マコトが山海経に来る事になったのは、ある偶然が重なってのことだった。
彼女にちょっと名前の似ているが姿が全く似ていないでお馴染みマルクトが山海経に寄った際、トリニティで撮った写真を何枚か印刷して送ったり自分で持ち歩いていたりしたようだがそれがシュンと言う幼稚園を管理している生徒にとても気に入られたそう。
幼稚園児達にもそういった”平和”を味わってもらうのも良いことだろう、とマルクトは費用持ちで滞在、マコトもその中に入れられた形になる。
このことは先生も了承している、マルクト自体にもそういった交流に自然と入ることがいいと思ったらしい。
「おねーちゃん!これできる!?」
「えっと、これは……変身ベルトだな」
「え、大丈夫ですか。よければ私が」
「大丈夫だ、この羽沼マコト様が変身を間違えるはずが……いやでもこれは間違えないな」
そんな梅花園で流行っている者の一つに、仮面ライダーがある。
大元は先生がいた世界の概念で、ヒーローの一つに分類されるもの。少女達にはイケメンが活躍しているのと、そのイケメン自体が先生以外にもいる大人の男のかっこいい系として、知識が高くとも感性が健全に発展途中な少女達にはプリキュアや魔法少女と同じく刺さるものとなった。
「よし、見ておけよ。私の変身。といってもこれはポーズも何もないからな」
腰にベルトを巻きつつ、近くの少女に尋ねるマコト。
これで何個めの変身をしたかは忘れてる。
「デネブ、カードは後何枚だ!」
「んーっとね、八枚!」
ケースからカードを一枚取り出して、構える彼女。
「多いのか少ないのか分からないけど、変身!」
スライドパーツを限界まで押すと、待機音が流れ出した。
《ALTAIR FORM》
変身音が流れ出す。
最もこれはおもちゃなので本当に変身できるわけではない、これが変身できたら大変なことになる。先生から見た、名前はあるのに姿形もはっきりとした記録もない雷帝と同じ存在感になってしまうだろう。
「最初に言っておく!俺はかーなーり強い!」
幼女達からの黄色い悲鳴が聞こえてくる。
「マコトお姉ちゃんかっこいいー!」
「すごーい!カードがスルッと入ったー!」
「大人気ですね、マコト」
すでに何回も変身させられて若干疲れ気味のマルクトも、少しばかりかっこいいマコトを見たのか元気をちょっとだけ取り戻している。
「しかし、知っているんですか?これ?」
「ああ。仮面ライダーゼロノスだろ、少しばかり先生の勧めで見た映画か何かで出てきたのを知っている。結構特徴的だったからな」
「なるほど……先生が」
「思い入れがあるともいっていた」
その時に見た映画は仮面ライダー三号だったか、まあともかくとして印象的なライダーなのは違いない。
待機音革命期の特徴的なサウンド、色合いが統一されていた上で結構深みのあるかっこよさ。桜井侑斗も含めて印象に残っているようだ。
「今でもかっこいいライダーは追っていると言っていたし、先生の影響というのが思いもよらない役立ち方をしたものだ」
「世の中では忘れたフリをするのが定石だとも聞きましたが」
「それは忘れろ、悪癖だ」
そんなふうに遊んでいたところ、ココナがやってきた。
「みんなー!おねんねする時間ですよー!お片付けしましょうねー!」
「えー!?」
「ちゃんと片付けたら添い寝してあげます!」
「ちぇっ」
園児達はそれぞれ、少しばかり不満を抱きながらも的確に作業をしていく。あれをここに、それをそこに、なんて言いながら片付けしていくのだがお客さんが二人もいるのにぐずらないあたりにココナの添い寝は価値があるものと見た。
片付けを始めて終わるのがおおよそ五分。今回はそんなに持ち出さず、しかも変身ベルトだけだったので案外早く済んだ。高いところへの片付けも、マコトとマルクトがいるので簡単だったらしい。
「じゃあ、先にお昼寝ルームに行ってくださいね〜!シュンもそこに待ってますから!」
「はーい!」
保育士が可愛かったりすると子供ってひどく単純になるな、と思いつつ見送る二人。
あっという間に廊下になだれて消えていった園児達を横目に、ココナはお客に話しかけた。
「二人とも、お忙しい中ありがとうございます!」
「いえ、お気になさらず。私は旅していて結構暇しているので……」
「気にするな。子供と触れ合うことも立派なプロパガンダだからな」
「皆さんが積極的に触れ合っていただいたおかげで、ココナも嬉しいです!」
どうやら結構、彼女は大満足しているようだ。相手が満足しているのが一番宣伝効果があると知っている彼女は、自分のポーズがその反応で固定されているのを知っていて口を下手に開かずに見ている。
「私たちはこの後昼寝している子達の世話で忙しいのでここからご一緒できないんですけれども……もしよければここでお食事なさってはいかがでしょう。ここで一番腕利のいる料理店なので満足すると思います」
玄武商会きっての大料理店、しかも高級メニューの大盤振る舞いコースを予約しようとしているらしい。
「え、いいのでしょうか……私、そんなに食べきれないかもしれません」
「量は調整していただくことも可能ですよ。もし良ければ後で代金を払う際にお伝えしておきますから」
「いやいや、とんでもない。私なんて流離の少女ですから、申し訳ないですよ」
「そうだな。これ自体は特に大きな政治的交流でもないからな、私が出そう」
驚いて目が開いているマルクト。
「いや、そういう話でもなくてですね……?」
「キキッ、私を誰だと思っている。ゲヘナの万魔殿議長の羽沼マコト様だぞ。金なんて沢山あるに決まっているではないか。しかも今回は色々あって経費で落ちそう、食事の分は私が払えば余計な気遣いをさせずに済むし、その金を他のところで払って貰えばいいじゃないか」
「と、言うと?」
ココナに向かって、マコトは話す。
「折角なら何か、思い出の品が欲しいところだ。彼女達は体が小さく年齢がそこまでなくても、今の生徒達と引けを取らない知識と技術があるのだろう?ならば折角だ、少しばかり綺麗な服でも作ってもらおうではないか。織物が得意と聞いたし、その方が自慢しやすくていいからな」
「いえいえ、悪いですよ。確かにこの子達は出来ますけど」
「マルクトもそれでいいだろう?しばらくは滞在する予定と聞いた」
「ええ、私もそれで」
誰かが誰かのために作るもの、これがどれだけ代用が効かないかを知っているのが二人だった。片方は家族を失っているし、もう片方は失ってはいないものの激動のゲヘナを生き延びた家族に等しい存在がいる。
マルクトの裏事情もマコトの他メンバーに対する重い感情も分かる由もなかったココナだが、少なくとも強い希望であり生半可なことでは変えないとはっきりした意志を感じたのか笑顔で答えた。
「……わかりました!あの子達にお礼の品を作ってもらいますね!」
「ああ、出来たら今滞在している場所に届けてくれ。喜んで受け取りに行く、マルクトは?」
「私も一ヶ月単位でここにいる予定ですから、出来上がったら是非」
「はいっ!楽しみにしててくださいね!」
さて、そろそろこの保母を解放するべきだろう。
マコトは別れの言葉を切り出した。
「それでは、私たちは昼飯を食べに行こう。食った感想はモモトークで」
「失礼しますね、ココナさん」
「はーい!気をつけてくださいねー!」
元気に三人は別れる。
静まり返った廊下を練り歩き、二人はココナに後ろ手を振って梅花園を出、玄武商会の敷地へと繰り出すのだった。
_____そこから数えて4日後か。
マルクトには綺麗で表には赤い梅が金色の糸で表現され、裏地には星々の墨画を思わせる上品かつ丈夫な羽織が。
マコトにはチーパオとは違う、黒と赤を基調としたドレス風の衣装が贈られた。