ここだけ少しかっこいいマコト様   作:らんかん

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マコト様と思い出話

「我がやってきました」

「マルクト」

 

 今日遊びに来たのはマルクトだ。

 

 彼女のオフィスに遊びにくるなんて相当だとは思うのだが、彼女がちゃんと対面で話してないと思ったのかモモトークで連絡したら二人きりで会おうという話になった。

 

「色々撮ってきましたよ。写真を撮るのはあまり得意ではないですが、それでも話の起点にはいいかと思いまして」

「ああ」

 

 いろいろな写真が出てくる。

 

「ここ、どこかわかりますか?」

「百鬼夜行だろう?いいところだな」

「学園本部に近づくにつれて結構豪華になりますから、とても驚きましたよ」

 

 そこに笑顔でピースして写っているマルクトも可愛いものだ。

 

「ここの鍋が美味しかったんですよね。猪肉の味噌煮、でしたか。結構クセがありますが弾力と硬さがあってとても良かった」

「いいよな、あれ!私も食べたことあるが美味しかったぞ」

 

 珍しく、翳りのない笑みを浮かべているマコト。

 

 最近は色々重なってちゃんと笑っていなかったから、その反動のように綺麗な笑みを見せる。

 

「あとはですねえ、これもありますよ。お花見をしたんです」

「おお!」

 

 マルクトの綺麗な和服姿で、お花見をしている姿。

 

 お猪口まで持ってはかなりはんなり、とても綺麗。

 

「現地の方の協力で結構綺麗なものを着せていただいてですね、そこの雑誌に掲載もされたんですよ。反応もかなり良かったと」

「良かったじゃないか」

「そろそろ次の場所の話をしましょう。これ」

 

 今度は雪国。

 

 かなり彼女は着込んでいるようで、これはレッドウィンターに行った時の話だろうか。

 

「ここはレッドウィンターという場所で、あまり観光はできなかったのですがどこ行っても綺麗だったので一緒に見たいなと」

「かなり寒かったのか?」

「デモがあいにく激しかったのであんまり行動できなかったんですよね」

 

 マルクトの残念そうな顔を見る。

 

 彼女は旅して世界を知ることを目的としているようで、その純粋さは残念も含まれる。だけれども、笑顔に戻って話す姿に心打たれているのが目の前の少女だ。

 

「ああでも、名物のスープとか美味しかったですよ。ビーフストロガノフとか、あと飲み物はクワスが一番印象に残りました。何度も、それこそ”我”を忘れて飲むくらい」

 

 クワスというのはパンにレーズンやイースト、砂糖を入れて発酵させるとできる酒のことだ。甘く、少しアルコールがある麦茶のような味がするらしい。飲みやすい上に美味しかったので、結構気に入っている様子。

 

「今度もし、一緒に旅することがあったら行きませんか。我が回った店を案内しますよ」

「それは楽しみだ」

「デモの予定表とかがあったら、結構調整しやすいんですけどね」

 

 そればっかりは仕方ないというか、レッドウィンターの性なのでどうしようもない。

 

 そろそろ別の学園の話もしようと、今度マルクトはまた別の写真を見せた。

 

「山海経じゃないか!」

「はい。あなたが戻った後も色々見て回っていたんですけど、お礼として玄武商会のあれこれを見せてもらったんですよ。火鍋が結構丁度いい辛さで」

「……ずっと食べ物の話をしていないか?」

「えへへ」

 

 照れくさそうに笑うマルクト。

 

「我も我で色々回ってたんですが、そもそもそうなるまでの経緯を知っていますか?」

「ああ。知っている……言わなくていいぞ、話すのは辛いだろうから」

「お気遣いありがとうございます」

 

 家族を失う苦しみを知ることになるだろうマコトは、すでに失った者に対して静止をかけた。

 

「その中で私が一番楽しんでいるのは、食事なんです。綺麗な景色は人の努力か、自然の悠久が作り上げた分かりやすい価値だと思っています。それは、独りになる前から知っていたことでした」

「食事は特別であったと?」

「ええ」

 

 彼女の微笑みが、楽しかった記憶として想起されるが故の優しさを湛えている。

 

「食べ物というのはとっても不思議なんです。口にしたら消えてしまうし、その後は不浄なものとして洗われる。なのに出来上がった時は綺麗で価値のあるものになって、しかも食べた時にはそこからさらに思い出となって唯一無二になる」

 

 マルクトの目に、希望や楽しさが滲み出ていた。

 

「食事は無形だけど血脈として存在し続けていく重要な存在で、それもまた価値だと気づくことになったのは全てが終わった後でした。何もかも失う前に気づいていたら、説得したり考えを改めたり出来たのでしょうか。新たな後悔が生まれるほど_____」

「全ては代価だ。お前の家族と神を捧げて手に入れたのは、その気づきだ」

 

 マコトは、少しばかりソファに座って俯く。

 

 少しばかり真面目に話して、彼女の感傷を触る覚悟をした。

 

「え……」

「人間というのはいつもそうだ。戦争を起こして、隣人と文化と記録を失くして歴史を作る。そうでなくても文化の保全は常識になれば捨て去り、それでも残ってしまったのを歴史として大事にしながら進むんだ。かつてのお前たちは『それは無駄だ』と切り捨てた」

 

 自分勝手な判断をする奴への相応の罰だと、あえて口にする。

 

「お前の話を先生に聞いた時に、彼は”彼女たちは代価を払った”と言った。決着が付いた後、お前は自分は罰されたと思ったか?」

「全ては自業自得である上、命を奪われなかった以上は罰はなかった」

「……一つだけ聞いてもいいか」

 

 マルクトを見上げる彼女。

 

「その気づきのために神と家族を捧げる価値はあったか?」

「_____ある、と言ったら?」

 

 彼女の確信が、声の張りとして響く。

 

「確かに彼女たちのことは大事で、あの方のご存命は価値があるとはっきり言えます。その上で私だけの自由は、意味がないとも思いましたが_____家族は、時には枷になる。独りになって考え、行動することでようやく大事なことを見つけられると、我は彼女達を世界への賠償として支払って知りました」

 

 そこには後悔もあるし、申し訳なさもあるし、自分への愛だけで世界の価値も楽しさも、何も知らないまま命を支払わせた三姉妹のことを鮮明に思い出すこともある。

 

「大事なことが個々人によって違うことも知り、対立することもデモを始めに理解しました。ですが後悔があっても、やり直そうとは思いません。支払った代価と、それを今もまだ赦してくれるアイン・ソフ・オウルに申し訳も立ちませんし、その為だけに世界の全てに返せと破壊して絶望することこそ許されざることではないですか」

 

 

 

 

 

「自分と、自分の周りしか見ないから、革命は時にただ人を殺す。その損失は、知る為に払った代価よりも汚れて、()()()()()()()()()()()()()()()()となるのですから」

 

 

 

 

 

 自分とは違い、代償を払って生きている彼女の言葉は重かった。

 

 その言葉の一つ一つが、全てを食い荒らして政治に全てを賭けた少女を刺し、磔にしてしまうのどの痛みを与える。

 

「だから我の命そのものの贖いは、ミレニアムへの当て付けによる暗殺か、キヴォトスが色彩に対する予防線としての処刑か、はたまたただの寿命か……いずれによって死んだ後、彼女達に楽しんできたことを謝り、全てを受け入れて殺されるほど嬲られて、その上で世界を知ったことを後悔しないまま向き合うことで清算される」

 

 マルクトは、目線を合わせて微笑んだ。

 

「だから、我はあなたの元にやってきた。ずっと自己嫌悪と、精神をすり減らして政治をしてきたあなたの友達として」

「マルクト」

「運命とか代価とか重すぎます。もっと楽しい話をしませんか?」

 

 彼女の励ましと、手をひく友人仕草にマコトも笑う。

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マルクトが旅の話を終えるのに、一晩はかかったという。

 

 マコトが話のたびに質問したりして、それに応えるのに数時間かかったからだそうだ。




(マルクトの一人称我だった……すいません)
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