いつも通りの大晦日、というイベントにいつもと名のつくような日常。
年越しはいつになっても楽しみであり、それは誰も変わらない。
「ふう、中々買い込んだな」
餅に色々、頼んでいたオードブルも受けとって帰る途中。
寮にはそろそろ戻れる距離だ。
「あ、マコト」
「先生」
買い物を補助するカートを使いながら、マコトは先生に近寄る。
「今日はもうシャーレでゆっくりしてるものだと思っていたが」
「他のところは年末挨拶は出来てたんだけどゲヘナをやらかしかけたからねえ、電話口でごめんっていうのも違うかなって」
「みんな喜ぶとはいえ軽くでいいとは言っていたが」
「万魔殿のみんなへの挨拶はしてないからね、それは不平等だよね」
「そうだな」
二人は話しながら歩き出す。
「で、今日はどこで新年を迎えるつもりだ?」
「シャーレだよ。流石にどこかの学園で迎えるってなると新年から大変になっちゃうからね、三が日くらいゆっくりしたくない?」
「キキ、そうだな」
雪景色は変わらないのに、最後の年末となると景色が中々ドキドキするものだ。
「そういえば忍者と極道終わっちゃったねえ」
「悲しいな。いや、周りからは漫画も読めよと言われてるから読もうと思っているが時間がな」
「わかる〜。幡随院めっちゃかっこいいらしいよ」
「楽しみだよな、アニメだとほとんど見てないから」
話が弾んでいる。
この先生はサブカル系列が大好きらしい。
「そういえばこの前ひっさびさに連絡取れた知り合いとイントロクイズしたんだ」
「どんな?」
「スーパー戦隊のOPイントロクイズ!先5で!」
「随分と分かりそうなものだな。それで?」
先生大興奮。
「大体がダイナマン!とかジャッカー…とかジュウレンジャーとか必ずサビ終わるまで自己申告するもんだからほんと笑っちゃってさ」
「出だしから分かるやつはタイムレンジャーとかあるとか何とか」
「マコトも知ってるの!?」
「ほらちょっと前に、英語が出てきたら___ってあっただろ?それの副産物だ。私はあんまり特撮に縁はないからな」
「見たら楽しいって!」
「時間があったらな」
「そういう時って基本見ないじゃん!」
「忍者と極道は見ただろう?」
友人のような距離感で、二人は話しながら進む。
「ああ、あと時間あるからってTRPGもやったぞ」
「TRPG……シノビガミ、ソードワールド、あとクトゥルフ……レッドドラゴンもか?」
「レッドドラゴン出てくるのはすごい……けど、あれは普通の人がプレイできないやつだったよ確か。知ってたんだ」
「東離劍遊紀だったな、去年一応山海経との交流の一環で布袋劇というものに興味を持ってな。見やすいものを見て全部見た。二部のラスボスが確かそれ関連とも聞いた、ロー・チェンシーと言った方がいいか?」
「作品に倣うなら
「アニメとかも見るようになったのも話題に少し困らないようにするための措置でもあるな。まあ、仕事が忙しくてあんまり見れてないが」
「心を癒してくれる手っ取り早くて強い手段だよ、アニメはね」
周りの人たちも二人を見てる。
そこに好奇はない。純粋に楽しそうなのもそうだが、なにしろそこに性欲らしきものを感じない。
「そういえばこの荷物って全部三が日用なの?」
「そうだが。なんだ、食べたいのか?」
「大人だから自分の分は自分で買うさ」
「しっかりしてるな」
「で、話を戻そうか。クトゥルフと言ったな?」
「そうそう」
先生は話を戻して続けた。
「最近のトレンドで上がってきたシェスカント風のクトゥルフをしようって言って色々考えた結果、NPC含む曲会話縛りをしようって話になったんだ」
「シナリオは?」
「エモシで有名な『デウスエクスマキナは死んだ』ってやつ」
「ああ、話だけは聞いたことがある。トリニティの鳥どもが好きそうな」
「偏見はよくないよ〜。で、五人だから自分ともう一人が観戦に回って見てたんだけどまあ面白くって!」
笑ってる彼は、若干の気持ち悪さがある。笑いすぎてニワトリのような笑い方しか出来ていない。
「本当に笑いっぱなしでさ!だって部屋から出ないNPCが飛び出していけとか、ビームみたいなことしか言わないIRIS OUTとかさ、その相棒が革命でもう腹がちぎれそうで、あはは」
「随分とお楽しみだったようだな」
「いや本当に楽しかったよ」
話をしていると、どうやらゲヘナ寮に入ったようだ。
男が乱入して大丈夫なものかは考えものだが、問題ないらしい。
万魔殿のところに連れてきた賓客ということで話を通し、事実いつの間にか先生は溢れ出しそうな荷物は持っていたのか手伝いですんなり入ることが許された。
「そういえば夕方からはどうやって過ごすの?」
「普通に歌合戦とか見ようかと思っているし、もしつまんなさそうなら別の番組や動画でも見る予定だ。みんなと一緒にな。映画とかも面白いだろう」
「いいねえ、楽しそう」
「先生は?」
「少ししたら寝ちゃうかな、鐘の音を拝みに行ったり、その後でシャドバとか麻雀とかする予定だ」
「充実しているじゃないか」
「年初めはいろんなことをやりたいからね!」
先生のウインクが、何とも無邪気でまあ可愛らしい。
「ああ、そういえば辿り着く前に聞いておきたいことがあってさ」
「なんだ?」
「マコトは今年、やり残したことがあったりする?」
「ないな」
「すごいね」
「先生は?」
「ないかも」
「似たもの同士だな」
先生は常にスケジュール管理と仕事に追われていたからこそ、ちゃんと休めるように組んでいる。そうできるということは、つまりやり残しはなく新年を迎えられると言っていい。
マコトも同じようなものだ。
彼女は今年色々した。トリニティ関連のものもそうであるが、他の学園との交流調整や、すでに始まった学園間のイベントの視察・潜入もやった。
来年のゲヘナをもっと豊かにするような、そんな糧を何度も蓄える年だったと自覚している。
「来年が早くきてくれと、楽しみでしょうがないんだよ。私は何度も、心の中でそう唱えては最近眠っていた」
「いいな、悪魔の純粋な未来の願い」
「邪だと思うか?」
「まさか!夢も未来も、みんなのものだよ!素晴らしいじゃないか!」
今年はどんな年だったかを振り返るとき、人は一時間もあれば足りると言うだろう。
だけど、思い返せば思い返すだけ、段々それが足りなくなって、語っていればいつの間にか除夜の鐘を聞いているのもしばしば。
「だからあまり体に障るようなことはしないようにね」
「分かった、約束しよう」
さて、そう言ってると万魔殿のルームにたどり着く。
「あ、先生だ!」
イブキの声でみんな集まってくる。
「みんな、先生が来たぞ」
「あら!年始に挨拶来るまで見ないものだと思っていたから、驚いちゃった」
「遅いですよ、先生」
「あはは、ごめんごめん」
みんなが先生に群がり、その間にマコトはキッチンの方へ向かって色々食材を冷蔵庫に入れていく。
「今日は結構騒がしくなりそうだな」
そう微笑む彼女は、綺麗なキッチンのそばにある写真を見る。
みんなで撮った写真だ、額縁と共に日常へ溶け込んでいる。
「……来年もこうしたいものだな」
微笑む彼女は、ある種の親心……と言うべき大人な心が見える。
年の瀬には、誰かに必ず言う言葉がある。
それは『後悔しないように今年を過ごしきれるように』という意味であり『いい来年を迎えられますように』という意味でもある。
ゆえ、彼女はいつも通り言うのだろう。
そして、自分の活動期にも書き記す。
良いお年を。