「あけましておめでとう」
そんな一言から始まったのはマコト様の元旦配信である。
色々な抱負とかやりたい事とかをひとしきり話した後で________
最初は大喜利じみたことが始まった。
マコトの一言から。
「みんな、初詣での作法を知っているか?何回礼をして、何回手を叩くかだ」
そんな一言である。
ゲヘナ生はふざけてなんぼだが、その日のマコトはちゃんと二礼二拍手一礼でみんなと初詣に行った。
『はい!三十拍手一リロードです!』
「あのな、銃を神社でぶっ放してはいけないんだぞ。というより鈴を撃ってどうするんだよ」
呆れたコメントが何度も飛んでくることになった。
なにしろ真面目に返すのが彼女のやり方だから。
『はい!上りJDからの下りJDです!』
「誰がDループしろって言ったんだ、そんなに叩いてたら迷惑だろう」
『Dループ知ってるんですか』
「レトロゲームでミレニアムの生徒に紹介してもらったことがある」
『→↘↓↙←→+S・P・K・S・HS・D・K・S・→↘↓↙←→+HSじゃないのか!』
「殺界も叩き込むな、矯正局に叩き込まれるぞ」
ツッコミが止まらなくて困っている彼女も、笑えるだけマシだと思って流す。
「あのな、二礼二拍手一礼が正しいやり方だ。縄の鈴を鳴らした後に、まず2回礼をして、二拍手して一礼する。わかったか?」
『レイジングストームってどう入れるんだっけ?』
『↙→↘↓↙←↘+BCじゃなかった?』
『↓→↓←↓+Bじゃなかったっけ?』
「話を聞けバカども!」
人の配信で勝手に格ゲー談義するな!と言いたげだ。
マコトが頬を膨らませて抗議したら可愛かったのか、みんな普通になった。
「よし、いいな。別の話にしよう」
『じゃあ今年のゲヘナは何を目標に動くか教えて!』
「ああ、いいぞ。さっきは私個人の話だったからな」
マコト自身は色々語ったが、政治家としての発言はまだだったと思い、ここで思い切り語ることに。
「今年は去年末に取り付けたアリウスの援助施設の完成・運営の安定化を目指したいな。春先、そうだな……入学生が来るまでにはなんとかしたい。じゃないと、あっちの施設を作って締結する意味ないからな。ゲヘナの生徒としてトリニティの桐藤ナギサに福祉面でも負けるわけにはいかない、ということだから暫くは転入生などが増えてみんなに迷惑かけるかもしれないが……キヴォトス全土のため、ひいてはゲヘナの安全保障分野で不安要素の解消の面が大きい。よろしく頼む」
『大丈夫!なんかやってきたらぶっ飛ばせばOKだもんね!』
「ふふ、そうだな。ダメなことをやったら流石にここの流儀をわからせてやってくれ。馴染んできたら、肩を組もう」
笑って彼女は市民達に乾杯。
「で、もう一つある。目標が」
『なんだなんだ』
「学園間交流をもっとゲヘナは増やしたいなと思ってる」
これは、純粋な部分が多い。
「いろんな学園がシャーレの名の下に色々ガードをとっぱらい交流しているのを見てきたと思うし、ゲヘナも例に漏れず生徒単位での関わりは増えてきている。それはとても嬉しいことだし、何より経済効果が期待できる。トリニティ生徒に関しては私が前に出て関わってたりもするし、実際年末のモモトークイベントのゲヘナ開催もその影響が大きいと思っているぞ」
彼女はなんだかんだ情報のエキスパートだ。
集めて、分析して、まとめるを地で行く。
「だからあの学園と交流してこういうイベントをやって、相手もこっちも盛り上がるみたいなイベントをやりたいな。今年は盛り上がる年になるように、と」
もっとも、それが出来るかどうかは正直なところ望み薄。
ゲヘナはなんだかんだ歴史的であり、市民の前では言えないにしろ雷帝関係で頭を悩ませたりもしているので正直なところ彼女的には今年アリウスの分だけ上手くいけば上々と思っている。
わざわざは言及はしないが。
「という感じだ、どうかな?」
『うわーいつもの感じよりすかしててむかつく』
「おい答えてたのにそれはないだろ」
「マコトー!そろそろ買い物に行くよー!」
「ああ、もうそんな時間か」
今は昼頃、飯を買いに行く時間。
「みんな、急でごめん。また後で時間ができたら話をしよう。じゃあな」
彼女は手を振って配信を切る。急な名前呼びでみんながざわつくのを知らないまま。
呼んだのはサツキだ。
「ようやく終わったか」
「ちょっと〜、色々化粧して準備したりするんだから時間かかるでしょ?」
「そう言えばそうだったな。ちゃんと胸元は閉めたか?」
「寒いけどきついから閉めてない」
「風邪引くぞ」
「こうしちゃえば問題ないもの」
サツキはマフラーで二人を一緒にぐるぐる巻きにした。
首元があったかいが、何よりその要因は隣の吐息がマフラーに溶けてあっためることにあるのかもしれない。
「これなら大丈夫でしょ?」
「……そうだな」
「じゃあ出発」
「ああ」
二人は玄関で靴を履いて外に出た。
正直なところ季節があるのは、年越しの前後で大して外の景色は変わらないから生まれた区切りであると思っている。
「なんか、大晦日の時と変わらないわね」
「時間で言えば昨日の景色だ、そうそう変わらない」
「そうね」
歩いていても、新年祝いで云々以外であんまり外は変わってない。
「ねえ、マコト」
「なんだ」
サツキは、ぎゅっと抱き寄せて問う。
「私ね、いつも思うの」
「何か」
「冬であっという間に消える太陽を見て、いつかマコトも冬の太陽みたいに消えていくんじゃないかって」
シャーレのおかげで過去が掘り起こされ、たくさんの人間が過去の精算をしてきた。
ゲヘナもその例にあぶれないだろう。なんだったら、雷帝関係でマコトが全てを引き受けて消えていく可能性だってある。
「今はいつも通り楽しくしてるのに、私を置いていってしまいそうで」
「……」
マコトは答えない。
というより答えられないが正解だろう。
「ねえ、消えたりしない?いつか、冬の夕暮れを私に見せて、太陽のように去っていったりしないよね?」
「どうだろうな」
「……どうしても、ずっと一緒にいるって言ってくれないのね」
「約束できないことはしない主義だ。努力することは約束できるが、結果までは保証できない。それが人生だからな」
彼女なりの誠意は見せている。
「政治家はそれができないから辛いまである、本気で全部を叶えようとすればするほど壊れていくからな。政治家は若干嘘が混じってるくらいでいい」
「私たちに対しても、そうしてるの?」
「どうだろうな。極力、真実は伝えてる」
仕事仲間にも、そうじゃなくても不義理を働きたくないメンバーで固めているからそうしてるのだと。
「私は、別に太陽ではない。雷雨から曇り空になった時、陽の光で白く見えるだろう?あれと一緒だ。晴れの兆候かどうか、実はまだわからないし」
「マコトがそうなってしまった時から、ずっと心配してるのよ……?」
「だったら、もう少しだけ笑って過ごしてくれたら嬉しい」
マコトは、笑顔で相手の手を握る。
「お前だけじゃない、みんながすごく私のことを心配してるのはちゃんと口にして分かっているからな。私はその心配が現実にならないように頑張るので精一杯だが、絶対に自分のことも、みんなのことも犠牲にするようなことはしない。約束する」
「マコト」
「……そうだな、人前だしいつも通りの呼び方をしてくれないか。私は、お前にああ呼ばれるのが実は好きなんだ」
彼女の笑みで、サツキは呼ぶ。
「じゃあ、さっさと買って帰りましょう?マコトちゃん」
「ああ」
二人は、商店街の中へと消えていった。