今日はシャーレの当番。
あと一話で忍者と極道のアニメ一期が終わってしまうことを互いに涙し、トリニティ関連の書類をバカにしながらもしっかりシャーレ代表としてこなし、掃除までする姿はまさにお家にやってきた世話焼きな親戚。
「いやあごめんねえ、敵対関係の方の仕事任せちゃって。昨日ナギサが頑張って対応してくれたんだけどね」
「気にするな。トリニティは気に食わないがあれ個人には罪はあるまい」
「ありがとう」
「もう少し彼女の側に付いてあげてもいいのではないか?」
「公平さを欠くことになっても?」
「……難しいところだな」
先生は、少しだけ苦悩を見せた。
現在トリニティはいい方向へ向かっている。
アリウスの問題も解決の兆しを見せている上に、色々な政治改革が進行中。目を見張るものがある分、敵情視察の面白さが跳ね上がってマコトはニコニコ。
「というか珍しいね、マコトがあっちのこと心配するなんて」
「本当は哀れんで欲しいものだがな。隣国が常に情勢不安定など笑えない」
「そのためのシャーレだからね。いつでも頼って」
「その時になったらな」
互いに笑いながら作業中。
マコトは書類をまとめて、送り先ごとに封筒に入れてまとめるを繰り返す。
「笑えないほど多いな」
「そうでもないよ?どれもやろうと思えばすぐに終わるけど、まあ手のつけ始めが遅くなってねえ」
「何度も同じことを繰り返すのは辛いからな」
「一気にパシッ!と進めれる方法はないかなあ?」
「それこそリラックスするかずっと気を張るしかないぞ」
「じゃあリラックスするかあ」
「うむ、異論はない」
互いにパソコンを一度ロックする。
買い溜めしてあるジャンクフード、この場合はカップ麺とおにぎり数種。そして温めているチキンとお茶。
「色々買って曜日ごとに食うもの分担してるけど好きなのもらって行ってよ」
「じゃあこの蒙古タンメンを」
「あーいいね私もこれ食べよ」
電気ポッドからお湯を入れて、しばし待つ。
「しかしマコトがトリニティの心配ねえ。そんなに不安定に見える?」
「ああ、不安定だ。特にティーパーティー周りではな」
先生の周りであれば見えないことだ、と付け加えて彼女は話した。
「あの一件以降、確かにトリニティは良くなりつつある。会議してても嫌な話が増えたしな。しかし、トリニティ内部は最悪になってると考えた方がいい。トップはともかく、派閥の人間。ティーパーティーなどは新たな組織が続々と政治の中に入ってくる中で、己の優位性を失う危険性を孕んでいる。特にパテル、トップがあのザマならそろそろ爆発する頃合いだな」
「わかるの?」
「そうだなあ。サンクトゥスもそのうち爆発するかもしれないし……いや、ナギサのやつも危ない可能性がある。最初の二つはトップの怠慢なのでまあ仕方ないが、本人たちが頑張ればまだなんとかなるが、最後のは細心の注意を払った方がいい」
まだ、カップラーメンは硬い。二人は互いに食べるものを見ている。
「フィリウスの人間は悪いことはしていない。ナギサを信じて、事実彼女は応えている。だがどの派閥も欠けずにティーパーティーである認識が欠けている。故に今回、シスターフッドをはじめとした奴らが政治に乗り込んできたことで、自分達の今に危機感を覚えているはずだ」
「立場とか、権威とか、ともかく自分たちの存在を脅かすとか」
「よくわかっているじゃないか」
ほぐれた。
食事の挨拶をしてから、食べ始める彼女達。
「辛いな」
「マコトってそういうのも食べるんだね」
「辛いもの、香辛料、これらは食欲の増加を促す。何しろこの仕事の量だからな、味にひれ伏して食えないなどと抜かすわけにもいかない」
「なるほどね」
食べながら、話の続きだ。
チキンも米も麺も、空腹には耐え難い匂いを放つ。
「で、そんなにピンチなの?」
「桐藤ナギサは知らないだろうが、友情というのに政治的価値はない。その友情によって部下の口は賄えないからな、雷帝はそれを証明せず、私でさえ証明するのに苦労した」
「そんなことはないよ、彼女のおかげで二人は助かってるしトリニティだってトップの団結によって吉兆を見せている」
「本当か?パテルもサンクトゥスもトップのせいで酷い目にあって、しかも外部の人間も自分たちのフィールドに入ってきた。その不安を拭わずして、改革は出来ないだろうと私は踏んでいるが」
「当然の疑問だね」
先生はチキンを一口齧り、味わい飲み込んでから答える。
「確かにマコトが言うように、ティーパーティーがそういった保守派によって破壊される可能性は大いにあり得る。自分たちの利権の確保に走り始めると、ミカもセイアもナギサも邪魔でしかない。彼女達の家族経営同然の運営体制ではシスターフッドとの抗争に耐えきれないのは目に見えてるからね」
「そこまで分かっているなら、焦っている人間が長期的視点を持てないことも理解してそうだが」
「甘いねマコト、すぐそこで分かるくらいの制約が彼女達の目の前にあるんだよ」
今度は彼のターンか。
マコトは少し聞き応えのある話かと、期待して見ている。
「そのためのシャーレでもあるからね。シャーレ・グローバリズムは、自分が連邦生徒会直轄組織であることで”合法的に自治区を持つ学園の政治内容を開示させれる”点だ。まあこれは私の個人的な実力に、連邦生徒会の体裁によって成り立つ薄氷の一撃だけどね。だけど少なくとも、これによって各学園の壁は下がり、学園を超えた”批判”が出来るようになる。それは学園間の交流に多大な影響を及ぼすから、品行方正にならざるを得ない。どんな状況であろうともね」
「体裁を保つことしか覚えてない鳥頭にとってそれは変わらないのでは?」
「制約というのはここからもう一段階踏み込んだ話になる。まあ色々あるけど、一番は君だよ。マコト」
「はぁ?」
先生は自信たっぷりで告げた。
「マコトの将器が彼女達に対する最大の制約だ」
「どういうことだ?」
言われた方は、少し話がつかめないのか聞き返す。
「マコトが把握できてる制約は学園間の透明化によるグローバリズムという正義の横行。そして、各学園の強い生徒という戦力の透明化によって引き起こされる準抑止力的状態。たとえばマコトが嫌いなヒナは、ホシノと仲が良くなったよね。でもマコトはそれをなんとも思ってない。どうして?」
「そもそもが空崎ヒナが強さも背の低さもゲヘナのホシノみたいな節があった、
「あっちにはそうやって構えられる人が少なすぎる。そして、その威風堂々で嘘偽りのない将器そのものが彼女達の恐怖だ」
つまり、先生はこう言うのだ。
シャーレによってキヴォトスの一員というものに各学園が変わりつつある今、お嬢様達の我儘はさほどの効力を持たない。その上で嫌っていたゲヘナはそのトップが、他校の強い生徒と自校の強い生徒が仲良くしてても堂々としているのは大人が強いとされる世界で、自分より大人であると言う事実になり、我儘をより自身の立場を不利にする行動だと自覚させる。
その上、大掛かりなテロやクーデターを起こせばなおのこと学園そのものが危険視されかつてのアリウスみたいになるという恐怖が付きまとうのだった。
「マコトはいつか言っていたね。悪魔は実益を重視する、人は悪魔との付き合い方を学ばなければならないって。シスターフッドはあのクーデターの時から過ちを直視し続けるに等しい、政治に関わる決断をした。救護騎士団は、もっと沢山の生徒を救うために政治に関わった。ティーパーティーだって、あの時までは友情と背負った者達を天秤に掛けてたんだ。今度はあの三人に託した人たちが変わる番じゃないかな」
「……変わるか?」
「変わるさ!アリウスだって入ってきたんだ、またみんなで再集結して出発できるし、足踏みしてるなら先生の出番だよ!」
手を広げて楽しそうにしている彼。
だが、大人気ない。米粒が付いている。
「がむしゃらと言うものは素晴らしいな」
マコトは彼の口に指を当ててついた米粒を拭き、ティッシュで拭き取る。
「あっ」
「よかったな。私一人だけの状態で」
「う、うん。ごめんね」
しかし、先生の言うとおりか。彼女は感心していた。
「ともかく、言いたい事はわかった。評価していることもな」
「んじゃ、暗い話は終わりにしてもっと食べよう!」
「そうだな」
珍しく、誰かのことを素直に認めたこと。マコトはそう思える自分にも、そう思わせた相手にも感謝した。
まだまだカップラーメンは残ってて、おにぎりもチキンもたくさんある。
たくさん食べて、午後の仕事に備えるように二人は駄弁りながら食べ続けたのだった。