デュエマ妄想短編集   作:H.M.S.Ulysses

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 今回短め。
 R-15タグが禁断解放です。
 
 


獣の龍

 

 

 

 

 

 寝顔。

 それは仮面の剥がれた素顔、とまでは思わないけど。

 でも、限りなく近いんじゃないだろうか。

 

 

 

「……む…………」

 

 強い団長。

 責任感に溢れる団長。

 人徳比類なき団長。

 ──皆の、団長。

 

 彼という存在に被せられた羨望、期待。

 真面目な彼はそれら全てを背負おうとしてしまうんだ。これまでも、これからも。

 何故って、彼は出来ると思っているからだ。

 そしてそれが事実だからだ。

 

 でも夜だけは違う。

 この時間においては誰も、彼に目を向けない。

 彼の脚、腕、喉首。縛る糸はない。

 従って、彼は仮面を纏わなくたって良い。

 独りである事と引き換えに。

 

 肩書の消えた、ただのドギラゴン。

 それが今の彼。

 ……安らかな顔だな、とても。

 

 

 

「……ん、ハムカツたち……おりて……くれ……おもい……」

 

 そんな夜の顔、重責を背負っていない時の顔を、オレは見ている。

 彼の一面の中でも、本来誰にも知られる事のない、あるいはそうでなければならないもの。それを今、不埒な部外者が暴いている。

 

 まるでオレが、悪い事をしているような気分に駆られ……いや、確かに悪い事には違いがない。

 オレがやってる事は、夜這いとさして変わらないのだから。

 寝ぼけてドギラゴンの寝室に入ってしまった──なんて言い訳は、果たしてどこまで通用するだろう?

 

(……まあ、でも)

 

 誰かにバレたって、良いか。

 そう思ってしまった今夜のオレは、きっとどこかがおかしいのだ。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 おかしい。

 きっと、月の光のせいだ。

 きっと、さっきからオレを包んでいる、生温い興奮と欲のせいだ。

 きっと、目の前の──

 

 強くて、傷だらけで、優しくて、鈍感で、大胆で、繊細で。

 オレの事をこんなにして、でも自分は壁を一枚置いて、「友」の建前を絶対に崩さないで。

 そのくせ、そのくせ、そのくせ──こんなにも無防備な姿を、オレに晒している。

 

(……そんな、彼のせいだ)

 

 

 

 彼の頬を撫でる。

 

「──おーい、起きろー」

 

 寝ている間に、なんてのはイヤだった。

 所詮はオレのエゴだ。

 

「……だれか、そこにいるのか……」

 

 ああ、そうだよ。

 お前を襲いに来た、悪い獣だ。

 

「ん、う……プチョヘンザ……

 …………どうしたん、だ?」

 

 彼はさぞかし驚いただろう。声の主と、のしかかる重みが同一のものであった事に。

 

「どうして、だろうな」

 

「プチョ……ヘンザ」

 

 身を起こした彼の纏う空気が硬化するのを感じる。

 いや、きっと、明らかに普通じゃないオレに順応した結果だ。

 その洞察をほんの少しでも、好意を受け取る力に振り分けてくれたのなら……今言っても、無意味か。

 

 どのみちオレは止めるつもりも、引くつもりもない。

 もう、ないんだ。

 

「なあ、ドギラゴン。この時間に、オレがここに来てる意味。

 団長なら、元王様なら、分かるよな」

 

「……」

 

 目を逸らされる。

 彼がそうするのは、余程に深く考える時だけ。オレの馬鹿げた行いを思い直させる上手い説得を考えているか──あるいは本当に、何も分かっていないか。

 

(……いや。想像は、付く)

 

 一国の王だったドギラゴンの事だ、夜の()()()()()()を知らない訳がない。が、そこにまで考えが及んでいない。

 きっとそんなところだろう。

 

 そして、オレがそういう事をするはずもない。だから、可能性の勘定に入れる必要は、ない。

 ドギラゴンはそう思っているんだ──彼にとっては、オレは「友」だもんな。

 知ってるさ、嫌になるくらい。

 

 

 

「……分から、ない……一体どうしたんだ、教えてくれないか」

 

 怒ってる訳じゃない。

 悲しい? それとも、少し違う。

 今のオレにあるのは欲求だけ。あるいは、怒りも悲しみも、一緒くたになってそこにぶち込まれてる。

 

 分かって欲しい、オレの気持ち。

 分かって欲しい、オレの思い。

 分かって欲しい、オレの綺麗なとこ。

 分かって欲しい、オレの醜悪なとこ。

 

 ──もっと知りたい、彼の表情。

 ──もっと知りたい、彼の胸の内。

 ──もっと知りたい、彼の本心。

 ──もっともっともっと、オレの知らない彼の全てを。

 

 抑えつけたそばから、溢れてしまう。だからもう我慢するのは止めたんだ。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

「そっか。分かんないのか。

 ……こうしたら?」

 

「む──!?」

 

 彼の右手を掴んで、心臓に押し当てる。

 僅かに冷たかった。オレの意志を抑制するには、遥かに足りない冷たさだった。

 

「分かるだろ、心臓が、こんなに鳴ってるんだ。痛い、苦しいくらいに。今日だけじゃない、お前の事を考えてる時はいつだって。

 誰のせいなんだ? もう分かるだろ? お前がオレを──」

 

 言い切りかけて、気付く。

 彼の表情。

 彼の眼。

 掴んだ右手から感じる熱──オレの熱が伝わったんじゃない、彼の内側から発されている熱。

 

 何でだろう。

 ああ、そう言えば、彼の手を胸に押し当てたんだった。オレって胸が小さいから、あんまり気にしないんだけどな。

 

(そう、なんだ)

 

 恥ずかしいんだ。

 照れてるんだ。

 ちょっとした触れ合いが、そんなにも。

 

 

 

「──その、だな、プチョヘンザ」

 

 つまりは、さ。

 そういう事として捉えて良いんだよな。

 

「今の、お前は……何だか、普通じゃない」

 

 オレの身体で、感じたんだよな。

 

「とに、かく。まずはその……手だ。手を、放してくれ。それから──」

 

 オレがお前をそういう風に見てたのと同じように。

 今のお前は、オレを、そういう目で見たんだ。

 

 なら、良いか。

 実質的な、合意だ。

 オレの独りよがりじゃ、ないんだ──だから、何をしたって、良いだろう?

 

「悪い。放せない」

 

「な、待て、待て待て──」

 

 これ以上聞きたくない。

 薄皮よりさらに薄っぺらな大義名分が失われるより前に、オレは彼の唇を塞ぐ。

 穢す。抵抗が無意味だと、彼が分かるまで。

 

「んむっ、や、め、っ」

 

 嫌だ。嫌だ。永遠に自分に嘘をつくのは無理な事だ。

 欲に蓋をするのはもう限界なんだ。

 

「ぷ、はっ……はあっ、はっ、はっ……」

 

 最後の枷を破り捨て、暴れ出した欲望に身を任せる。オレは唇を放すと、彼を寝台に倒した。

 どさり、という音。下手人は全くもって乱暴らしい。

 

「はーっ、はーっ……」

 

「っ……プチョヘンザ……!」

 

 落ち着いてくれ、とか。普通じゃない、とか。

 そんな言葉が何度も紡がれるのが怖くて。

 

 

 

「──今夜だけは、今夜だけなんだ。

 ……大馬鹿野郎のオレを、受け入れてくれ」

 

 

 

 懺悔にもならない言葉で誤魔化して。

 

 

 

「……ごめん」

 

 

 

 オレは、獣に裏返った。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 怠い。

 全身に絡み付いた倦怠感と、体内に燻る半端な熱が、オレを浅い眠りから引き摺り出した。

 

 眠り? そうか、オレはいつの間に眠っていたのか。

 瞼をこじ開け、今の自分がどこにいるのかを確認しようとする。

 

(……いや)

 

 視界に頼る必要はなかった。

 戻ってきた触覚が、下にいる存在の熱を感じ取ったからだ。

 所々の痛む四肢をのそのそと動かせば、決して太くはないがしっかりと鍛えられた身体の起伏が、良く分かる。

 

「……ぅ…………」

 

 彼は、ドギラゴンは、眠っていた。そしてオレは、その上に被さっていた。

 何も変化していない。昨夜のまま、何も。

 

(二人して、終わった後に寝ちゃった……って事なのかな)

 

 実の所、どこまで何をやったのか、あまり覚えていない。

 ずっとうわ言みたいに謝罪を繰り返していたような、そんな記憶が、あるにはあるんだが。

 もしかしたら、途中で我を忘れていたのかも知れない。

 

(そうだとしたら……謝らないと)

 

 謝る、か。

 矛盾している。そもそもこんな事をしている時点で、オレは、彼を。

 彼の信頼を。

 

「──やっちゃった、な」

 

 全く、何という馬鹿な真似だ。

 あの時のオレは、どうかしていたにせよ。欲求に抵抗するのを止めたのは、結局の所オレ自身じゃないか。

 

「はあ……」

 

 後悔はしないと決めたのに。

 時を戻したくなって、そんな自分がやっぱり嫌になって、オレは倒れ込んだ。

 受け止めるのは、極めて正常な寝息を立て続けるドギラゴン──ああ、もっと嫌になるな。

 

 悪いと思っている癖に。

 こんな風にして、オレは彼に縋ってしまう。

 

 身体を彼の方に投げ出せば、首筋の辺りに、ちょうどオレの頭は着地した。規則的に並んだ赤い斑点たちと、虫刺されのようなものが見えたが、無視する。

 感じられる、僅かに湿った彼の肌。原因はどう見ても張り付いた汗。

 とどのつまり、今にも残るくらい昨夜は激しかったという事。

 

「…………すー、すう……」

 

 頭でものを考える前に、身体が呼吸を命じていた。

 彼の汗の匂い。無意識の内に、オレは欲した。

 

(……いい、におい、がする)

 

 オレの中、理性ではない誰かが、そう呟く。

 彼の匂いはいつだって好きだ。

 安心するからか、それとも、オレの中の欲を煽るからか。

 自分の理性に従わないといけない、こんな時でさえ、これはオレを惑わせる。

 

「……はー……」

 

 吸ったものは吐かねばならない。身体の摂理にただ従う。

 摂理なのだから、しょうがない。誰の為かも分からない言い訳。

 

「……って。こんな事、してる場合じゃ、ないよな」

 

 頭の伴わない、一連の動作。

 本当にオレは、獣の部分は反省しているのだろうか。

 そもそも、理性は今、機能しているのだろうか。

 

 

 

 分からない。昨夜の熱はまだオレの内にあって、消えてくれないのだ。

 

 

 

 

 




 
 
 やってしまった後に滅茶苦茶後悔して、でも欲求がまだ残っているプチョヘンザ(光・自然)はアリだと思いませんか?

 貯めてた大きいものは大体放出したので以後は不定期更新になります。良ければ、評価と誤字報告お願いします。
 
 
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