今日は買い出しに来ていた。
他のメンバーは仕事が押しているが、自分はそうでもない。書類仕事を手伝うのが一番だと思って各メンバーに手伝いを申し出たが、全員揃って『代わりにパーティー準備して!』と言われてしまったので結果として買い出しを担当。
いつもとは違い強く言われてしまい、イブキでさえも強気だったので下がるしかなく、彼女は一人でスーパーに来たのだった。
「ふう、大変だな」
「おお!マコト議長!」
声をかけられた。
「やあ、こんにちは。どうかしたか?」
話しかけたのは店員、アルバイトの生徒ではなく精肉部門の猫だ。
「今日はクリスマスなので色々特価で売ってるんですよ〜。今日はクリスマスパーティーですか、万魔殿の方と?」
「ああ、そうだ。今日はその準備を任されたから買い出しに来たんだ。もっとも軽く肉を買って、ケーキを買って、野菜を買って……ああ、あとはフランスパンも買う予定だ」
「ワインは?」
「あのなあ、私たちはこれでも未成年だぞ」
「おっとそうでしたね〜。あ、そうだ。今丁度いいものが入ったんですよ」
どうやら見せたいものがあるらしい。
彼女はそれに従いついていくことにした。
「これです!」
「おお」
少し歩くと、売り場の方に捌かれた七面鳥が。
「これ先ほど入荷したんですよね……と言っても発注ミスで、偶然の産物なんですけど」
「発注ミス、とは」
店員は話す。
基本的にフードロス削減、かつそのまま売るには客側に制約がある七面鳥は基本的に注文販売の形をとることになっているようだ。環境で見れば当たり前だし、そもそも学生一人暮らしで七面鳥捌いて焼いたりなどはしない。
だが、発注担当が今回予約数よりも多めに入れてしまったらしい。
「だからちょっと安めで売ってるんですねえ。いくつかは捌いて部位ごとに売る予定なんですが、さっき来たばかりだから全部捌いてなくて。もし良ければ、と」
「うーん」
「いかがです?」
「まあ、私が捌くかそのまま焼いて切り分けるのもできるしな。買うか」
「本当ですか!?」
万魔殿はゲヘナ最高組織である以上、専用のプライベートエリアがある。
彼女らだけが使える別荘みたいなところは近いし、何より色んな器具が全部揃っているのだ。当然大きめのオーブンも完備。
少し焼き方を調べてから焼く、最悪入らなくてもマコトも切るだけならできる。
なので買うに踏み切ったようだ。
「で、どうするんだ」
「そのままカゴに入れて……ここで肉だけは精算を済ませられますよ」
「じゃあ」
スマホをつけずにタッチすると、素早く精算が終わる。
急いでビニールを重ねて肉を入れた店員は、そのままカゴに入れた。流石にたくさん入れる前提だったのでマコトはカートを使ってたらしい。
「ありがとうございます。いいクリスマスを」
「ありがとう。そちらもな」
「はい!」
憂いごとが一つ無くなったのはいいことらしい、店員にも素敵なクリスマスがあるようにと軽く願いながら歩き始めた。
あと買うのは野菜。
とはいえ青果コーナーでは特に何もなし。
軽くトマト、レタス、パセリ、あとはサラダ玉ねぎに……ある程度のフルーツも入れた。葡萄などもある程度分けて出すとそこそこいい賑わいになる。
あとはパンか。
バゲットを2本買うことにしよう。
パンのコーナーに出ると、思ったよりも空いていた。それでも多い方ではあるが。
「いらっしゃいませ……あ、マコト議長!」
「お邪魔するぞ」
店員に挨拶して、軽く世間話。
「何かご入用で?」
「バゲットを2本、買おうと思ってな。パーティー用に」
「奥の方にありますよ、包装済みです」
「ああ、ありがとう」
言われた通りに、バゲットを取ってカゴに入れる。
「にしてもお一人で買い物とは珍しいですね、お時間にしても」
「みんなが買ってこい、と言って聞かなかったんだ。私の仕事は片付いてるが他のメンバーが片付いてないのもあるし、手伝おうと思ったら拒否されてしまってな。どうしてもと言うからこうして準備しているんだ。買い終わったらプライベートルームに一回向かう」
「あらあ、大変ですね」
「料理まで仕込んでおかないと大変だからな」
実際仕込みというものはそうそう簡単に出来るものでもない。
下味をつけるための漬け込みにしろ、その前の下準備にしろ……ともかく来てから少し料理して食べれるようにしておくのが一番だろう。全部が全部一人でやるような組織でもないので、誰かとわいわいしながらを望む、特にイブキがそう。
「一応やること終わったら、すぐに仕事に戻るつもりでいる」
「ん〜、戻らなくてもいいんじゃないんです?」
「は?」
急に不義理なこと言われると、戸惑うマコト。
だが、パンコーナーの店員は笑顔で話した。
「ほぼ外野の話なので聞き流してもらって構わないのですけどね。そもそも頼りやすいからゲヘナは雷帝から後、つまりマコト議長の代からめちゃくちゃアットホームになってるわけです。頼らないなんてことあります?」
「いや、それはない。極力聞いているし、実際引き受けてることもしばしばある」
「それが今日いきなり買い出し行ってこい!しかも一人で!買い出しだって一人じゃ大変で、時間が掛かる。其処がミソなんです」
「ほう?」
言われてる方は首を傾げたまま。
「そもそも最近マコト議長はトリニティとの話を終わらせて、色々な計画を実行するまで漕ぎ着けたではないですか。ニュースにもなってましたし。それを労わりたい、と考えるのも無理はありません」
「それは直接言えばいい事ではないのか?」
「この世の中には建前というものがあります」
店員は笑顔で返す。
「休ませたいから休ませる、が出来たらそもそもその人間社会は軋轢まみれではないのです。しかし、その潤滑油を担当するのが建前なのですよ。あなたを外出させ、パーティーの用意をさせる。普通の人間だったら娯楽ですが、貴方がやれば立派な政治活動です。特に最近、議長が色々引き受けてくれるおかげでみんなが少しずつ楽になっている。貴女の直接の部下だって働いている、十分ではありませんか。クリスマスはこう過ごす、というお手本のために頑張る……素晴らしい事です」
裏を返せば”そんな回りくどいことをしてでも休ませたい”という意図がある、と店員は話した。
なんとなく理解できたマコトは頷く。
「貴女は大丈夫でも、体にはやはり適度な休憩が必要です。ショッピングは人を豊かにする、それは明確な楽しみを視界から理解しやすい。それらを以て、彼女らは休んでいただきたいと思っているのです。仮に今大変な作業量があって大変だったとしても、あれだけ強く言った手前引き下がるなんてやわな事はしない。分かりますね?」
「……本気で私に休んでほしい、せめて少しだけでも仕事から離れられるズル休みをしてほしい。と、言ったところか?」
「ズルどころか最近働き詰めだったから、少しでも休みを取り戻してほしいと言ったところでしょう」
「_____私はいい仲間に巡り会えたな」
最近ワーカーホリック気味だったマコトは、少しだけ気が抜けたようだ。
「じゃあ、ありがたく休んだほうがいいのか」
「心配であればパソコンで遠隔から引き受けれるものだけでもやる、も出来ますからね。離れていても繋がっている、というのは大きいですよ」
「助言ありがとう、このマコト様、半日休暇を楽しむとしよう」
「では」
相手は、そのままメロンパンを差し出した。
「何かお菓子パンをいくつか、買っていただけます?安いですよ」
「商魂たくましいな」
「甘いものは、よく効きますよ。特に働き者には良薬よりも効き目がいい」
「ふ、では礼に買おう」
「毎度あり」
パンもその場で決済。
メロンパン、チョコクロワッサンもバゲットに追加して買った。
「では、失礼しよう」
「ありがとうございました、またお越しください」
「ああ」
そうしてマコトは、また大型スーパーを彷徨う。
調味料も色々用意しなければならないし、なんなら時間があればお礼に手作りケーキを作れるかもしれない。
マコト様の買い出しと称された半日休暇は、ベルの音から色づいた。