ここだけ少しかっこいいマコト様   作:らんかん

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マコト様の子守唄

 この日、羽沼マコトはゲヘナを歩いていた。

 

 普通の平日であるのだが、この前企画したイブキの石像大会の視察をやっていたのである。

 

「どの作品も甲乙つけ難いから、やはり投票制に限るな。他もあって20体。ならば観光名所や目印に全部採用できる。良い大会じゃないか、でも皆、本校に置きたいからと張り切っている。良いじゃないか」

 

 うんうん、そう頷きながら歩く彼女。

 

「ああちょっと、お姉さんを困らせたら……」

「ううん、大丈夫。ごめんなさい」

「いえいえこの子が少し」

 

 誰か話をしているのを見た。

 

 片方は犬と子犬。もう片方は白いやつ。

 

「キキ」

 

 流石に愉快か歯を鳴らし、近づく。

 

「空崎ヒナともあろうやつが子守唄で寝かしつけられんとはなあ」

「……何」

「お前を笑いにきたぞ」

「見てわかるでしょう?今あなたの相手をしてる暇がないの

「ではその暇を作る」

 

 一度母親の手に戻った子だが、泣き止んでくれない様子。

 

「ああ、マコト様」

「さん付けでいい。我が子の相手を毎日続けているのはさぞキツかろう、主人は?」

「今仕事で……」

「では私が彼女を落ち着かせて見せよう」

 

 流石に相手がヒナやトリニティの連中じゃなければ丁寧に心がけているようだ。

 

「私が出来なかったのに、やれるの?」

「そもそもお前は声が高すぎる」

「アコとかと比べれば落ち着いてる方だと思うけど」

「脳のない駄犬は空き缶同然だ、よく響くからそう聞こえるだけにすぎん」

 

 アコ関連の話を聞いているので擁護できないヒナは目をそらす。

 

「あと子守唄はトーンの違いというもので聞いてる方が気に食わない場面が多い。曲そのものが刺激的すぎてもアレだが、違和感があるバラードを聴きすぎてもそれはそれで問題だ」

「私の声じゃダメだった?」

「一般的に低めの方がいい。そうだな、低い声を意識できる男を想像して何か言ってみろ」

 

 そう言われて、若干考えるヒナ。

 

 ある程度予想して、粗暴な男を思い出して口にした。

 

「雑魚は失せろよ」

「うーん高いな」

「走れ五行」

「まだ高い」

「五行は我に、てめえじゃ無理だ」

「もう全然ダメ」

「最終手段のデスボイスしていい?」

「やめろ余計に収拾つかなくなる」

 

 そういう言い合いをするために近づいたわけではない。

 

「では、お母さん。その子を私に」

「え、ええ」

 

 マコトは受け取って、近くのベンチに座る。

 

 子供を落とさないようにするため、かつ見守りやすくするためだ。

 

「何せゲヘナも歴史あって、芸術も盛んだった。先生がいた世界のドイツ、つまりあっちのゲヘナですらもそうだ。メルヘン・オペラやジングシュピールなどな。子守唄も普通のやつで眠らんやつもいるから知っている_____一定リズム、長めのボイス、ならこれが一番だろう」

 

 息を整えている。

 

「聞いておけ空崎ヒナ。これがトップのやり方だ」

 

 彼女の準備は万端。口笛とハミングで、インストが始まる。

 

 万魔殿議長の、アカペラ子守唄が開演した。

 

「ユーノハゥゲットエタナルライフ インザセンッターオフザ ライトニンスピードワルツ____」

 

 歌い出しは順調。

 

 流石にゲヘナにも芸術があると豪語しただけ、彼女の歌声はいいものだ。

 

「フィールユアソウルカット バイアラスティナァイフ

 アスユーヘッダウン フォアザ セルフ デストラクティブエッジ」

 

 子犬は泣き止み、マコトを見ている。

 

「凄い……」

「流石に議長張ってるだけあるわねえ」

 

 彼女たちを横目に歌い続けた。

 

「アウアサトリ ア ジャスト フローティングインザコア

 ウェアウィーキャンスピリチュアリ ゴー スルーザドア」

 

 すでに子犬は笑顔になっている。

 

「ウィールノウハウ トゥゲットエタナライフ

 ワイルウィキャチザパルス フロム アンノウン サァテライズ」

 

 こっからサビ。大盛り上がりを見せる。

 

「イフ ユー ゲットザ トランジェント ファクト

 ゼン ウィー フィルザ インフォハイ」

 

 音程は上がるが、マコトのクールな声を保ち、かつクラシック寄りで声をあまり張らないビブラートを保つ。

 

「イフ ユー ゲットザ トランジェント ファクト

 ゼン ウィーア レアリィ フリ〜イィィィィィ_______」

 

 子の羨望の眼差し。

 

「トゥ フライハ〜アァァァァァァイ_______」

 

 そして最後の仕上げ。

 

「イン スペェェェェェェェェェェェイス____________」

 

 

 

 

 

 

 それから大体7分くらいか。

 

 マコトはしっかりと最後まで歌い上げ、一定のリズムかつ聴き心地の良い音程、そして歌っている時に自然と一定間隔で揺れていたのもあって子供はぐっすり眠りについた。

 

 ならばすでに抱く理由もない、と彼女はそっとベビーカーへと返す。

 

「おお……!ありがとうございます!」

「何気にするな。助け合っても生きていけることも見せなければな」

「ヒナさんもお相手ありがとうございます」

「気にしないで」

「では」

 

 犬の親子は元気に去っていった。

 

 残されたのは二人の生徒。

 

「で、残ったのが」

「私とあなた。今から帰るんだけど」

「奇遇だな」

「……はぁ、勝手にして」

 

 二人は、そのまま並行して歩き出した。

 

 冷たい風が吹くこの昼に、彼女たちは珍しく言葉を交わした。

 

「さっきはありがとう」

「あの程度のことでお前に感謝されてもな。私にひれ伏すまい、どうせ私がやらなくても誰かがやる」

「困ってたから。そのお礼も素直に受け取れないの?」

「そのお礼が絶対的な忠誠でなければ端金だ」

 

 互いに、口を一度閉じる。

 

 ああ、平和だ。

 

 枯れ木は裸、故に価値がないように見えてしっかりそこに生えているからこそ季節の代名詞になれた。それを照らすのは、無差別に幸福を振り撒く家の熱。

 

「ところでさっき歌ってたのって何?」

「秘密だ」

「わざわざ秘密にするようなことなの……?あの歌い方だとなんか普通の歌っぽいけど」

「嫌いな奴に歌った歌ぐらい隠してもいいだろう?耳コピでもいいから先生のところで歌ってみるんだな。キキッ」

「なっ……歌えるわけないでしょう。すぐには覚えられないし」

「恥ずかしいんだな」

 

 ちゃかさないで、とマコトは隣の少女のツノで腹を突かれる。

 

「痛ッ!?な、何するんだ!」

「仕返し」

「くっそ〜小鳥遊ホシノと仲良くなってから随分とユーモアレベルを上げたな、イタタ……」

「血を出したら手当てはしてあげる」

「侮るな、私は万魔殿の羽沼マコトだだだだやっぱ痛い」

「……ごめん」

 

 片膝をついて一度呼吸を整え、もう一度彼女は立つ。

 

「次回からは脇腹はなしで頼むぞ。痛い」

「その様子だと足マッサージしたら絶叫が聞けそうね」

「マジでするなよ、私泣くからな」

「いつも泣かされてるからちょっと楽しみかも」

「本当にやめてくれ〜!」

 

 珍しく負けを宣言したマコト。

 

 さて、そんなこんなで歩いているとやってきたのはゲヘナ学園の校門。

 

「そろそろお別れね」

「ああ、ようやくか」

「楽しかったかも、マコトを弄るの」

「次からはもう少し上品な嫌がらせするか……」

「この前のピアノに続いて歌った曲も教えない悪魔にはいいバチね」

「今度のピアノ発表会はマジで豪華にしてやるからな!恥かけ!」

「その頃にはもっと上手くなってると思う。ホシノも誘ってみようかな」

「私が妨害しなくてもそれは上手くいかなさそうだな」

「……そうかも。じゃ」

「ああ」

 

 二人は、バカな話をしつつも別れた。

 

 残ったマコトも、そのまま自分の事務所へと向かって歩き出す。

 

「はあ、いつもあんなふうに素直なら空崎ヒナも可愛いものだがな」

 

 いや、自分もか。

 

 自身のちょっと赤くなった手を見て、苦笑して進むマコト。

 

 さっき歌ったあの歌が、誰にバレるのか。

 

 先生ならわかりそうだ、そう思いながらまた彼女は仕事に戻るのである。

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