当然万魔殿は仕事をしている以上、その効果を確認して運営に反映する義務がある。
「週刊万魔殿の反響に、最近始めたモモトークライブの確認か」
マコトはパソコンの前で見ている。
「週刊の方は普通だな。クリスマス明けでやるイブキの彫刻大会に向けてエントリーが開始され、今は総勢20チーム、うん、予想通りだな。他は……まあ大体いつも通りか」
安定した運営を続けているチアキに敬意を表そう、何しろこういったオールドメディアを長く続けられるのはなかなかの手腕だ。ネット記事の方に手を出せば無類の強さを発揮できるが、はて提案したところでやってくれるだろうか。
要望も確認しよう。今回はそんなにない。
『最近は外交の方で大きな動きがあるのでしばらくはコラムでどういう狙いかを書いて欲しい』
『アリウスの社会進出が活発化しているのでそっちの動向を強く捉えてほしい』
チアキは作っているが、当然出せる情報と出せない情報がある。
政治観点から仕方ないが、理由は説明できる分は説明しよう。
要望その1。
『いつもご愛読ありがとう、羽沼マコトだ。昨今の急速な学園間交流の巨大化も大きいので、政治を注視するなど学園生徒としての民主主義の務めを果たしてくれていることに感謝する。こちらとしては明確にお伝えしていければと思うものの、どれも今話し合いの段階で止まっているためコラムとして書くのは難しい状態だ。それは純粋にこうしたい、を書いた後に諸般の事情で叶わなかった場合も含めての不満・トラブルは止めづらく、相手側に迷惑をかける。ゆえにそう言ったコラムを作ることはしばらく避けたい。大きなプロジェクトが決定した上での経過報告では作るので、今はまだ上記の理由で納得してくれ』
こんな長い文章でも、パソコンであれば自由に書き直したり出来るのがありがたい。昔の生徒達は苦労したものだ、と思いつつ二つ目も返そう。
『いつもご愛読ありがとう。アリウスの件に関しては不安を覚えるのは当たり前で、トリニティだけでなくこちらでも動向を掴みやすいようにシャーレからトリニティに掛け合っている。この前私も襲われたのもあって、早急にアリウスないし外部者の監視をしやすいシステムをミレニアムに協力してもらい製作中だ。完全な出入りを禁止にしてもいいのだが、経済損失が大きすぎるのとシャーレの名の下に強硬策が取れないのも含めてすぐには対策を出せないのは確か。今回からはそんな中でも目撃情報、とりわけ武装組織がいるであろうという場所のマークや注意喚起を載せるように直々に頼んでおいた。しかし、これを元に差別的な発言ないし暴力行為をしないよう強くお願いしよう。下手に刺激しないほうがいいからな』
最後にちゃんとした注意をしたため、終わった。
あとは大体普通の感想だったので、作っているチアキに任せよう。そのほうが喜ぶ。
順調なのは理解した。このまま頑張ってもらおう。
マコトは次の確認に移行した。
「で、次はライブか」
万魔殿は最近、モモトークのライブをやり始めている。
分かりやすいソーシャルメディアでの親近感ないし近くに感じてもらう事で必要な時にゲヘナの政治に集まりやすくするための支持率の向上を目指してやっているものだ。
最近一番見られたのはみんなで行ったカラオケの配信。
行ったところでは楽器での演奏もできるというちょっとした豪華仕様であり、少し高い価格に目を瞑ればスタジオっぽくも扱えるカラオケ。場所も広くしてあるからか、お祭り騒ぎをしてもいい。
新しくできたそのカラオケ店の宣伝がてら楽しく歌ったのである。
「確かコメント返信コーナーを設けて、各位返す予定だったな」
コメントをチェックしている。
アンチコメントなどは早めに排除、というよりもモモトークが子供達が多く使うことを想定して高性能AIでのチェックと確認する必要がない限り自動非表示を行なっているためにいいコメントや質問コメントで溢れていた。
「うんうん、イブキが多めだが大体は普通のコメントだな」
質問の方をまとめると、自分に対するものでもかなり多かったようだ。
『マコト議長はロック系が好きなんですね。どう言ったバンドが好きですか?』
これは答えやすいな、と思った彼女は返事を書くことにした。
『ロックに限らずかっこいいものがとても好きだ。今回の配信ではみんなに平等な時間分配にするべくFear, and Lothing in Las Vegasをメインに組んだが、海外系だとやはりLed Zeppelinとかはいいよな。まあベガスに関しては我儘で謎ダンスもしっかり再現してもらったが、イブキとイロハが可愛すぎたな』
これで一つ。
そして二つ目。
『みんなギターとかそういうのが弾けたのって意外。どこかで練習してたり?』
これも返そう。
『イブキが言い始めたことで、自分たちで何か弾けてたりすると楽しいという提案から始まった。ただ言い始めた当人ないしイロハはちょっと身長の問題で調整が面倒なので、ギターとドラムの練習はそれ以外のメンバーが担当。二人にはキーボードなどを担当してもらった。ただ、イブキが少し不満そうだったので彼女に多く歌わせることで解決。かっこいい曲、歌えたらすごい曲に関しては先生に頼んで用意してもらったぞ。楽しく聞いていただけてたら幸いだ』
マコトが選んでいいと言われて迷わず選んだUntil You Die Out、先生がチョイスしたVisions*1、他にもいくつかイロハとのデュエット曲を用意したそうだ。
売り上げが大変なことになっているため連邦生徒会への申告がとても大変……なのは置いといて、自分が提案して、それがうまく行ったイブキがどれだけ嬉しいかは計り知れない。
さて、最後。
『イブキ様のバイオレンストリガー最高!錠剤もいい!でも万魔殿のメンバー的にいいんスかこれで』
ゲヘナはルール無用。
しかしこういうのはちゃんと綺麗に返しておいたほうが遺恨が残らない。
なので返そう。
『イブキは12歳だが私が助かるくらいの頭脳はあるし、万魔殿での立ち回りもちゃんと出来ているので純粋にリズムに乗れるかつゲヘナの生徒らしい選曲なのでこのマコト様的には問題ないと思っている。安易にエロティシズムに迎合することさえなければ、多少の血生臭さはこの学園では日常茶飯事だからな。それは自然と覚えることだ、安心してほしい……と思っているぞ』
どこの誰かも分からないが、イブキが幼いのは事実で、それゆえに選曲センスにすら危惧したり……は正直何の権利があって、と思わなくはないが気持ちは分かる。
でも、ずっと触れないで育つことはできない。それにイブキは弱くない。人の繋がりは、そういった秩序に反する様なものを娯楽として受け入れられ、その上で楽しめるものを増やして人生を豊かにする。逆に、人との繋がりが薄いやつほど過激な娯楽も主張もさして吟味せず、本気で取ることを知っている。
イブキはそんなにヤワでも俗でもない、というのを信じてほしいという本心でちゃんと返信を書き切った。親愛なるゲヘナ生徒のために。
「よし、これで書き終わったな」
他のコメントも見たが、大体は普通に楽しかったとかこれ好き!と言ったコメント。
自分がこれ以上やることもない、他のメンバーが返したほうが面白そうなコメントは残して返信コーナー用の用意は完了した。
時間は12時。
「よし、食べに行くか」
昼飯が彼女を呼んでいる。
パソコンを閉じ、貴重品を持って立ち上がり事務所を後に。
もうすぐ年明けか。
部屋の外の空気を吸うと、そんな自覚も芽生えてきた様だった。