ここだけ少しかっこいいマコト様   作:らんかん

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マコト様と電子タバコ

 本日のマコトは、書類仕事に追われていた。

 

 だが、いつもと様子が違う。

 

 夕方6時以降で、もう他のメンバーは見えないところであるものを吸っていた。

 

「ふぅ」

 

 電子タバコである。

 

 ニコチン・タール等依存物質や有害物質がないため、未成年でも吸えると言われて勧められ、この事業をやっていいかどうかを打診された彼女は自分を実験台にして確認しながら仕事。

 

「甘ったるいしスースーする、どうも合わんな」

 

 カートリッジを変えて、レモンの香りに変えて吸う。

 

「こっちはまあ、悪くない」

「こんばんはー!」

 

 チアキがすっ飛んできた。

 

「わっ!?何やってるんですか先輩!」

「最近流行りの電子タバコとやらだ。カートリッジにフレーバーのリキッドが入っていて、それを蒸留するような形で熱して吸う。そうするとその煙でチルできる、と言ったものだ。まあ今試してみてあんまりいいものではないな」

「未成年が吸っていいんですかそれ!?」

「電子タバコは法律上依存物質が入ってなかったりするし過去のタバコと結構違う点があるからあくまでただの嗜好品。吸う分には未成年でも問題ない」

 

 チアキに困った、と話す彼女。

 

 なにしろゲヘナのそういった企業からの強いプッシュを受けていたせいで、断るにも断れず……先生に話を繋げようとは思ったものの彼のイメージダウンにつながりかねないのも含めて自分が試した方が丸く治るという判断だったらしい。

 

「その話を受けちゃうなんて……なんか嫌なことありました?」

「仕事の山」

「まあそれは嫌ですけどいつものことでしょ?なんか、他にないんですか」

「あると思うか?」

「ちょっとグレーな案件を受けるくらいですから」

 

 彼女ははっきりと言い切った。

 

 広告屋らしい、断言と確信を以て。

 

「……嫌なこと、ではないんだがな。最近は、妙にここのメンバーのスキンシップが多くて困ってるんだ」

「あーエッチしたんですか」

「いやそれは……」

「冗談ですよ。でも、確かに多いですね。サツキ先輩、イロハちゃんとか。迫られるの見てましたよ」

「先日はついにイブキにも迫られた、どうも私がこうしてカッコつけてると異様に心配するらしい」

 

 マコトは襟元を緩め、相手に見せる。

 

「これって」

 

 首元には、何かで締められたような跡。

 

「イブキに迫られた時に、どうやら熱烈すぎたようだ。心配して離すまいとしたのか、痕が残ってしまってな。少し緩めたかったがどうしてもこの痕を見せたくなくて今日は少しきつめに締めてたんだ________おかげで息が少ししづらい状態が続いた」

「あっちゃーこれは」

「そこまでカッコつけてるのが怖いものかな。トリニティの生徒と関わるときまでポカやらかすわけには行かなくなったから、少し気を引き締めねばと思ってたんだが」

「心配するのは分かりますけどねえ、静かに応援するってのがどうしても出来ないんでしょうね。みんな、マコト先輩の中身が変わっちゃったと思ってるんじゃないですか」

「まさか」

「為政者としての格は、決して人間性を持ち得ない。ということを失念してません?」

 

 はっきりと言い切って、諫言を残すようにチアキは言う。

 

「何故だ?」

「実際、人々の支えになるような政治家というのは感情が薄くなっていく傾向があります。人民にとって平等で、正しくあろうとすればするほど自身の思想も含めて薄くなっていかなければその領域にたどり着けない。

 先輩はかの才媛に対して『シャア・アズナブル』と言ったようですけど、その例えで言うなら今先輩は『フル・フロンタル』になっていってると言えますよ」

 

 彼女の言い草は、思い当たるところがあった。

 

 確かにここ最近のマコトは、どんなものを受けと言っていても「みんなのために」と「自分ができることを捧げる」を口癖のように言っていた。誰もが彼女を誘惑しても、結局政治家や指導者としての面を強くするような発言を繰り返している。

 

「その発言を本気で言える人間ほど、危ないものです。何故なら自我が薄い分、機械になっている分、犠牲や生贄に躊躇が無くなる。それはまさしく”器”になっていくようなものではないですかね」

「私はそんなに偉大な女か?」

「俗っぽさがないだけで、ちっぽけなのには変わりないですよ。

 先生の故郷である日本、また似たような文化圏を持つ百鬼夜行では人一人に救いを求め、その体現と偶像のために即身仏という死骸の生成をしていた。それになりつつあるともあれば、みんな引き止めるためにどんな甘い罠も、下劣な快楽に溺れることも厭わないのも当たり前と言えばそうでしょ?」

「ふむ」

 

 本気で部下が有能で、自分に対する考察や洞察の高さに舌を巻き、若干怯える。

 

「確かにそういう意味では、今の先輩よりも先に行ったことがある浦和ハナコは状況も含めシャアと揶揄するのは正しいとは思いますよ。ですが、それを足がかりにして色々説くというのはマコト議長からされるのは少し癪だったんじゃないですかね」

「私は自分が俗であると自認しているが」

「その言い草がすでにフロンタルっぽいというか」

 

 チアキは呆れた。

 

「それじゃ『釈迦に説法』どころか『シャアに説法』です。釈迦はまだ、説いてくる人間がどう思っているかの解釈やその文脈を読み解くことで相手を理解してくれそうですが、シャアには全くの無意味でしょ。話聞かないんだから」

「その意味だと浦和ハナコは人の話を聞かない愚か者みたいになるが」

「聞いてたら公然猥褻しない」

「それも、そうだな、キキ_____」

 

 苦笑いだが、何かが琴線に引っかかったのかマコトは笑う。

 

「分かります?言いたいこと」

「ああ、なんとなく、な」

「つまり今の先輩はそう言った虚無になりかけているんです。もっと自発的に、バカなことしないと。ここゲヘナですよ?暴飲暴食暴力暴行!それらを最低限咎めたら、あとは比較しようがないくらい自由にやっちゃわないと!」

「じゃあ書類の山燃やしていいか」

「それはダメ!」

 

 仕事放棄は認められない。

 

「ってことなので、もう少しこう……ね?前みたいにってふんわりだと分かりづらいので________休みを増やしたりだとか、なんかご褒美に食べ放題行ってみたりとか、落ち着いたらみんなで旅行行きましょうよ」

「旅行、か」

「せっかくパスポートみたいなのなしでいろんな地域回れるんですよ?春になったら百鬼夜行とか行きましょうよ!桜見て団子食べて……みんなで和服も着ましょう!ね!」

「いいな、それ」

「ですから」

 

 チアキは、机にあった電子タバコを厳重に箱に戻して棚の奥底に戻した。

 

「こういうのに頼らない、そして見向きもしない楽しい人生を送りましょう!」

「そうだな」

 

 励ましや、話を聞いてくれたことによる安心感がマコトを癒した。

 

 書類は話をしながらも進めていたようで、なんだかんだ吸ってた時の半分になっている。

 

「残り明日に回して飯食べに行きません?そばでもペッパーランチでもステーキでも」

「私あれだ、天ぷら定食とか大人ぶって味わいながら食いたいな」

「こっから車で走らせて30分のところに和食屋がありますよ!囲炉裏で秋刀魚焼くやつ!」

「それは本当か!」

「天ぷらもある!」

「決まりだ!食いにいくぞ今から!他のメンバーも呼べ、みんなの議長が会議の経費で奢るとな!」

「あいあいさー!」

 

 彼女は敬礼してパパッと走り去っていった。

 

「ふぅ」

 

 社用車の鍵を事務所の裏口から取って、後にする。

 

 外はとても綺麗だが、そのようなものに想いを馳せる感性はチアキによって一旦外された。

 

「たくさん食うぞー!」

 

 そんな元気な声を響かせてから_____

 

 彼女は廊下を小走りで駆け抜けた。

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