ただ、朝起きたら声が聞こえたから見に来た。たったその行動だけで、いつもの日常は砂塵のように消え去った。
城ヶ崎を見た全員、立ち尽くしていた。泣いている者、青ざめて動けなくなっている者、気持ち悪くて嘔吐してしまう者。
そんな中、ゴクチョーから一通のメッセージが届いた。
『はぁ……報せが入りました。痛ましい殺人事件が発生したようですね……。あの、皆さん、今すぐにラウンジに集合してください。従わなければ看守が連行しちゃうので……。』
メッセージが送られてすぐ、自分たちの近くに看守が来た。
自分たちはそれを見てラウンジへと足を運ぶ。それが看守による恐怖の感情によるものなのか、真実を突き止めるべくして動いているのか、わからない。
城ヶ崎ノアの死が、少なくとも平和だった今の生活を変えてしまったようだった。
♢♦♢♦♢
しばらくすると、ラウンジにみんな集まりきった。
ラウンジにつくなり、桜羽は今にも倒れそうな顔をしていた。
「おい桜羽、大丈夫か?少し休んだほうが……。」
「そ、そうですよ……そ、ソファーに座ったほうが……。」
そんな自分たちを心配させまい思っているのか、彼女は少々歪な笑顔を作り話しかけてくる。
「大丈夫だよ……。ショックなのは、きっとみんな同じだろうし……。」
「犯人以外は。」
そう追い打ちをかけるように橘は桜羽に言った。本人はとてもにこやかな顔をしており、自分の発言が桜羽に対してどういうものになっているのかわかっていない様子だった。
「おい橘……あんまり今はそういうことを言ってやるな。こいつだって混乱してんだ。」
「……そうですね。すみませんでした。」
そんなことを話していると、ゴクチョーがどこからかラウンジへ羽ばたいてきた。
やはり管理しているだけ殺人事件に慣れているのか、動揺の色一つ見せずに自分たちへ説明をし始めた。
「はぁ……起きちゃいましたね、殺人事件。今夜、【魔女裁判】を開廷します。今いる囚人の中から、必ず殺人犯を特定してください。その者は、【魔女】として処刑するので。」
魔女。その言葉が永遠とも感じられるくらいに響き続ける。
本当にこの中に魔女がいるのだろうか。本当はいないんじゃないか。そんな考えをしたいのに、頭ではこの中に城ヶ崎を殺した犯人がいるということを理解してしまっている。現実逃避をしたいのに、目の前の事実がそうさせてくれない。
それは、自分を含めた囚人を追い詰めるには十分すぎた。
「やすやすと死なない魔女の活動を確実に沈黙させる方法での処刑です。かなり酷いこととか……しちゃうので。また、囚人全員への告知ですが、特定ができなかった場合は全員処刑とします。私としても仕事が増えるので避けたいんですが、もともと皆さんは、危険人物としてとらえられているので……。」
その発言に、ラウンジ内がどよめく。自分は殺していないのに殺されなければならないという状況がやってくる、そう考えるだけでもおぞましい。
「ただ……主が、いや……まぁこの牢屋敷側の気持ちとしては、そんなのはあまりにもかわいそうだと思っているんですよ。だから投票で確実に【魔女】だけを選んで、【魔女】だけを排除しましょう。全員処刑措置は、あくまで選出できなかったときにのみ、適用します。頑張って犯人を特定してくださいね……犯人を見つければ、生き残れるので……まあ、あの、前向きに楽しんでください。」
ゴクチョーはそう言って自分たちに捜査開始の合図を出した。期限は魔女裁判開始の鐘が鳴るまで。
みだりに死体に触れること以外は基本的にどこを調べても構わないらしい。
一方的な話を終えたゴクチョーは去っていった。
ラウンジを見渡してみると、全員が腹の中を探り合うように視線を交錯させていた。このような変な場所に連れてこられて数日、たった数日しかたっていないのだ。お互いのことを何も知らないのだから、信用できずとも無理はない。
やがて蓮見がラウンジの中央に立つ。それと同時に全員の注目は蓮見へと移っていった。
「こんな事態になってしまい、本当につらいと思うが……私は犯人を特定したいと思う。」
「賛成よ。私も、謂れのない理由で選ばれて死にたくなんてないもの。殺人事件の犯人を、きちんと【魔女】として裁いてもらうべきだと思うわ。」
蓮見の意見に賛同したのは宝生だった。みんなもおおむね同じ意見なのだろう。
蓮見がそのままラウンジを出ていこうとしたその時、桜羽が彼女を引き留めた。
「ま、待ってレイアちゃん!誰が犯人かわかったら、それでその子を処刑させるの!?」
その言葉に、蓮見がひどくつらそうな顔をして続けた。
相当つらそうな顔をしているが、嘘だろう。見ればわかる。こいつが犯人かどうかはさておき、処刑される人のことを何も考えていない。自分が助かればそれでいいのか、はたまた別の理由なのか。蓮見の冷酷な部分が垣間見えた気がして、自分の嘘かどうかわかるという特技を呪った。知らなくてもいいこと、というのはこういうことを言うのだろう。
詐欺師をしていた以上、勝手に身についた能力だ。ある程度はしょうがないとしても、こんな特技、ないほうがいいに決まっている。知らなくてもいいこと、というのはこういうことを言うのだろう。
「みんなを助けるためだ。疑わしい人物も、目星がついている。」
そう言った蓮見の視線は、遠野へと向けられていた。
「遠野ハンナ―――――。君が城ヶ崎ノアを殺したんじゃないのか?まだしっかりとは調べていないが、現場には足跡が残っていなかった。つまり……浮ける魔法を持つ君が犯行に及んだんじゃないか?」
その蓮見の意見はごもっともな意見だとは思うが、それ以上に怪しいことがあるだろ、と思いつつ蓮見へ反論をしておく。
「……蓮見の言ってることもわかるが、現場に矢がある以上ラウンジのボウガンが使われたって思うのが自然じゃないか?城ヶ崎の死体発見前からどうやらなくなっていたらしいし、誰かが持ち出して使った可能性だってあるだろ?」
「……まあ、人がどう思うかはそれぞれだ。そう思うなら、君も捜査を進めたまえ。今夜にはすべてがはっきりする。」
蓮見はそう言ってラウンジを後にした。
遠野が泣きそうな目でこっちを見ていたが、バチコーンとウインクとグッドサインで返し、自分も捜査へ乗り出した。
♢♦♢♦♢
「まず最初はやっぱここだよな……。」
そう言って来たのは、殺害現場である城ヶ崎、夏目の監房であった。
城ヶ崎ノアの下には大きな蝶の羽が描かれており、その様子はさながら美しい妖精のようだった。もっとも、その蝶が血で描かれてなければ、という話だが。
「あら、奇遇ね。」
そういって自分の前に現れたのは宝生だった。やはり思考自体は似ているらしい。誰かに弄られる前に、一番大事な場所を見る。ゴクチョーが止めたとはいえ、誰かが死体の状況を改ざんする可能性だってある。そう考えたのだろう。
「宝生か……今回、誰がやったと思う。」
「それは、この間の取引に応じてくれるってことでいいのかしら?私の推理を聞くというのは、そういうことよ?」
「……そーかよ。じゃあ、いい。」
こいつと手を組むには、現段階で信用が足りてなさすぎる。実際に殺人事件が起きたのだ、特につるんでいる奴以外の信用度はゼロに等しい。宝生なんかはそれのいい例だ。
「あら残念……。わたし、これでもあなたのことは信頼しているのよ?少なくともあの子たちの中では。」
「……どーだかね。どっちでもいいけどな。」
そういって各々死体現場の操作に取り掛かる。
ある程度の検死も済ませて、大体の死亡時刻もわかった。おそらく、昨日の夜20~21時にかけての間で殺されたのだろう。
わかったことはいくつかあったが、特に気になったことがいくつかあった。
一つは床にあった大きな傷。おそらく、犯行の時についたものだろう。となると、犯人はボウガンを使わなかったことになる。ますます謎は深まるばかりだ。
もう一つは、血が蝶になっていること。誰かの魔法が死後も残り続けているのか、もしくはノア自身が何かをしたのか。
「なあ宝生……城ヶ崎の魔法って何だったんだ?」
「……。」
「それくらいはいいだろ……それともお前は蓮見や桜羽に同じことを聞かれてもなにもいわないのか?」
そういうと宝生はため息を一つつき、話してくれた。
「……彼女の魔法は、おそらく【液体操作】よ。もっとも、絵を描くことにしか使えなかったそうだけれど。」
「絵、か……。」
となると、おそらくこの血が蝶になっている現象はノアによるものなのだろう。となると、一つの疑問が頭の中に浮上する。
(なんで蝶を書いたんだ……?ダイイングメッセージ?いや、それにしては大きすぎる。犯人が気付けばすぐ消されると考えるはずだ。そこまで考えていなかった可能性もあるが、にしたってわかりづらすぎる。となると別の意味があった……?)
ここでずっと思考を巡らせているわけにもいかないので、一度監房ではなく別の場所へ調査にいくことにした。
♢♦♢♦♢
そうしてきたのはシャワールーム。理由は単純。城ヶ崎がほかに利用しそうな場所が思いつかなかったからだ。彼女を自分は最初の集合以来、本人の監房以外で見かけたことがない。
しばらく見ていると、桜羽、橘、遠野の三人がいることに気が付いた。
「やほ、なんか手掛かり見つけた?」
「あ、シュウ君……ううん、ここでは何も。」
「あ、あの、シュウさん。先ほどは……ありがとうございます。かばっていただいて……。」
ハンナが申し訳なさそうな顔でお礼を言ってきた。疑われたことが相当悔しかったのだろう。
「いや、遠野がそういうことするやつとは思ってないし……。それに、普通に考えてボウガンの可能性を疑うべきだろ最初は。庇ったとか、気にしなくていいから!!まじ!!」
「……それはそうとエマさん。シャワールームは何もなさそうですよ。どうします?出ますか?」
桜羽は何か気になっていることがあるのか、少し悩んでいる様子だった。
「どしたん?なんか気になることでもあるのか?」
「えっと……笑わないでほしいんだけど、ここに入ってからずっと……誰かに見られているような気がして……。」
「……まじ??」
そう聞き返すと、桜羽以外の二人はどうやら感じていなかったようだ。お互いに首を振る。当然、自分もそんなことは感じていない。誰からともなく、あたりを見回す。
「もしかして……シュウ君、カメラ仕掛けたりしました?」
「しねえよ!!俺そんな趣味ないからまじで!!!」
変な疑いをかけられたので、全力で否定をしておく。
もし覗きなんか疑われたらたまったものではない。魔女でなくとも、処刑されるのは目に見えている。
自分含めた四人は、その正体を解き明かすべくいったんあたりを調べることにした。
しばらく捜索していると、桜羽が鏡を見て青ざめているのを見た。
「どした桜羽……って、ほんとにどした??」
「あ、あそこに……て、手が……。」
鏡に目を向けると、そこには青白い手が二本伸びていた。明らかに人によるいたずらとかではないだろう。さすがに危なそうなので、桜羽を下がらせる。
(さすがに魔法使うか……あんま使いたくないんだけどな)
「……桜羽、さすがに
「え……?」
そういって桜羽は鏡をもう一度見る。すると、そこには先ほどまであった青白い手がなくなっていた。
彼女は相当驚いているのか、口をあんぐりとさせている。
「す、すごい……!シュウ君どうやったの!?」
「ん?なんもしてないよ。
「え……あ……そっか、気のせいだったのかな……?」
わざわざ言うことでもない。こういうのは何もなかったっていう風に収めるのが一番いい。
しばらくすると、桜羽も視線を感じていたのがなくなったということに気づき、気のせいだったということに落ち着いた。
♢♦♢♦♢
ほかの場所を見あさっているうちに、気づいたら魔女裁判開始の鐘が鳴っていた。
(もう始まるのか……正直、なんもわかってないけどやるしかないか……)
そう腹をくくり、裁判所の前に立った。今から自分が死ぬか、誰かを殺すかという話し合いをするのだ。
そう思うと、急に吐き気がしてきた。
「あら?大丈夫?」
「……宝生か。いや、大丈夫だ。ちょっと気持ち悪いだけ。」
「……そう、無理はしないでね。私、あなたには死んでほしくないもの♡」
そう冗談めかして言うと宝生は裁判所の中に入っていった。そのあとに続くように自分も中へ入る。
今から始まるのだ……魔女を処刑するための裁判が。今一度気合を入れて、裁判に臨む。
そんなことを考えていると、高い位置の手すりで羽休めをしているゴクチョーがしゃべり始めた。
「あのー……まずは魔女裁判のルールについて説明しますね。一時間の議論の後、犯人と思われる人物に各自の端末で投票してもらいます。投票で魔女に決められた人物は中央の台座へと連行……処刑執行になる、という感じです。」
説明を聞いていると、紫藤が口を開いた。
「一時間もいらねーよ。さっさと投票して終わらせろ!」
「まーまー落ち着けって。仮にも殺すための裁判なんだ、慎重になろうぜ。それともなんだ?自分が死ぬのか?ん?……人を殺すっていう責任が分からないなら、だまってろよ。お前。」
そういうと紫藤は口を閉ざした。
その後、ゴクチョーが一つため息をついて、しゃべり始めた。
「……そろそろいいですかね?それでは、魔女裁判開廷です!」
主人公の能力は一体何なんですかねぇ……笑
書いてても思いますけどまあまあきもい能力だなって思います。皆さんよければ予想してくださいね。