頬張っている。
ソースとマヨネーズの王道な味付けだ。
出来立てのたこ焼きは非常に美味である。
そんな訳で地下室に入ってから一日が経過したのだが、余りにも暇である。
バイトしてる時は仕事に集中していられるので暇を感じることなんてないのだが、改めて一人にされて放置されると何をして良いか分からないものだ。
気紛れに自己改造を施すぐらいしかやることがない。
今回はより人間に近い改造を施した。
体温やら触感やらを追加した。
壁をペタペタ触るとひんやりしていて気持ちが良い。
「壁に張り付いて何してんだ?」
壁と熱い抱擁を交わしていると漸く五条が地下室に帰って来る。
俺は若干抗議するような瞳を向ける。
「暇だから触覚を追加して遊んでた」
「訳分かんねえことだけは分かった。取り敢えず結論が出たから報告に来た」
俺は表情筋を真剣なものに作り変えて話を聞く態勢に入る。
五条もその変化に気付いたのか緩んだ空気を引き締めて話し始める。
「オルトには四六時中俺と行動してもらう。当然高専の授業も一緒に受けることになる」
「それをすることで俺に何のメリットがある?」
「美味いもん沢山食わしてやる」
「乗った!」
俺は即答した。
美味いもんには敵わんのだ。
五条はやはり呆れたように溜め息を吐いた。
「ちなみに風呂とかトイレは別?」
「側にいれば良い」
「ふんふん。成程。それなら俺に否はない。どうせ戸籍も身分証もない身ですから」
「よく今まで生活できてたな」
「日本の闇と向き合うことになったよ」
具体的には過酷な労働環境を強いる企業とか、労働者を搾取する企業とか。
平和に見えてもその実はドロドロな欲望と人間関係に塗れているのである。
そこでふと五条が疑問を口にした。
「そういや、何でアンタは日本語を話せるんだ?宇宙人だろ?」
「俺に憑依しようとした無謀な日本人の魂を捕食した時に学んだの」
「人食ってんのかよ…」
「まあ俺にとっては自分以外は餌だからね」
五条がゾッとしたように肩を抱いた。
そこで俺は一つの閃きが舞い降りる。
異世界から来た魂の存在、魔術師ではなく呪術師という見知らぬ連中に囲まれている現状、そしてこの地球に来る際に開けた世界の穴。
それらの要素で現状を考察するならこうなる。
つまり俺は異世界の地球に来たのだ、と。
それならすぐに地球が見つかったことにも説明がつく。
俺の銀糸は世界を越えて地球を探し出してそこに繋がる穴を開けたのだ。
俺が一人でうんうん頷いていると五条が訝しげな視線を向けた。
それに俺は何でもないと答えたのだった。
◇
東京都立呪術高等専門学校校舎の二年生の教室。
五条に付いて行った俺はそこに入ることになった。
そして何やら壇上に立たされて自己紹介をさせられる。
「オルト・シバルバーです!宇宙から来ました!気軽にオルトって呼んでね!」
俺は元気良く自己紹介を終える。
それに五条以外の三人が頭を抱える。
「宇宙人が来るとは聞いてたけど……何というかイメージがさぁ……」
そう項垂れるのは夏油傑という青年だ。
一本垂れた前髪が特徴的で塩顔のイケメンだ。
「イケメンじゃん。よろ〜」
気軽に声を掛けるのは家入硝子という少女。
右目の涙黒子がチャーミングな茶髪の女子だ。
「悟。こいつが本当に警戒対象の宇宙人なんだな」
「ええ。間違いないですよ」
五条に確認を取るのは刈り上げに剃り込みを入れた厳つい顔の教師、夜蛾正道だ。
五条は夏油に同意するように呟いた。
「やっぱ宇宙人って感じしないよなぁ…」
「別に本体を晒しても良いけど驚くかキモいの一言になるよ?」
「今の方が良いよ〜。目の保養になる」
家入は人間体の面を気に入ったらしい。
女性にモテて嬉しい限りである。
まあ生殖機能とかないからモテたところで意味はないけど。
これを機に作るのもアリかもしれない。
俺は単独で完結してるのでちゃんとした子供が生まれるかは分からないが。
もしかしたら冒涜的な赤子が生まれ落ちて地球を滅ばすかもしれない。
そうなったら危険過ぎるし保留にしておくか。
「オルトは美味い物食わせとけば言うこと聞くから、皆も対処に困ったら取り敢えず食べ物与えといて」
「ペットみたい」
「物騒なペットもいたもんだ」
確かに。
吠えるだけで星を滅ぼせるペットとか物騒極まりないな。
まあ今のところ人類を滅ぼすつもりはないので観測者達も安心してもらって大丈夫だ。
話が一段落したところで夜蛾が口を開く。
「一先ずオルトの監視は悟に任せるとして、今日の任務について説明するぞ」
そうして夜蛾から語られた任務の概要は以下の通り。
静岡県浜松市のとある館に任務に向かった一級術師一名と二級術師一名が帰って来ないので調査に当たって欲しいとのことだ。
「任務先の呪霊って奴は俺が食べても良いの?」
「そもそも呪霊を食べられるのか」
「何でも自分以外は餌、らしいですよ」
そう聞くと夜蛾は暫く考え込んだ後に答えを出した。
「食べても構わない。但し不味くても暴れるな」
「大丈夫だよ。余程不味くて吹き出したりしない限り」
俺の言葉に全員が胡乱な瞳を向けた。
そんなに心配しなくても問題なかろう。
生命体の美味さは含有する力に左右される。
流石にそんなに不味い訳がない。
俺は不安気な空気の中で一人気楽に任務先へ向かったのだった。
・オリ主
呪霊は美味しいと勘違いしている。
吹き出したら炎が溢れて大変なことになる。
・五条
胃が痛い思いというのを初めて経験することになった。
・羂索
宇宙人!?ワクワク!!
・天元様
事態を把握した。
顔面蒼白。
天内理子について
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