ここだけ少しかっこいいマコト様   作:らんかん

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マコト様のちょっかい

 最近、マコト様はようやく時間が取れたのだ。

 

 2月から3月は完全に年度末の仕事に追われていたせいでどうしようもない時間が続いたし、その合間にも自分が出れないイベントの調整もしなければならなかった。4月は新入生周りのことをしなければならないのもあってか、時間を持っていかれ続けて精神も削られていた。

 

 そんな春の日のことだ。

 

「ん、むむ」

 

 公園で爆睡をかますマコトがいた。

 

 何かを抱っこしているような感覚が彼女にあって、目を開けては前を見る。

 

「あれ、起きたの」

「あ、ああ……?なんだ空崎ヒナか」

「どうしてそんなに驚かないわけ?」

「眠いし疲れてるから」

 

 桜の木の下で転がってる二人だが、どちらも騒いでない。

 

 誰も側に近寄らない、というよりも、彼女たちが暗い服を着ているせいで木陰が濃くなった程度にしか思ってないのだろう。

 

「どうしてお前がここにいるんだ」

「仮にも一国の盟主様がこんなところで寝ていたら、気になって仕方ないでしょ。羽根で顔を隠してあげようか?」

「いらないいらない、暑いから」

 

 そもそも暑いのは二人がひっついてる距離にいるからだ、見守りってそうするものだったか?と思わないでもないマコト様だったが、どうやらそれすら反論する気力が湧いてこなかった。純粋に、疲れていたのが大きい。

 

「お前の顔、いつ見ても綺麗だな。かわいいし」

「急に何?」

「いやこんなに近くに見る前に首輪女に吠えられるからな、たたえる暇もない。うるさくてかなわないだろ?」

「私の部下にいちゃもんつけるのは頂けないわ」

「嫌味ぐらい言いたくなる」

 

 アコのことを思い出すとどうすると、ちょっとだけ顔が歪んでるマコト。ただせっかく珍しい風紀委員長の顔を長く見つめられる機会だと思い出すと、自分のご尊顔を拝まさせてるのに醜さを出すわけにはいかないと自重した。

 

 春の桜の下だ、翳りがマコトの苦さが桜の花びらで隠れる。

 

「ねえ、マコト」

「何だ?」

「あなたの顔ってとっても美しいのね」

「当たり前だ、美しくなければ誰もついてこないからな」

「でもイブキちゃんに人気が集中していない?」

「それは言うな」

 

 口にそっと、指を置いて目の前の少女を黙らせるマコト。

 

「優しいんだ、キスして黙らせるものかと」

「誰がお前なんかにキスするかっ」

「そうして黙らせてきた人が多いって聞くけど?」

「私をラスプーチンか何かと勘違いしてないか?」

 

 呆れるマコトの顔を見ても、ヒナはあまり表情を動かさない。

 

 彼女達の戯れは、まだ桜の花びらと影によって隠されたままだ。誰も気にもとめてない場所で、ただひたすらに言葉が交わされる。

 

「この前、お前の部下に脅されたことがある」

「誰?」

「チナツだ。私の膝の上にまで乗ってきて、凄まれたぞ。どう言う教育をしているんだ」

「それは流石にあなたが悪いわ。だって、彼女は基本的にそんなことはしないもの」

「万能ロボットの購入のツケを払わせたことか?」

「そのことじゃないと思う……」

 

 お互いに少しばかりの笑みをこぼす。部下を犠牲にいちゃついててはいけない、と思ったのか、二人は一回真顔に戻った。

 

「ところで、マコト」

「なんだ」

「あなたに一つ、聞いてみたいことがあったの」

「答えられることならな、この木の下にいる間は拒まない」

 

 ヒナは真面目な顔のまま、一つの問いを投げた。

 

「私に、万魔殿の委員長をしてみてほしいってこぼした事があると聞いたわ。ほんと?」

「間違いじゃない。純粋に評価してのことだ、お前が押し付ける側になればすごくいいだろうな、と」

「それ、あなたはどうするの?」

「普通に学生をやって満喫するさ。罵倒されながらでも、トリニティに行ってみるのもいいな。そのまま冒険してみたい、休学して」

 

 少しばかり仰向けになった、マコトは桜の隙間から見える陽を浴びて語る。

 

「どう言う世界が広がっているか、私は知らないんだ。情報で知っていることはある、沢山な。でも、山海経の麻婆豆腐、トリニティのフィッシュ&チップス、ミレニアムのレゴを使ったレストランに、百鬼夜行の刺身、あとワイルドハントのキッシュ!全部食べたことないんだ。いっつもこの世界のどこかで楽しそうにしているのを、この場所の玉座から遠く遠く眺めてるだけで面白くない」

「あなたのせいで私は楽しめないんだけど」

「素直に妬いてしまうからな」

 

 ヒナの輪郭に手をそっと添え、子供っぽい表情を見せる彼女。

 

「私はお前のことをすっごく評価しているし、いつか私がいなくなったらもっといいゲヘナにできると思ってる。同志だって思ってるし、なんなら今ここで贄にされてもいい」

「気持ち悪いこと言わないで」

「じゃあ、もっと気持ち悪いことを言おう。私はお前が好きだ……ああ、別に恋愛的ではないぞ。それをするとめんどくさい奴が沢山いるから」

「そうね。そう言う意味なら私も、あなたのことは嫌いじゃない」

 

 彼女の目の前にいる悪魔の少女も、そっと微笑んだ。

 

「雷帝時代は本当にゲヘナは強かった、強かっただけで面白くなかった。だけど、あなたが立っていっそう面白くなった。弱い政治家を演じ続ける中で、面白い餌にありつける、それがずっと続くのは、悪魔としてはとっても面白いわ」

「お前が嫌なのは書類仕事だけだからな……」

「あなただって、嫌いでしょう?」

「ああ、嫌いだ」

 

 笑い返すマコト、なんだか楽しそう。

 

「私個人はこれでも尊敬してるつもり。嫌がらせの政治ショーも、容認してあげてる」

「ありがたい限りだな」

「だから」

 

 不意に素早く動いたヒナに先手を取られて、マコトは彼女の思いのままに動かされた。

 

 寝転がったまま、対面で、彼女に顎を持たれて顔を近づけられる。ヒナの表情は、どこにも飾り気がない。

 

「ずっと、ずっと面白いゲヘナを作り続けて。あなた自身がつまらない人間になったり、つまらない人間に踊らされ続けるなんてことをしたら、私は承知しない。意地でもあなたを奪いに行く」

「それをやったら雷帝時代まっしぐらだ」

「あなたがこの学校にもたらした混沌を、あなたを奪ってもう一回伝播させる……その時が来ないことを、祈ってる」

「私が失脚する時は、空崎ヒナの台頭であってほしいな」

 

 怒ってるアコや、焦ってるサツキの顔を思い描いてみるとちょっとげんなりしているマコト。だけれども、そうならないように祈ってることは本気で伝わってきて、少しばかり嬉しくなった。表情の笑みが、それを伝えている。

 

「尽きない欲望だけ出てくるものね」

「ああ」

 

 互いに近づいたまま、そっと抱きしめる。翼が顔を隠し、足が絡む。

 

「ねえ、もう少しだけ一緒に寝ない?」

「いいぞ。私も最近仕事疲れで、今は動きたくない」

「守ってあげる」

「ふっ、イブキが羨ましがりそうだな」

 

 その言葉を最後に、二人は言葉を発さず、ただ目を閉じて眠ることにした。

 

 他に何をするわけでもない、何もしない、その信頼感が彼女達の中で出来上がっていたのだろう。周りはやはり気づくことはなく、時は過ぎていく。

 

 春がまだ残っている日のことは、皆綺麗に思っていくことだろう。いつの間にかやってきた桜が、また気がついたら去っていってしまうのだから。そこに哀しみを覚えた日も、次に日を跨げば新緑が迎えてくれる。

 

 人間社会もそんなものだろう、木にも状態があるように、社会にも衰退と繁栄が波のように繰り返す。木の姿に人命がついているだけだ。枯れ木に雷帝という名前を与えられ、桜にマコトの名前が与えられた。

 

 では、次に訪れる新緑は、誰の名を冠するのだろう?

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