最近は外交を頑張りすぎたので、今度は内政を頑張らないといけない。
どちらもこなし続けろは人間の体力に向いていない。できていたら、それは人間の形をした政治マシーンか何かだろう。
「ふい〜、ようやく終わったね!」
「ありがとう先生。シャーレ系のものは確認必須だからな、富貴委員の手伝いついでに来てもらった」
「気にしないでよ。万能ロボットのおかげで計算系のやつはだいぶ楽になったからね。一台持って帰りたいなあ」
「トリニティのお嬢様にねだって見たらどうかな」
「じゃナギサにでも」
冗談を言い合ってる先生とマコトがそこにいた。
「最近は色々なことがありすぎてねえ、疲れちゃって。あっそうそう!死神代行消失編が今配信されてるじゃん!?あれ好きでさあ……」
「一番人気のない話じゃなかったか?」
「そんなことないもん!月島さんの章だよ!?だって、藍染を止めたのも恋次を倒せたのも月島さんのおかげだし!」
「そういう挟まれたごっこは良いから先生、少し休憩しようじゃないか。空崎ヒナとのデートがあるんだろう?」
先生はいつもこんな調子なので無視するとしよう、とソファに座らせて万能ロボットにバウムクーヘンとコーヒーを持って来させた。
「だいたいその手のネタはあまり擦りすぎるとゼロノスみたいになるって言ったのは先生自身じゃないか。コーヒーを飲んで目を覚ませ」
「嘘言ってないもん!」
「大人が言ったことを反故にするのはどうかと思うぞ。じゃあ聞くが、アーロニーロはどうやって倒された」
「帰刃して劣勢になった時に後ろから月島さんが記憶を挟んで、海燕の記憶にルキアと月島の二人の記憶を鮮明化させて体の主導権を海燕に戻した後に自決したんじゃん」
「は?」
本気で様子がおかしくなってしまってる。
よく見たら目が開き切っており薬物中毒者ないし精神的におかしい人物のそれだ。声も心なしか自制できていないのか大きめで、少なくとも何かしら狂ってるのは理解できた。
「いやいや、先生。そんなわけないじゃないか。近頃流行りのロアとやらに、頭をやられて……まて。先生」
まだこの時には新しい生徒会長もいないが、少なくともデカグラマトンとの一戦で相当な負担を背負っていることは容易に想像できた。その影響で精神がおかしくなってるのかもしれないが、少なくとも先ほどの質問で"改変"の影響は受けているのかもしれないのは予想がつく。
なのでマコトは、二人が知っている範囲の出来事を確認してみることにした。
「折角なら思い出話でもしようじゃないか」
「急だね」
「そういう気分だ。そうだなあ、調印式があっただろ?なんでミサイルが飛んできたんだっけか」
「マコトが地下生活者に認識を操られた上で、アリウスの子達を一網打尽にするために撃ったんでしょ?彼女たちが持っている図書館にはアビドスの秘密があって、それを隠すために雷帝が指示を出したんだ」
まるでネットやモモトークで聞き齧りしたミリしらのようなことを当事者が話してくる。おかしいよ、と否定したら最悪激昂して掴み掛かられるだろうということで否定はしなかった。
「あ、ああ、そう、だったな。最近、疲れ気味で記憶が朦朧とするんだ」
「そうだよねぇ〜!分かるよはんとクゥン!」
「私はマコトだが」
早く殴り倒して寝かせるべきかと思ったが、もう少しだけ事情聴取するとしよう。
「じゃあ別の話をしようか。マルクト、という人間について話してくれるか?」
「あー!いたよねー!えっと、アインとソフとオウルっていう子達がいて、その子達が合体するとマルクトに進化するんだよ!で、そこにさらにデカグラマトンが合体するとパーフェクトフォームになるんだよ!」
「そういえばテクスチャ云々の話があったな。あれは一体なんだったんだ?大きな帯のことだったが」
「あれは物体じゃなくて能力だよ!ジ・オールマイティ!」
「ユーハバッハの話をしろとは言ってないんだが」
めんどくさいアニメオタクのそれを発症しているのかと思っているが、声の勢いと目の輝きは”それが本当のことであったかのように”話をしている。詰まるところ、記憶の混濁が見られると言って良いだろう。
それでも認識も少し変わっているようで、デカグラマトンがどうしたら
「先生、言いにくいことなんだがな。今日はホテルもちゃんと確保してやるから、予定をキャンセルして寝たらどうだ」
「いやあ先生は元気だよー!というか今日いいことがあったんだ!」
「なんだ、言ってみろ」
「すごい綺麗な虹を見たんだ!」
それだけで気持ちがそこそこ回復するなんて純粋だなーと思うはずだが、あまりに酷い発言しかしない先生のせいでマコトはすでにそれを怪しんでいた。
「どんな虹だったんだ?」
「円形で」
「ああ」
「端っこが白くて」
「うん」
「真ん中に目があった!」
先生は子供のようにはしゃいでいるようで、少なくとも大人の威厳は感じない。
そして、この言葉こそが今日の彼の最後の発言となった。
一瞬でマコトは机を蹴り飛ばして威嚇しながら接近。とてつもない轟音と、急激な視界の変化に先生は笑顔で目を輝かせたまま戸惑っている。
「なんかあったな、百鬼夜行の仏教とやらに人を安らかにさせる魔法の言葉が!えっと、えっと……一瞬千撃!」
彼女は軽く腕を組み、そのまま肘鉄で先生の腹を思い切り殴る。
スピードを出さない上少ない動作での攻撃、しかも衝撃自体は広がっていて先生の神経と体を揺らす。
相当な力が伝わってしまい、先生の神経は御しきれずにシャットダウンしてしまった。
「はぁ」
少し息を整えた後に、マコトは考える。
(最近都市伝説とやらを聞くようになったのだが、その影響か?ネットの怪談で入れ替わるだの認識に影響して変になるとかなんとかサツキとイブキが言っていたような気がする)
とんでもない事態の予感はするものの、尻尾が掴めない。旧約聖書の天使みたいなのを見て先生は決定的に狂ってしまったのは確かなようだが、そもそもそれがいるならもっと狂った人間がいて騒ぎになっているはずだ。
先生は普通に気絶しているので一回ソファーに座らせて、考えるマコト。
(まあ、そういうものがあったとしてもあまり驚くような世界ではない。でも先生がここまでくるということは相当精神的な負荷が掛かっているのうなづける。世界の根幹にずっと触れるような事件が続いたんだ、精神に異常をきたしても仕方ないのやもな。ゲヘナは幸か不幸かそういうものに触れることはなかったんだが……少しばかり調査が必要だな)
「よし」
マコトは何かを思いついたのか、モモトークでヒナに連絡する。
『急募:先生の膝枕係』
『あなたがすればいいんじゃないの?』
『空崎ヒナの方が私よりありがたみが出る』
『じゃあ行くわ』
数分もすれば来るだろう、ということで反対側のソファに座るマコト。
(ヒナとのデート云々もどうやら彼女の反応を見るに幻覚を見ていたようだな)
幻覚を元に戻す方法は、触覚。
触れているものは、神経とかの異常がなければ大体真実である。ヒナの幻覚を見て変な気を起こしたりしたのであれば、彼女そのものを呼び寄せて触れ合えばさっさと正気に戻るというもの。別の五感で正気を取り戻すというのは、古典的で何の撚りもないが確実性があると言って良かった。
「……後で片付けないとな」
夕暮れだがまだ明るい空。
マコトは少しばかりため息をついたが、そのため息はこれから来るであろう怪異に向けられたものだったかもしれない。