さくら荘の空太君が開き直った様です。《完結》   作:こいし

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二話連投です。読んでない方は前話を読んでからどうぞ。


神田空太の看病

 青山七海の発表会は、失敗に終わった。発表順が後半だったこともあり、解熱剤の効果も上手く作用して発表の時には大分体調も通常時に回復していたのだが、それでも失敗した。やはりまだ多少回復したとはいえ万全でない身体では無理があったのだ。結果、普段の実力の半分も出せず、失敗した。

 

 だが、青山七海はその失敗を悔やむ前に、会場前で待っていた仁によって神田空太が倒れたことを知らされた。無理をしていたことを知らされた。歩いて帰ることは普通に出来る体調ではあったので、仁が呼んだタクシーでさくら荘まで帰ってきて、すぐさま空太の部屋へと向かった。

 

「神田君っ!?」

「あ、ななみん……」

「美咲先輩……神田君は……?」

「うん……今、寝てるところ」

 

 空太は自分のベッドで寝かされていた。蒼白な表情で、目元にも若干クマが出来ている。皆自分のことに必死で、裏で支えてくれていた空太のことになど全然気が付いていなかった。

 

「空太の奴な、最初青山さんがさくら荘に来る前に言ってたんだ」

「え?」

「青山さんは真面目だから、きっとましろ当番のことを知ったら空太からましろ当番を代わるだろうって……それで、無理をする人だからどこか大切な所で倒れるだろうって」

「そんな……それって……」

「そう、青山さんは空太の言う通りにましろ当番になった。そして、空太の予想してた通り発表会のこの日、体調を崩した」

 

 空太は全部分かっていた。それを知って、青山は空太に対する罪悪感を感じる。

 

「でも……それならなんで言ってくれなかったの……!」

「言って、青山さんは言うことを聞いたかい? 空太は分かってたんだ、青山さんが無理するなって言われて素直に聞くようなタイプじゃないって。だから放っておいた、無理して倒れれば、観念してましろ当番を空太に戻すだろうと、考えてね」

「でも、こーはいくん……ななみんに発表会があるって聞いてから、寧ろななみんの体調を気に掛けてたみたい……思い返してみれば、最近こーはいくんが食事当番をいっぺんに引き受けてからのご飯は栄養がちゃんと考えてあったもん……」

「……!」

 

 そう言われて、青山は思いだす。

 

『ほら、これ飲んでくれ。最近ちょっと趣味で始めたんだ』

『なにこれ……紅茶?』

『ハーブティーだ。身体が暖まるぞ』

 

 夜遅く、神田空太は毎晩自分にハーブティーや夜食を作ってくれていた。趣味で始めたと言っていたから気にしていなかったが、本当は夜遅くまで起きている自分の体調を気遣っていたのではないか?

 それに、最近良く空太は自分に疲労回復の方法について色々言っていた気もする。話し半分で聞き流してしまっていたが、あれは空太なりにさり気なく気を回していたのではないか?

 

「それに……空太は最近本気でゲーム作りしてたからな……夜遅くまで空太の部屋、電気付いてたし……空太は朝も早いからな……碌に寝てなかったんじゃないか?」

「あたし……それなのにこーはいくんの部屋に突撃して徹夜で遊んだり、話したりしてた……馬鹿だよ……あたし」

 

 その場の全員が気付く。空太が自分達の回りでどれほど頑張っていたか、どれほど自分達が空太に支えられていたのかを。失ってから初めて気付く、そして気付いた時にはもう遅い。

 

「……持って来た」

 

 そこに、ましろが水の入った桶とタオルを持ってきた。彼女は空太の横に歩み寄ると、たどたどしくタオルを濡らし、絞って空太の額に乗せた。

 この中で、ましろが一番空太に対して罪悪感を感じていた。思いかえせば、空太はましろ当番だった頃から色んな事をしていた。ましろが凄いと思う位、色んな事をしていた。だからましろは安心して空太を頼っていた。頼り過ぎな位、頼っていた。ましろ当番だからではないが、ましろもどこかで思っていたのだ、

 

 

 ―――空太なら大丈夫、空太は凄いから

 

 

 空太に一番負担を掛けていたのは、自分だ。ましろはそう思っていた。だから、今朝ましろになんか会いたくなかったと言われた時、空太の本当が見えた気がした。透明だった空太の色が、偽物だったことが分かった気がした。透明だったのは、空太の本当を隠す為の壁だったのだ。その中に、空太は自分を包み隠していたのだ。

 

「空太……私のせい……」

「ましろちゃん……」

「ましろん……」

 

 ましろの呟きに、仁達は眉を潜める。けして、ましろだけのせいではないが、ましろの背中に言葉が出てこない。

 

「……とりあえず、青山さんはまだ体調悪いんだから……寝てた方がいい」

「……でも」

「ななみん、こーはいくんもそう思ってるよ……きっと」

「………はい、じゃあ大人しく寝てます」

 

 青山はそう言って、うしろめたそうに部屋を出て行った。

 

「俺、おかゆでも作るよ。空太が起きた時、食べさせてやろう」

「そうだね……うん! じゃあ私は皆のご飯を作るよ! こーはい君にいつもやって貰ってたからね!」

「ましろちゃんは、空太を看ててくれるか?」

「分かった」

 

 こうしてさくら荘の面々は動きだす。

 

 神田空太が倒れ、やっと自分達の周囲が見えて来たようだ。

 

 

 

 




覚醒前も後も空太君の頑張りようは物凄いですね。

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