第一章2話~その1~
城ヶ崎ノアの殺人事件。蓮見レイアの壮絶な処刑。そして、唐突な黒部による発砲と知らされた黒幕の存在。
みんなの精神状態は火を見るより明らかだった。完全に疲弊しきっている。
「このバカげた殺人ゲームを仕込んでいる黒幕が私たちの中にいる。」
「私たちが魔女になっていくのを誘導し、近くで見て、楽しんでいる奴がいる。」
「そいつが、真の牢屋敷の管理者よ。」
彼女は銃を構えたまま、淡々と話し続けた。
やがてその銃口は降ろされたものの、彼女の刺すような目はいまだ自分たちのことを捉え続けていた。
「もう誰かは予測がついてる。おとなしく名乗り出たら。」
「私はあなたを、決して許さない。」
彼女はどこか縋るような声色で、そう自分たちに語り掛けてきた。本当に目星はついているのだろう。自信にあふれたような目をしている。
自分たちの中に、裏切り者がいる。
その事実は、自分含めた全員に混乱を与えるには十分すぎる内容だった。
「なんで黒部は、そんなこと知ってるんだ?」
自分も相当動揺しているのだろう。普通にしゃべるつもりだったのに、声が震えすぎている。
黒部は仕方ない、といった表情で話し始める。
「これに関しては、信じてもらうしかないけど……私の魔法は【幻視】なの。」
「幻視……?」
桜羽がどういうものかわかっていない、というような何とも言えない表情をしていた。あの議論の時の桜羽はどこに行ったのか。見る影もない。
「その人自身や思いの詰まったものに触れると、対象の過去や未来が映像として視えるときがある。……この銃も、かつて牢屋敷にとらわれた囚人が作成し、隠していたことを見て、ここに捕まってすぐ回収した。装填数は6発。1日1発自動で銃弾が装填される仕組みよ。」
「なるほど。殺し合いが起きるかもしれない中、あなただけ最初から銃を携帯していた辻褄は合うわね……。レイピアはまだしも、銃はアンフェアだと思ってたの。」
「なるほど!そうなると、ナノカさんは魔法で黒幕がいることが分かったと?」
宝生、橘の二人が唯一といっていいほど憔悴していない。
やはりズレている奴らは、人が死ぬ程度のことだと何とも思わないのだろうか。自分も裏社会に触れてきた人間だ。ある程度の耐性はあれども、なかなかにきついものはある。
しばらく自分の世界に入っていると、視界の隅っこで銃を構えなおす黒部の姿が映り込み、現実に引き戻された。
「あなたは【佐伯ミリア】の体を奪い、ここにいるんでしょう?」
まずい。明らかに重い空気なのに何も話を聞いていなかった。
状況から察するに佐伯の体を誰かが奪っていて、そいつが黒幕なんじゃないかと黒部はにらんでいるようだ。
黒部は銃を構えたまま、自分の魔法で見た佐伯の過去を語りだす。
―――――君は、手をつないだだけで入れ替わることができるんだろう?
―――――その話が本当なら、ぜひおじさんに君の体を譲ってほしい!
―――――一度でいいから、女の子になるのが夢だったんだよねぇ!
自分のことをおじさん、と呼ぶ男は泣き叫んでいる佐伯の腕をつかみ無理やり入れ替わったとのことらしい。
黒部の語った過去は、もう何度目かもわからない混乱を全員に与えていた。各々いろいろな反応を示している。もっとも、その大半はドン引きしているが。
早い話、佐伯の中身は男であり、大人であり、黒幕であると。そう黒部は自分たちへ言い続けていた。
それが真実なのか、ただの欺瞞なのか。黒部と過ごした時間があまりにも短い俺にはわかるようなことではなかった。
「え、あ、ち、違うんだよ……?」
「ナノカさんが嘘をついていると?あなたは本当に佐伯ミリアさんなのでしょうか?」
「そ、そうだよ……?おじさんはほんとの佐伯ミリアだよ?」
口ではそう言っていても、誰も彼女のことを信じない。ただ唯一、俺を除いて。
彼―――いや、彼女は嘘をついている目をしていない。自分が本当のことを言っているという目だ。
しかし、嘘を言っている可能性も否定できないのが事実だ。本人が自分は佐伯ミリアだ。何が何だろうと佐伯ミリアだ。そう盲目的に信じている場合、それは彼女の中では真実になってしまう。本人の中だと、嘘をついてないという事実だけが残るのだ。ウソ発見器と同じように、それではウソかどうかが見わけを付けられない。
彼女が本当に佐伯ミリアなのか……そんなことを考えているうちに、黒部がまた喋り始めた。
「黒幕は私たちを弄んで苦しめて―――全員を、異形の魔女にすることを目的としている。それが、唯一ここで大人の、あなたなんでしょう?」
確かに、この牢屋敷の説明を受けたときは少なくとも魔女化しないに越したことはない、といったような説明だった。
しかし、蓮見の処刑を見て断言できる。この牢屋敷は、明らかに魔女化のために自分たちのことを追い詰めている。蓮見の処刑方法は、少なくとも彼女の中では一番残酷な方法だっただろう。見られることが最大の幸福である彼女は、誰にも見られず静かに死んでいくことに耐えられない……そんなわかりきっていることなのに、ゴクチョーはあの方法を選んだ。
しばらくは、あの処刑が頭から離れることはないのだろうとつくづく感じる。
「だから違うって!これにはいろいろ複雑な事情があって……。決して黒幕なんかじゃないから!信じて!!」
「少女のふりをして混ざっていたあなたを、信じられると思う?……この茶番を終わらせるために、あなたには死んでもらう。」
「そんな―――!」
しかし、佐伯の前に一人の人影が現れた。氷上だ。
氷上は佐伯の前で両手を広げ、明らかに守ろうとしている。
「だ、だめですぅ……!も、もうこれ以上、誰かにひどいことをするのはやめてくださいぃ……!」
「そうだ……!お前さっきから冷静じゃないんだよ!きっと蓮見とか城ヶ崎のことで疲れてるだけなんだよ、一回頭冷やそうぜ?な??」
自分も氷上、佐伯の前に立ち、銃を撃たせないよう説得しようとする。
しかし、その抵抗むなしく黒部は銃の引き金に指をさしかける。
自分もさすがに撃たれたらまずいので、保険として魔法を使う。
「落ち着けよ!!こんまま俺に撃っても、俺は
黒部は決意が固まりきっているのか、指先に力を籠めた。
―――――しかし、銃が発砲されると同時に大きな地震のような揺れが起きた。最初こそ小さな揺れがあるとは感じていたものの、いつの間にかそれは大きな地震といっても差し支えないほどの揺れが裁判所内を包んでいた。
しかし不幸にもその銃弾はまっすぐ俺のほうへと飛んできた。その弾丸が、自身の胸を貫く。
「あ、あぁ……なんで、なんで……!」
氷上が魔法で治療をしてくれている。
みんなも黒部の発砲によって重傷を負った俺のほうの心配をしていて、地震に関しては気にも留めていないらしい。
氷上が泣きながら治療をしてる中、自分は平然とした顔で立ち上がった。
「だ、だめです!安静にしてください!!」
「ん……?あぁ、大丈夫だよ傷は。ほらみてみ。」
「「……え!?」」
そういって上着の下にあるTシャツをたくし上げ、胸のあたりを見せる。
するとそこには、最初から何もなかったかのような状態の健康的な胸板があった。
氷上と佐伯が同じ反応をするものだから、少しくすっと笑ってしまった。二人とも本気で心配してくれていたのだろう。涙で顔がぐちゃぐちゃになっている。
「な、なんで……!おじさんをかばって、打たれたはずじゃ……!」
「……魔法だよ。実は俺も、魔法嘘ついてたんよね。」
そういって、自分は本来の魔法を打ち明ける。
「俺の魔法は……【錯覚】だよ。」
「錯覚?」
桜羽がよくわからないといったような顔で問いかけてくる。
当然だろう。自分も錯覚の魔法を使うなんて説明されても意味が分からない。
「んー……例えばさっきの銃弾。俺痛くも痒くもないって言ったじゃん?そこで【錯覚】の魔法を使った。まあ簡単に言うと自分の思い込みが現実に影響する魔法……みたいな?強く思い込まないと魔法は発動しないけど。まあ……ある意味言霊に近いのかな?」
「すごいですわね……その魔法。それよりあなた、ほんとに傷大丈夫なんですの?」
「だーかーらー大丈夫だって言ってんじゃん。傷も元からないんだし、血も出てないでしょ??」
みんなの反応はそれぞれだった。
氷上と佐伯はずっとよかったよかったって泣いてるし桜羽とか橘は魔法についてめっちゃ聞いてくるし……宝生に至ってはなんかずっとニヤニヤしてて怖かった。
しばらくすると、黒部がこっちに近づいてきた。
「……ごめんなさい。冷静じゃなかったわ。危うく、無関係のあなたまで殺してしまうところだった。……次は、仕留める。」
そういって黒部はまた佐伯に銃口を向けた。
また止めようとしたとき、突如羽ばたき音が聞こえ、全員が天を見上げる。
「やれやれ……かわいいゴクチョーを撃つだなんて、ひどいことしないでください。今回は初めての魔女裁判後で錯乱していたということで見逃しますが……本来は処刑ものですからね?」
ゴクチョーはそう言うと監房に戻るように指示してきた。
先ほどの揺れはゴクチョーによると処刑執行後に起きるものらしい。危険なものではなく、本当にただ揺れているだけなので安心しろとのことだった。
しばらく全員がポカンとしていると、ゴクチョーがまた口を開いた。
「あの、外出禁止時間なので、戻らないと懲罰房行きになっちゃいますよ……?」
その言葉に反応するように、静止し続けていた看守が動き始めた。
毎回ゴクチョーの命令に従っているあたり、本当に魔女のなれはてであり、洗脳された成れの果てでもあるのだろうということを感じさせられる。
自分も魔女化してしばらくするとこうなるのだろうかと考えると、背筋が震えた。
「ひぃっ!やばばばば。あてぃし関係ねーし、部屋に戻るからね!」
「……チッ、邪魔が入った。でも私は諦めない。必ずあなたを殺すわ。」
沢渡は脱兎のごとく去っていき、黒部は佐伯へ向けていたライフルの銃口をおろし、彼女へ殺すと吐き捨ててから裁判所を去った。ほかの人たちもそれに続くようにぞろぞろと裁判所から出ていく。
唯一いまだ動けていない佐伯のほうを見ると、顔を青くして何かぶつぶつと言い続けていた。何を言っているかまでは判別できないが、あの顔は明らかに黒幕のする顔ではなさそうに見えた。もっとも、それですら演技の可能性だってあるが。
♢♦♢♦♢
「……なんか、ちょっと悲しいな。」
「……そうですね。」
監房に戻って最初に話した一言は、それだった。
心なしか氷上も結構元気がなさそうだ。それはそうだ、自分の周りのいい人だと思った人が実はやばい奴で、しかもそのまま死んでしまうという壮絶な体験を1日でしたのだ。無理もない。
しばらくすると、また氷上が口を開いた。
「あの……シュウ君はなんで議論で魔法を使っていなかったんですか?つ、使っていたらもっと楽に済んでいましたよね……?」
氷上は自分に疑問を投げかけてきた。当たり前の質問だろう。ただ、自分はその質問にどう答えるか少し悩んだ。
嘘をつくこと自体は簡単だ。錯覚の魔法で相手が自分の言葉を本当だと思うように錯覚させればいい。だが、自分はそうしなかった。
「いや、使ったは使ったよ?ほぼ使ってないようなものだけど……。俺さ、あんまりこの魔法使いたくないんだよね。あんまりいい魔法って思わないっていうかさ?実際なんか裏社会の人間が使ってそうな魔法じゃん?いやまあ俺も若干足突っ込んでたからなんも言えないけど。……まあそんなとこだ、議論で使わない理由は。あとは、冤罪起きたら厄介だしな。」
すると、氷上はどこか納得したような表情で俺に向かって言ってきた。
「なるほど……シュウ君は優しいんですね。」
「……はぁ!?」
氷上の言葉に思わず大声を出してしまった。
いや世の中の男子諸君ならわかってくれるはずだ。彼女がいない男がかわいい女の子に褒められた時の気持ちが。
変なことを考えていると、氷上は続けてしゃべりだした。
「だってそうじゃないですか。……ほかの人のために自分が助かる簡単な道より、ほかの人がよりいいほうを選ぶ。……優しいと思いますよ。」
氷上さんがまぶしい。
ほんとにまぶしい。今なら観音様にしか見えない。
少し恥ずかしくなってしまい、今日はもう寝ようと切り出してお互い寝ることにした。
♢♦♢♦♢
「はあッ……はあッ……。」
氷上が寝静まった夜、自分はベットの上でもがき苦しんでいた。
「くそが……。」
自分の手を見ると、指先から指の第二関節くらいまで透け始めていた。
これが、自分が魔法を使いたくなかった本当の理由。反動だ。
自分がどうやら錯覚させたものの存在感の分だけ、自分の存在が消えていくらしい。たまにつく軽いウソくらいならそこまで
「今日は使いすぎたな……明日はセーブしよう。」
そういって今日の俺は処刑することになってしまった蓮見のことを思いながら眠りにつくのだった。
主人公の魔法、強いって言ったでしょ??
反動があるからまあトントンかもしれないとはいえ、だいぶチートっすよねぇ……
本人はもっとまともな魔法がよかったらしいです。