ここだけ少しかっこいいマコト様   作:らんかん

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マコト様の手編みマフラー

 手編みマフラーを作る時、基本的には毛糸と鉤針でなんか交互に編んでいくのがいいらしい。

 

 聞き齧りでやっている割には綺麗に表編みができている。

 

「Don't give a damn about the world I will now and eternally Show empathy to your

loneliness Like I care about the world Just break it down________」

 

 そろそろ今年と同時に忍者と極道とも別れの時がやって来ているのか、今日歌っているのは大体ベガス絡み。

 

 実はマコト様、こう言うのは慣れるのが早い。詰まるところ才はある、といったところだろうか。

 

 最近はもう発展しすぎた工業化に頼ればいいだけなので、正直なところ編む意味もない。大人に近づけば近づくほど、行為は相対価値になり絶対的なものは無くなっていく。

 

 しかし、渡す相手はイブキ。最近彼女のマフラーがボロボロになっていたので、クリスマスプレゼントの一つとしてマコトが作ろうと言う話になった。

 

 オレンジと黄色をメインにした綺麗でストレートなマフラーが出来上がっていく。

 

「あら、やってるわね。順調かしら?」

「サツキ」

 

 サツキの登場。やることは変わらない。

 

「平日の仕事場で編むなんて……バレちゃわない?」

「渡したい当人に気がつかれてなければ大丈夫だ」

「怪我はしてないわよね?」

「この道具で怪我をすることはそうそうないぞ」

「ならよかった。マコトに怪我されちゃ堪らないもの」

 

 微笑む彼女それそのものが、マコトを若干くらくらさせる。揺れる硬貨よりも、ずっと。

 

「さっきから歌ってるのはなんなの?」

「Until You Die Outだ。先生が勧めてくれたアニメのエンディング」

「へえ」

「何か?」

「いや、マコトらしいなって。いつも気高そうな曲とか俗っぽい_____って言っちゃうと失礼ね。ともかくヒップホップみたいなのって聴かないから」

「そうかもな。結局、子守唄の時に歌ったのもアニソンだった。あれも先生の受け売りだがな」

 

 編み続ける彼女は、話も止めることはなし。

 

「でもそもそもマコトがそう言うところ見ないから。聴く曲って言ったら尚更分かんないかも」

「それは間違ってない。私も、頻繁に歌ったりとかはしないからな」

「じゃあ、今はそう言う気分だったの?」

「両手が塞がってて脳を最低限しか使ってない時は基本人間は暇になるものだ、そう言う時の歌、ないしラジオじゃないか。まあ、ラジオは基本聞かないが」

 

 それで自分の品に酔う理由も余裕もない、というの正直なところだ。

 

 中々進んでいる、目標値から考えればそこ6割までは進んでいる。

 

「順調じゃない」

「この羽沼マコト様はな、天才なんだ。怪我しないことさえ気をつければこうやって進む」

「わざわざ言わなくても分かるわよ、ずっと貴女の(ステージ)で踊っているもの」

「私は今踊らされてるがな、慣れない鉤針(マイク)握りながら」

「透き通ってるからいいじゃない」

「ああ」

 

 言葉通りの一糸乱れぬマフラー。

 

 そうでもないと隙間から寒くなったりするのだ、小さい子が体を冷やすのは良くない。

 

「そういえば話題になってたわよ」

「何が」

「トリニティ生を案内したんだって?」

「ああ」

 

 それがどうした、と言う表情。

 

「随分と優しいな、と思って。人は選ぶものとは思ってて」

「トリニティ生で一括りにする時は選んでる」

「じゃあ、それだけの価値があったのね」

「補習授業部の人間、だと言ったら?」

「まあ」

 

 その一言で納得したサツキ。

 

 話は進む、絵面は変わらない。

 

「それは確かに対応するだけのことはあるわね、警戒もするわ」

「正義というのは非情なものだ、存在しない道徳をみかじめ料として払えとせがむ癖に自分らを守らない。守るのはそれの奴隷ではなく、言い始めただけの俗人しか守らない。補習授業部というのはそれだ、経済活動さえわからない純粋無垢だけが守られる反知性主義がシャーレによって選ばれたからな。あっちの貴族共には同情するよ」

「嫌い、なのね」

「もとよりゲヘナに正義はない。悪もない。悪魔一つ一つに欲望があるだけだ、人間はもとよりその含有量によって個性が決まってる」

 

 現実はそれに気づき始めてる。

 

 だが、社会は全体主義を推し進めて育って来た側面が強い。それをすぐ捨てるには至れず、経済活動______つまり売れた、売れない、科学の進歩に合わせて努力ではなく才能、もっと言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()になってきた。つまり、才能がなければ意味がない、という歪な世界に変貌しつつある。

 

 社会性を捨てないで、個性を出そうとすると社会性が死なない程度のスキル以外に価値はない。

 

 ゲヘナが健全なのは"得意なことは反社会的だろうが全て許される実力主義になっているから誰しもが劣等感を抱く前に暴れ尽くして眠る"を繰り返しているから。もはや派閥制以外に対して価値を見出さないトリニティとは対極。

 

「じゃあ、マコトはどれで成り立っているの?」

「この依存してしまうほど自由な学園を下手で上っ面しか綺麗にできないやつの手からすぐこぼれ落ちるくらい発展させることだ。シャーレグローバリズムに乗っかって、みんなが自分の欲望に狂える世界を作りたい」

 

 マコトは手を止めた。

 

「どうしたら、作れるの?」

「分からない。だから、不正解を潰していくしかないんだ。雷帝のように、絶対者がいない方がいいから」

 

 微笑む彼女の顔は、少女然としている。

 

 その少女は、問うて来た少女に問い返す。

 

「そういうお前はどうなんだ?お前は、どんな欲望で出来ている?」

「そうね」

 

 聞き返された少女は、視線の先にはいない。

 

「ん?」

 

 其の刹那。

 

 後ろからそっと、抱きしめられた。

 

 喉元から胸元までなぞる指 その指に巻き付いた糸に縛り付けられたコインという運命。

 

「もう分かりきったことでしょう?誰かを操って、自分のそばに置きたい。ずっと、ずうっと、みんなで踊れるように。楽しく過ごせるように」

「サツキ」

 

 喉元を、腕が組み付いていく。

 

「私はマコトみたいな人が欲しい、みんな欲しい、寂しいもの。心の穴が空いたらみんなで埋めて、愛し合って……私が私でなくなったら、寂しくなくなるかしら」

「寂しいじゃないか、お前が消えたら」

「じゃあ、マコトは私の前から消えない?約束できる?」

「それは約束できないな。私はトップだ、政治屋は基本死ぬ。先生のところだってそうだったじゃないか」

 

 スカしたことをいうのはマコトの十八番。

 

 彼女の抱きしめた手を握り返して、彼女は呟く。

 

「いつか、サツキがどっかで幸せに笑ってくれれば。いや、みんながそうあってくれればいい」

「……よく、それで聖人君子なんて言われないわね」

「欲のない奴は俗世に踊るだけで精一杯だ、私はそうはなりたくない」

「じゃあ、私と踊ってくれる?」

「なんだ?」

 

 サツキの手が、マコトの手と重なる。

 

「一緒に、互いの体と指が這うように、二つの糸を重ねて……イブキに私達の愛を送りたい」

 

 重ねられた少女は、自分の手と、隣から覗く顔に微笑む。

 

「____________一緒に、歌おうか。マイクは二つある」

「ええ」

 

 二人は、それ以上は何も言わなかった。

 

 踊るように、交わるように、柔らかで、なぞる様な指使い。

 

 鉤針はただ、自分の歌がどのような形で残るかを知らずに文字通り紡ぎ続ける。

 

 糸は恋焦がれ相手に脳を侵食されるように擦れ、自分達が一つの存在へと果てていくのを知る由はない。

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