デュエマ妄想短編集   作:H.M.S.Ulysses

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 明けましておめでとうございます。お待たせしてしまって本当に申し訳ありません(ちょっと年末年始の忙しさを舐めてました)。
 今年からさらに忙しくなるのでますます投稿頻度が落ちますが、どうかご容赦を!
 
 


団長、転生する

 

 

 

 

 

 ──我と共に、お前も滅びよ……!!

 

 

 

 絡み付く触手が私の自由を奪う。

 最後のコアを刺し貫かれても尚、この禁断を束ねる神(ドルマゲドン)は諦めない。死なば諸共とばかりに、私を道連れとして逝くつもりらしかった。

 

(……これで、終わりか)

 

 恐れはない。

 かつての王として、革命軍として、彼らハムカツ団のリーダーとして、私はやらねばならない事を遂げたのだから。

 

 悔いならばある。

 宇宙(ソラ)へと私たちを送り出した彼ら、共に闘ったあいつらに、ただいまと言えない事。

 彼らの笑顔を見られないのが、悔しい。

 

 だが、いや、だからこそ。

 そう思えるくらい大切な者たちと、共に生きてきた事は……もっと嬉しい。

 

(ああ、良かった)

 

 白い光が全てを包む。

 私を呼ぶ声も、もう聞こえない。

 世界の輪郭が、音が、色が消えていって、私は──

 

 

 

 

 

「……ふあぁ、まだ眠いな……

 …………む?」

 

 死んで……いない。

 

 

 

 

 

 ここは、この世界は。

 一体どこだ?

 

「今はただ! 書くしか! ない! ぬおぉ───!!」

 

(……??)

 

 近所の、漫画家?

 

「ほーらー……いつまでぼうっとしてるんだい義兄さん。早く学校行くよ?」

 

(…………????)

 

 私に義妹などいたか?

 

「あ、剣じゃん! おはよーっ!」

 

(………………??????)

 

 プチョヘンザが……なぜ?

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 簡単な言葉に纏めよう。

 私は、いわゆる「転生」をしたようだ。

 

「おーい、おーい」

 

 ランド大陸とは似ても似つかない、この奇妙で先進的で、何より平和な世界。

 肩書は団長から男子高校生へ。それが今の私だった。

 まあ、それだけなら、納得はともかく理解は出来る。

 問題は……

 

「なーなー、なーってばー」

 

 ……「前世」の見知った者たちが、ここにもいるという事。しかも、誰も前世の事は知らないし、覚えていない。

 彼らに異変が起きたのか、それとも私がおかしいのか。前者であって欲しかったのだが、今は後者なのだろうと諦めている。

 私の知っていた彼らと、今知っている彼らは、恐らく違うのだろう、と。

 

「聞ーいーてーんーのーかー!」

 

「ぐっ……悪かった、だから、プチョヘンザ、痛い……」

 

 腕をポカポカし出した隣の親友──よく分からないまま登校した転生初日に、「今世」では親友だったらしい事は察せた──プチョヘンザを、どうにか宥める。

 親友という割には何だか距離が近い気もするが、前世の頃からそうだった気もしないではない。

 廊下の窓際に二人。窓は閉まっているはずだが、少しだけ肌寒かった。

 

「やっぱりさぁ、最近ヘンじゃないか? 訳分かんない事言い出したり、今みたくぼけーっとしたり」

 

「何でもない。ここの所は疲れているんだろう、きっと」

 

「ウソ下手だよなお前」

 

「……頬をつつかないでくれ」

 

「話題逸らすのも」

 

「むぅ……」

 

 無論、前世の事など言えるはずもない。気が触れたと思われるのがオチだ。

 しかし私はどうにも隠し事が苦手で、隠そうとして下手な嘘をつくから余計に怪しまれる。こんな風に、日を追う毎に、私は不利な立ち位置に立たされつつあった。

 

「ま、理由は何でも良いんだよ」

 

 良いのか、なら一先ず助かった。

 

「オレが嫌なのはそこじゃないからさ」

 

 前言撤回だ。

 

「……なんてゆーか、今、オレとお前で二人っきりな訳じゃん」

 

 言葉を切ったプチョヘンザは、何かを求めるように私を見る。廊下には多く人がいるから「きり」ではない、と訂正しようとしたが、野暮な気がしてやめた。

 上目遣い。差し向けられる、綺麗な蒼い瞳。

 

「そんな時に、いや、言うの恥ずいんだけど、その」

 

「……?」

 

「とにかく! 今のお前って、こう……ここにオレがいるのに、オレ以外の事にうつつを抜かしてるみたいで、なんかヤなんだ」

 

「そう、なのか」

 

 彼女の言う事は今ひとつ分からなかったが、それでも、口をついた言葉が疑問語に昇華する事はない。

 そもそもこんな事態を招いているのは私。彼女が不満を持つのも仕方がない──適応出来ていないのは、私の方なのだから。

 

「だから、あー、えーっと……二人でいる時は、もっとオレを見て欲しいって事!」

 

「ああ、分かった」

 

「ちょっ即答かよ!?」

 

「むしろ私が謝るべき事だ──すまなかった、嫌な思いをさせてしまって」

 

 ──すぐに「普通の私」に戻るから、とは言えないんだな、お前(ドギラゴン)

 

 ──出来もしない事を、軽く約束したりはしないだろう、(ドギラゴン)

 

 私が言い終えると、彼女の声は今度は小さくなって何やら呟いていたが、暫くして窓の方に顔を向けた。

 耳が赤いが、熱があるのか? もう冬だから、体調には気をつけて欲しいものだが。

 

 

 

「あ、義兄さん」

 

 ふと、沈黙が破れる。

 声の主は、廊下を歩いてきたらしい「義妹」らしい。

 

「天、どうかしたのか?」

 

「いや、特に用事がある訳じゃないさ。それより……プチョヘンザ先輩といるんだね」

 

「いやあ悪い悪い、剣の事借りてる」

 

「私は貸借物ではないはずだが」

 

 流れるのは他愛もない会話。

 そういえば、プチョヘンザは場合によって私への呼び方を変えているな、なんて益体もない考えを脳内に浮かべる。

 そうしていれば、心の不安から目を背けられる気がした。

 

「──先輩はボクの義兄さんと一緒なの、好きなのかな」

 

「──そりゃ、幼馴染だし」

 

「へぇ、それは義兄さんも?」

 

「む? まあ……」

 

 前世でも今世でも、彼女は底抜けに明るく、そして優しい。その点で言えば。

 

「私も、だな」

 

「……ふーん。じゃあボクと一緒にいる時は?」

 

「無論、天と共にいるのも私は好きだぞ」

 

「……なら良かった」

 

 すると、じゃあね義兄さん、と言いながら天は去っていった。満足げな顔だったのは、彼女が生来会話好きだからなのだろう。

 

「むーーー」

 

 ……プチョヘンザ、今度は何だ。足をゲシゲシしないでくれ。流石に今の私は何もしていないはずだ。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

「ほら、早く購買行こーよー」

 

「テンションが高いな。何かあったのか?」

 

「何かって、新しいカレーパンが出るんだ。お前の大好物じゃん!」

 

「──ああ、そうか。すっかり忘れていた」

 

 毎日嘘をつき続けるのが難しくなっていると、さっき言ったが、決して悪い事ばかりではない。

 転生していくらか経つと、慣れのようなものが生まれたからだ。

 

「中身は主にドングリのようだが、さらに……これは面白い……それから……

 む、どうした、そんなに見て」

 

「ううん、大した事じゃないよ。カレーパン食べてる時はいつも通りだなー、って思って」

 

「……そうか」

 

 私が私であるように。周りと違う事を悟られぬように。下手なりにでも、一般的な高校生であろうとする。

 偽りが少なくて済むのは助かる所だ──変わったのは記憶だけで、まるきり違う存在を演じている訳ではないのだから。

 

「む……zzz……」

 

「えいっ」

 

「痛っ……zz……」

 

「二度寝すんなよドギラゴンっ!」

 

「痛っ!」

 

 だからこうして、素でいる限りは何も怪しまれない。そして、素でいる期間が長ければ長い程、私は「最近変だ」のレッテルを剥がしていけるだろう。

 

「よーっし、帰ろ!」

 

「今日の軽音は、確か定休だったか」

 

「うん。だから放課後はどっか行……でもミラダンテはいないんだよな」

 

「生徒会か。もう冬なのだが、あいつも中々忙しいと見える」

 

「うーん……じゃ、良かったらさ、帰った後お前ん家行っていいか? 新作のゲーム買ったんだよ!」

 

「おお、それは楽しみだ」

 

 プチョヘンザという幼馴染が、ある意味では私の鋳型だった。私がらしくない事をすればすぐに怪しんでくれるので、リスクは排除し切れないが、今後の為の観測結果を取る事が出来る。

 

(今後の為、か)

 

 そうだ。もう私はこの世界で生きていくしかない。帰り方など分かるはずもないし、何より──もう私は、死んでいるべきだから。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 きんこんかんこん、きんこんかんこん。

 冬将軍に忠実な季節の先鋒は、大気をすっかり乾かして、代わりとばかりに寒気を沢山送ってきている。

 

「……おう、剣か?」

 

「おっと、閃さん」

 

「あ、久しぶり閃さん!」

 

 帰り道で出会ったのは、私とプチョヘンザの近所に居を構える漫画家の閃さんだった。絶賛ランニング中らしい。

 

「アイデアが浮かばず、フラストレーションが溜まっているから発散を。そんな所ですか?」

 

「御名答、相変わらず剣は鋭い──っと失礼、ここだけの話、こんな悠長に走ってる場合ではないのでな! また会おう!」

 

「……締切が大丈夫じゃないって事だよな」

 

「……彼の事だし、多分大丈夫だ」

 

 知り合って以来いつも思うが、あの人の、他人を不安にさせる謎の雰囲気は何なのか。脂の乗った年齢であり、豊かな経験を積んでいる事は疑いようもないのだが、ちょっと脳筋な所がある気がしてならない。

 

 

 

 さて、そんな事を考えていれば、帰り道など一瞬である。

 いつの間にやら、私の家の前であった。

 

「どうする? 私はここで待っていようか」

 

「そりゃお前に悪いよ。ちょっと……準備、してから行くしさ。家で待ってて」

 

「ああ、分かった」

 

 そう言われては仕方がない。

 ガチリという解錠の音を耳に捉えつつ、私は家に入っておく。

 

 今の微妙に明るい空、これが真っ黒になった頃には天が帰ってくるだろう。

 どうやら私とプチョヘンザがこんな事をするのは日常茶飯事で──といっても、私が、正確には私の意識が転生してくる前からだが──、彼女の長居も珍しくないらしいし、天もそれほど気にしていないようだった。

 だから今日は、遅くなるまで遊ぶ事が出来る。ゲームというのは、プチョヘンザにとっては昔からの楽しみであり、転生後の私にとっては新しい楽しみの一つだ。

 

「いぇい、数分振り〜」

 

 台所の棚からお菓子なんかを引っ張り出していると、チャイムが一回。

 開ければ、当然だがプチョヘンザが待っていた。制服ではなく、獅子のあしらわれたパーカーを羽織っている。

 

「どう? 新しく部屋着買ってきたんだけど、似合うか?」

 

 そう言って、彼女はパーカーを開く。確かに、その内には目新しい服があった。

 

「そうだな……私は服の良し悪しに明るくないが、とても似合っていると思う」

 

 本音を言うなら、彼女は制服を筆頭に何だって似合う人だ。しかし、「何だって」「何でも」を明け透けに言ってしまうのは良くないとテレビで見たので、引っ込めておく。

 

「に、似合ってるんだ、ふーん……

 ……良かった」

 

「む? 今何か「な、何でもない! ほら、お前の部屋早く行こうぜ!」あ、ああ……」

 

 食い気味だな、そんなに新作が楽しみという事か? 俄然楽しみになってきたぞ。

 

 

 

「くっ……私は、まだ負けない、ぞ……!」

 

「よし、よし、もうちょっとで勝てる!」

 

 私もプチョヘンザも、少し血の気が多い所があるのは事実である。

 これは持ち込まれた対戦型ゲームに対しても変わらない。ルールと操作を覚えて早々、私たちは一対一の勝負にのめり込んだ。

 

「行け……っ、やった!」

 

「むぅ、もう一度やろう!」

 

「だーめー。これが最後って言ったのはお前だろ?」

 

 返す言葉もない。

 十番勝負の筈が、五勝五敗のイーヴン。結局、最終戦で六勝を掴み取ったのはプチョヘンザの方だった。

 

「……次は負けない」

 

「ふふん、次があっても勝つのはオレだ」

 

 余程に熱くなっていたのだろうか、少し紅潮したプチョヘンザが、そう言ってにやりと笑った。

 

 その顔、声。

 知らないのに知っている。

 既視感が襲う。

 

 ──オレたちの勝ちだぜ、イニシャルズ! まあ、次があっても勝つのはオレたちだけどな!

 

「っ……」

 

「オレの顔に、なんかついてる?」

 

「あ、いや……何でも。何でも、ない」

 

 駄目だ、それは駄目だろう。

 本来感じてはならないものだ。

 隠さなくては、いけないものだ。

 

 ようやく、団長という名を脱ぎ終えられるというのに。この世界の人間に成れる、そんな時に。

 これ以上、親しい者に疑いの念を作るべきではない。

 

 ──オレ以外の事にうつつを抜かしてるみたいで、なんかヤなんだ。

 

 あの言葉の真意は聞いていないし、故に分からないが。

 それでも、あのような悲しい顔を、もうこれ以上させたくないのだ。

 

「なあ、ドギラゴン、やっぱりおま「そうだ! コップはもう空だろう?」

 

 出し抜けな話題の転換。彼女の口を塞いだのと、何ら変わりない。

 

「え、あ、確かに」

 

「私が入れてくる。同じもので構わないか」

 

 そんな所まで気を回さなくても大丈夫だ、なんて事をプチョヘンザが言う前に、私は立ち上がっていた。

 

「……良いよ、それでお願い」

 

 彼女の声色には僅かに、そして確かに疑念が含まれていた。その意味は明白で、私の擬態は失敗した訳である。

 私は曖昧に頷き、部屋のドアを開けて外に出るしかなかった。

 

 がちゃり、ぱたん。

 部屋には独り。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 流体が器に注がれる。

 私の心の蟠りも、そんな風に流れてくれたらどんなに良かったか。

 

(本当は、どうしようもなく違和感だらけで、恐ろしい)

 

 知っているはずの人が、知らない人になっていて。

 知らないはずの人が、知っている振る舞いをする。

 

(「彼らのよく知る私」でいたいと思うのは、彼らを傷つけたくないからで……)

 

 ──しかし、本当にそれだけか?

 

 ──エゴイズムではないと、言えるのか?

 

 ──自分の心を守らんが為、未視感にも既視感にも直面したくないという気持ちが、お前にはあるのではないか?

 

「……危ない」

 

 もう少しで溢れる所だった。

 こんな時に考え事などするべきではないな。

 

「よっ、と」

 

 ボトルを片付けて、コップを持って、数歩の後に部屋へ踏み入り、元の場所に帰る。

 願わくは、その機械的な動作の連続が、私を「普通」に近付けてくれますように──なんて事を思いながら、私はドアを開けた。

 

 がちゃり、ぱたん。

 部屋には二人。

 

 

 

 

 

 だが、さっきとは様子が違っている。

 

「ん……」

 

「……寝ているのか?」

 

 ベッドの上、プチョヘンザが仰向けに寝転んでいた。無論、その眼は閉じられている。

 疲れたのだろうか? さっきまでは素振りも見せていなかったが……まあ、彼女にはよくある事だ。

 表情も、行動も、跳ねるように変わっていく、その快活さ。

 どの世界でも変わらないそれが、何だか羨ましくて、嬉しい。

 

(起こさない方が、良いのだろうが)

 

 少し迷う。

 私は、いつまでここにいるつもりだとか、そういった事を彼女から聞いていなかった。もしかすると、これから何か予定があるかもしれない。そう思えば、一応確かめておいた方が良い気もする。

 だが、眠りを無理矢理覚ますのは酷に違いない。どうしたものか。

 

(いや、ここは彼女の為だと思って……一度起こそう)

 

 結局、避けうる悲劇は避けた方が良いと判断した。運んできたものは適当な所に置いておき、彼女の方に近付く。すぐ側まで来れば、微かな呼吸音を捉える事が出来た。

 

「プチョヘンザ、一度起きてくれ」

 

「……」

 

 何だか不釣り合いな感じだ。他人よりは背が高い方である私の為のベッドに、程々の体躯なプチョヘンザが収まっているからかも知れない。

 

「おーい、プチョヘンザ……」

 

「……」

 

 揺さぶったら怒るだろうか。

 余程に熟睡しているらしいのは、良い事なのだが。

 仕方がないので、接触動作で起こすとしよう。

 

「さあ、起き──」

 

 そう思って実行に移した、その時。

 

「引っかかったな」

 

「なっ」

 

「ほ、ら……よっと!」

 

「おい──!?」

 

 急な動き。

 視点の転換。

 嵌められた事に気付くのに、およそ半瞬。

 それが致命的だった。私の腕が鈍ったのか、単に彼女が強いせいか、その両方か。

 

「いぇ〜〜い、今日イチの大勝利ぃ〜〜」

 

「お前……」

 

 いつの間にか、勝負のルールはゲームからレスリングに変わっていたようだ。

 今、ベッドに収まっているのは私の方。上に乗っかっているのがプチョヘンザだった。

 こんな所でも負けたのは、少し業腹かも知れない。

 

「……全くの演技派だな」

 

「だろだろ? お前が居眠りしてる時の挙動を学習したんだ」

 

「悪戯の為にそんな事を?」

 

「悪戯の為にそんな事を!」

 

 なんとまあ完璧な鸚鵡返し。

 

「はあ……何かに寝過ごしでもしたら大変だと、少しは心配したんだぞ?」

 

「それは……悪い。でも見ての通り、今日はお前の為に空けてる。もしも何かあるなら、その時は事前に言うつもりだよ」

 

 言われてみれば、確かに彼女はその辺りの気配りを決して怠らない。

 

「そうか、そうだったな。なら今日は大丈夫そうだ」

 

 そんな意味を込めて、口を開いたのだが。

 そう言った瞬間だけ、プチョヘンザの眼の色が変わったような気がした。

 

「……大丈夫?」

 

「む? どうか、したか」

 

「……いや、別に」

 

 そう言うと、何故か彼女は眼を逸らした。

 謎の沈黙。外の空はもう夕暮れを通り越すようだ、なんて脈絡のない思いが過る。

 

 

 

 というか、いつになったらプチョヘンザは、私をベッドから解放してくれるのだ?

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

「ドギラゴン、さ」

 

「?」

 

「まあ、その。今のシチュエーションは、男子と女子が、二人きりで同じ部屋にいる、訳だよな」

 

 似たような言葉を前にも聞いた。あの時、彼女は私に、自身をもっと見て欲しいと、友としてちゃんと大切にして欲しいという事を言っていた。

 

「事実だけを、挙げるなら」

 

「こういう時、その二人は何をすると思う?」

 

「何だと?」

 

 唐突で、意図の読めない質問。

 

「胸に手を当てて、考えてみてよ」

 

 塞がれている右手を開放され、「ほら」という一声がかかる。胸に手を当てて、考え……考え……

 いやさっぱりだ、何をするのかと言わ──

 

「えっち」

 

 ──はあ!? い、今何と!?

 

「あ、いや……確かに……

 って、待て待て! それはちょっと破廉恥な話だ!」

 

「ははっ、言われたら分かるんだ、このムッツリさんめ」

 

「はあ、全く、悪い冗談はやめてくれ……」

 

 

 

 

 

「じゃあ、冗談じゃないって言ったら?」

 

「え?」

 

 もう一度右腕が塞がれる。

 声のトーンが下がった、ような。

 

「冗談じゃない、というのは「こういう事」ちょっ──!?」

 

 瞬間、彼女の顔がぐっと近づけられた。

 重みが増す──身体を預けられているのだから当然だ。

 抵抗出来ない──おかしいな。彼女の力はこんなに強かったか?

 

「もし、オレが本気だったら。本気でそういうのをしたいって言ったら。

 ドギラゴンはどうする? どうしたい?」

 

 彼女が言っている事が分かるにつれ、自分の顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。

 

 いや、しかし、しかしだ!

 理解が追いつかない。

 いつものプチョヘンザなら、こんな行き過ぎた揶揄いはしない。しない筈なのだ。

 では、ならば、言葉通りに、本気なのか。

 

「答えてよ、早く」

 

 両手首を縛る彼女の手が動く。指と指を絡ませるように、つまりはもっと強固に繋ぎ直した。こういうのを、何とか繋ぎと言うんだったな。

 

「ほら、言え、言ーえ、したいのかしたくないのか、な?」

 

 これは本当に仮定の話なのか、分からなくなってきた。

 文字通り目と鼻の先に、綺麗な蒼い瞳。

 潤んでいる。

 直視すれば、いけない事を想像してしまいそうで。

 そんな思いが出て来てしまう、自分が少し憎い。

 

(私は察しが悪いから、映る色についてどれだけ考えても、真意を掴めないのだ)

 

 否。

 どの道、分かったとて、私に言える事は、一つか二つしかないというのに。

 

 

 

 

 

「出来、ない」

 

「…………何で?」

 

 何故と、言われても。

 

「私と、お前は、()()だろう……?」

 

 こう返すしか、ないではないか。

 

 

 

 

 

「…………そ、そうだよな! お前なら絶対そう言うと思ったよ。期待だけは、裏切らないんだからさ」

 

 沈黙は、唐突に破られた。

 今のは、結局試されていただけ?

 良かったのか良くなかったのか分からないが、そうならば少しほっとする。

 

 いやそもそも、プチョヘンザのような人間と、私のような──その彼女を困らせ、悲しませてばかりの人間では、釣り合わないのは明らかだ。端から分かっていた事ではないか。

 危ない所で、変な勘違いをしてしまいそうだった。

 

「ドギラゴンってば凄く真剣に考えるし、反応は可愛いし、つい」

 

「む……」

 

「……いや、やり過ぎたのはごめんって」

 

「そこは、あまり気にしてない。良いんだ。

 しかし、プチョヘンザには()()()()()()()()がいるだろう? だから()()は私くらいに留めておくんだぞ」

 

「──そう、だな。

 んじゃあ、次は何する?」

 

 気付けば、両手はもう塞がれていなかった。ひょいと私の上から降りたプチョヘンザは、普段のような笑顔に戻っている。まるでさっきまでのは夢だったかのように……

 

「それとも、オレと一緒に寝る?」

 

 全然そんな事ないではないか。

 

「べ、別に良い!」

 

「高校生の夢じゃないのか〜? 女の子と添い寝出来る良い機会だぞ〜?」

 

「揶揄ってももう効かないからな!?」

 

 小さな嘘。

 本当はイメージしてしまって、少し恥ずかしい。

 それを気取られるのは死んでも阻止しなければ。

 

「……さっきのゲームの続きとかはどうだ」

 

「おいおい、もうリベンジマッチするのかよ」

 

「勿論」

 

 宣言の通り、今度は負けない。その意志と、さっきのを早く忘れたい理性を込めて、力強くベッドを押し、立ち上がる。

 っと、元々の目的があったのを忘れていた。

 

「そういえば。飲み物、持って来たぞ」

 

「あ、サンキューな!」

 

「礼には及ばない。さあ、ゲーム再開だ──」

 

 ──そして、いつも通りに、戻ろう。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 ──私と、お前は、友達だろう……?

 

 口から出るのはいつだって、本音のいつも一歩手前。

 

 ──友達だからこそ、こうやってるんだって言ったら?

 

 あの時、そう言えたのなら。

 

 

 

 ──しかし、プチョヘンザにはもっと相応しい人がいるだろう? だから冗談は私くらいに留めておくんだぞ。

 

 でも、そうはならなかった。

 

 ──お前が本命なんだ。お前が、欲しいんだよ。

 

 ヘタレな自分がちょっと嫌いだ。

 

 

 

「なあ、ドギラゴン」

 

 伸ばす。

 手と、言の葉を。隣へ、彼へ。

 

「む?」

 

 彼が振り向く。

 あれ、何の為に呼んだんだっけ。

 そもそも、理由なんてあったっけ。

 

「あ、えと」

 

 何を話そう。

 いっその事、今伝えてみようか?

 ……いやいや、ムードもへったくれもないのに?

 

 また、いつかで良い。

 彼がもう少しだけ、オレを意識してくれるようになった時。

 冗談を冗談じゃないって思わせられる、その時に。

 

「──ううん、何でもない。呼んでみただけ」

 

「……本当に?」

 

「本当だって」

 

 その頃には、彼は──オレの心をまっすぐに見てくれるだろうから。

 オレも、彼の心を、まっすぐに。

 

 

 

 

 




 
 
 今回滅茶苦茶難産でした。変な所ありまくりだと思います。
 しかし作者似たような物しか書かねぇな……

・プチョヘンザ
 転生したてでやや様子のおかしいドギラゴンに「オレたちは付き合ってたろ? 何忘れてるんだ?」と吹き込んでれば多分速攻で勝ってた人。
 ドギラゴンが最近おかしいのは良く分かっているが、それはそれとして勝負を仕掛けてみた時に絵に描いたようなドギラゴン(クソボケ鈍感)の反応をしやがったのであまり心配していない。

・ドギラゴン
 「この世界」のドギラゴンにDS世界のドギラゴンの意識と記憶がインしてしまった、みたいなイメージ。
 それの事で後ろめたさを抱えているのだが、どこの世界のドギラゴンも根底は大体一緒(並行世界にドギラゴンがいっぱいいるみたいに書いてある蒼龍革命その他のストーリーを見る限り)だからそんなに気にしなくても良いと思うぞ!
 プチョヘンザとは、前世も今世もズッ友! そうだろうプチョヘンザ?



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