ドギラゴン閃には「別時空の競技世界のバスター(の中でもdottoさんが使用した)」みたいな感じの背景というか物語があるが、天はどう解釈したら良いのか分かんなかったため捏造しました。
そこ注意です。お許し下さい!
昔々、あるいは未来、とある龍が居た。
ドラゴンを超えたドラゴン。彼はいつも、その称号で呼ばれた。彼の本当の名が何だったのか、そんなのはまあ大した事ではないだろう。重要なのは、何を成したかだ。
彼はとある大陸の、とある火の国を治めていた。そこに争いと侵略が起き、彼は革命の力と共に闘う道を選んだ。
燃え上がるような赤龍は、いつしか仲間を率いし蒼龍へ。挙げ句の果てには、何もかもを──世界さえ、ちっぽけだがしかし大きな背中に背負って。
そうして、不死鳥の如き黄金の龍が生まれた。
その力によって、彼は最後の敵を倒した。
引き換えに、彼もまた死んだ。
これにて終幕。
世界には平和がもたらされた。彼の、ドギラゴンの物語は、終結したのだ。
めでたし、めでたし。
「……本当に、そう思うのかい?」
ーーーーーー
今、自分が夢の中にいるのだと、私が気付くのに大した時間はかからなかった。
さっきまで私は眠っていたのだから、そもそもこんな、荒野のような場所に居る訳がない。
現実と言うには身体が軽過ぎるし、さらにこの空気。僅かな甘い匂いまでもが漂っているのは、異様だと言って差し支えないだろう。
(……あるいは、D2フィールドか?)
今この空間が、そもそも敵によって仕掛けられた網の中である──詰まるところ、眠っていた私がフィールドの生み出す幻術に引き込まれているという可能性。
だが、私とてそれを気取れない程愚かではないつもりだし、夜の当直にあたっている団員もいる。彼らの練度を考えれば、何かしらの敵意がこちらを狙っているとして、そういう気配にはすぐ気付き、阻止にかかるか私を起こすはずだ。
そして何より、ところどころに転がっている──本来なら複数あるはずがなく、またその辺に落ちているべくもない、私の装備に極めて良く似た残骸たち。
(少なくとも、私がイニシャルズなら、こんな余計な幻想は作らないだろうな)
だが、夢とは自分の内より出づるもの。辻褄は合う。
「となれば。夢か。しかし……」
この違和感は何なのだろうか。
「──進んでみよう」
どこが進むべき道かなどは、まるで分からない。しかし、とにかく一歩を踏み出さなければ何も始まらない事を、私は知っている。
それに、歩いていると、意外に分かる事もあるものだ。
「……? これは……別物か?」
歩いた先でもぽつぽつと落ちている、蒼鎧、マント、《星王紅鬼勝》……正確には、それらのような何か。
遠目には、私の持っているそれらを写したようなものだと思っていたが、よく見ると、蒼くなかったり、形が違ったり──禁断を彷彿とさせる槍や、擬似的な七支刀だった時は流石に驚いたが──明らかに作りが違う。
夢は自身の想像し得るものしか出てこない、と聞いた事があるが、私にはこのようなものを考えてみた経験さえない。
というのに、何故だろうか。どれを見ても、不思議と気味が悪いとは思えなかった。
ハムカツ団の意匠があるからか?あるいは──
「──、っと」
足が止まる。
気付けば、大きくはないが切り立った地形が、眼前にそびえていた。物思いに耽りながら、いつの間に長い距離を歩いていたらしい。
しかし夢は一向に覚めないまま。既に結構な時間が経っているはずだというのに。
「むう……」
前方への視線を切り、辺りを見回す。
やはり特筆すべきものは何もない。残骸のみが転がる、不毛の大地。
(一体、どういう種類の夢なのだろうか……明晰夢、とやらか? こういった事象の説明は本来、テック団や、博識なミラクルスターなどの領分なのだがな)
溜息が出そうになる。夢だと分かっている時の夢という奴は、かくも面倒なものなのか。
「兎にも角にも、待つしか──」
そう独りごちて、再び進行方向を向いた時。
その瞬間に至って、ようやく私は気付いた。
「……」
地形の上。誰かが立って、こちらを見ている。
「──!?」
ぬかったか! その眼で見る直前まで全く気が付かなかったとは、私も焼きが回ったものだ。
誰かは分からないが、どうやら気配を隠す術に長けているらしい。私の認識の下に
(私が姿を知覚して初めて、水面上にその存在が上がってきた)
この事実だけでも、相当な強者である事は明確。
「何者だ!?」
乾いた荒野を斬り裂いて、誰何の声を飛ばす。
その声に応えてか、其奴はふっと飛び上がり、下、つまりこちら側に軽々と着地した。
控えめに舞う砂埃。晴れるのは一瞬だった。
上に居た時より格段に見やすくなったその顔を良く見て、誰なのかを私が判別しようとする──よりも早く。
その者……いや、彼女が、先に口を開いた。
「おはよう、どこかのドギラゴン!」
「……!?」
この者、何故。
ーーーーーー
「……何故、私の名を知っている」
「え、逆に知らない訳ないよね」
「……??」
……何と言うべきか、話が噛み合っていない気がする。
私を相手に気配を潜め切るだけの実力を持つ、赤い衣で身を包みし目の前の女性──一体誰なのだ。どこかで知り合ったか。
本当に心当たりがない。
情報が、欲しい。
「──とにかく。其方からも名乗ってもらおう」
「名乗るも何も、分かるじゃん。ボクもドギラゴンだよ」
「……は??」
……いや、いや。情報を得た結果、ますます意味が分からなくなるなど初めての経験だ。
目の前の彼女が、ドギラゴン?
その名を名乗る者は、私とあいつだけのはず。
「いつまでも“どこかの”なんて言う訳にもいかないか。とりあえず、キミのいた世界について教──」
「少し、待て」
「?」
「先程から、話が理解出来ない。恐らくだな──私と其方では知識の前提が違う。其方が知っている事と、私が知っている事に、隔たりがあるのは間違いない」
どうにかして、言葉を捻り出す。
すると、なんだそういう事か、と彼女は──“ドギラゴン”はあっけらかんと返してきた。
私にとっては大問題なのだが。
「ええと……まずキミは、ここがどこだか分かるかい?」
「皆目見当が付かないな。分かるのは、謎めいた残骸の点在する、荒野という点だけだ」
「あー、そっからか……噛み砕いて説明するのが難しいんだけど……」
──いろんな世界のドギラゴンの集まる地、って言ったら信じる?
「……個人的には、疑いたいが」
「何だよその反応!?」
うーん、と唸りながら、“ドギラゴン”は話を続ける事を選んだ。
「じゃあ──残骸の事には気付いてたよね。今キミが纏うものと、よく似てたんじゃないかな?」
「……その通りだ」
「だよね。簡単に言うと、あれらは別世界のボクたちの装備だ」
別世界の私たち。
別の世界とやらに居るという、私ではないドギラゴンたち。
確かに彼女も三叉槍を携えていて、それは落ちていたものの一部に似ている気がする。
(いや、待てよ。とすると……)
「であれば、あれは、別世界の私たちとやらが死んだ痕跡を遺している、という事か?」
「縁起でもない事言うね」
「縁起も何も、ただの推「まあ事実っちゃ事実だけどさ」その流れで本当なのか!?」
「言ったのキミじゃん……」
溜息が聞こえる。
いやしかし不服だ。縁起でもないと言うからには、てっきり推測は外れていたのかと……というより、外れていて欲しかった。
「……あれらの持ち主だった“ドギラゴン”は、ここで?」
「厳密には、そうじゃない」
ここは夢だからね、と彼女は苦笑した。
心なしか、乾いた笑いだった。
「それぞれのボクたちには、それぞれの世界があって。そこで命を落とした者の痕跡が、ここに現れるんだ」
「……?」
今。
彼女は妙な事を言ったような。
「ボクだって変な仕組みだと思うよ。でもそうなってるんだから、どうしようもないさ。
……何だろうね、酷い話だと思わないかい?」
「酷い、話?」
うん、と頷いて、彼女は続ける。
「それぞれの“ドギラゴン”には、きっといろんな性格があると思う。それこそ世界の数だけ。でも、その誰もが──並び立つ、あるいは後に続く、仲間を持っているはずなんだ」
仲間。
そう言われて、思い出されるのはハムカツ団。
ハムカツ、ボスカツ、カツえもん、それだけではない。全ての団員が私の戦友であり、守るべき友だ。
「生の喜びも死の悲しみも分かち合える存在が、いるというのに……墓代わりになるのが、自分の鎧と武器だけなんてさ。まるで、“ドギラゴンは独りで生き、死んだ”って言われてるみたいだろう?」
「……私は、そうは思わない」
「ふーん?」
「私が、仮に死ぬとして、死ぬまでの過程で……そうだな、仲間の為になる何かを出来ていたとするなら……死は大した問題ではない気がするのだ」
自分がどう死ぬか、死んだ後にどうなるのかは──死ぬ前に何を為せるのか、という問いに比べれば小さなものなのではないか。
「仲間に何かを遺せる事。あるいは、何かを遺して死んでいける仲間がいるという事。
それらがあるだけで、私は──そして、恐らく他の“ドギラゴン”にとっても──決して孤独などではないと思う」
其方は、いや、お主はどう思う?
そう聞こうとして、目の前の“ドギラゴン”が何か言いたげな事に気付く。
「……どうかしたか?」
「ふふっ、いや……同じ事を言うな、ってさ」
「同じ事……?」
「前にも、その前にも。ボクはここで“どこかのドギラゴン”に会ってる。不思議だけど、皆──この質問を聞くと、今のキミに良く似た答えを返すんだよね」
「……」
……やはり、妙だ。先程から微妙な違和感を感じる。彼女の周りに、その正体はあるだろうが、しかし……
いや、待て。そういえば、ここは──
ーーーーーー
昔の記憶を、思い出す。
かなり昔、侵略の日よりも前。
ミラクルスターが夢について喋っていた事があった。その中には……“共有夢”の話もあったはずだ。
複数の者が同じ夢を共有するというその話を聞いた当時は、眉唾物だと思っていたが。
(……そもそも! 先程推定してみたばかりではないか、ここは夢の中だろう、と)
私はその事を半ば忘れて、突然現れた彼女が誰なのかばかりを考え、そもそもの実在性について考慮するのを怠った。
当初の推定──夢だというのが正しいのなら、目の前の彼女も、彼女の語る全ても、私の脳が作り出した幻想でしかなくなる。
(…………しかしな)
ここまでの会話を思えば、それではあまりにも不自然だ。
明確な根拠とか、論理性がある訳ではないが。明晰夢というには、あまりにも細か過ぎるし──何より、彼女が幻想の存在なのだとは、どうしても思えない。
── それぞれのボクたちには、それぞれの世界があって。そこで命を落とした者の痕跡が、ここに現れるんだ。
── 不思議だけど、皆──この質問を聞くと、今のキミに良く似た答えを返すんだよね。
嘘のようで、質感を伴った、あの妙な言葉たち。
私の夢はそんなものを生み得るだろうか。
あるいは──全て、“彼女自身”の知る事か。
(己が夢であるようで、しかし私自身がそれを肯定しかねている)
であるならば、もしかすると……共有夢というのも、あながち間違いではないのではないか。
……いや。
やり方次第では、この仮定をもっと確実に出来る、気がする。
「……ボクの顔に、何かついてるかい?」
「……すまないが。少し──確かめたい事が、あってな」
少し荒っぽい手段だが、これが幻想でない事を雄弁に示してくれるはず。
「……ふーん」
目が細まった。
心中を見透かされたのかも知れない。
「──私の意図に、気付いたか。お主にとってはこれも前例があるのか?」
「さて、どうかな。それより、別にそんなに堅苦しく呼ばなくたって良いんだけどね? お前、とか……うーん、天ちゃんって呼んでも良いし」
「……」
「あーもう、今回のキミは冗談が通じにくいな。ほら、来て良いよ」
その言葉に応じて、私は上体を僅かに低めた。
こちらからも、斬るつもりでやる。証拠を作る為には──私自身が、より命の危険を感じねばならないから。
大気の流れが変化する──その僅かな一瞬を待って。
待つ。まだだ、まだだ──今!
地を蹴って跳び、愛剣《星王紅鬼勝》を抜き放つ──一閃を。狙いは相手の懐ただ一つ。
「──!」
果たして、裂帛の気合はどちらから発せられたか。
とにかく、私の刃が彼女のぎりぎりまで届いたのは確かであり──彼女の三叉槍が、もう少しで私を掠めるところだったのも確か。
鋭い金属音が空間を揺らし、たった一合の斬り合いを終えた私と彼女は、退がると共に武器を収めた。
「──っ、ふう……!」
「──はーっ……これで分かったかな」
自分と全く同じ技量、実力。
まず確かめたかった事──目の前の存在が“ドギラゴン”に足る存在かを示してくれた。
そして、それに拠ってもたらされる戦技は、私の意識を死に近いところまで押し込むのには十分過ぎた。
にも関わらず、私の意識がこの空間から剥がれる兆候は一向に見えなかった。これによって……
「今までで、半分くらいのドギラゴンが同じ事をボクに要求したんだよね。キミも同じく、ここが夢なのかを確かめたかったんだろうけどさ……脳筋過ぎない?」
「否定はしないが、“お前”もまたドギラゴンだろう?」
「……あ、ようやく柔らかくなったね」
どうやら、仮説は一定の信頼性を持ったらしい。
「これで少しははっきりした。私の見立てでは……」
「共有夢、だよ。キミの思う通り」
「……最後まで言わせて欲しかった。
ともかく、お前の言っていた事も、真実だと考えて良いだろう」
「考えるも何も、さっきからボクは本当の事しか言ってないけどね」
やれやれとばかりに彼女は言うが。
最後に一つ、不明な点がある。
「まだ、聞きたい事が。この夢の……主人と言うべきか……その者はどこに?」
あるいは、お前がそうなのか?
言外のその意味を含んだ問いは、やはり否定された。
「いない、と思うよ。無論、ボクでもない。
ああ、もちろん! キミが永遠にこの中に囚われる、なんて事はないから安心してくれて良いさ」
「そうか、つまりは帰れる──誰かが帰る瞬間もまた、お前は見ている訳か」
「うん、そうなるね」
声が僅かに小さくなったのを、見逃しはしない。
やはり、こちらの仮定も正しそうだ。
「……お前は先程、ここで多くのドギラゴンと会った、と言ったな。口ぶりから勘案するに、回数は少なくない。
会えるのはここだけのはずだ。となると、お前は相当な回数、あるいは期間、ここに居るという事になる」
「……へえ、まだ分かった事でもあるのかい?」
教えてみてよ、答え合わせをしてあげる。
彼女は笑った。
またしても乾いていた。
「実を言うなら、こちらの推測は先程のとは違って……本当にただの、勘と思い付きだがな。証明手段も、ない」
「構わないよ。どのみち、聞くのを止めはしないだろう?……躊躇はしないはずさ。キミは“ドギラゴン”だからね」
「そう、かもな。だが……」
躊躇は、ある。
説が正しかったとしても──果たして、真相を聞いても良いのだろうか。
真実を引き摺り出したとて、私は何か、してやれるのだろうか。
「……お前は、“ドギラゴン”は」
──ここに、ほぼずっと居る。いや、囚われているのではないか?
「御名答。キミ“は”中々鋭いみたいだ」
──そう、ボクの正式な名は、《ドギラゴン天》。歴史の夢の中の“ドギラゴン”さ。
ーーーーーー
「……」
「はは、聞いたキミがそんな顔してどうする」
「……お前は、ずっとこの空間に」
「……いや、キミが思う程、独りぼっちって訳じゃない。どう言えば良いんだろうね──ここには、物語がやって来るから」
「物語が、やって来る?」
「“ドギラゴン”の物語だよ。別の世界のボクが、キミが──闘って、生きて、そして死ぬまでの物語。持ち主が死ぬと、鎧とかと一緒に、それがここにやって来るんだ。まるで故郷に魂が戻ってきたみたいにね」
だからさ、と、彼女は微笑む。
「来るたびにそれを感じていれば、少なくとも寂しくはない。浮かんで来るのは、最期まで闘い抜いた彼、彼女への敬意とか……死後くらいは安らかであって欲しいっていう、願いとかさ」
──それに、キミみたく生きたドギラゴンもたまに来るんだ。ボクにとっては良い話し相手……ああ、キミにとってはどうだか分からないけど。結構楽しいんだよ、ここはね。
(……嘘ではない。しかし本心でもない)
本当に楽しいのなら、その顔に翳りはないはずだから。
……問いが、浮かぶ。思わずそれを、私は口に出した。
「……出たいとは、思うか」
「出る? ここから?」
頷く。
別に何か、考えがあった訳ではない──しかし、問いたくなってしまった。
私の心が、そうした方が良い、と。
「出るったって、なあ……そもそも無理だって」
「何故、そう言い切れる?」
思いの外、語気が強くなった事に、言ってから初めて気付いた。
「私を含め、今までの来訪者は問題なく夢から覚めているのだろう? お前も私も、ドギラゴンであるという点では同質のはずだ」
「……今まで出られなかった。その事実はまた、これからも出られない可能性をも強めていると、言えはしないかい?」
「それもそうだ。だが、アプローチを変えるという方策もある」
「待ってくれ。そもそもの問いに立ち返ろう。ボクは別に──出たいと、思っている訳じゃ……」
彼女のトパーズの目。
否定の色が見える、気がする。
(……普段なら私はここまで食い下がらない。今やっているのは、相手の心情を慮らない、非常識な行為だ)
分かっている。
だが、言わなければならない気がする。
彼女の、胸の内の内を、聞かなければならないような、そんな気が。
「本当か。本当に、ここから抜け出したいとは、思わないのか」
「……逆に聞くよ。どうしてそこまで、そんな些細な事に執着を……」
「──それは。そうした方が良いと、心が言っているからだ」
「ココロ?……困ったな、ボクの方が驚かされる側になるなんて。
キミ、そんな台詞を言うようなタイプには見えないんだけど」
「らしくない、か。確かに私もそう思う。
だが……短い期間、とはいえ。お前を見捨てる事は、“ドギラゴン”の名に恥じるような事は……」
違う。違う。称号がどうとか、そうではない。
「いや、いや、違うな。その……」
──簡単に言うなら、私は、お前の事を見捨てたくない。その先に道があるかも知れぬと理解しながら、その道を選ばないような、置いて行くような真似をするのは……
──何だか、嫌だ。
「……いやだ?」
「……ああ、嫌だ」
「……ますます、キミらしくないね」
「百も、承知だ。だが……嫌なものは、嫌なのだから」
さっきとは一転して、面食らった彼女の顔。私はどうやら、真意を聞き出すのに失敗したのか。
いつもこうなのだ。私は口下手で、ミラダンテなどのような、上手くてしかも良い事が言えない。思っている事の表現の仕方に困って、いつもそのままでしか物事を言えな──
「……ふふ、ふ、っははは──あはははっ!」
「……?」
と思っていた矢先、彼女が今度は急に笑い出した。
一体どうしたのだろう。
「ははっ、は、はあ……ふう……ふふっ」
少しの後、笑いがようやく収まったらしい彼女は──少し涙を浮かべながら、言葉を紡ぎ出す。
「…………そう言われちゃ、しょうがない。本当の事を話すとするよ」
「本当か!?……だが、良いのか」
「良いよ、ただ……何だか恥ずかしくて、言い惜しんでいただけだからね」
そして彼女は、言葉を選ぶようにゆっくりと。
「……うん。確かにキミの思いは間違ってない。ボクだって、ここから出てみたいと、何度思った事か」
でも、と言って、溜息。
「その度に、ボクは墓守なのかも知れないとも、思う」
「……墓守」
「どこかの世界で逝き、ここに証を打ち建てているドギラゴンたちの、ね。
ボクが消えてしまったら、誰が彼らを覚えてられるだろう、って思うとさ。ここを出たいっていうのも、軽々しい願いでは……いられなくなる」
「……一理あるな。大ありだ」
「いや、キミはボクを連れ出したいんじゃないのかい?」
「む、それもそうだし……だがしかし……」
「ははっ、本当に不器用なんだね。今までで一番かも」
「むう……」
そんな事を喋っていると、ふと考えが浮かんだ。
しかし、言って良いものか……いや、もう飾ろうと努力するのは止めだ。そのまま言ってしまえ。
「……心配は、ないと思う」
「と、言うと?」
「その……ドギラゴンの元いた世界の者が記憶してくれていると、信じてみるのはどうだ?」
「……信、じる」
「もちろん、その先の保証はない──世代を経れば忘れられるかも知れないし、遺るのは成された事のみになるだろうが。それでも、良いのではないか」
「なんでさ、それじゃあ……」
尚も反論しようとして、しかし彼女は口を噤んだ。何かを思い出したかのように。
「……いや。キミ自身も、過去のドギラゴンも、皆が言っていた──“仲間の為になる何か”。
行為さえ遺れば、っていうのが“ドギラゴン”皆の本望だろう、って事かい?」
「無論、全員が全員とはいかないだろうがな。しかし、そう信じてみるのも、悪くない……私はそう思う」
「……」
何より、彼女は。
「お前はもう十分、ここで頑張った」
「頑張った……ボクが……?」
「ああ。ここで、夢の守り人として、物語の守り人としてな。その努力を思えば……これからお前が違う場所へ飛んでいったとしても、誰が文句を言える?」
「けれど! それでも、それでも……」
「確かに、お前がここを去れば誰もいなくなるかも知れない。
だが、死後、誰も守ってくれないとしても……折れるほど、やわではない。私を含め、“ドギラゴン”の称号を得し者は皆、そのはずだ」
──お前もそれを良く良く分かっている。そうだろう、《ドギラゴン天》?
問いかける。
間があって、あって、長い時間があって──小さく、頷くのが見えた。
そして、彼女は応えた。
「……そう、だね。キミの言う事も、ある意味正しい。
それなら……」
──ここを出るっていう道、そしてキミに……従ってみても、良いかも知れない。
ーーーーーー
「……そうか」
「え、何その反応。一応キミの言う事に賛成したって状況なんだけど。もっと喜ぶとかさ、こう」
「……いや」
「?」
そう言えば、大事な事を忘れていた。
「出たいかどうかを聞く事ばかり、考えていて──どうやって出ようか、考えていなかった」
「嘘でしょあんなに良い感じの事言ってて?」
悪かったな。
私は不器用なのだ。
しかし、笑い事ではない。
私は彼女に、ああ言わせてしまったのだから──全うしなければ。
約束には、巨大な責務が伴う。
「さて、どうしたものか……」
深い思案に入ろうとした、その時。
一つ、思考を妨げるように、記憶が私を掠めていった。
──困難な壁に当たった時は、オレは……うーん、まず力づくでぶち破る事を考えるな!
──……そうか、プチョヘンザらしいな。
──なんだその反応ー!?
(……これ、かも知れない)
「どうしたんだい、急に何か受信したみたいな」
「力づくでぶち破ろう」
「はあ??」
「……で、こうなるのね」
思案と熟考の結果として、私が彼女を、《天》を抱え……私の出せる全力の“とある技”で、この空間を突破してみる事となった。
思案と熟考の結果だ。間違いなく。
「……ねえ、今からでも考え直さない? ほら、別にキミは放っておいても戻れるんだしさ、ね?」
「しかし、やったところで損はないだろう?」
「それは……そうだけど……」
「お前を連れ出したいと言ったのは私だ。その責は果たすさ、ドギラゴンの名にかけて」
「……そこまで、しなくたって……」
「さっきも言った、だろう。私が、そうしたいのだ。言わば手前勝手な行いだが──嫌か?」
「……嫌、じゃない。じゃない、けど」
なら、やろう。
この技は、私一人でやれるのか、かなり微妙な代物だが。
「いや、待てよ。
お前は、私の合わせ鏡のような存在という事、だったな」
「うん、それが?」
「……お前は、ハムカツ団、か?」
「それもそうだよ? 歴史と夢が、そうあれかしとボクに言ってる。でもボクはずっと独りだったから、実感ないけどね。
……いきなり、どうしたのさ」
……よし。
やれそうな気が、してきた。
「そうか、良かった。さて、これから一つやってみる技がある。それに協力して欲しい」
「ボク、が? 構わないけど「では行くぞ」ちょいちょい待ってって! 何をどうしたら良いのさ!?」
何かをする必要はないんだ。
重要なのは、意志。意志の力なのだから。
「少しだけしっかり掴まっていた方が良い。後──必要になった時に、少し力をくれ。それだけで、良いんだ」
「最初からそう言ってくれよ……この体勢だって、恥ずかしいのに」
「む、どうかしたか?」
「──なんでもない」
そうか……なら。
彼女を抱え、身体に力を溜める。
解き放つは一瞬。その一瞬の為に、己が全てを投じるのだ。
重要なのは……対象を斬る、というより、壁を破る感覚。
戯れにそう教えてくれた、ハムカツ、ボスカツ、カツえもん……まさかここで使うとは。後で感謝しなければな。
「はあぁ────」
強く、硬く、強靭に。
まだ、まだ、待て──
──今!
先程のように、速く強く、地を踏み締めて。
私は、蒼き団長は、今ここに宣言する。
──……《天》、ここだ。今だけだ。ほんの少し、力を貸してくれ。
──もちろん。その代わり、抜け出した先を……キミの世界を見せてくれ、《剣》。
「「──ハムカツ団の!」」
爆砕、Go!
ーーーーーー
……ここは、どこだ。
私はさっきまで何をしていただろうか。
ああ。そもそもここは、どこでもない。
なぜなら、ここは……
(現実では、ないからな)
その認識と共に、私の意識は急浮上した。
「──っは、はあ、はっ、はあ……」
起きると共に感じるのは、多量の汗と、自分の鼓動。
当然ではあるか。夢の中とはいえ、中々の大立ち回りをしていた──ような気がするからな。
「ああ、そう、言えば……」
人を一人、歴史の夢の世界から連れて帰ってきたのだった。
(誰だった、か……いや、そもそも、あれは夢の幻想ではなかったよな……連れて来た彼女は、どこにいるんだったか……)
頭の情報が絡まった紐のようになって、あやふやだ。
どこからが真実でどこからが夢か──それを明らかとし、ひとまずは紐を解いてしまおうとした、その時。
ベッドの、私のすぐ横。
誰かが、いる。
「誰だ!?」
驚いて、掛け布を開けて見てみると、そこにいたのは。
「……すー……すぅ……んっ……」
トパーズの眼。真紅の髪。
今になって初めて分かる、少し変な衣装。
(……そうだ。そうだった、な)
私が連れて帰ると誓った、同胞が一人。
小さな寝息を立てながら、ぐっすり眠っていた。
「……これをどう、皆に説明するか。私が彼女をここに連れ込んだように──見えるよな」
(……勢いで私の世界に連れてきたが、良く良く考えれば、もっと平和な世界に送るべきだったのではないか? いや、そんなやり方は知らなかったから、こうしたのであって、うーむ……
……何かあったら、その時はその時か? いざとなれば、また私が何とかして、夢の世界へと彼女を送れば良いだけだろうし。
……というか、今度ミラダンテにでも聞かなければ。歴史との、夢の世界との繋がり方を──おかしい奴と思われなければ良いが)
「すー……すー……」
「まあ、良いか。後で考えよう。兎にも角にも──」
──ようこそ、現の世界へ。
Q.謎空間って爆砕のエレメント除去の対象に入りますか?
A.さあ?