1ヶ月以上不精してたので初投稿です。
実を言うともうネタが尽きかけなんですが、アイデアが湧いたら書いていく予定です。
それが、ウガタが扱う60枚デッキのコンセプトである。
「では、サイクルぺディアちゃんで攻撃です」
「おーけー、そんじゃウガタンにあたーっく」
「……ここで攻撃をするという事は」
まず序盤はマナを増やすことに徹する。
下地を整えた後は、山札からサーチ出来る呪文を使用し、相手の出方に応じた対策札を引っ張ってきて、豊富なマナを背景にすかさずプレイ。
デッキサーチを多用する都合上、それぞれのカードは最悪、1枚投入でも問題ない。それはより多くの種類のカードを入れられるという事であり、対応力の増加に直結している。
「するときに、革命チェンジ! サイクルぺディアちゃんに成り代わり──」
と聞けば、一見ウガタのデッキは完全無欠のようだ。だが、泣き所がない訳ではない。
一つ目は、序盤からの速攻への耐性の無さ。マナを必要十分まで溜めるその時間が命取りになる。
「はーいーたーっちー」
「私、参上です!」
「こうなる、だろう」
二つ目はもちろん、呪文へのメタである。
銀の弾丸を引き摺り出すクリスタル・メモリー、ディメンジョン・ゲート。それだけではなく、湯あたり地獄などといった銀の弾丸本体。ウガタのデッキはこれら呪文にかなり依存している為だ。
そしてウガタは、
「能力を発動。次のターンの間、ウガタくんは呪文禁止ですよ」
「分かり切っていた事とはいえ、やはりこうされると厳しいだろう。ではオレのターン……むぅ、少し考えても良いだろうか?」
「もちろん。ウガタくんの事なら、いつまでも待てますから」
「すまない、いつも……これを切るべきか、いやまだその時じゃ……だが、そんな悠長な事を言ってられないし……」
むぐぐ、と唸りながらウガタは思考に没していく。
サーチが封じられ、頼みとなる手札の選択肢はそう多くない。一見やる事は少ないように見えて、だがしかし慎重な判断が必要だ。
「そろそろ大丈夫、でしょうか」
だが、デュエルの範疇を超えたのなら、その限りではないかもしれない。ウガタの対戦相手が静かに動き出したのに、全く気付けていないのだから。
「こういう時じゃないとウガタくんは嫌がりますからね。仕方ない、仕方ないんです」
「ん、ちょっと待ってラフルル。何しようとしてるの」
遠巻きにふよふよと浮いていたサイクルぺディアが、カードを置いてそろそろと立ち上がったラフルルに、訝しげな声をかける。
彼女はぼーっとしている事が多いのだが、しかし仮にも龍素記号を冠する賢いドラゴン。そういう事には目ざといのだ。
「うーんと、まあ、ちょっとした親愛を示す行動と言いますか」
「スキンシップだね」
「そうとも言いますけれど」
「抜け駆けはんたーい。ウガタンの同意を得てからやるべきだと思いまーす」
「あ、貴女だって、この前こっそりウガタくんの布団に潜り込んでたじゃないですか。羨ま、こほん、ウガタくんも困っていたでしょう?」
その理屈に照らせば今行われかかっている事も駄目になるのだが、彼女は理解していないのか、していて目を背けているのか。
テーブル──デュエマさいこークラブの部室の中央に鎮座している──を挟んで反対側にいるウガタの後ろに回り込み、そっと抱え上げた。
当然、思考中の彼はまるで気付いていない。
(軽い、です)
ウガタは同年代に比べれば極めて背が低く、しかも細身だ。そこから簡単に導き出せるはずの事実を、ラフルルは改めて実感した。
もしも今、彼女がそこそこの力を込めたのなら、ウガタは硝子細工みたいに砕けるのかもしれない。
かつんかつん、ヒールのような音が数回。ラフルルは部室の隅にそそくさと動き、座るには丁度良いマットの積み重ねに、ウガタを抱えたまま座った。
手を彼の腹に回し、今度はしっかりと抱き込む。側から見ればお気に入りのぬいぐるみを抱えて椅子に座る少女のようだ。違いがあるとしたら、ぬいぐるみは生きていて、少女はそもそも人ではない事くらいか。
「……」
「ラフルル、後でわたしにもさせてね」
「後で、ですから」
二人のドラゴンを除いて音を立てる者はなく、ウガタの小さな呼吸は音にすらならない。あるのはただ、背中越しに伝わってくる彼の心臓の鼓動。
ラフルルはウガタが長考している時の静寂が好きだった。音卿の精霊龍が持つ力、呪文の拒絶もまた、ある種の沈黙を齎すからなのか。
(ウガタくんが気付く前に、やめたほうが良いのは分かっています。でも折角なのですから、もう少しだけ……)
──彼の家に、ずっと一緒にいました。新天地に赴く、その為の相棒の一人に選ばれてからも、今や結構な時間が経っています。
──つまり……私とウガタくんは長い付き合い、という事ですし……本音を言うなら、彼にはもっと甘えたいし、甘えられたいです。ウガタくんが恥ずかしがるのも分かりますが、それでも。
そんな事を思えば思うほど、半ば無意識にラフルルはウガタを強く抱きしめ、大きな身体を小さな身体に密着させていく。何事も起きなければ、恐らくウガタが気付くまでやり続けるだろう。
と、そんな時である。
──ざく、ざく。
土を踏む音。
この部室の前をただ通り道として使う学生などほぼいないという事を、部室の二人は良く知っている。これら音の主は間違いなく、デュエマさいこークラブの部員のものだ。
「むー、時間切れ」
不満そうなサイクルぺディアの声も仕方なかろう。
何せウガタは、自分のクリーチャーが実体化している事を秘密にしているのだから。故にその存在を、彼らに知られる訳にはいかない。
「みたいですね。ええと……」
未だ思考の沼から帰ってこないウガタを見、どう見ても対戦の最中にしか見えない卓を見、もう一度ウガタを見、逡巡するラフルル。
だがそれも一瞬で、彼女はなすべき事を速やかに決めた。
「そのままにしておきましょう」
「そうだね。じゃ、わたしたちは大人しく戻っておこうか」
「……ええ」
言うや、するりとカードに舞い戻っていくサイクルぺディア。ラフルルの方はというと、名残惜しそうに抱擁を解き、ウガタをマットに座らせる。
そして次の瞬間には、もうその姿は消えていた。
「ウーガターン、ただいまーっと」
やってきた、いや戻ってきた彼の名は斬札ウィン。ウガタのルームメイトであり、研究対象であり、デュエマさいこークラブの発起人。
あるいは、ウガタにないものを持っている存在。
(寝てる? いや、カードが置いてあるから、長考中ってとこかな。でも一人回しじゃないみたいだし、なんでその場所で考えてるんだろ)
「……よし、ここはサイバーダイスベガスを置いて……あれ」
「あ、起きた」
と、まさにその時、ウガタが決断を下した。そして思考の世界から、現実に帰ってきたのである。
「ウィン?」
なぜここに、と言いかけて、しっかり口をつぐんだのは流石である。ウガタは長考のそもそもの原因、誰とデュエルしていたのかをしっかり覚えていた。
(ラフルルたちはいない、か。後で感謝すべきだろう……だがまずは、不審がられないようにしなければ)
「ああ──お昼に戻ってくると言っていたな。とすると、考え込んでいたらいつの間にか結構な時間になっていた、という事だろうか」
「そそ、今はバッチリお昼。折角だし一緒に食べに行かない?」
「分かった。では少し待ってくれ、片付けないと」
そう言い、さっと動いたウガタは、不自然にならない程度に急いでカードを片付け始め。
「もしかしてウガタン、誰かとデュエルしてた?」
駄目だった。ウィンの洞察力を侮ってはいけない。
「ゔ……いや、別に。お前が来るまでは、オレ一人でここにいただろう」
ああそうだ、とわざとらしい思い出し方をして、ウガタは語を継ぐ。
「そういえば、一人二役で回していたんだった。60枚デッキの弱点を探って、克服していく必要があるから」
「あ〜、なるほど」
嘘は適度な真実を絡めてこそ真実味が増すという。反応を見るに、弁明はどうやら信じて貰えたようだった。
「オレも手伝うぞっと」
「あ、ああいや大丈夫、気にしなくても良いだろう……よし終わった。さあ、行こうウィン」
とはいえ、目にも止まらぬ速さで片付け切ったウガタを見て、ウィンは一抹の疑念を抱いただろうが。
ーーーーーー
「今日はすまなかった、二人とも……」
「ん、どうかした?」
「いや、何でも!」
お昼を食べたら、再びデュエマ。
「デュエマしよーぜウガタン! な! な!!」
「圧が強いだろう……! 分かった、分かったから」
午前の間に部室を離れていたのは、どうやら本人にとって本意ではない事情故だったらしい。ウガタはデュエマに飢えたウィンに付き合わされ──ついでにデッキ調整を手伝って貰い──、時間は飛ぶように過ぎていった。
「今日はありがとな、半日付き合ってくれてさ」
「良いんだ。オレの調整を助けてくれたのだし、貸し借りなしといった所だろう」
二人の部屋に戻って、諸々を済ませ、気付けば良い子は寝る時間だ。夜更かし好きの星々が、疲れ切った人間たちの遥か上で、元気いっぱいに光を主張している。
それに長い間気を取られていた自覚はないが、ふとウガタが横を見ると、ウィンはもう寝ていた。夢の中でもデュエマなのやら、口元がほころんでいる。
(もう、日付が変わりそうだ)
彼に倣わない理由は特になく、ウガタも寝る事にする。潜り込んだ布団は冷え切っていて、安眠への道筋は少々妨害されるかもしれない。
まあ、益体もない事をつらつら考えている内に、意識は閉じていくだろう。それがウガタの普通だったし、今日いきなり変わるなんて事もあるまい。
と、彼自身は思っていたのだが、大きな間違いだった。
「…………」
音はない。
だがそれに頼らずとも、というよりウガタでなくとも、分かったに違いない。
「…………」
普通、布団がふわりと浮いて、一瞬のうちに背中に謎の感触を感じるようになるのを「何もなかった」とは言わないのだから。
「誰、だ」
「!?」
ぎくり、という擬音が似合いそうな、分かりやすい動揺があった。どうやら闖入者は、ウガタが寝ついたとでも思っていたようである。
やや間があって、おずおずとした声がした。
「ええと、私、です」
鈴を転がしたような声。
「ラフルル……?」
「こ、これは。あの、その」
布団越しには、言葉を迷子にしたらしい彼女が、もぞもぞ動いているのがよく分かった。もちろん、背中に当たっている感触も、うろうろとして──。
(いや、いやいや、まずいだろうこれ!)
ウガタは紳士的な配慮と行動の出来る男だった。
表面上は人間の異性である自分と彼女の適切な距離感を保つ為に、彼女から遠ざかろうとして、出来ない。
彼の腕が優しく掴まれていた。逃す気がさらさらない時の「優しい」である。
「い、行かないで、欲しいです」
「待、おい……!」
「訳は、色々ありますけど、とにかく」
その言葉と共に、ラフルルがさらに近付いた。当然ウガタは度肝を抜かれたし、制止の声を出しかけたが、同時に彼が押しに弱いのも事実だった。
密着しているような状態は、正午のそれによく似ていたが、無論彼が知るはずもない。
「……どうしたんだ」
結局、説明を委ねるしかなかった。
彼女が再び迷子の言葉を探し始め、その間だけは、あるべき静寂が部屋を満たした。
「ウガタくんは」
いまだに迷っているような声がして、すぐに沈黙が生まれる。ウガタは別に気にはしなかった。いつも数十倍待たせている負い目のせいもあろう。
「最近、いいえ、初めて会ってからずっと。ウィンさんの観察ばかり、してますよね」
「否定は、しないが」
どうしてそんな事を、という意味を含んだ返答。
そう返ってくるのは容易に想像出来た事で、しかしラフルルは、少しだけ不満を持ってしまった。
「謎が多い友達だから、ですか」
「まあ、な。もっともウィンが、オレをどう思っているかは分からないが──」
「いいえ」
自虐的な言葉を、今度は彼女の方が制止した。
「二人は親友ですよ。私が保証します」
「……そう言ってくれるのは、嬉しいだろう」
声が、ウガタの表情がほころんだ事を示す。そこから推察出来るのは素直な感謝であって、それ以上でも以下でもないはずだ。
だが。
いや、だからこそ。
「そこ、なんです」
「そこ?」
どこだろう、と言われる前に、ラフルルは動いた。
ウガタの肩をがしりと捕まえて、彼女に背を向けている身体を、半ば無理矢理にこちらに向けさせる。
必然的に二人の顔が極めて近い所に来る訳で、彼が後退という選択をするのは自然だったが、彼女はそれだって許さない。
「……本当に妬いちゃいますよ、ウガタくん」
「やく」
焼くなのか妬くなのかさえ測りかねるウガタだったが、ラフルルはそれを斟酌しなかった。
「ウガタくんの相棒は、誰ですか?」
「相棒……オレのデッキそのもn」
「だ、れ、で、す、か?」
回りくどい道を取り続ける彼女も彼女だが、彼も彼である。そこでようやく意図に気付くくらいなのだから。
「ああ、ええと……ラフルル、だろう」
「そうですよね。まだ不束者ですけれど、今のウガタくんの事は、誰よりも深く理解してるつもりです」
マイハマ学園の人たちよりも。
デッキの他の子たちよりも。
斬札ウィン、よりも。
何故なら彼女は、今の彼にとって、最初の、最優の相棒なのだから。
「それ、なのに。ウガタくんはずっと、私じゃない人を見続けて、私には、その……甘えても、くれなくて」
徐々に声が小さくなり、それと比例するように顔に朱が差していく。
「だから、私は妬いてるんです。
……我儘、ですよね。こんな事を言うのは、ウガタくんには迷惑だって、分かってはいるんです」
──もしかしたら自分は、少々強欲過ぎるのかもしれない。
そこに目を向けるのは怖かった。それ故に、「これくらいの事は、相棒の仲なのだから」の御旗を掲げて、今夜こんな事をやっている。
もうサイクルぺディアの事を叱れない。そう思ってラフルルは、心の奥で自嘲した。
「でも、今だけ、今だけは。ウガタくんを近くに感じる事を、許して頂けますか」
ウガタは優しいから、「そうは言っても、異性がこう近付き過ぎるのは……」的な事を言うかもしれない。
それならそれで良かった。ラフルルはそれで諦めがついたし、離れられた。
だが、そうしない時があるのも、ラフルルの知る彼なのだ。
「…………分かっただろう」
「良いん、ですか」
「ああ。それと……すまなかった、ラフルル。確かにお前の言う通り、オレは自分の研究だけを重んじ、仲間との関係性を軽んじた。
本当はそんな肩肘張った事が言いたかった訳ではないが、少なくとも今のラフルルには、それを指摘する資格さえも失ったかのように思えた。
「もしかしたら、許しを請うべきなのは、オレの方かもしれない。お前たちの事は今まで以上に大切にする、だから……ウィンを研究する事を、オレに許して欲しいんだ」
主にそう言われてしまったら、許すに決まっている。他の子だってきっとそう言う。その意思を込めてラフルルは頷きかけた。
だが、次の言葉は、彼女の想像の少し外を行った。
「本当の所を言えば、あいつが謎だらけなだけが、理由じゃない」
──だって、ウィンは、オレにないものを持っているんだ。オレはそれを、手に入れなければ。
「ウガタくんに、ないもの」
「一つだけじゃない。何と言えば良いか、全部ひっくるめて、どこかがオレには足りていないのだろう」
「それは──」
少し違う、今のウガタは彼自身が思うほど、不完全でも何でもない。
そう言いたくなって、あるいはそう言うべきだったのかもしれないが。
ラフルルにはその先が言えなかった。
それは相棒が干渉して良い範囲を、超えている気がしたのだ。
「……そうなの、ですね。もちろん、否定する訳はありません。
こんな風に、時々は嫉妬しちゃいますけど──もっと私を見てくれる、そう約束してくれましたから」
「本当、か?……良かった。ありがとう、ラフルル」
そう言って、ウガタは笑った。
壊れそうな、だが壊れて欲しくない笑顔だった。
「あ、もうこんな時間ですね。明日も早いですし、もう寝ましょう」
「同意だ、が、一つ聞いても良いだろうか」
「?」
「……このままでないと駄目か?」
「このままでないと駄目です」
まあ、折角得た許しなのだ。可能な限り有効に使うし、逃すつもりもない。
そこそこサディスティックな所のあるラフルルは──そうでなければ封殺の力を得る事はなかっただろう──、自分よりずっと小さなウガタを、きつくきつく抱きしめた。
「ん、ぅ、けんせつてきな、ぎろんがひつよう、だろう……!?」
「だーめ、です。今晩は誰にも渡しませんから」
そうして、彼の身体が尚更熱くなっていくのを感じながら、黒い眠りの世界に身を投げ出したのだった。
──ウガタくんに、足りないもの、なんて。
引っかかる部分は、あった。
敬意によって、踏み込まない道を選んだ。
もし、彼女がもう少し傲慢だったら、これからの物語は書き変わっていたのかもしれないし、変わらなかったのかもしれない。
いずれにせよ正しいのは、ラフルルがウガタを見るのと、ウガタがウガタを見るのに、致命的な違いがあったという、それだけだ。
・ウガタン
デュエルと体力でウィンに勝てない男(公式説明)。
ウィンとカレンちゃんとウガタンの三人コンビがWIN編で一番好きなので、皆さんも原作を読むべき。
・ラフルル
原作とアニメとデュエプレが証明しているように、光は重さを象徴し、水は湿度を象徴する。光・水の多色は最強っスねぇ〜。
引き続き今回も評価、感想、そして誤字報告あればよろしくお願いします。