随分と時間がたった。
雪は徐々に溶けてきており、まだ寒い日もあるが暖かい日も少しは増えてきた。
こいつを拾ってから数日間、俺は子供の頃を思い出しながら体調を崩した時に爺様が良く作ってくれていたお粥を作り、爺様が残した薬を使い様子を見ていた。
そのおかげか拾った獣は順調に回復しており、今は普通に庭を駆け回れるほどにはなっている。
庭とはいうけど山全体がそんな感じだから全快していると言ってもいいだろう。
「にしても白い狐とは……」
どこかからやってきたのか、それとも俺と同じように異常者として生まれてきたのか。
それはわからないがここまで面倒を見たのだから最後まで見たい。ここを無事に旅立てるようにだけはしてやるべきだろう。
そう思いながらもう雪解けの時期だ。
「野菜でも取りに行くか」
立ち上がり庭に出る。
遊んでいた狐が俺の様子に気がつきどこに行くの?とやってきた。
「野菜取りに行くぞ」
「こん!」
「……」
……随分と懐かれたもんだな。
何度も思うが、爺様が残してくれた薬が効いてよかった。あの人も狼を飼っていたからな。そいつ用に作っていた薬が効いてくれたのだろう。流石にこの狐はあいつより小さいから量は少なくしてやったが……まぁ回復したのだからいいだろう。
家からすぐそこにある畑につき、そばにある墓に手を合わせる。爺様とその相棒であったミオと呼ばれた狼の墓だ。
「……」
「……」
こいつも何か感じるものがあるのだろう。
チラリと横目で見ると手を合わせるわけではないが目を閉じて何かを祈るようにしている。いつも騒がしいのにな。
「……さて、今日の分だけとって帰るか」
「こん!」
野菜を取り、しばらくした頃だった。
昔よく聞いた鳴き声が不意に聞こえた気がした。
まだまだ小さかった俺の面倒を見てくれていて、飼い犬……いや、飼い狼?の声だった。どこか親のように構ってきた狼の名前はミオ。
色々な思い出が蘇り少し懐かしい気持ちになってしまう。だからだろうか?
チラリと狐を見る。
こいつも声が聞こえたのだろうか?
何か不思議そうな顔でこちらを見ていた。
……ミオをダシに使ったようであれだけど、もうそろそろ良いのかもしれない。そう思ってしまうほどには、時間が流れていたことを改めて自覚する。
「……まぁ、これだけ時間が経てば出ていく可能性も減ったのか……?」
「??」
「……雪の日だったな……」
安直だとは思うが……。
そうだな。あの日は酷い雪になったんだった。
「帰るぞ。フブキ」
「?」
チラリと後ろを見る狐……いや、フブキ。
後ろには誰もいないっての。お前のことだよ。
「お前の名前だよ」
そう言って横を通り過ぎる。
またも全くこの子はと言いたげな鳴き声が聞こえた気がするが気のせいだと思っておく。
やっと理解が追いついたらしいフブキがキャンキャンと喚きながらついてきた。そんなフブキは歩く俺の目の前に現れては何かを訴えてくる。
「あーもう。そんなことで嬉しがるな」
流石に進行方向に何度もチラつかれると邪魔だったこともあり、フブキを抱えて家へと戻る。
するとそこには人がいた。来客らしい。
「し、白神さまでしょうか……」
怯えつつそう尋ねてきたのは若い男だった。
「そう呼ばれている。何かあったか?」
「そ、その……っっ!!」
ザッと音を鳴らしながら男は膝をつき頭を下げる。
「私の妻が病に臥せっておりまして!どうか、どうかお助けを……!」
「……頭を上げろ」
そう言っても聞かず、頭を下げ続ける男を放っておく。家に入る前に置いておいた布でフブキの足を拭き、炊事場に野菜を運んでおいてもらう。
そして俺は薬置きに使っている部屋へと向かい、爺様が作ってくれていた薬をいくつか手に取った。
「……ついでか」
フブキが向かったであろう炊事場へと向かい、いくつか食えるものを取り男の元へと向かう。
そこには未だ頭を下げ続ける男がいた。
「頭を上げろと言っただろう」
そう言って男の腕を掴み無理矢理にあげさせるが、男のその目にはどこか恐れがあった。
髪も肌も白い人が怖いと思うのは仕方がない事だ。
だがそれでもここへと辿り着いたのだ。ならばこの男には何かしら得るものがあってもいい。
「これを一つ。朝と晩に飲ませろ。それで無理なら俺には救えん」
「よ、よろしいので?」
「要らんのか?」
「い、いえ!!」
「あとこれを食え。お前が倒れればお前の妻も救えんからな」
そう言って食料を渡ししばらく休んでから出ていけとそれだけを伝えて俺は家へと入る。
はぁ……別に神様でもなんでもないのに様付けされてもな。相変わらず爺様以外の人はわからん。
「こん」
「ん?」
フブキが声をかけてきた。
俺はフブキの前に座り、撫でながら話を始める。
「薬のことか?どうせあってもな。昔と違って俺も体を壊すことは無くなったし、眠っておくだけの薬が役に立つなら良いことだろうよ」
「こん」
「それにここまでボロボロになりながら来たんだ。残した者もいて、帰れるかもわからないのに藁にでも縋る思いで来たあいつには、俺ぐらいは優しくあっても良いだろう?」
フブキは町で俺がどういうふうに思われているのかを知っている。だからそれでも良いのか?と聞いているのだと思う。
白神様などと呼ばれ神様のように敬ってくれる人もいるが、白い化け物と言われることの方が多い。
「俺もお前も、いつかは倒れる。それまでの間、できることがあればしてやるのが、俺が教わった事の一つだからな」
「こん」
どうせ俺もいつかは死ぬ。
そうなればこの場所もそのうちなくなる。
溶けてなくなりつつある雪と同じように消えるのだ。
「それまでは……たまに手を差し伸べるぐらいはしてやらんとな。フブキも自分に問題がないのなら、可能な限り優しくしてやれ」
「……」
ぐしぐしとフブキの頭を撫でてから飯を作る準備を始める。……フブキのおかげで孤独感はもうないけれど、だからといって今の生活を大きく変える必要はない。
たまにやってくる人を助け、たまにお礼をもらえれば得をした。今思えば爺様とミオが居なくなり何処かにあった孤独感を無くすために始めた事だけど……。
「ありがとなフブキ」
「?こん!」
さて、飯を作るとしよう。
今日は少しだけ良い気分だし、たまには干し肉でも使ってやるとするかな。
「……ん」
朝だ。
……まさかまた見るとはな。
しかも爺様のことだけでなく、ミオのことまで思い出すとは……。
「アイツらも……もしこの世界にいるのなら、俺のように覚えてたり……するわけねぇな」
今の俺はいわゆるボーナスステージ。
なぜか理由はわからないけど前世の徳積みのおかげだと思うしかない。そんなことを考えながらカーテンを開けると、外には少しだけ雪が積もっていた。
天気も悪いししばらく残るかもな……。
「滑らないようにしないと」
今日は簡単にパンでも焼いて残り物を食べる。
「あ、うま」
貰い物のパンだったがなかなか美味しい。
今度ヴィヴィさんが来た時にお礼言わないとだ。
他にも色々と貰い物があるがそれはまた今度にしよう。……でもニコさん。何度も買ってくるのは重いってのは分かるけど、一応未成年の家にビールのケースを置くのはやめない?……関係ないけどニコさんといえば……なんであんなに失言が多いのだろう?
昨日も前世の名残なのか一部だけ白い俺の髪を見て白髪増えた?なんて言って枢姉ちゃんに絞められてたし……って今何時だ?
「っと、ゆっくりできるほどの時間はないな」
普段と違い歩きにくい雪道。
前世ならともかく今世では年に数回あるかないかの状況。
「俺でも滑る時は滑るからなぁ」
そんなわけで余裕を持って家を出る。
流石に今日はイヤホンをつけるのはやめておく事にした。流石に怖いし……。
「ふわぁ〜……ねむ」
……夢を見たせいかあまり寝れた気がしない。
コーヒーでも飲むべきだったか?なんて考えてしまう。コーヒーは良く飲むし好物に入るからか、考え出したら飲みたくなってきた。
時間にも余裕はあるし、目に入ったコンビニへと向かう事にした。
「あ、白人くん」
「ん?あ、アズキ先輩」
たまに世話になっている先輩がコンビニから出てきた。下を向いていたからか気が付かなかった。
おはようと言いながらこっちへと向かう速度を上げる姿を見て俺も素早く近づく事にした。
「わわっ!!」
固まっている雪でも踏んだのかバランスを崩すアズキ先輩。なんとなくやりそうだなぁと思って近づいてよかった。
すぐに手を掴んで引き戻す。
……痛めてないだろうか?できるだけ優しくしたつもりではあるが……。
「っと、まだ雪残ってるのに走ったら危ないですよ」
「あ、ありがとう。白人くんは大丈夫?怪我してない?」
「してません。先輩は大丈夫ですか?少し腕引っ張る事になってしまいましたし」
「大丈夫大丈夫。全然痛くないよ」
大丈夫らしい。
この先輩は……この間、足の指が治ったばかりなのだから注意してほしい。とりあえず戒め?注意を促す意味でイジっておこう。
「ならよかったです。足の小指折ったのが治ったばっかりだったので心配しました」
「なんかいじられた気がするんだけど」
察しがいいな……話を逸らしておこうか。
「先輩、アイドルかなんかなんでしょ?気をつけないと」
「白人くんのおかげで怪我はないから大丈夫だよ。それよりお礼に何か奢るよ」
「いいんすか?ならコーヒーを」
「了解です。なら入ろっか」
「うす。……にしてもよく俺ってわかりましたね。下向いてたのに」
「え?だってこれ」
先輩は自分の前髪あたりを触る。
あぁ、なるほど。
「そういや白いんでした」
「目立つもんねそれ。染めないの?」
「まぁ今はこれでいいんです。あ、コーヒーこれで」
その後、コーヒーを飲みながら学校へと向かう。
コンビニ前で別れてもよかったのだが、せっかく助けたのに知らないところで転ばれるとな。相手は一応目立つ人だし校門あたりでさりげなく離れる。
「ふわぁ……」
自分の教室に辿り着き、席に座った途端に出てくるあくび……まだ眠いな。
カフェインとったつもりなんだけどまだ効かんか?カバンの中に入っているミントタブレットを舐めて眠気を飛ばそうと頑張ってみる。
「……無理だ。眠い」
腕を枕にしてその場で寝始める。
今日の授業は寝て過ごそうか。なんて考えてしまうが、そのうち目も覚めるだろう。
こうして、どんよりとした天気と同じように俺の気分もよろしくない一日が始まった。
今日は何事もなく一日が過ぎた。
二限目あたりからは流石に目も覚め、テンションは低いがそれなりに友達とも話して……普通だなぁ。
結局天気の回復はなく、雪もまだ残っている。
溶けると思ったんだけどな。それだけ寒いって事だろうし、今日は鍋でもしようか。適当に余ってる野菜ぶち込んで、鶏肉とかあった気もするし。
「あ、あの!」
「!?」
びっっくりした。
完全に気が抜けていたからか人の接近に気が付かなかった。声がする方向を見れば昨日のお粥の人。
「あ、ども」
「よかった……ここで待ってたら会えると思ったんです」
「そ、そっすか」
……い、いかん。
いきなりなんだ?とかそんな疑問よりも、昨日逃げてしまったことを先に思い出して罪悪感が……。
これは完全に話す流れだって俺でもわかってしまった。……しょ、しょうがない。
「あー、その。コンビニ行きません?そこの」
「え?あ、はい」
「「……」」
切り出しまずったよなぁ。
お粥の人を連れてコンビニに入る。
温かいお茶を二本手に取り、会計に向かう。
「あ、おでんうまそう」
鍋のことを考えていたせいだろうか?猛烈に腹が減ってきた。これはどうしても食いたいと思ってしまい……。
「大根、餅巾、はんぺん、厚揚げ、鳥つくね」
あ、普通に買ってしまった。
しかもボーッとしていたせいか声に出しながら……恥ずかしいな……。クスクスと笑われている気もするが気にせず移動して公園へと向かう。
「まぁ寒いんで……食いながらでいいですか?」
「温かいもの食べたくなる季節ですもんね」
「あ、お茶どうぞ」
「え!ありがとうございます」
「食います?晩飯もあるのに買い過ぎましたし」
「あ、じゃあ大……」
こ、こやつ……。
おでんのメインいこうとしたな?
「半分にしましょうか」
二つもらっていた箸の一つを渡し、俺が具材を半分にして取り分けてから蓋部分に俺の分をのせてから渡す。
「どぞ」
「あ、ありがとうございます」
では冷める前に大根を……。
「……」
「……あ、あの」
「あ、私のことは気にせずに」
「あ、はい」
じーっと見られると食いにくいのだが……。
大根を食べて溢れる出汁の味を楽しむ。
あー、うまい。ほっこりするし、これがまた酒に……とは思うが未成年の俺は飲めない。だから買っておいたお茶を少し飲み……あぁ、染みる……。
「やっぱり」
「ん?」
「……ふぅ……変なことを言いますね」
そういってお粥さんが帽子を取って話を始めた。
あぁ……ちょっとだけ思ったけど、本当にそうだとは思わなかったよ。
「私は、白上フブキと言います」
こんこんきーつね!!
主人公の設定。
水宮白人
みずみや はくと
白い神から人へなったって感じです。
身長180
前髪の一部が白くなっており、前世の名残となっています。