今日はゲヘナ領でいつもお世話になっている銃器店に彼女はいた。
「定期メンテナンス終わらせましたけど、全部パーツとか変更なしなんで金いらないです。そもそもが持って行ってても、本格的にシャーレの軍事行動に合流した際には支援砲撃ないし妨害策を使うことが殆どで使ってないでしょう?どこもほぼ新品でしたよ、外装だけ汚れてたんで拭きましたけど」
「助かる。お前のところで見てもらうのが一番だからな」
「でもこれじゃ
「そう言うな、議長が戦えなければ誰もついてくるまい。この自治区ではな」
彼女の唯我独尊、つまるところ固有武器。もっと言えばWA2000。
ブルパップ方式のセミオート狙撃銃で、対テロ用に開発されて高性能だったもののあまりに一丁にかかるコストが高すぎて普及しなかった。
マコトはそれを使っているが、そもそもこの銃は
流石にゲヘナで最高の銃を提供している生徒も、なんとなく歪だと思っていたものの本人の強い意向でずっとWA2000なのである。
「とはいってもですねマコト議長。しばしば銃の精巧さの例えに時計職人が挙がりますけど、銃=時計ってわけじゃないんですよ。実践用ないし競技用で精一杯で、それこそザ・ビットコインないしホーランド&ホーランドみたいなのじゃなきゃほんとに使わないと意味ないですよ」
「前に言わなかったか?『悪魔は実益』であると。象徴としても、武器としても、私はこの武器が一番であると疑わなかったからこそ頼んだのだ。お前は用意してくれた、それが唯我独尊の価値だ。私という政治屋と、お前という市民のつながり、そしてこれに注ぎ込まれた金は税金。故にこれは市民から小銭を無数にかき集めた結晶でもあるのだぞ」
堂々と詭弁を立てるのもまた、頭の務めであるのだろう。政策を打ち立てるだけにあらず、その結果の因果もまた大事にし、次に繋げる。俗っぽく言ってしまえば"誰かの努力を証明し続ける"のが政治家の役目であると彼女は自負していた。
「だから時計"ごとき"と同じにしないでもらいたい」
「ああ、申し訳ありません」
「分かればよろしい」
「ですが、それならばもう一つご提案したいことがありましてね」
「なんだ」
「サブアーム、についてです」
拳銃か何か、今持っている武器より軽いものをもう一個携帯するべきだ。
そう言うふうに、ガンスミス担当の生徒は言ったのである。
「マコト議長が今持っている武器を変えよう、と言う話ではないです。しかしそれは狙撃銃、対人用と言っても取り回しそのものはしにくい。ですので身を守るための拳銃を買いませんか?と言う提案です」
「困ったな、今日は時間が取れていない。射撃試験もしたいが急だな」
「どれくらいお時間取れますか?」
「取れて一時間」
「じゃ30分ちょっといただきましょう」
ガンスミスの生徒はそのまま箱を持ってきた。
布を置いてからテーブルを広げると、リボルバー/オートマ問わず様々なものが出てくる。
「提案するにあたっていくつか好きそうなものをピックアップしておきました。サブマシンガン、ショットガンは私の下にあります」
「拳銃が多いのは助かる。では、これは?」
手に取ったのは小さめのリボルバー。
「それは日本の警察で採用されているサクラですね。38口径、六発入ります。持ち隠し、かつ頑丈さにおいては優秀です。威力はこの年の人間を直接相手取るには足りませんがね」
「いや、牽制射撃は大事だ。空崎ヒナもこの前の一件の時、銃撃戦の連続で銃弾による削りによって出血していたからな。耐えている間に救援を呼べる可能性も考えれば捨てたものではない。だが、そうだな。威力を気にする場合は?」
「そうなるとマグナムですかね」
「シティーハンターの銃は?」
「あ〜、コルト・パイソン。そこのやつです」
「ああ」
マコトはそれを持ち上げる。
ガンスピンなどカッコつけたことはせず、スイングアウト・スイングイン。偽のカートリッジを使っての装填・排莢を繰り返した。
「どうです?」
「もう少し大きいものも」
今度は44マグナムの拳銃。
引き金を引くとガチ、と揺れる。空撃ちしても揺れるとは実弾だったら最悪ブレるかもしれない。
「威力は確かだろう、と言うことは手の重さからは感じるな。ただここまでしてあれだが私はそこまで銃撃戦をしない、扱えても精々44が限界か、そもそもが大きいしな」
「じゃあオートマとかどうですか」
「いいのあるのか?」
「もちろん」
対応する生徒は、並べてあるうちの一つをとって彼女に持たせた。
「これは」
「VP9A1のフルモデルです。VP9Fとも言います、コンパクトモデルもありますよ」
「なるほど」
審美するように動作確認したり、構えたりするマコト。
実戦での射撃経験が薄いが、それは最近のこと。彼女だって立派なゲヘナの一員だ。
軍隊顔負けの構え方、ティーカップのような形で握りもしない。
「少し手首に食い込むな」
「じゃあこっちを」
同じモデルでも、グリップの形状、特に後ろの部分を少し緩くしたものを持たせた。
「同じものか?」
「ええ。この銃はモジュラーグリップ設計といって、グリップの形状を使用者に合わせて調整可能なんですねえ。最近はこういった拳銃が増えてますよ」
「なるほど。これであれば20発は入ってそうだな」
「正解です、さすがは議長」
「キキ、私を誰だと思っている」
ゼブテック、シャドウシステムなど他のグロックタイプの拳銃も使ってみる。
流石に実弾は撃てないものの、銃社会の人間の慣れの一つにスライドの揺れで大凡の射撃軌道と反動がわかるようだ。
「いいなこれ」
「実際のテストはまだなのですぐにすぐにと言えませんがね。ただまあ、それはそれとして扱いやすいのでキープしておくのはアリですよ」
「あとは
「せめてCQCとか言ってくださいよ」
「いやあ最近忍者と極道見てるからつい」
「ちょっと良くないですよ〜」
談笑していると、電話が鳴る。
「失礼」
「ええ」
「はいもしもし」
電話相手はイブキだ。
《イブキだよ〜!》
「ああ、イブキか。どうした?」
《みんなでクリスマスパーティーをやるためにたくさん買い物してるんだけどね〜!どんなケーキを予約したらいい〜?》
「いくつか用意しといたほうがいいだろう。チーズケーキ、チョコケーキ、ショートケーキ……を 1ホールずつとかどうだ」
《わぁ〜っ!楽しそう!》
「イブキどれも好きだからなあ。まあ、多かったら翌日のお菓子にでもとっておけばいいからな。それで行こう」
《うんっ!》
「じゃあ私は一度切る。何かあったらまた連絡してくれ」
《気をつけてね》
「ああ」
電話口なのに対面しあってるような微笑みを持って、マコトは電話を切った。
「いやあ、良い仲ですね」
「このマコト様の部下、仲間には笑ってもらわないといけないからな。自他問わず、幸せに、出来れば本心からな」
「それが出来るからこそゲヘナ生、ですかねえ」
時計を見ると、すでに吟味を始めてから30分が経とうとしていた。
「おお、私が頂いた通りのお時間ですね。いかがします?」
「グロック系列の拳銃をいくつか見繕ってほしい。それ以外は選択肢から外そう」
「かしこまりました」
出口へと武器を持って歩くマコト。
「また時間が出来次第此方に寄る。大方クリスマス以降になりそうだが、ともかく来れそうなら連絡するぞ」
「了承しました」
「では」
「お気をつけて」
彼女は、外に出た。
雪が降るゲヘナ、重厚で黒い建物。狭苦しく冷たい雰囲気が強い。
だが、その根元を歩くゲヘナの住人たちはみんな笑顔で歩いていた。
「良いものだな」
マコトの本心であることは、きっと誰かが拾うだろう。
彼女はゆっくり、ゲヘナ本校へと歩き始める。
その姿は、洋画のワンシーンのようだった。