ここだけ少しかっこいいマコト様   作:らんかん

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マコト様の一人飯

 最近はとんでもなく仕事が入ってくることが多い。

 

 季節が変わるごとにつれ、季節に合った仕事が舞い込んでくるのが学校の常だと思う。その中でも夏は田舎の方へ流出して海を楽しむ生徒が多いが、学校の教育の方でライフセーバーのお世話にならないようにプールを開放して授業するなどのプログラムを外部にお願いすることもあった。

 

 万魔殿のメンバーは先に済ませているためにやはりクーラーの効いた部屋でのんびりしているが、外を見ると頑張って泳いでる子達をよく見る。

 

「キキッ、これで今年もゲヘナでの死亡0人は確定したようなものだな!」

 

 大笑いして、自分が生徒達のためにと尽くしている実感で政治家をやっている彼女は晩飯を食べに行った。他のメンバーはまだ仕事をしているが、まあ、彼女達は彼女達で別の仕事をしている。経理とか。

 

 さて、そんな彼女は今軽い食堂で飯を食べている。蕎麦とカツ丼、と言うなんともドイツらしいゲヘナ生からは考えられない食事。

 

 夕方早くに飯を食べるのは、最近は暑くなりすぎていて食欲が熱帯夜のせいで減衰しないうちに摂ると言う彼女なりの健康術だ。和食を選び食すのも、きっと胃に重くないものを選んだからに違いない。多分。

 

「あらお客さんいい食いっぷりですね、今日は頑張った日ですかね?」

「色々な。そろそろ仕事も終わりに入ってようやく休めそうだからと、いいものを食べにきた」

「うちのメニューを良いものと言ってくださるのは嬉しい限りです。しかしその格好、あまり見ませんね。どこから?」

「ゲヘナだ。そこのトップをやっている」

「ああ、羽沼マコトさん。通りで見たことあるけどよく見ないわけだ」

 

 店主のチワワはしっかりと服を着て毛などが入らないようにしながら料理を作っている。ぼちぼち生徒がいるようだが、彼女達は連れとの会話が弾んでいるようだ。

 

「最近暑くなりましたよねえ。皆さん冷たいものをよく注文されるんですが、ジュースとかはいかがです?」

「ありがたい話だが、食べてから考えさせてもらおう。炭酸を飲みたい気分だが、今飲むとこれらが入るか分からないからな」

「はーい」

 

 最近は様々な人間と話すことが多かった彼女にとって、店員と話すことは造作もなかった。

 

 トリニティの生徒と話していれば、デカグラマトンの器と話したし、山海経にもお邪魔したし……と言う色々が重なった結果、話すことそのものが楽しみになっていた部分もあったかもしれない。

 

「お連れの方がいらっしゃらないのは不思議なものですね。一応ここはゲヘナではなく連邦生徒会の管轄区域なんですけども」

「彼女達が書いた書類を届けたりしなければならなかったからな、その仕事で今日は切り上げることにして一人で出歩くことを予定にしてたんだ。そのついででここに寄った、腹が減っていたからな」

「大変なんですねえ。ここから3ヶ月ほど、品性を保って出歩くのには苦労しそうです」

「四六時中暑い場所で料理をしている大将には敵わないさ」

「そうでもありませんよ。冬場は結構、器具の熱さに助けられますから」

 

 蕎麦はわさびが強く効いているが、醤油の強い酸味と塩味が独特の匂いを消して辛味と冷たさで素早く胃袋へと収まっていく。その冷たさに飽きたらカツ丼を食い、およそ2cm近い厚さのカツを食べて暑いと感じたらそばに戻る。体温が微妙になってきたらお冷を飲み干し、また食べる。

 

 労働者のための政治家、と言う観点から見れば百点満点の食べ方だった。汚くないが食べる量は多い、と言うのは食に対する一般的でありながら最大の敬意ではなかろうか。

 

「そういえば、最近は色々ゲヘナでやっているとニュースがありましたね。なんでしたっけ、プールの授業とか」

「ああ、あれか。外注したんだ。最近は田舎に行って海で泳いだりする生徒も多いし、学校の協会で様々な別荘を持っているからな。安く海に行けるなら当然その方がいいんだが、それに浮かれて水難事故に遭ったら目も当てられない。政治家だからミスで叩き落とされているのは慣れているが、名誉と違って人命には戻るチャンスがないからな。このマコト様にとっては生徒こそ自分の力、一人として失うことは許容できないぞ」

「ああ、そういう。なるほど納得、いやあでもプールとかもうここ20年近く行ってないですな。海とかも行こうと思っていても、やはり中華鍋を握っている」

「生き物にとって習慣に対する信頼は絶大だからな……やりたい事を思っていても、真に今やっていることに嫌気が差さなければ、結局同じ事を繰り返す」

 

 例えばやりたいことに焦がれて待ちきれないという夢追い人になるまでに、自分の人生への忌避感に強さがなければ結局楽な方に流されるのは嫌という程身に染みている。

 

 事実、マコトがそうだったのかもしれない。雷帝の恐怖政治に皆が嫌気を差し、その流れでいつの間にか上に座っていた彼女にとっては”雷帝への嫌悪感”こそが政治改革の動機であり、耐えられないことこそが人間の原動力であることを思い知らされた。

 

 憧れよりも、今の自分に耐えられない。それこそが、全ての生き物を変える魔法。

 

「生活習慣も夢も同じことだ。結局、本気で好きになっているか嫌になってないか、どちらにしろ鍋を持つことがプールよりも安定……いや、楽しいと思っているんだろう。勉強と遊びを並べられた時、遊びをとってしまうのと同じことだ」

「……じゃあ、私はこうやって店をやっていることを本気で楽しいと思っているんですかねぇ」

「そうだと思うぞ。で、なければ私はそちらと話すことも、こうして食事をここで楽しむこともなかったからな」

 

 料理にとって重要なのは看板のデザインでも数多の証明書でもなく、必要最低限の営業許可と、店を通った時に感じる美味しそうな匂いだけだ。美味しそうな匂いをしていれば、結局人はそこに流れ着く。食欲には抗えないのだから。

 

 さて、そろそろか。綺麗に食べ終わったマコトは、お勘定を頼むことにした。

 

「ありがとう、お会計を頼む。領収書は必要ない、ポケットマネーから出す」

「はいはーい」

 

 レジの方にやってきた店長と、彼女はやり取りをする。

 

「お会計1085クレジットです」

「はい」

「ありがとうございます〜」

 

 支払い終わって出ようとするマコトを、店長は見送る。

 

「またいらしてください。今度はできれば、いろんな方を連れて」

「ああ、ぜひそうしたいところだ。間を縫ってお邪魔するよ、できれば夏の間にな」

「ええ」

 

 そうして、二人は別れた。

 

 外はかなり暑くなってきたが、それでも夜風はまだ涼しい。8月になってからが本番と言ったところだろうが、少なくとも今日は今すぐ帰れば寝れそうだ。

 

「今から帰ると、そうだな。家に帰るのは8時くらいになりそうか」

 

 外を見れば、これから遊びを楽しむ者達が闊歩している。

 

 例えば今隣を通って行った二人組の生徒は、アイスクリームを持ってはしゃぎながらアミューズメントパークの方向へと足を運んでいる。これから夜中まで遊び尽くすつもりなのだろう。

 

 彼女の近くを歩き、駅へと向かっている生徒も嬉しそうな顔をしている。きっと、どこか少し遠くに足を運ぶつもりだ。

 

 そんな子達が、どこまでも方々に散らばっていくのを少しばかり羨むのも無理はなかった。

 

「……今度、みんなでプールでもいくか」

 

 いつになるかは分からないが、心のどこかでスケジュールを組んで行こうと誓うマコトは、そのまま駅のホームを抜けて列車に乗った。

 

 時間は、17時を過ぎている。

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