これは「フランドールが幸せになる物語」ではありません。
また、救われる瞬間を書いたものでもありません。
紅魔郷の後。
まだ地下にいる頃のフランドールが、
ただ生きて、待って、考えているだけの日記です。
読んで楽しいものではないかもしれません。
でも、原作で語られなかった時間に、
確かにあったはずの心の揺れを、
静かに書き留めたつもりです。
それでも彼女が壊れていないこと、
そして、この先に「幸せになってほしい」と
思わず願ってしまうこと。
その感情ごと、受け取ってもらえたらと思います。
夜。
よくわからない時間。
きょうはね、たぶん夜。
天井の色が、いつもの色だから。
でも、何日かはわからない。
ここは、いつも同じだから。
ノートをひらいた。
このノート、まだある。
なくならない。
なくなったら、こまる。
きょうは静か。
音がない。
前は、もっと音があった気がする。
それが、いつの前かは、わからない。
お姉様は、こなかった。
きのうも、こなかった。
でも「こない」って書くと、
ほんとうに来なくなりそうで、
あんまり書きたくない。
だから、
「今日は会わなかった」
って書く。
お姉様は、いそがしい。
それは、知ってる。
紅魔館の主で、えらくて、
みんなのことを見てる。
私のことも、見てる。
見てるから、ここにいる。
見てなかったら、
私は、もういない。
それも、知ってる。
今日は、お茶がでた。
甘かった。
甘いのは、すき。
でも、今日は少しだけ、
あんまりおいしくなかった。
理由は、わからない。
わからないけど、
「お姉様と飲んでないから」
って思ったら、
少しだけ、納得した。
ここは、安全。
みんな、そう言う。
私も、そう思う。
ここにいれば、
だれも、こわれない。
だれも、死なない。
だれも、こわくならない。
……ほんとうかな。
私は、こわい。
ときどき、すごく。
なにもしてなくても、
急に、こわくなる。
自分が、こわい。
手を見る。
ちゃんと、手。
でも、見すぎると、
よくない気がする。
だから、ノートを見る。
字は、にげない。
書いたら、そこにある。
昨日のページを見た。
「またあそびたい」
って書いてあった。
いつ書いたのか、覚えてない。
でも、気持ちは、今と同じ。
あそびたい。
お姉様と。
でも、あそぶと、
だめになるかもしれない。
だから、あそばない。
それは、えらい。
……えらい、よね。
お姉様は、やさしい。
こないのも、やさしさ。
閉じてるのも、やさしさ。
頭では、わかる。
ちゃんと、わかる。
でも、胸は、わからない。
胸は、
「なんで?」
って、まだ言ってる。
今日は、少しだけ、
昔のことを思い出した。
いっしょに、お茶をのんだ。
笑った。
ケーキもあった。
その時、私は、
なにも考えてなかった。
こわくもなかった。
考えないって、
すごいことだったんだな、って
今なら、わかる。
ここで、ずっと待ってる。
待つのは、きらいじゃない。
だって、待ったら、
来るかもしれない。
来ないかもしれないけど、
来るかもしれない。
その「かもしれない」が、
ここにいられる理由。
お姉様。
今日は、来なかったけど、
明日は、どうかな。
もし来たら、
ちゃんと、静かにする。
ちゃんと、こわくならない。
たぶん。
だから、
今日は、ここまで。
また書く。
書くと、時間が、つながる。
つながっていれば、
私も、まだ、ここにいる。