デュエマ妄想短編集   作:H.M.S.Ulysses

4 / 10
 
 
 ドギラゴン閃には「別時空の競技世界のバスター(の中でもdottoさんが使用した)」みたいな感じの背景というか物語があるが、天はどう解釈したら良いのか分かんなかったため捏造しました。
 そこ注意です。お許し下さい!
 
 


ドギラゴンが二人?

 

 

 

 

 

 昔々、あるいは未来、とある龍が居た。

 

 ドラゴンを超えたドラゴン。彼はいつも、その称号で呼ばれた。彼の本当の名が何だったのか、そんなのはまあ大した事ではないだろう。重要なのは、何を成したかだ。

 

 彼はとある大陸の、とある火の国を治めていた。そこに争いと侵略が起き、彼は革命の力と共に闘う道を選んだ。

 燃え上がるような赤龍は、いつしか仲間を率いし蒼龍へ。挙げ句の果てには、何もかもを──世界さえ、ちっぽけだがしかし大きな背中に背負って。

 

 そうして、不死鳥の如き黄金の龍が生まれた。

 その力によって、彼は最後の敵を倒した。

 引き換えに、彼もまた死んだ。

 

 これにて終幕。

 世界には平和がもたらされた。彼の、ドギラゴンの物語は、終結したのだ。

 めでたし、めでたし。

 

 

 

「……本当に、そう思うのかい?」

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 今、自分が夢の中にいるのだと、私が気付くのに大した時間はかからなかった。

 

 さっきまで私は眠っていたのだから、そもそもこんな、荒野のような場所に居る訳がない。

 現実と言うには身体が軽過ぎるし、さらにこの空気。僅かな甘い匂いまでもが漂っているのは、異様だと言って差し支えないだろう。

 

(……あるいは、D2フィールドか?)

 

 今この空間が、そもそも敵によって仕掛けられた網の中である──詰まるところ、眠っていた私がフィールドの生み出す幻術に引き込まれているという可能性。

 だが、私とてそれを気取れない程愚かではないつもりだし、夜の当直にあたっている団員もいる。彼らの練度を考えれば、何かしらの敵意がこちらを狙っているとして、そういう気配にはすぐ気付き、阻止にかかるか私を起こすはずだ。

 

 そして何より、ところどころに転がっている──本来なら複数あるはずがなく、またその辺に落ちているべくもない、私の装備に極めて良く似た残骸たち。

 

(少なくとも、私がイニシャルズなら、こんな余計な幻想は作らないだろうな)

 

 だが、夢とは自分の内より出づるもの。辻褄は合う。

 

「となれば。夢か。しかし……」

 

 この違和感は何なのだろうか。

 

「──進んでみよう」

 

 

 

 どこが進むべき道かなどは、まるで分からない。しかし、とにかく一歩を踏み出さなければ何も始まらない事を、私は知っている。

 それに、歩いていると、意外に分かる事もあるものだ。

 

「……? これは……別物か?」

 

 歩いた先でもぽつぽつと落ちている、蒼鎧、マント、《星王紅鬼勝》……正確には、それらのような何か。

 遠目には、私の持っているそれらを写したようなものだと思っていたが、よく見ると、蒼くなかったり、形が違ったり──禁断を彷彿とさせる槍や、擬似的な七支刀だった時は流石に驚いたが──明らかに作りが違う。

 夢は自身の想像し得るものしか出てこない、と聞いた事があるが、私にはこのようなものを考えてみた経験さえない。

 というのに、何故だろうか。どれを見ても、不思議と気味が悪いとは思えなかった。

 ハムカツ団の意匠があるからか?あるいは──

 

「──、っと」

 

 足が止まる。

 気付けば、大きくはないが切り立った地形が、眼前にそびえていた。物思いに耽りながら、いつの間に長い距離を歩いていたらしい。

 しかし夢は一向に覚めないまま。既に結構な時間が経っているはずだというのに。

 

「むう……」

 

 前方への視線を切り、辺りを見回す。

 やはり特筆すべきものは何もない。残骸のみが転がる、不毛の大地。

 

(一体、どういう種類の夢なのだろうか……明晰夢、とやらか? こういった事象の説明は本来、テック団や、博識なミラクルスターなどの領分なのだがな)

 

 溜息が出そうになる。夢だと分かっている時の夢という奴は、かくも面倒なものなのか。

 

「兎にも角にも、待つしか──」

 

 そう独りごちて、再び進行方向を向いた時。

 

 その瞬間に至って、ようやく私は気付いた。

 

 

 

「……」

 

 地形の上。誰かが立って、こちらを見ている。

 

 

 

「──!?」

 

 ぬかったか! その眼で見る直前まで全く気が付かなかったとは、私も焼きが回ったものだ。

 誰かは分からないが、どうやら気配を隠す術に長けているらしい。私の認識の下に巧く潜られ(ジャストダイブされ)ていた、そんな感覚がする。

 

(私が姿を知覚して初めて、水面上にその存在が上がってきた)

 

 この事実だけでも、相当な強者である事は明確。

 

「何者だ!?」

 

 乾いた荒野を斬り裂いて、誰何の声を飛ばす。

 その声に応えてか、其奴はふっと飛び上がり、下、つまりこちら側に軽々と着地した。

 控えめに舞う砂埃。晴れるのは一瞬だった。

 上に居た時より格段に見やすくなったその顔を良く見て、誰なのかを私が判別しようとする──よりも早く。

 

 その者……いや、彼女が、先に口を開いた。

 

 

 

「おはよう、どこかのドギラゴン!」

 

「……!?」

 

 この者、何故。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

「……何故、私の名を知っている」

 

「え、逆に知らない訳ないよね」

 

「……??」

 

 ……何と言うべきか、話が噛み合っていない気がする。

 私を相手に気配を潜め切るだけの実力を持つ、赤い衣で身を包みし目の前の女性──一体誰なのだ。どこかで知り合ったか。

 本当に心当たりがない。

 情報が、欲しい。

 

「──とにかく。其方からも名乗ってもらおう」

 

「名乗るも何も、分かるじゃん。ボクもドギラゴンだよ」

 

「……は??」

 

 ……いや、いや。情報を得た結果、ますます意味が分からなくなるなど初めての経験だ。

 目の前の彼女が、ドギラゴン?

 その名を名乗る者は、私とあいつだけのはず。

 

「いつまでも“どこかの”なんて言う訳にもいかないか。とりあえず、キミのいた世界について教──」

 

「少し、待て」

 

「?」

 

「先程から、話が理解出来ない。恐らくだな──私と其方では知識の前提が違う。其方が知っている事と、私が知っている事に、隔たりがあるのは間違いない」

 

 どうにかして、言葉を捻り出す。

 すると、なんだそういう事か、と彼女は──“ドギラゴン”はあっけらかんと返してきた。

 私にとっては大問題なのだが。

 

「ええと……まずキミは、ここがどこだか分かるかい?」

 

「皆目見当が付かないな。分かるのは、謎めいた残骸の点在する、荒野という点だけだ」

 

「あー、そっからか……噛み砕いて説明するのが難しいんだけど……」

 

 

 

 ──いろんな世界のドギラゴンの集まる地、って言ったら信じる?

 

 

 

「……個人的には、疑いたいが」

 

「何だよその反応!?」

 

 

 

 うーん、と唸りながら、“ドギラゴン”は話を続ける事を選んだ。

 

「じゃあ──残骸の事には気付いてたよね。今キミが纏うものと、よく似てたんじゃないかな?」

 

「……その通りだ」

 

「だよね。簡単に言うと、あれらは別世界のボクたちの装備だ」

 

 別世界の私たち。

 別の世界とやらに居るという、私ではないドギラゴンたち。

 確かに彼女も三叉槍を携えていて、それは落ちていたものの一部に似ている気がする。

 

(いや、待てよ。とすると……)

 

「であれば、あれは、別世界の私たちとやらが死んだ痕跡を遺している、という事か?」

 

「縁起でもない事言うね」

 

「縁起も何も、ただの推「まあ事実っちゃ事実だけどさ」その流れで本当なのか!?」

 

「言ったのキミじゃん……」

 

 溜息が聞こえる。

 いやしかし不服だ。縁起でもないと言うからには、てっきり推測は外れていたのかと……というより、外れていて欲しかった。

 

「……あれらの持ち主だった“ドギラゴン”は、ここで?」

 

「厳密には、そうじゃない」

 

 ここは夢だからね、と彼女は苦笑した。

 心なしか、乾いた笑いだった。

 

「それぞれのボクたちには、それぞれの世界があって。そこで命を落とした者の痕跡が、ここに現れるんだ」

 

「……?」

 

 今。

 彼女は妙な事を言ったような。

 

「ボクだって変な仕組みだと思うよ。でもそうなってるんだから、どうしようもないさ。

 ……何だろうね、酷い話だと思わないかい?」

 

「酷い、話?」

 

 うん、と頷いて、彼女は続ける。

 

「それぞれの“ドギラゴン”には、きっといろんな性格があると思う。それこそ世界の数だけ。でも、その誰もが──並び立つ、あるいは後に続く、仲間を持っているはずなんだ」

 

 仲間。

 そう言われて、思い出されるのはハムカツ団。

 ハムカツ、ボスカツ、カツえもん、それだけではない。全ての団員が私の戦友であり、守るべき友だ。

 

「生の喜びも死の悲しみも分かち合える存在が、いるというのに……墓代わりになるのが、自分の鎧と武器だけなんてさ。まるで、“ドギラゴンは独りで生き、死んだ”って言われてるみたいだろう?」

 

「……私は、そうは思わない」

 

「ふーん?」

 

「私が、仮に死ぬとして、死ぬまでの過程で……そうだな、仲間の為になる何かを出来ていたとするなら……死は大した問題ではない気がするのだ」

 

 自分がどう死ぬか、死んだ後にどうなるのかは──死ぬ前に何を為せるのか、という問いに比べれば小さなものなのではないか。

 

「仲間に何かを遺せる事。あるいは、何かを遺して死んでいける仲間がいるという事。

 それらがあるだけで、私は──そして、恐らく他の“ドギラゴン”にとっても──決して孤独などではないと思う」

 

 其方は、いや、お主はどう思う?

 そう聞こうとして、目の前の“ドギラゴン”が何か言いたげな事に気付く。

 

「……どうかしたか?」

 

「ふふっ、いや……同じ事を言うな、ってさ」

 

「同じ事……?」

 

「前にも、その前にも。ボクはここで“どこかのドギラゴン”に会ってる。不思議だけど、皆──この質問を聞くと、今のキミに良く似た答えを返すんだよね」

 

「……」

 

 ……やはり、妙だ。先程から微妙な違和感を感じる。彼女の周りに、その正体はあるだろうが、しかし……

 

 いや、待て。そういえば、ここは──

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 昔の記憶を、思い出す。

 かなり昔、侵略の日よりも前。

 ミラクルスターが夢について喋っていた事があった。その中には……“共有夢”の話もあったはずだ。

 複数の者が同じ夢を共有するというその話を聞いた当時は、眉唾物だと思っていたが。

 

 

 

(……そもそも! 先程推定してみたばかりではないか、ここは夢の中だろう、と)

 

 私はその事を半ば忘れて、突然現れた彼女が誰なのかばかりを考え、そもそもの実在性について考慮するのを怠った。

 当初の推定──夢だというのが正しいのなら、目の前の彼女も、彼女の語る全ても、私の脳が作り出した幻想でしかなくなる。

 

(…………しかしな)

 

 ここまでの会話を思えば、それではあまりにも不自然だ。

 明確な根拠とか、論理性がある訳ではないが。明晰夢というには、あまりにも細か過ぎるし──何より、彼女が幻想の存在なのだとは、どうしても思えない。

 

 ── それぞれのボクたちには、それぞれの世界があって。そこで命を落とした者の痕跡が、ここに現れるんだ。

 

 ── 不思議だけど、皆──この質問を聞くと、今のキミに良く似た答えを返すんだよね。

 

 嘘のようで、質感を伴った、あの妙な言葉たち。

 私の夢はそんなものを生み得るだろうか。

 あるいは──全て、“彼女自身”の知る事か。

 

(己が夢であるようで、しかし私自身がそれを肯定しかねている)

 

 であるならば、もしかすると……共有夢というのも、あながち間違いではないのではないか。

 ……いや。

 やり方次第では、この仮定をもっと確実に出来る、気がする。

 

 

 

「……ボクの顔に、何かついてるかい?」

 

「……すまないが。少し──確かめたい事が、あってな」

 

 少し荒っぽい手段だが、これが幻想でない事を雄弁に示してくれるはず。

 

「……ふーん」

 

 目が細まった。

 心中を見透かされたのかも知れない。

 

「──私の意図に、気付いたか。お主にとってはこれも前例があるのか?」

 

「さて、どうかな。それより、別にそんなに堅苦しく呼ばなくたって良いんだけどね? お前、とか……うーん、天ちゃんって呼んでも良いし」

 

「……」

 

「あーもう、今回のキミは冗談が通じにくいな。ほら、来て良いよ」

 

 その言葉に応じて、私は上体を僅かに低めた。

 

 こちらからも、斬るつもりでやる。証拠を作る為には──私自身が、より命の危険を感じねばならないから。

 

 大気の流れが変化する──その僅かな一瞬を待って。

 

 待つ。まだだ、まだだ──今!

 

 

 

 地を蹴って跳び、愛剣《星王紅鬼勝》を抜き放つ──一閃を。狙いは相手の懐ただ一つ。

 

「──!」

 

 果たして、裂帛の気合はどちらから発せられたか。

 とにかく、私の刃が彼女のぎりぎりまで届いたのは確かであり──彼女の三叉槍が、もう少しで私を掠めるところだったのも確か。

 鋭い金属音が空間を揺らし、たった一合の斬り合いを終えた私と彼女は、退がると共に武器を収めた。

 

「──っ、ふう……!」

 

「──はーっ……これで分かったかな」

 

 自分と全く同じ技量、実力。

 まず確かめたかった事──目の前の存在が“ドギラゴン”に足る存在かを示してくれた。

 そして、それに拠ってもたらされる戦技は、私の意識を死に近いところまで押し込むのには十分過ぎた。

 

 にも関わらず、私の意識がこの空間から剥がれる兆候は一向に見えなかった。これによって……

 

「今までで、半分くらいのドギラゴンが同じ事をボクに要求したんだよね。キミも同じく、ここが夢なのかを確かめたかったんだろうけどさ……脳筋過ぎない?」

 

「否定はしないが、“お前”もまたドギラゴンだろう?」

 

「……あ、ようやく柔らかくなったね」

 

 どうやら、仮説は一定の信頼性を持ったらしい。

 

 

 

「これで少しははっきりした。私の見立てでは……」

 

「共有夢、だよ。キミの思う通り」

 

「……最後まで言わせて欲しかった。

 ともかく、お前の言っていた事も、真実だと考えて良いだろう」

 

「考えるも何も、さっきからボクは本当の事しか言ってないけどね」

 

 やれやれとばかりに彼女は言うが。

 

 

 

 最後に一つ、不明な点がある。

 

「まだ、聞きたい事が。この夢の……主人と言うべきか……その者はどこに?」

 

 あるいは、お前がそうなのか?

 言外のその意味を含んだ問いは、やはり否定された。

 

「いない、と思うよ。無論、ボクでもない。

 ああ、もちろん! キミが永遠にこの中に囚われる、なんて事はないから安心してくれて良いさ」

 

「そうか、つまりは帰れる──誰かが帰る瞬間もまた、お前は見ている訳か」

 

「うん、そうなるね」

 

 声が僅かに小さくなったのを、見逃しはしない。

 やはり、こちらの仮定も正しそうだ。

 

「……お前は先程、ここで多くのドギラゴンと会った、と言ったな。口ぶりから勘案するに、回数は少なくない。

 会えるのはここだけのはずだ。となると、お前は相当な回数、あるいは期間、ここに居るという事になる」

 

「……へえ、まだ分かった事でもあるのかい?」

 

 教えてみてよ、答え合わせをしてあげる。

 彼女は笑った。

 またしても乾いていた。

 

「実を言うなら、こちらの推測は先程のとは違って……本当にただの、勘と思い付きだがな。証明手段も、ない」

 

「構わないよ。どのみち、聞くのを止めはしないだろう?……躊躇はしないはずさ。キミは“ドギラゴン”だからね」

 

「そう、かもな。だが……」

 

 躊躇は、ある。

 説が正しかったとしても──果たして、真相を聞いても良いのだろうか。

 真実を引き摺り出したとて、私は何か、してやれるのだろうか。

 

 

 

「……お前は、“ドギラゴン”は」

 

 ──ここに、ほぼずっと居る。いや、囚われているのではないか?

 

 

 

「御名答。キミ“は”中々鋭いみたいだ」

 

 ──そう、ボクの正式な名は、《ドギラゴン天》。歴史の夢の中の“ドギラゴン”さ。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

「……」

 

「はは、聞いたキミがそんな顔してどうする」

 

「……お前は、ずっとこの空間に」

 

「……いや、キミが思う程、独りぼっちって訳じゃない。どう言えば良いんだろうね──ここには、物語がやって来るから」

 

「物語が、やって来る?」

 

「“ドギラゴン”の物語だよ。別の世界のボクが、キミが──闘って、生きて、そして死ぬまでの物語。持ち主が死ぬと、鎧とかと一緒に、それがここにやって来るんだ。まるで故郷に魂が戻ってきたみたいにね」

 

 だからさ、と、彼女は微笑む。

 

「来るたびにそれを感じていれば、少なくとも寂しくはない。浮かんで来るのは、最期まで闘い抜いた彼、彼女への敬意とか……死後くらいは安らかであって欲しいっていう、願いとかさ」

 

 ──それに、キミみたく生きたドギラゴンもたまに来るんだ。ボクにとっては良い話し相手……ああ、キミにとってはどうだか分からないけど。結構楽しいんだよ、ここはね。

 

(……嘘ではない。しかし本心でもない)

 

 本当に楽しいのなら、その顔に翳りはないはずだから。

 

 

 

 ……問いが、浮かぶ。思わずそれを、私は口に出した。

 

「……出たいとは、思うか」

 

「出る? ここから?」

 

 頷く。

 別に何か、考えがあった訳ではない──しかし、問いたくなってしまった。

 私の心が、そうした方が良い、と。

 

「出るったって、なあ……そもそも無理だって」

 

「何故、そう言い切れる?」

 

 思いの外、語気が強くなった事に、言ってから初めて気付いた。

 

「私を含め、今までの来訪者は問題なく夢から覚めているのだろう? お前も私も、ドギラゴンであるという点では同質のはずだ」

 

「……今まで出られなかった。その事実はまた、これからも出られない可能性をも強めていると、言えはしないかい?」

 

「それもそうだ。だが、アプローチを変えるという方策もある」

 

「待ってくれ。そもそもの問いに立ち返ろう。ボクは別に──出たいと、思っている訳じゃ……」

 

 彼女のトパーズの目。

 否定の色が見える、気がする。

 

(……普段なら私はここまで食い下がらない。今やっているのは、相手の心情を慮らない、非常識な行為だ)

 

 分かっている。

 だが、言わなければならない気がする。

 彼女の、胸の内の内を、聞かなければならないような、そんな気が。

 

「本当か。本当に、ここから抜け出したいとは、思わないのか」

 

「……逆に聞くよ。どうしてそこまで、そんな些細な事に執着を……」

 

「──それは。そうした方が良いと、心が言っているからだ」

 

「ココロ?……困ったな、ボクの方が驚かされる側になるなんて。

 キミ、そんな台詞を言うようなタイプには見えないんだけど」

 

「らしくない、か。確かに私もそう思う。

 だが……短い期間、とはいえ。お前を見捨てる事は、“ドギラゴン”の名に恥じるような事は……」

 

 違う。違う。称号がどうとか、そうではない。

 

「いや、いや、違うな。その……」

 

 

 

 ──簡単に言うなら、私は、お前の事を見捨てたくない。その先に道があるかも知れぬと理解しながら、その道を選ばないような、置いて行くような真似をするのは……

 

 ──何だか、嫌だ。

 

 

 

「……いやだ?」

 

「……ああ、嫌だ」

 

「……ますます、キミらしくないね」

 

「百も、承知だ。だが……嫌なものは、嫌なのだから」

 

 さっきとは一転して、面食らった彼女の顔。私はどうやら、真意を聞き出すのに失敗したのか。

 いつもこうなのだ。私は口下手で、ミラダンテなどのような、上手くてしかも良い事が言えない。思っている事の表現の仕方に困って、いつもそのままでしか物事を言えな──

 

「……ふふ、ふ、っははは──あはははっ!」

 

「……?」

 

 と思っていた矢先、彼女が今度は急に笑い出した。

 一体どうしたのだろう。

 

「ははっ、は、はあ……ふう……ふふっ」

 

 少しの後、笑いがようやく収まったらしい彼女は──少し涙を浮かべながら、言葉を紡ぎ出す。

 

「…………そう言われちゃ、しょうがない。本当の事を話すとするよ」

 

「本当か!?……だが、良いのか」

 

「良いよ、ただ……何だか恥ずかしくて、言い惜しんでいただけだからね」

 

 そして彼女は、言葉を選ぶようにゆっくりと。

 

「……うん。確かにキミの思いは間違ってない。ボクだって、ここから出てみたいと、何度思った事か」

 

 でも、と言って、溜息。

 

「その度に、ボクは墓守なのかも知れないとも、思う」

 

「……墓守」

 

「どこかの世界で逝き、ここに証を打ち建てているドギラゴンたちの、ね。

 ボクが消えてしまったら、誰が彼らを覚えてられるだろう、って思うとさ。ここを出たいっていうのも、軽々しい願いでは……いられなくなる」

 

「……一理あるな。大ありだ」

 

「いや、キミはボクを連れ出したいんじゃないのかい?」

 

「む、それもそうだし……だがしかし……」

 

「ははっ、本当に不器用なんだね。今までで一番かも」

 

「むう……」

 

 そんな事を喋っていると、ふと考えが浮かんだ。

 しかし、言って良いものか……いや、もう飾ろうと努力するのは止めだ。そのまま言ってしまえ。

 

「……心配は、ないと思う」

 

「と、言うと?」

 

「その……ドギラゴンの元いた世界の者が記憶してくれていると、信じてみるのはどうだ?」

 

「……信、じる」

 

「もちろん、その先の保証はない──世代を経れば忘れられるかも知れないし、遺るのは成された事のみになるだろうが。それでも、良いのではないか」

 

「なんでさ、それじゃあ……」

 

 尚も反論しようとして、しかし彼女は口を噤んだ。何かを思い出したかのように。

 

「……いや。キミ自身も、過去のドギラゴンも、皆が言っていた──“仲間の為になる何か”。

 行為さえ遺れば、っていうのが“ドギラゴン”皆の本望だろう、って事かい?」

 

「無論、全員が全員とはいかないだろうがな。しかし、そう信じてみるのも、悪くない……私はそう思う」

 

「……」

 

 何より、彼女は。

 

「お前はもう十分、ここで頑張った」

 

「頑張った……ボクが……?」

 

「ああ。ここで、夢の守り人として、物語の守り人としてな。その努力を思えば……これからお前が違う場所へ飛んでいったとしても、誰が文句を言える?」

 

「けれど! それでも、それでも……」

 

「確かに、お前がここを去れば誰もいなくなるかも知れない。

 だが、死後、誰も守ってくれないとしても……折れるほど、やわではない。私を含め、“ドギラゴン”の称号を得し者は皆、そのはずだ」

 

 ──お前もそれを良く良く分かっている。そうだろう、《ドギラゴン天》?

 

 問いかける。

 間があって、あって、長い時間があって──小さく、頷くのが見えた。

 

 そして、彼女は応えた。

 

「……そう、だね。キミの言う事も、ある意味正しい。

 それなら……」

 

 

 

 ──ここを出るっていう道、そしてキミに……従ってみても、良いかも知れない。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

「……そうか」

 

「え、何その反応。一応キミの言う事に賛成したって状況なんだけど。もっと喜ぶとかさ、こう」

 

「……いや」

 

「?」

 

 そう言えば、大事な事を忘れていた。

 

「出たいかどうかを聞く事ばかり、考えていて──どうやって出ようか、考えていなかった」 

 

「嘘でしょあんなに良い感じの事言ってて?」

 

 悪かったな。

 私は不器用なのだ。

 

 しかし、笑い事ではない。

 私は彼女に、ああ言わせてしまったのだから──全うしなければ。

 約束には、巨大な責務が伴う。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 深い思案に入ろうとした、その時。

 一つ、思考を妨げるように、記憶が私を掠めていった。

 

 

 

 ──困難な壁に当たった時は、オレは……うーん、まず力づくでぶち破る事を考えるな!

 

 ──……そうか、プチョヘンザらしいな。

 

 ──なんだその反応ー!?

 

 

 

(……これ、かも知れない)

 

「どうしたんだい、急に何か受信したみたいな」

 

「力づくでぶち破ろう」

 

「はあ??」

 

 

 

「……で、こうなるのね」

 

 思案と熟考の結果として、私が彼女を、《天》を抱え……私の出せる全力の“とある技”で、この空間を突破してみる事となった。

 思案と熟考の結果だ。間違いなく。

 

「……ねえ、今からでも考え直さない? ほら、別にキミは放っておいても戻れるんだしさ、ね?」

 

「しかし、やったところで損はないだろう?」

 

「それは……そうだけど……」

 

「お前を連れ出したいと言ったのは私だ。その責は果たすさ、ドギラゴンの名にかけて」

 

「……そこまで、しなくたって……」

 

「さっきも言った、だろう。私が、そうしたいのだ。言わば手前勝手な行いだが──嫌か?」

 

「……嫌、じゃない。じゃない、けど」

 

 なら、やろう。

 この技は、私一人でやれるのか、かなり微妙な代物だが。

 

「いや、待てよ。

 お前は、私の合わせ鏡のような存在という事、だったな」

 

「うん、それが?」

 

「……お前は、ハムカツ団、か?」

 

「それもそうだよ? 歴史と夢が、そうあれかしとボクに言ってる。でもボクはずっと独りだったから、実感ないけどね。

 ……いきなり、どうしたのさ」

 

 ……よし。

 やれそうな気が、してきた。

 

「そうか、良かった。さて、これから一つやってみる技がある。それに協力して欲しい」

 

「ボク、が? 構わないけど「では行くぞ」ちょいちょい待ってって! 何をどうしたら良いのさ!?」

 

 何かをする必要はないんだ。

 重要なのは、意志。意志の力なのだから。

 

「少しだけしっかり掴まっていた方が良い。後──必要になった時に、少し力をくれ。それだけで、良いんだ」

 

「最初からそう言ってくれよ……この体勢だって、恥ずかしいのに」

 

「む、どうかしたか?」

 

「──なんでもない」

 

 そうか……なら。

 

 

 

 彼女を抱え、身体に力を溜める。

 解き放つは一瞬。その一瞬の為に、己が全てを投じるのだ。

 

 重要なのは……対象を斬る、というより、壁を破る感覚。

 戯れにそう教えてくれた、ハムカツ、ボスカツ、カツえもん……まさかここで使うとは。後で感謝しなければな。

 

「はあぁ────」

 

 強く、硬く、強靭に。

 まだ、まだ、待て──

 

 ──今!

 

 

 

 先程のように、速く強く、地を踏み締めて。

 

 私は、蒼き団長は、今ここに宣言する。

 

 ──……《天》、ここだ。今だけだ。ほんの少し、力を貸してくれ。

 

 ──もちろん。その代わり、抜け出した先を……キミの世界を見せてくれ、《剣》。

 

 

 

「「──ハムカツ団の!」」

 

 爆砕、Go!

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 ……ここは、どこだ。

 私はさっきまで何をしていただろうか。

 

 ああ。そもそもここは、どこでもない。

 なぜなら、ここは……

 

(現実では、ないからな)

 

 その認識と共に、私の意識は急浮上した。

 

 

 

「──っは、はあ、はっ、はあ……」

 

 起きると共に感じるのは、多量の汗と、自分の鼓動。

 当然ではあるか。夢の中とはいえ、中々の大立ち回りをしていた──ような気がするからな。

 

「ああ、そう、言えば……」

 

 人を一人、歴史の夢の世界から連れて帰ってきたのだった。

 

(誰だった、か……いや、そもそも、あれは夢の幻想ではなかったよな……連れて来た彼女は、どこにいるんだったか……)

 

 頭の情報が絡まった紐のようになって、あやふやだ。

 どこからが真実でどこからが夢か──それを明らかとし、ひとまずは紐を解いてしまおうとした、その時。

 

 ベッドの、私のすぐ横。

 誰かが、いる。

 

「誰だ!?」

 

 驚いて、掛け布を開けて見てみると、そこにいたのは。

 

「……すー……すぅ……んっ……」

 

 トパーズの眼。真紅の髪。

 今になって初めて分かる、少し変な衣装。

 

(……そうだ。そうだった、な)

 

 

 

 私が連れて帰ると誓った、同胞が一人。

 小さな寝息を立てながら、ぐっすり眠っていた。

 

 

 

「……これをどう、皆に説明するか。私が彼女をここに連れ込んだように──見えるよな」

 

(……勢いで私の世界に連れてきたが、良く良く考えれば、もっと平和な世界に送るべきだったのではないか? いや、そんなやり方は知らなかったから、こうしたのであって、うーむ……

 ……何かあったら、その時はその時か? いざとなれば、また私が何とかして、夢の世界へと彼女を送れば良いだけだろうし。

 ……というか、今度ミラダンテにでも聞かなければ。歴史との、夢の世界との繋がり方を──おかしい奴と思われなければ良いが)

 

「すー……すー……」

 

「まあ、良いか。後で考えよう。兎にも角にも──」

 

 

 

 ──ようこそ、現の世界へ。

 

 

 

 

 




 
 
 Q.謎空間って爆砕のエレメント除去の対象に入りますか?
 A.さあ?
 
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。