首輪付きが今度はキヴォトスを荒らすようです 作:AC組んでSS書いてる人
夜明け、トボトボとアビドス校舎の校門から入ってくる複数の影があった。
ヘルメット団アジト攻撃に向かっていた面々である。先生も一緒だ。全員顔が暗く、目元にはクマすらできている。当たり前だろう。あんな凄惨な現場と結果を知ってしまっているのだから。
そんな彼女たちが校舎の入り口前まで歩いていき、戸に手をかけた。
「んぁ?おかえりぃ」
すると横から声をかけられる。山猫だ。昨日と変わらぬ態度で気が変わったのか花に水をやっている。
「山猫ちゃん…」
「どうした、そんな浮かない顔して。アジトつぶせなかったか?」
「違う…違うんだよ…」
「…なんかあったみたいだなぁ。聞かせてよ」
そう促され、ホシノはぽつぽつと話していく。手はかすかにふるえていた。
そして事情を話し終わった時、山猫は神妙そうな顔をしてこう言った。
「最近は治安が悪くなってるからなぁ…それもこれも連邦生徒会長とやらが消えたせいだろうが」
「でも、あの爆発はなんだろう…?」
「それはわからん・・・私も校舎から見たけど…凄い光だったな」
「うん…」
「新型爆弾の可能性は?それもキヴォトス人を一撃で殺せるレベルの」
「そうかな…そうかも…でも、そんな爆弾が個々に落ちたらって考えたら」
「まぁ、不安になるだろうな。だが、今のキヴォトスの技術でそこまでの破壊力は量産できるのか?サーモバリックでもなかなか死なないキヴォトス人を殺せる爆弾だぞ?現実的に考えて無理だろ」
「・・・確かに」
「まぁ、今回は不幸な事故だ。ヘルメット団は悪いことしたが・・・もう壊滅したしな。結果オーライだ。切り替えて行け」
「・・・うん」
「お前らの目下の問題は片付いた。次は借金だろ。どうすんだ?」
「・・・うん、そうだよね。そうだね、うん」
「”昨日から聞いてたけど…借金って?”」
山猫とホシノが話していると先生が割り込んでくる。ホシノは少し迷うような表情と動作を見せたが、意を決したようだ。再び口を開く。
「うん・・・もうごまかせないよね」
「ちょっと、ホシノ先輩?!」
「セリカちゃん。山猫ちゃんが言っちゃったし、何よりこのことはもう隠し通せないよ。先生も巻き込んでしまえば事を大きくできる。連邦生徒会だって無視できないはずだし、ね」
「・・・・」
納得いかないような表情と態度を示すセリカ。そこに山猫が話しかけてきた。
「納得できないのはわかる。だが、ことは大きくしてしまえばいいんだ。無視できないようにしてしまえば、自ずと人はそれに目を向ける」
「あんたがそれ言う?」
「心配してやってんだぜぇ? 居候で留守番の身だが、お前らずっとバイトしてて勉学に中々励めてないじゃあないか。卒業後にひびくぞ?
高卒で都合よくつかわれてそのまま路地裏のゴミ箱行きなんて嫌だろぉw?? 私はお前らがどうなろうとどうでもいいけどさ」
ヘラヘラ笑いながら嫌なことを言ってくる山猫。だがアビドスの面々はありありと想像できてしまう、特にシロコとホシノとノノミは。
「で、でもっ!先生はあくまで部外者でしょ?!今まで私達だけでやってきたじゃない!なんで今更っ…!」
「まぁまぁセリカちゃん。せっかく来てくれた手前ですし、一枚かまさせてあげましょうよ~☆」
それでもというセリカにノノミが声をかける。
彼女もこの状況に思うところはあるのだろう。しかし、彼女は出自の都合、清濁併せて飲み込まないといけないことがあることも知っている。
「でも・・・でも・・・」
セリカの声が上擦る。
わかっている。彼女は本当は理解している。理性は理解している。だが、本能が納得していない。できない。
今の今までひどい目に合ってきた。大人たちの多くはろくに手を貸してさえくれなかった。
こんな都合のいい話があるわけがない。
「今更よ…!いまさら何よ!連邦生徒会は何も手助けしてくれなかった!企業連中は搾取することしか考えてなくて!他自治区だって見て見ぬふり!」
「たりめーだろアホ」「山猫ちゃんッ」
「助けてくれたことはわかる!認める!でも、でも…!今まで頑張ってきたのは私達よ!!なんでぽっと出の大人が入り込むの!!!!
「せ、セリカちゃん!」
泣きながら叫ぶとセリカは校門から外へ飛び出した。途中でスッ転んだがすぐにたち上がって走っていった。
「アイツ馬鹿だなァ」
それをのんびりと眺めながらぼやく山猫。
「「ん、人の心ないの/人の心とかないんか?」」
「お前らも持つほど余裕ねぇだろw」
「でも捨てたら獣畜生と変わらないからさ?」
「
「ん、いい度胸」
しゅっしゅっとパンチとキックを繰り出してくるシロコ。それをのらりくらりとよける山猫。どっちも本気じゃないのは見て解る。
「まぁシロコちゃんここ来たばっかの時は獣畜生とそう変わらなかったからねぇ。寧ろ人の言葉話せるだけより大変だったよぉ」
「ん、辛辣…」
「お前もなかなか言うなぁ。誰に似たのかな」
「お前w」
「ウハハw」
ホシノと山猫が気を抜いたじゃれ合いをする。
「しかしぃ、このままだとまずいですよね~」
「セリカちゃんが悪いわけではありませんけど、確かにこの状況を放っておくと不和が生じてしまいますね・・・」
「ん、不和は亀裂を生む。何とかしたい」
「でもどうしようねぇ~~~」
「解りやすいやり方は追放してあとは4人で頑張るとかだろ」
「ナチュラルにサボろうとするのやめてね」
「いやいや私は復讐されないようにとどめ刺しに行くだけだから」
「余計ダメだよ?!」
わちゃわちゃする五人。
「”・・・やっぱり、大人だからだよね”」
そんな五人の耳に先生のつぶやきが嫌に良く聞こえた。4人はすぐさま振り向き、1人は目線だけすっと向けた。
「まぁ、そうなんだよね。私たち、大人にひどこい目に合わされてきたからさ…いや、中には助けてくれている人たちもいるんだけど・・・」
「零細自治区のいいところだな。数が少ないから解りやすい」
「”・・・そんな中、私が来た。来てしまったとでもいうべきかな”」
「しまったって・・・そんなに卑下しなくてもいいよ。しょうがない話なんだよ。アヤネちゃんだって間違ってないし・・・セリカちゃんもわかっていたんじゃないかな。だから、どっか行った」
「”・・・”」
「先生が悪いわけじゃないよ。でも、ただ、セリカちゃんにとってタイミングが悪かっただけで・・・」
「”大丈夫、わかってるよ。・・・それで、借金は…”」
「うーん…まぁ、うち借金あるんだよ。いや、借金はどの自治区も大なり小なりあるからよくある話ではあるんだけど」
「”どのくらい?”」
先生が訊くとホシノはためらうような、現実を見たくないようなしぐさを見せた。しどろもどろになる。
「9億ぐらいだろさっさと言えのーたりん」
それに痺れを切らしたのか山猫が横から割り込んだ。
すると全員の顔が更に急激に暗くなる。やはり現実逃避していたかったのだ。空に浮かぶ雲のようにただただ日々を享受していきたかったのだろう。
「…9億と6235万円ですよ」
「うへぁ…また増えてるぅ…」「うわぁ…」「ん‥」「ハハッ、壮観だな」
アヤネの訂正に3人は更にうなだれ、1人は愉快そうに笑う。
アヤネは先生に向き直り、さらに言葉をつづける。
「これが、アビドスが背負っている借金です。これを返済できなければ・・・ここは正式な手続きの元、銀行の手に渡り、廃校手続きになるでしょう…そうなるしかないです」
「”9億かぁ…9億だよね…随分と大金だね”」
「・・・はい、事実上不可能と言って差し支えないでしょう。皆早々に諦めて、この自治区を去っていきました」
「それで、残っている人は私達だけ」
シロコも補足を入れてくる。当事者なのだからやはり入ってくるか。
「学校が廃校の危機になったのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになっているのも、全てこの借金が原因です・・・」
そこから彼女はアビドスがどうしてこうなったのかを話し始めた。
始まりは、数十年前のアビドス自治区。自治区郊外の砂漠で砂嵐が起きた事だった。
ただの砂嵐ならばどれほどよかったことか。現実は甘くなかった。
想像を絶する規模の砂嵐。何もかもが砂に埋もれ、去ってからも尚、砂が溜まり続けてしまう程の砂嵐だ。
状況は一向に改善しなかった。何もかもを飲み込むほどの砂嵐が毎月起こり、人も機械も金も全然足りていない状況が続いた。
その天災を克服・踏破する為に、当時のアビドス校は多額の資金を投入せざるを得なかった。
しかし、土地だけが広い片田舎の学校に、巨額の融資を許す銀行は中々見つからず、当時のアビドスは四方八方にとにかく手を広げた。少しでも状況を改善したかったからだ。
「”それで・・・結局、見つかったのは1つだけ”」
「……はい。最初の内は、すぐに完済できる算段だったんだと思います。
ただ…砂嵐は全くやむ気配がなくて、何もかも水泡に帰して…結局アビドスの大半は砂漠に呑まれました・・・。その度に借金も、その……」
「”膨れ上がって、今になった”」
「はい・・・
私達の力だけでは、毎月の利息を返済するだけで精一杯でして、弾薬も補給品も、底をついてしまっていました」
「セリカがあそこまで神経質になっているのは、これまで大人の誰も、見知らぬふりをしてきた。無視を決め込んでしまっていたから・・・その、話を聞いてくれたのは先生 あなたが初めて」
「”……そっか”」
「まぁ、そんな滑稽で自業自得なしょうもない話だ」
山猫が締めくくるようにほざいた。全員が睨みつける。先生も思わずにらんだが、すぐにはっとして視線を下に向けた。
「山猫ちゃん、他人事じゃないんだけど???」
「逃げればいいから他人事だぞ。今いるのは何もしなくていいからだな」
そう言いながら彼女は校舎の中に入っていった。鼻歌すら歌い始めていたあたり、本気でここのことがどうでもいいのだろう。居候させてもらっている身の態度ではない。
沈黙がその場を包み込む。
正直言って生徒の身でこの膨大な借金をどうこうしようという方がおかしいのだ。はっきり言って無理難題もいい所である。
だから生徒も大人たちも住民たちもほとんどがアビドスから出て行った。出て行かなかったのはよほどのもの好きか廃品回収業者くらいだ。あとはアビドスに複数の工場を置いているカイザーPMC。
全員を悪く言うことはできない。しょうがない話である。だからこそ、ホシノたちも悪く言わなかった。言えなかった。言ってしまったら最後、獣に堕ちてしまうから。
「いや、でもさ」
ホシノが口を開く。明るい声だった。だが、聞けばわかる。わざとおどけている声だ。見ると口元は引きつってるし目元は少し痙攣している。
「でもさ、ヘルメット団があぁなったじゃん?あぁなったのを喜ぶべきではないんだろうけど・・・でも、これで目の上のたん瘤は消えた。後は、借金返済に全力になればいいだけだよ」
「ん、その通り。先生は気にしなくていい」
彼女達が明るい雰囲気をしようとしている。こっちにも気をかけてくれている。
そんな子供が苦しんでいるときに手をさしださないで何が大人か。
経歴不明の信念がその大人を奮起させた。
「”いや。それは見捨てるということだ。私にはできない。私は君たちの力…その一助になりたい”」
「・・・っ」
「”私は、先生なんだから”」
微笑んでそう言った。目には強い覚悟と意思が宿っている。
本気だ。本気で言っている。悪意に鋭い彼女達だからこそわかる。
「え、それって」
「”最後まで、よろしくお願いします”」
さらに言葉を続けて先生は深く頭を下げた。それに対して全員が姿勢を正す。
「こ、こっこちらこそ、よろしくお願いしますっ!」
アヤネが深く頭を下げた。つられて皆も頭を下げた。
それを陰から見ていた奴が二人いた。
つづく
山猫は滅多なことがない限り全員を把握できる位置にいる
「あ、もしもし?」
「シャーレがアビドスについた。今ここで処理もできるが、どうする?」
「え?泳がせておけ?なんで?」
「・・・ははぁん、確かに作戦に支障はないからか」
「作戦の要は私。あんたたちは陽動だもんね。そう決まっていた」
「いやーついつい武功を先んじてしまいそうだった。私もまだまだだネ」