デュエマ妄想短編集   作:H.M.S.Ulysses

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 もしかして、クール系美少女がおかしくなっていくのを一人称の地の文で書くのは難しいのではないか?
 背景ストーリーって実は難し過ぎるのではないか?
 
 


熱き侵略と燃える革命

 

 

 

 

 

 遠い昔、あるいは未来。時系列さえ分からない、深い深い記憶の中で。

 

 

 

 私は、走っていた。

 

 

 

 遮る物はない。

 より正確に言えば、遮る物を全て轢き潰しながら、走っていたのだ。

 どんな場所であれ、関係なく。

 荒野も、森も、山も、都市も、私──記憶の中の“俺”にとっては、全てがハイウェイとなる。

 

 走って、走って、走って。

 

(まだ、足りない)

 

 私が、“俺”が、まだ走る事を求めている。まだ──

 

 

 

「──そこまでだ、侵略者」

 

 乾いた空気を切り裂く、一筋の声。

 誰だ、誰の声だ? 強敵の気配に誘われ、初めて“俺”が立ち止まり、声の方向へと顔を向けた。

 そこにいたのは、真紅の鎧を身に纏いし龍。

 “俺”と同じ、赤。

 

「どこのどいつだ? 俺の走りを邪魔するヤツは」

 

「……私の名は、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎」

 

 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎と名乗ったその龍は、高貴さの中に怒りを閉じ込め、傲慢にも宣言する。

 

「早速だが貴様の言を一つ、訂正してもらおうか……私が止めるのは、走りではない。

 ──貴様の息の根だ」

 

(……へえ)

 

 この私の、“俺”の命を獲ろうと言うのか。

 笑わせる。口だけが達者な者の死骸なら、“俺”が走ってきた道の上にいくらでも転がっていた。

 

 だが、気配で分かる。目の前の龍は、明らかに凡百の存在ではないようだ。

 

 興味が湧く。

 障害物としてではなく、敵として。

 

「じゃあ、やってみろよ。なあ……◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎よおッ!」

 

「来い──我が火の国、そしてランド大陸の死した民の無念を、ここで晴らしてみせる!」

 

 両者が、ほとんど同時に地を蹴って飛び出した。

 

 

 

 轟く侵略、燃える革命。

 常勝の拳と、無敵の剣。

 あっという間に接近し──交差する。

 

「──!」

 

 驚きを洩らしたのは果たしてどちらか。それすら分からないまま、“俺”は再び目の前の敵に拳を叩き込む。

 まだ、まだ、もう一度。

 一合、二合、十合。

 しかし相手は倒れない。◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎は死んじゃあいない。

 それどころか、剣の速度が上がってさえいる。

 

(楽しい──)

 

 いつの間にか湧き上がってくる、この感情はどっちのものだ。

 私か、“俺”か? きっと両方なのだろう。

 走るのではなく、戦っている。それなのに、心の奥底が快感情に揺さぶられているのだ。

 

(まるで、私が彼と会う事が、運命だとでもいうのか?)

 

 隻眼の悪魔龍が、時を操る天の龍が、奴の加勢に加わらんとする。 

 邪魔だ。これは、“俺”と◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎との闘いだというのに!

 

 

 

(もっと。もっとしたい)

 

 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎と、もっとぶつかり合いたい。たとえ最後にはどちらかが斃れるとしても、その瞬間まで。

 

 もっと、もっと、もっともっともっと──

 

 

 

(……ああ、これが記憶でなく)

 

 現実であったのなら。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 レッドゾーン。

 革命軍に甚大な損害を与え、しかし、三つの革命ゼロの力の前に敗れ去った侵略者。

 “私たち”の親、あるいは長兄。

 平たく言えばオリジナル。

 

 そして、当然の事ながら“私たち”は子だ。きょうだいだ。

 レッドゾーンという存在を元に生み出されたクローン。

 といってもコピーとは違い、個々のクローンにはそれぞれ特徴が設けられている。ある種の強化点といえるのかもしれない。

 

 例えば、私なら──速さ。

 ボディを軽くし、その代わりに手に入れたのだ。轟く侵略のさらに先、触れる者みな焼き尽くすような、熱き侵略の力を。

 

 

 

 与えられた名は、Z。

 レッドゾーンZ、それが私。

 

 

 

「──また、か」

 

 スリープ状態だった身体を起こす。

 ソニック・コマンドはとどのつまり機械で、機械が夢を見るという道理はない。従って、今のは夢ではなく、ただのデータだ。

 

 戦闘データ。レッドゾーンと三人の王の、戦い。名義的にはそうなる。

 

(違う! “俺”と◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎の戦いだ)

 

 ……私は薄々分かっている。戦闘データが、スリープ中唐突に、まるで夢かの如く表示される訳がない。

 

 

 

 これは、欲求だ。

 “俺”の──つまるところ、私の人格の基盤であるレッドゾーンの記憶の──物なのか、私自身の物なのかは、定かではないが。

 

(彼に会いたい)

 

 会って、戦いたい。

 あの日流されたレッドゾーンのオイル、そして戦いの記憶が、私をあの存在へと誘っているのだ。

 

(だけど──)

 

 繰り返しになるが、ソニック・コマンドは機械だ。機械──何かに従わなければならない存在。

 私は……レッドゾーンとは、オリジナルとは違う。どこまで行こうとクローンでしかない私が勝手な行動をする事を、あの“天才”は許さない。

 現に、“俺”が覚えていたはずの◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎の名前さえ、私には分からないのだ。

 

 だからこうして、欲求だけが溜まる。

 狭い檻に閉じ込められ、あるのかも分からない天涯無限の大地を求めて、無意味だと知りながら壁に身体を打ちつける獣と、今の私はそう変わらないだろう。

 

 

 

「──い、おい、レッドゾーンZ、聞こえてるか?」

 

「……どうしたの、ザ・ゼット」

 

「召集だってさ。革命軍の雑魚狩りだ! 全く、俺達を使いっ走りみたいに扱いやがって……」

 

 昨日も、今日も、こんな日々の繰り返し。

 私の心の中にある杯が、満たされる時は来るのだろうか?

 

(──ああ、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎)

 

 それでも。

 それでもいつか、彼の名を呼んでみたい。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

「こ、コイツ、早過ぎる──」

 

「遅い」

 

 その“いつか”とやらは、来ないかもしれない。

 けど。

 

「死んだレッドゾーンが、S級侵略者だっけか? になったんだとさ。俺たちみたいなクローンは、もう用済みなのかねェ」

 

「……知った事じゃない」

 

 私に出来る事といったら、あるか分からないゴールに向かって、しゃにむに走る、それだけだろう。

 走って走って走り続けて、疲れて倒れ込んだ果てに、もしかすると求めていた物を得られるかもしれないのだし。

 

「おの、れ……侵略者め……」

 

「二度は言わない。火の革命軍の、リーダーの場所を教えて」

 

「だ、れが、言──」

 

 こいつではだめだ。

 あいつでも口を割らない。

 でも、私は心のどこかで、目的地に少しずつ近づいているような、そんな気持ちを抱いていた。

 

 

 

 ──レッドゾーン! ここで、私が貴様を討ってみせる!

 

 ──がはッ……どう、した……私はまだ、立っているぞ、レッドゾーン……!

 

 一日ごとに回数を増すフラッシュバック。

 一拍ごとに高鳴る胸。

 あと一つ、何かキッカケがあれば。

 

(私は、彼に会える)

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 第●●レポート

 

 【規制済み】の復活から●日経過。

 残存する革命軍は、指定ポイントへの撤退を87%完了させつつあり──

 

 ──なお、【規制済み】の死後、その管理下にあった“轟速の侵略者”のうち●●体が行方をくらましている。その中には──

 

 ──革命軍・主要五団は、引き続き警戒を。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

「レッドゾーンのクローン? よく分かんないけど、ソイツが暴れ回ってるって事か?」

 

 ダママ団の長、そして私の盟友であるプチョヘンザが、私にそう聞き返した。

 無理もない。ダママ団が加わったのは、あの禁断が目覚めた後の事である。レッドゾーンという名を知ってはいても、クローンがいる事までは知らないはずだ。

 

「そうだ、レッドゾーン──最強の侵略者の複製品だ。禁断の目覚めによってなのか、一部が姿を消していたのだが……」

 

「そのうちの一体が、急に見つかった、と。だからお前がオレのところに来て、共同討伐を依頼してるってワケだな」

 

 そう言ってプチョヘンザは──“彼女”は、ニヤリと笑ってみせる。合点がいったようだった。

 

 彼女は、今でこそ《百族の長》としてダママ団から慕われる存在だが……そのヒューマノイドのような小ささが故に、昔は族長として認められる為に相当苦労したらしい。

 だが、見かけが小さいといっても、その中に秘められた力と覚悟はどんな巨龍にも勝る事を、私は良く知っていた。

 

 大胆不敵にして快活。

 そんな彼女は、私の大切な友の一人である。

 

「レッドゾーンという存在は恐ろしく、何より、強い。実際、かつての私を含め、同等の力を持つ者三人がかりで仕留める事の出来た敵だ。

 だからこそ確実な戦力をもって、今回は挑みたい」

 

「まあ、クローンっていったら、オリジナルと同じくらい強くて当たり前だもんな。

 ……でも、どうしてオレなんだ? もちろんオレたちダママ団の方が強いけど、ハムカツ団にも強いヤツはいっぱいいるだろ?」

 

 なぜ、か。

 答えなど、最初から決まっている。

 

「お前が最も強く、そして信頼のおける存在だから──という理由では、駄目か?」

 

 ……そう言うと、なぜかプチョヘンザの頬が朱に染まった。

 

「……それ、って。オレをそれくらい買ってくれてる、そういう事で良いんだよな?」

 

「ああ、当然だ!」

 

「へ、へへ……そう、なんだ……ありがとな、ドギラゴン」

 

 言い終える頃には、彼女の顔は真っ赤になっていた。

 熱でもあるのだろうか?

 

 

 

「……信頼、しんらい……えへへ……」

 

族長(ミア・モジャ)、どうかしたの?」

 

「な、なんでもないよ、ンババ!」

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 依頼から二日後。

 私とプチョヘンザを筆頭にした討伐隊は、あるポイントに辿り着いていた。

 報告によれば、この森の近辺でクローン──レッドゾーンZと呼ばれる存在は目撃されたようだ。

 

「危険のない範囲で、ハムカツたちを偵察に出したが……」

 

「未だ接敵報告なし、だな」

 

「彼らは素早いから、もしかすると偵察の網を縫って行動しているのかもしれん」

 

「敵はオレたちの方に向かってる、なんて事もありうるワケか……」

 

 プチョヘンザが呟く。

 確かに、彼女の懸念はもっともだろう。全員に、さらに警戒を厳とするよう伝えなければ──

 

 

 

「──団長! ターゲット……でござる──!」

 

「!」

 

 声の主は、私たちから近い場所で偵察についていたカツえもん。

 いつも冷静沈着な彼が、この時ばかりは切迫した声で叫んでいた。途切れ途切れではあるが、ここまでも声が届く。

 

(来たか──)

 

 レッドゾーンの速さは私が一番分かっている。このままではカツえもんの身が危ない事も。

 だが。

 

(私は、前の私とは違う)

 

 

 

「行くぞ、プチョヘンザ」

 

「もちろん!」

 

 言うが早いか、二人のドラゴンは地を蹴って駆け出していた。

 その速度、侵略者の如し。

 

 あっという間にカツえもんと、敵の姿が見えてくる。

 小さい。レッド・エンドよりも小さいだろうか。

 

(いや、あのレッドゾーンの力を継いでいるのだ)

 

 油断すべきではない。しかし、恐れ過ぎてもいけない。

 奴に見せてやるとしよう。私たちの新たなる、そしてファイナルな力を。

 

 

 

「カツえもん──! 私の名を呼べ!」

 

「団長ーっ!」

 

 二人がお互いの方に向かって飛び出し、その手が交差される──いや、タッチだ。ハイタッチをしたのだ。

 

 これぞ、革命チェンジ。弱き者に代わり、強き者が悪を討つ。

 

「この剣、受けてみよッ!」

 

 チェンジの勢いをそのままに、私は敵の懐に飛び込み──《星王紅鬼勝》を横一文字に描き、胴めがけて斬撃を放つ!

 

「……!」

 

 しかし、敵の方が速い。必殺の一閃は、ぎりぎりでかわされた。

 

 だが、もう少しで、私は奴を──レッドゾーンZを一刀のもとに斬り伏せていたはずだ。

 

 あの時とは違う。

 そう、私は強くなったのだ。だからこそ、負けられない。

 もう何も失わない。

 

 

 

 今にも落ちてきそうな青空の下で、革命軍と侵略者が二人。

 私は呼吸を整え、そこで初めて、目の前の敵をよく見る──と──

 

(──!?)

 

「ドギラゴン、大丈夫か……って──!?

 そ、そいつは……」

 

 後ろからやってきたプチョヘンザもまた、私と同じように驚き、言葉を失う。

 

 当たり前だろう。

 なぜなら、そこにいたのは。

 

 

 

「ド、ギ、ラ、ゴ、ン……ドギラゴン、ドギラゴン、ドギラゴン──

 ああ、あなたはドギラゴンという名なんだね……やっと、見つけた」

 

 レッドゾーンとはまるで姿の違う、機械仕掛けの少女だったのだから。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 あの時から。

 “アレ”が目覚めた時から。

 “天才”が死んだ時から。

 

 本来なら私もまた、オリジナルと同じように“アレ”に付き従うはずだったのかもしれない。

 手違いか、運命の悪戯か、もしくは……クローン故の必然か。

 

「な、んでだ……俺たちは、侵略者、なの、に」

 

「槍が、槍が、痛い痛いイタイ……」

 

 私たちのような紛い物は、禁断の使徒になる資格さえ、最初から持っていないらしかった。

 

 けれど。

 皮肉かもしれないが、その事実を思い知らされる事こそ、私が全てのしがらみから逃れる為の条件であり。

 

(コピーではなく、ただレッドゾーンの記憶を手にしただけのZとして)

 

 求めてやまない彼を目指す為の、最後の条件でもあったのだろう。

 

 

 

「お、い……おい、レッドゾーンZ、どこに行くんだ!」

 

「……ここではない、どこかへ」

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 ──私の名は、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎。

 

 鳴り響く。

 

 ──早速だが貴様の言を一つ、訂正してもらおうか……

 

 鳴り止まず。

 

 ──ここで、私が貴様を討ってみせる!

 

 彼の声。

 

 枷を取り払ってからは、毎日のように繰り返されるようになった声たち。

 それほどまでに、レッドゾーンの意思は、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎を求めているのだろうか。

 

(いや、違う)

 

 求めているのは“私”だ。

 

 

 

「何、なんだよ、コイツ」

 

 違う。

 

「コイツ、侵略者の癖に、どうし」

 

 違う。

 彼は、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎はもっと大きく、そして強かった。

 

 どこだ、どこにいる。どこから来る。どこへ行く。

 どこ、どこ、会わなければ、会いたい、会いたい──

 

 

 

 

 

「──私の名を呼べ!」

 

 ……あ。

 

「この剣、受けてみよッ!」

 

 ……これだ。

 

 

 

 

 

(やっと、会えた)

 

 会えた、会えた会えた会えた。

 ああ、私はレッドゾーンで、でもレッドゾーンではないから初対面だっけ。初対面、初対面でする事って何だ。

 名前、名前だ! 名前を知る、聞く、聞かなければ。もう◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎と心の中で呼ばずに済むのだ。名前、名前を。知りたい知りたい知りたい──

 

「ドギラゴン、大丈夫か……って──」

 

 後ろの女が、彼を呼んだ。

 何と言って、呼んだ?

 

 ド……ギ、ラ、ゴ、ン。ドギラゴンと。確かにそう言った。

 そうか、彼はドギラゴンと言うのか。

 

 ああ、名前が分かったのなら、挨拶をしなければ、挨拶を。

 ずっと探していた事を、求めていた事を伝えなければ。

 

 ああ……これでやっと。

 

 

 

 

 

 ◼︎◼︎◼︎が埋められる。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 驚きを隠せないまま、私は目の前の敵に問いかける。

 

「貴様、は……レッドゾーンのクローン、なのか?」

 

 戦場でこのように問う事は、愚かかもしれないが。

 しかし、彼女はどこかおかしかった。

 

 何度も何度も、私の名を呼び。

 ずっとずっと、私の目を見て。

 立ち尽くしているのだ。

 

「……そうだよ。私はレッドゾーンのクローン」

 

 でも、出来ればそう呼ばないでほしい。

 そう彼女は続ける。

 

「私はZだから。あなたを求めてここまでやってきたのは、レッドゾーンじゃなくて、Zなのだから」

 

「何──貴様が、私を求めた?」

 

 どういう、事なのか。

 

「今、理解しなくても良い。

 私がここにいるのは、あなたに会う為──それだけ分かってくれたなら、何も問題はないよ」

 

「私に、会う、為」

 

 いや、しかし、レッドゾーンは侵略者のはずだ。

 

「だから……私はZ。レッドゾーンじゃない。もう侵略者にも、イニシャルズにもなれない存在」

 

 ……そう、か。

 

「しかし、見逃すわけにはいかない」

 

 無差別に暴れているクリーチャーを、どうして野放しにできるだろう。

 彼女はここで討たなければならない。

 それが必要な事だ──必要な事のはずだ。

 

「あなたならそう言うと思った、ドギラゴン。じゃあ私たちは、殺し合わないとね」

 

「おいおい、オレの事も忘れてないか?──ドギラゴンに何を求めてるのかは知らないけど、お前は絶対、彼を殺せない。オレが殺させないよ」

 

 落ち着いて聞けば、プチョヘンザの声色に僅かに滲む怒気に、私も気づいただろう。

 だが、そこに気を回している余裕は、実のところなかった。

 

 

 

(目の前の少女は、敵だ)

 

 それは分かっている。しかしどうしてか、心の中に躊躇いがあるのだ。

 本当に、斬ってしまって良いのだろうか。もはや何者でもない彼女を。

 

 なぜなのだろう。

 なぜ、そう思ってしまうのだろう。

 見かけでなく、彼女の魂が──ひどくちっぽけで、孤独なもののように見えたから、なのだろうか。

 

 もし、その直感が正しいのだとしたら。

 

(私が、向けるべきは……剣ではなく)

 

 

 

「お隣さんは、やる気満々みたいだけど」

 

 そう言って戦闘態勢に入るZの目に、悲しみと諦観が垣間見えた気がして。

 

「さあ、ドギラゴン、構えて。私を見て。

 存分に、殺し合って──私を満たして。

 さあ、ドギラゴン……さあ、来て!」

 

 彼女の声が、どこか泣き叫んでいるようで。

 

(──私は)

 

 団長である以前に。王である以前に。

 ただのドギラゴンとして、私にはやるべき事があるのではないか。

 

「──来ないんだ。じゃあ、こっちから行くね」

 

 彼女が地を蹴る、唸りが聞こえた。

 私は、迎撃する構えを取る。

 

 

 

「──私のもとに来ないか、レッドゾーンZ!」

 

「────え?」

 

 

 

 彼女の俊速の拳をいなし──だが、私は斬り刻むのでなく、正面から抱き止める事を選んだ。

 そうして発せられた突然の提案に、Zは呆気にとられた顔をして。

 

「それ、は、どういう」

 

 何か、言葉を継ごうとした瞬間。

 

 

 

「────」

 

 糸が切れたように、彼女は倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

「メインシステム、スリープモード移行」

 

 ──ふふ。あ、はは。

 見透かされていたのかな、彼に。

 

 私の彼を求める気持ちを。

 ◼︎◼︎◼︎の正体を。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 ……この場にいる三人のうち、一人は倒れており、もう二人の間には気まずい沈黙がある。

 

 しかし、元はといえば私のせいだ。本来は倒さなければならないレッドゾーンのクローンを、私の一存で生かす事にしたのだから。

 きっと、プチョヘンザもその事で怒っているのだろう。黙って怒りを抑えているに違いな──

 

「ドギラゴン……お前、お前っ!」

 

 ……いや。どうしてそんなに顔を赤くして震えてるんだ、プチョヘンザ?

 

「本当に分かんないか、ドギラゴン……?」

 

「な……何がだ……?」

 

 そこで、なぜかプチョヘンザは急に叫んだ。

 

 

 

「──あれは! どう考えても! お前からの! 告白とか、そういうのだろ!」

 

「なっ……告白だと……!?」

 

「というか、何なんだあの、Zからのお前への……あ、あの、態度は! まるでずっと恋焦がれてたみたいな、アレは!」

 

 そんな、馬鹿な事があるか。

 私と彼女は初対面だ。それに……私は、決して、決して、告白などしていないぞ!

 

「一つ聞くけど、ドギラゴン……胸に手を当てて考えろよ。

 ──どっかで、あんな感じの子をたらし込んでないか? いや、たらし込んだんだよな!?」

 

「た、たらし込むなど……ない、絶対に!」

 

「嘘をつくな! お前の事だから、どうせ無自覚に……」

 

「嘘じゃないと言ってるだろう!」

 

 というか、どうしてそんな事にそこまで怒ってるんだ、プチョヘンザ……?

 

「怒、ってる……う、うるさいうるさい! 女の心を弄ぶ人たらしドラゴンの言う事なんか聞いてやらない!

 ……信頼してるって、お前が言ったのに、信じてたのに……」

 

「ちょっと待て、今、なんと……?」

 

「だぁーー! 聞かなくていい!」

 

 

 

 さて、さっきまでの空気はどこへやら。

 今にも落ちてきそうな青空の下には、痴話喧嘩のような怒りと叫びが響いていた。

 

 

 

「……でも、さ。なんで倒さないって決めたんだ?」

 

「それ、は。

 彼女を、もう敵と位置づける必要がないからで……」

 

「本当は?」

 

「──寂しそう、だったから」

 

「……お前らしいよな、そういうところ」

 

 

 

 

 




 
 
 レッドゾーンZちゃんに乱暴に押し倒されたい人生だった。
 続きはないです。

・ドギラゴン
 我らが団長。イケメンドラゴンだね♡痴態見せろ(豹変)
 レッドゾーンZちゃんが殺し愛願望持ちではなくなっていた事を見抜いた今回のMVP……?
 もともと火の王だし苛烈なところはあるけど、根っこは優しいというか何というか、殺すよりも守る事を優先してそうだな、と思いながら書きました。

・レッドゾーンZ
 ドギラゴンに会って殺し合いたい→ただ会いたい、にすり替わっていたクール系少女。でもやっぱりレッドゾーンの系譜なのでドギラゴンがそのまま戦いを選んでたらノリノリで戦って死んだと思われる。
 ちなみに、その後は目覚め、革命軍の管理下に置かれるようになった。
 ドギラゴンに色々な事を求め出すようになったらしいですよ、一体何をですかねえ。

・プチョヘンザ
 しっとりプチョヘンザ×クソボケドギラゴンは流行らせろ。

 正直、「クローンだから禁断の支配下からも外れてました」の部分は完全な妄想なのでお許し下さい、チアリ博士!
 
 
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