ここだけ少しかっこいいマコト様   作:らんかん

37 / 37
イブキ達を見守るマコト様

「せんせー! イブキねー、大人のになりたいのー!」

「おお、随分意欲が高いねえ」

 

 万魔殿のお部屋では、イブキのためのゾーンを作られていて、そこはデパートやショッピングモールみたいなマットやクッションが置かれた楽しい場所。

 

「どんな感じのことするの?」

「かっこいいセリフとかー! 大人っぽいセリフとかでー! マコト先輩を堕とすのー!」

「ん?」

 

 廊下に通りかかったは羽沼マコト。

 

 自分を堕とすなんて傲岸不遜だが若干不安をあるような発言が通った廊下から聞こえてきて、少しばかり怯え始めた。

 

 最近心労が祟っているというのに、イブキが覇道を歩むような発言をするとどうしても脚がすくむ。

 

 ただ、自分がいると発言などを萎縮させる可能性もあると考えた彼女は、そっと扉の向こうから覗くことに。

 

「じゃあ先生が知ってるかっこいいセリフをいくつか教えようじゃないか。こう、キャッチーなの」

「ほんとーっ!?」

 

 無邪気な笑顔に対応する先生も、少しばかり苦慮を強いられているがそれでも笑顔を崩さない。

 

 一瞬だけ気配を察知したのかマコトの方を向くと『任せといて!』と言わんばかりのキラキラな笑顔を彼は放った。

 

「じゃあ行くよ? 復唱してね」

「うん」

 

 先生は少しばかり呼吸して、セリフを言う。

 

「帰ろう、帰ればまた来られるから」

「かえろう! 帰ればまた来られるから!」

「感情を処理できん人類はゴミだと教えたはずだがな……」

「感情を処理できん人類はゴミだと教えたはずだが……な!」

 

 急に雲行きが怪しくなってきたが、彼は止まらない。

 

 言ってるイブキも楽しそうなので自粛警察みたいな言い草や態度は控えて、見守ることにした。

 

「俺の人生にはデザートがなかった」

「おれのじんせいにはデザートがなかった!」

「出し切ろうぜ」

「だしきろうぜ」

 

「一回だけですよ?」

「ンピャアアアアアアアアアアアーッ!」

 

 なんと、ここで部屋を突き破って虎丸が乱入。

 

 イロハが少しばかり剣幕な表情で先生を脅してる!

 

「なんで先生はそんな教育に悪い言葉ばかり教えるんですか!」

「なっ石流(いしごおり)を教育に悪いとか流石に可哀想だと思わないのか!?」

「あんな裸革ジャンのリーゼントをイブキの前で見せられるわけないでしょう!? 出し切ってもいいですよここで、砲弾ですけど!」

「アァンヤメテェ!」

 

 流石に騒がしくなってきたのでここでマコトも入場。

 

「おいおい、イロハ……なんで乗り込んできたんだ。補修費は、まあいっか……」

「マコト先輩もいるなら止めてくださいよ! いくら先生でも子供に教えちゃいけない言葉くらいわかるでしょう!?」

「いやそれはそうなんだが」

 

 流石に輪に混ざって話すことは少しばかり躊躇われたのは、心の奥にしまっておいて。

 

「ちょっと面白そうだったからつい」

「もうほんとに何してるんですか」

「すまない」

 

 教育に悪いことを見過ごしたのを若干後悔しているが、どうやらそう思っている間に自分のスカートを引っ張る少女に目が行った。

 

「マコト先輩!」

「イブキ」

 

 イブキだ。

 

「イブキね、いっぱい言葉を教わったの。でもやっぱり、カッコつけるの難しいね」

「それは、な。言葉ばかりは付け焼き刃で覚えても出てくるものではないからな。イブキはとても賢いし強いが、それだけはもう少し生きていかないとそうパッと誰かを口説き落とすのには足りないかもしれない」

 

 自分がイロハに言ったこと、ナギサに言ったこと、みんなに言ったことを思い返すと嫌になる。

 

 彼女が自分みたいな言い草ができる人間を目指そうとするなら止めたいのは実はそうで、政治屋とは舌の回り方が全てであると痛感している身としては目の前の少女が育ちたいと言うのを拒否したくはない、が_____

 

「だがまあ、背伸びすることは悪くない。悪くはないが、そうだな。私はもう誰の手にも堕ちるつもりはない、そうなる時はもう」

 

 心がある、なんて嘯かれる胸の真ん中で拳を握る。

 

「マコト先輩」

 

 少しばかり顔を背けたくなるような状況の中で、イブキは言葉を口にした。

 

「どうしてもイブキはね、マコト先輩を惚れさせてみたかったの。あんな強引なやり方じゃなくて、自分の力で苦しめないようにって」

「……」

 

 喉を締め付けて愛を囁いた日、それが傷になっているのかもしれないと賢いイブキは理解している。

 

 そんなことがあった後でさらに、五十嵐ショウコによる雷帝の遺産を使用したテロが起こったのだから雷帝というただ一点で心が離れ気味だったのを、気にしていた。

 

「でも、やっぱり難しいな。イブキにはどうやってマコト先輩と距離をもっと縮めればいいか、わかんないや」

「そんなことはないんじゃない?」

 

 先生が口を出す。

 

「先生?」

「なぁんだそんなことだったら言ってくれればよかったのに。それだったらもうやれることは一つだよ、たった一つさ」

 

 イブキの方に近寄って、アドバイスをする。

 

 しゃがんで少し、マコトに聞こえないようにしながらの助言。

 

「どれだけ思っていても伝わらないことだってあるし、自分の中に湧き出てしまった怖い想像とかが邪魔することだって当然ある。けれども、案外そういうのって”どうなったらそうなるか”を説明できない場合は案外杞憂だったりするんだ」

「先生」

「だからマコトには思いっきり、好きなら好きって言ってみてもいいんじゃないかな」

 

 先生はそういう他ないが、何も諦めや適当の話ではない。

 

 少女しかいない政治の世界では大人っぽく振る舞う必要があるし、それをイブキは理解していないわけはなく、その癖が抜けてないマコトが少し素直さが欠ける時があることは理解していた。

 

 だからこそ、イブキが許されるその幼さもまた武器になる、いや、今だからこそ武器にできる力を誰かに愛してると伝える”言動力”にできるのではないかと、彼らしい背中の押し方。

 

「じゃ、頑張るね」

「うん」

 

 イブキは勇気をもらって、マコトに抱きついた。

 

 あの時とは違って正面から、思いっきり飛びついて、その上で離れないように抱きしめる。

 

 だけど喉元に迫る尻尾も角も牙もない。

 

「イブキ、マコト先輩が大好き! マコト先輩は伊吹のこと、好き?」

「……」

 

 ならば答えは一つ。

 

 彼女が雷帝の遺産のようなものと言ったとて、注いでた愛情は変わらない。

 

 お互いに察しが良くて、内面の波に触れれるようなものだから、離れていって。

 

 でも、それは本当に思っているかどうかなんて確証はないし、ならば自分達はもう一度近くで話し合ってみなければ一生交わることもなくなる。

 

「ああ」

 

 マコトはそれを実感しているからこそ、言えるのだ。

 

「大好きだぞ」

 

 と。

 

 それはもう今までやって来た愛よりも、すごく重くて手放しにくいもの。

 

 万魔殿の皆と育んできたものと同じだけど、イブキとマコトのつながりをはっきりとさせるのはその”好き”という言葉だった。

 

「わーい! イブキ大好きー!」

「ああ!」

 

 なんともまあ微笑ましい。

 

 むしろこれくらいハッキリと好きだって言える世界、いや、政治なのか。それを作り上げたマコトだからこそ許されるのだろう。

 

 それで二人の蟠りは無くなった、と言っていいはずだ。

 

「微笑ましいですね、先生」

「うん、こういうのでいいんじゃない」

 

 イロハと先生はその様子を見守っている。

 

 しばらくはそのままにしておこうと、二人で歩いて部屋を出る。

 

 それも構わずに、イブキをマコトは抱きしめていた。

 

 昼下がりになろうという頃には腹を空かせて出てくるだろうが、しかしそれまでは重要なこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛の形というものは、そうそう見えるタイミングがないのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

「マコ█先輩」って、知ってますか?(作者:有馬Hidden)(原作:ブルーアーカイブ)

みんなは知らないみたいです▼私も会いたいのに会えません▼情報提供をお待ちしています▼万魔殿書記 元宮チアキ


総合評価:1825/評価:8.72/連載:16話/更新日時:2026年06月29日(月) 08:04 小説情報

【完結】羽沼マコトが席から降りた日(作者:詠符音黎)(原作:ブルーアーカイブ)

 ゲヘナ学園万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)議長、羽沼マコト。▼ 誰よりも尊大で、誰よりも悪どく、誰よりもゲヘナの自由を愛した少女。▼ 彼女はある日、そのすべてを捨てて万魔殿議長という立場を降りた。▼ これは彼女が本来ならば決して選ぶ事はなかったはずの道を歩むに至る過去の話。▼ そして、それより先に続く奈落への道を歩んでいく未来の話である。▼※連日20…


総合評価:721/評価:8.42/完結:23話/更新日時:2026年01月15日(木) 20:25 小説情報

お労しいナギサ様へ(作者:ムテケル)(原作:ブルーアーカイブ)

目を覚ますと、俺は『ブルーアーカイブ』の桐藤ナギサになっていた。▼見知らぬ部屋、異なる身体、そして残されていた薬瓶と日記。▼そこに記されていたのは、エデン条約を巡る重圧と、友人への疑念に追い詰められていく一人の少女の苦悩だった。▼幸いにも、俺には原作知識がある。▼これから起こる裏切りも、襲撃も、その先に待っている悲劇も知っている。▼だったら、未来を変えればい…


総合評価:2063/評価:8.18/連載:56話/更新日時:2026年11月04日(水) 20:00 小説情報

センセイモドキは先生を辞めたい(作者:ブルアカやったことない民)(原作:ブルーアーカイブ)

センセイモドキ……センセイオンナタラシに擬態することでキヴォトスに生息する数多の生物から危険を逃れている。センセイオンナタラシとの違いは▼・未成年である事(17歳)▼・ブルアカの知識を前もって持っている事▼・思春期をキヴォトスに生息する数多の生物に破壊されたことによる積極的なセクハラ言動▼pixivにも投稿しております。


総合評価:6764/評価:8.22/連載:32話/更新日時:2026年08月12日(水) 07:00 小説情報

猟犬は透き通る空の夢を見る(作者:ピンカル)(原作:ブルーアーカイブ)

エアを打倒し、星を焼き尽くすコーラルの爆発に巻き込まれたレイヴン。▼ウォルターからの最期の通信を聞き届け、その命は炎の中で散ったはずだった。▼闘争しか知らなかった猟犬は、目覚めた世界でこれから何を成すのだろうか。▼今更ながら、アーマードコア6とブルーアーカイブのクロスオーバー作品です。▼自分が見たいため自給自足しました。▼C4-621がレイヴンの火ルートを終…


総合評価:2828/評価:8.61/連載:64話/更新日時:2026年11月02日(月) 12:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>